【世界脳卒中デー】発症後に復職できた女性4割 職場復帰・就労の壁、当事者の声
毎年10月29日は、世界脳卒中機構(WSO)が定めた「世界脳卒中デー(World Stroke Day)」。厚労省の患者調査によると、脳卒中をはじめとした脳血管疾患の治療や経過観察で通院をしている患者は推計174万人で、うち17%にあたる29.5万人が20〜64歳の就労世代。少子高齢化による労働力の高齢化で、脳卒中と仕事の両立を支援する重要性はさらに高まっているが、当事者にとって職場復帰や就労のハードルは今なお高い。
目次
脳卒中の状況
脳卒中のタイプ別の割合、男女別
日本脳卒中データバンクによる報告書によると、男女ともに脳卒中の中で最も多いのは「脳梗塞」で、次いで「脳出血」。男女構成を見ると、唯一女性の割合の方が高いのは「くも膜下出血」で、女性71.3%で男性28.7%。(「脳卒中レジストリを用いた我が国の脳卒中診療実態の把握 報告書2022年」,2021年の1年間の入院症例から集計)。
脳卒中のタイプ別の発症時年齢、男女別
発症時の年齢をタイプ別・性別に見ると、いずれのタイプも男女ともに40代以降で増え始める。男性は60〜70代でピークを、女性は70〜80代でピークを迎えることから、発症時年齢の平均は顕著な性差が見られ、いずれも女性の方が高い。
<発症時年齢の平均>
- 脳梗塞:女性79.3歳、男性73.0歳
- TIA:女性73.9歳、男性69.9歳
- 脳出血:女性74.8歳、男性67.1歳
- くも膜下出血:女性68.3歳、60.6歳
発症後の復職の実態
復職率が低いのは「女性」「高齢」「非デスクワーカー」
脳卒中を発症した有職者の復職率は時間の経過とともに徐々に増えることがわかっており、発症から3~6カ月頃と、1年~1年6カ月頃の復職が多い。脳卒中の重症度や職場環境等によっても異なるが、最終的な復職率は50 ~60%と報告されている(厚労省「事業場における治療と仕事の両立支援のためのガイドライン」令和5年3月版)。
もう少し詳しく調べた別の調査では、属性によって復職率が異なることを明らかにしている。以下は発症後の復職を希望した人のうち、実際に復職できた人の割合。性別・年齢・職種・後遺症の有無によって差が見られる。
- 女性の方が復職率は低い
「女性」40.6%、「男性」62.1% - 年齢の上昇とともに復職率は下がる
「18〜40歳」68.6%、「41〜54歳」65.9%、「55〜65歳」44.1% - デスクワーク以外の仕事は復職率が低い
「デスクワーク業」68.4%、「デスクワーク以外」は50.5% - 後遺症の「失語」があると復職率が低い
「ある」53.6%、「ない」72.2%
職場復帰・就労の壁、当事者の声
職場復帰や就労について、当事者はどのような困難や不満を抱えているのか?また、どんな支援を望んでいるのか?当事者の声からは、環境整備や理解が進んでいない職場の実態や、就労支援の課題が見えてくる(日本脳卒中協会 患者・家族委員会「脳卒中を経験した当事者(患者・家族)の声」2020年7月)。
- 働きたかったが、家でも車イス生活で、就労は考えられなかった
- 通勤中のバスでは席をゆずってもらえず、会社には階段しかなくトイレへの移動が大変で、トイレに間に合わないこともあった
- 職場のバリアフリー化、自家用車通勤でも停められる駐車場を望む
- 脳卒中になった人の気持ち、体調の変化に気づいてほしい。ふつうの方より、何倍もつかれることを理解してほしい。手伝うのではなく、気にかけること、想像することができるかどうか…
- 一般企業が、もっと障がい者について理解し、寄りそった気持ちで仕事に従事できる環境を整えてほしい
- 失語症という病気そのものが理解されておらず、本人も職場の方も、どう対応して良いのかわからず、数か月でギブアップとなった。収入がないと生活が成り立たなくなるのでとりあえず出社したような感じで、本当の意味での就労ではなかった
- 段階的に就労時間を増やしたが、それでも勤務時間も少ないためアルバイト雇用になってしまった。
- 会社の復帰プログラムの説明をしっかりうけておらず理解できていなかったため、途中で復帰できなくなった。
- 48才で脳卒中になりました。その年齢の時は、家、子供等一番お金が必要な時です。障害者の就職説明会に何度も行きましたが、若者優先でなかなか職に付く事ができませんでした。脳卒中になって、一番大変な事は退院後の生活です。仕事をしなければ生活はできない、家族を養う事もできない。そして日々のリハビリ、自分の体が動かないもどかしさ等々、長嶋さんではないですが、もっと具体的な発信をしてほしいと思います
- 60才以下の脳卒中後遺症患者で就労可能な人の働く職場環境づくりを進めていただきたい。そうすれば安易に偽装生活保護や離婚などせずに働けます。公官庁や民間大手企業は障害者の就労について本音と建前を使い分けてる現状です
- 就労も私はリハビリの一部と考える。行くだけでも歩いたり、電車に乗ったり、たまには混雑に合う等それぞれのまわりの状況を考えて動くことは多少の改善につながると思う。ただ多くの方々の理解と協力が必要となるとは思うが…
- 外見では後遺症があるとわかりにくい状況だったため(ある程度話せて、手足もとりあえず動く)本人も家族も会社にも高次脳機能障害が一体どんな症状でどんな問題点があるのか理解することがとても遅れてしまいました。脳卒中で一度倒れた人間にどんな後遺症が残る可能性があるか、もっと色々と知ってもらう機会が増えるといいなァと思います
- 就労年齢で失語症を含む高次脳機能障害を持つ人に対する就労支援については、全く不足していると言えます。対象となる患者数が少ないことも一因だと思いますが、病院でも日常生活が送れるようになればそれで充分、としている面があると思います (引用:日本脳卒中協会 患者・家族委員会「脳卒中を経験した当事者(患者・家族)の声」2020年7月)
脳卒中と仕事の両立、どう支援する?
脳卒中の治療や経過観察を続けながら仕事をする人たちを、どう支援するべきか?厚労省が取りまとめた「事業場における治療と仕事の両立支援のためのガイドライン(令和5年3月版)」が参考になる。同書には両立支援を行うための環境整備や、両立支援の進め方などを掲載。「脳卒中」「がん」「心疾患」「糖尿病」「肝疾患」「心疾患」の病気別の留意事項もまとめている。
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