健康スコアリングとは?健康経営を目指す企業が知っておきたい概要
健康経営に積極的に取り組む企業が増える中、新たに注目されているのが従業員の健康状態など「現状の見える化」を実現する「健康スコアリング」だ。
健康スコアリングの意味
健康スコアリングとは?
健康スコアリングとは、厚生労働省、経済産業省、日本健康会議(※1)が連携して、健康保険組合などの加入者の健康状態や健康への投資状況をスコアリングして、経営者に通知する取り組みのこと。企業と健保組合が従業員の健康に関する課題を共有することで、コラボヘルス(※2)を促進し、従業員の病気予防・健康づくりの取り組みを活性化させることが目的。従業員の健康維持・増進により、企業の生産性向上や将来的な医療費の適正化に寄与することが期待される。
(※1)国民一人ひとりの健康寿命延伸と適正な医療について、民間組織が連携して行政の全面的な支援のもと、実効的な活動を行うために組織されたもの
(※2)加入者の病気予防・健康づくりを効果的に実施するために、企業と保険者が連携し一体となって取り組みを進めること
政府は「未来投資戦略 2017」(2017年6月閣議決定)において、以下のような方針を示した。
保険者のデータヘルスを強化し、企業の健康経営との連携(コラボヘルス)を推進するため、厚生労働省と日本健康会議が連携して、各保険者の加入者の健康状態や健康への投資状況等をスコアリングし経営者に通知する取り組みを、来年度から開始する(引用:日本健康会議「健康スコアリング活用ガイドライン」)
上記の方針に基づき、日本健康会議は健康スコアリングの詳細設計を検討し、2018年度から「健康スコアリングレポート」を各健保組合に通知している。
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健康スコアリングレポートとは?
健康スコアリングレポートは、各健保組合の加入者の健康状態や医療費、病気予防・健康づくりに向けた健康教育への取り組み状況等について、全健保組合平均(全組合平均)や業態平均と比較したデータを見える化したもの。企業と健保組合が従業員の予防・健康づくりに向けた連携を深めるためのコミュニケーションツールとしての役割を担っている。
健康スコアリングレポートは、「レセプト情報・特定健診等情報データベース(NDB)」から抽出したレセプト(診療報酬明細書)、特定健康診査(特定健診)などのデータに基づき作成されていて、「レポート本紙」と「参考資料」に分かれている。
<レポート本紙>
レポート本紙は「特定健診・特定保健指導の実施率」「健康状況」「生活習慣」「医療費」について、健保組合の加入者全体のデータを全組合平均・業態平均との比較で示している。おおまかな傾向や健康課題の所在を把握できる。
- 特定健診・特定保健指導の実施率
特定健診・特定保健指導の実施率について、厚生労働省は平成29年度実施分より全保険者の特定健診・特定保健指導の実施率を公表 - 健康状況
特定健診の結果から「肥満」「血圧」「肝機能」「脂質」「血糖」の5項目について、リスク保有者(保健指導判定基準に該当する者)の割合を全組合平均や業態平均と比較 - 生活習慣
特定健診の問診票の回答結果から「喫煙」「運動」「食事」「飲酒」「睡眠」の生活習慣5項目について、適正な生活習慣を有している者の割合を全組合平均や業態平均と比較 - 医療費
健保組合の一人当たりの年間医療費、性・年齢補正後標準医療費の推移を掲載
<参考資料>
参考資料は、レポート本紙の各指標について、被保険者・被扶養者別、男女別、年代別のデータを参考データとして示している。レポート本紙で把握した傾向・課題について、企業や健保組合の実務担当者が、より詳細な分析・議論する際に必要なデータが記載されている。
健康スコアリングレポートを通じて健康課題を共有
「健康スコアリング活用ガイドライン」では、健康スコアリングレポートを通じて健康課題を共有する方法として、以下4つのステップを紹介している。
- ステップ①:健康スコアリングレポートの受取り
健保組合に健康スコアリングレポートが届く。企業経営者向け資料として「案内状」「健康スコアリングレポート本紙」が、健保組合・企業担当者向け資料として「参考資料」「健康スコアリング活用ガイドライン」が同封されている - ステップ②:健保組合と企業担当者による健康スコアリングレポートの共有
健康スコアリングレポートの内容を確認したら、健保組合と企業の担当者との間で共有。その際、健保組合のデータヘルス計画におけるデータ分析結果など、健保組合が既に保有しているデータを併せて共有すると効果的 - ステップ③:健保組合と企業担当者による経営者への説明
経営者向け資料について、健保組合と企業の人事・総務担当者等が共に経営者に説明する場を設ける。必要に応じて「参考資料」や健保組合などが実施した詳細なデータ分析の結果を活用する - ステップ④:経営者に対する「コラボヘルス」や「健康経営」実施の提案
健康課題や職場環境などの特性に応じた病気予防・健康づくりの取り組みの実効性を高めるために、経営者に対し、企業と健保組合の連携強化(コラボヘルス)の重要性と「具体的に何をしてほしいか?」を伝える
「健康スコアリング活用ガイドライン2018年度版」概要
第一弾となる健康スコアリングレポートは、2018年8月31日付で健保組合、国家公務員共済組合に送付された。そこに同封された「健康スコアリング活用ガイドライン2018年度版」では、健保組合と企業の担当者が、健康スコアリングレポートの趣旨や活用方法を理解し、両者の連携による効果的な取り組みにつなげられるよう、健康スコアリングレポートの目的や見方、活用方法などがまとめられている。健康課題の共有においては、健保組合と企業担当者による経営者への説明や、経営者に対する「コラボヘルス」や「健康経営」実施の提案でのポイントが具体例とともに示されている。
また、コラボヘルスによって具体的な対策を推進していくためには、社長・役員等経営者を中心とした、企業・健保組合・労働組合・産業保健スタッフなどによる横断的な推進体制を構築することが重要だと解説。実効性を高める役割分担の例なども示している。その他にも、活用できるツールや制度、活用チェックリストなども提示。
2019年度健康スコアリングレポートの実施方針
2019年5月に「2019年度健康スコアリングレポートの実施方針」が公表された。2018年度効果検証結果と「健康スコアリングの詳細設計に関するワーキンググループ」における議論を踏まえて、コラボヘルス実施に向けた働きかけをさらに強化する方針が盛り込まれた。2019年度健康スコアリングレポートは、2018年度版と同様、NDBを活用し、保険者単位による特定検診等の実施率、特定健康診査の検査・問診項目である健康状況5項目(肥満、血圧、血糖、脂質、肝機能)、生活習慣5項目(喫煙、運動、食事、飲酒、睡眠)、現状の医療費(医科・歯科・調剤医療費)とすることが決定している。
また、レポート本紙と参考資料に新たな評価指標として「経年変化」を加えたり、評価区分を細分化したり、新たに目標値を設定するなど、レポート内容の充実化を図る。さらに、コラボヘルス推進に向けた事業主・保険者への働きかけ強化として、参考となる好事例を活用ガイドラインに記載したり、企業経営者に対する要請文にナッジ理論を取り入れるなど、より経営層の関心を高める工夫が盛り込まれている。今後の方針として、2019年度に新たに取り入れた要素が行動変容にどの程度影響を及ぼしたかを多角的に分析し、効果が得られた取り組みについては事業主単位での健康スコアリングレポートに反映することが予定されている。
2018年の健康スコアリングレポート集計でわかったこと
ここからは、厚生労働省が2018年12月に公表したレポート「健康スコアリングについて」の結果からわかった、健康スコアリングで見える化されたデータをピックアップして紹介。
高い「特定健診」実施率と、低い「特定保健指導」実施率(業態別)
特定健診実施率の全保険者目標値は70%、特定保健指導実施率の全保険者目標値は45%。この目標値に対して、実際の実施率はどれくらいなのか?2016年度の全健保組合の特定健診の実施率は75.2%、特定保健指導の実施率は19.2%だった。特定健診の実施率は、多少の業態間の差はあるが全ての業態において概ね70%~80%の水準となっている。一方で特定保健指導の実施率は全ての業態において目標値を下回っている。
業態で異なる健康状況
業態ごとに、健康状況や生活習慣について様々な傾向がみられる。業態別の健康状況(肥満・血圧・肝機能・脂質・血糖のリスク保有者割合)を見てみると、「平均より良好」である業態と「平均より不良」である業態がわかる。( )内は、当該業態に占める「平均より良好」あるいは「平均より不良」な企業の割合を示している。
- 「平均より良好」な業態、トップ5
・学術研究、専門・技術サービス業(94%)
・教育・学習支援業(92%)
・医療、福祉(90%)
・生活関連サービス業、娯楽業(74%)
・金融業、保険業(71%) - 「平均より不良」な業態、ワースト5
・建設業(91%)
・運輸業(68%)
・金属工業(66%)
・複合サービス業(53%)
・木製品・家具等製造業(50%)
・印刷・同関連業(50%)
業態で異なる生活習慣
業態別の生活習慣(喫煙・運動・食事・飲酒・睡眠の習慣が適正な者の割合)は以下の通り。
- 「平均より良好」な業態、トップ5
・教育・学習支援業(82%)
・電気・ガス・熱供給・水道業(67%)
・国家公務員共済組合(65%)
・医療、福祉(57%)
・化学工業・同類似業(49%) - 「平均より不良」の業態、ワースト5
・印刷・同関連業(88%)
・宿泊業、飲食サービス業(75%)
・木製品・家具等製造業(67%)
・飲食料品以外の小売業(60%)
・複合サービス業(60%)
特定健診・保健指導の実施状況に比例する「健康状況・生活習慣」
特定健診・保健指導の実施状況が良好な健保組合ほど、健康状況や生活習慣が良好な割合が高い。
- 特定健診・保健指導の実施率が「平均より良好」である健保組合
健康状況でも「平均より良好」である割合が高い(43.6%) - 特定健診・保健指導の実施率が「平均より不良」である健保組合
健康状況でも「平均より不良」である割合が高い(45.8%) - 特定健診・保健指導の実施率が「平均より良好」である健保組合
生活習慣でも「平均より良好」である割合が高い(45.5%) - 特定健診・保健指導の実施率が「平均より不良」である健保組合
生活習慣でも「平均より不良」である割合が高い(41.4%)
これらのことから、特定健診・保健指導の実施状況は、被保険者の健康状況や生活習慣にも影響を与えていると考えられる。
健康経営優良法人認定法人が所属する健保組合は健康状況・生活習慣良好
健康経営優良法人2018(大規模法人部門)認定法人が所属する健保組合では、健康状況、生活習慣の良好な割合が高いことがわかった。
- 健康経営優良法人(ホワイト500)の所属健保組合における健康状況
「平均より良好」が最も多い(46.9%) - それ以外の所属健保組合
「平均より良好」が29.7% - 健康経営優良法人(ホワイト500)の所属健保組合における生活習慣
「平均より良好」な割合が48.1% - それ以外の所属健保組合
「平均より良好」が29.2%
医療費適正化や労働生産性向上のために注目されている「健康経営」。その取り組みが、従業員の健康づくりにつながっていることが分かる。
企業・健保組合が従業員の健康作りに活用できるツール・制度
企業や健保組合が従業員の健康づくりの取り組みを効果的に行うために、さまざまな支援ツールや制度が整備されている。「健康スコアリング活用ガイドライン」では、企業・健保組合が従業員の健康作りに活用できるツール・制度を紹介している。
健康経営アドバイザー制度(東京商工会議所)
東京商工会議所では、健康経営を普及・啓発するとともに実践的な支援と、企業が取り組む上で中心的な役割を担う人材を育成する「健康経営アドバイザー(初級)研修」を実施。2017年8月からeラーニングで受講できるようになり、視聴後の効果測定で7割以上正答した受講者を「健康経営アドバイザー(初級)」として認定している。
データポータル データマッピング(日本健康会議)
日本健康会議は「予防・健康づくりの企画・実施を提供する事業者の質・量の向上のため、認証・評価の仕組みの構築も視野に、保険者からの推薦等一定の基準を満たすヘルスケア事業者を100社以上とする」という目標を掲げている。日本健康会議のWebサイトにおいて、各都道府県で基準を満たしているヘルスケア事業者を紹介している。
データヘルス・ポータルサイト
データヘルス・ポータルサイトは、「データヘルス計画のPDCAサイクルの標準化により、保険者相互の比較や保健事業運営のノウハウの体系化を実現し、日本のデータヘルスの推進を支援する」ことを目的とした総合サイト。データヘルス計画の運営を3つの視点から支援している。
健康経営銘柄、健康経営優良法人
経済産業省は、従業員の健康保持・増進の取組が企業の収益性を高めるとの考えの下、健康管理を経営的視点から考え実践する「健康経営」を推進。平成26年度から「健康経営銘柄」、平成28年度から「健康経営優良法人認定制度」を開始している。
後期高齢者支援金の減算制度
健保組合の保険者インセンティブである「後期高齢者支援金の減算制度」は、予防・健康づくりなど医療費適正化に資する多様な取り組みをバランス良く評価するもの。2018年度から特定健診・特定保健指導をはじめとする予防・健康づくりなどに取り組む保険者に対するインセンティブをより重視する仕組みに見直された。評価指標は、特定健診・特定保健指導の実施率に加え、がん検診、歯科健診の実施状況やICTなどを活用して本人にわかりやすく健診結果の情報提供を行うことなどを追加した。
- 後期高齢者支援金の加算・減算制度の見直しについて
健康寿命延伸に欠かせない「健康スコアリング」
「未来投資戦略 2017」は、「保険者には個人のレセプト・健診データが集まっているが、運動や食生活などの生活習慣の改善や、糖尿病等の重症化予防に向けた具体的取り組みに十分つながっていない」と指摘している。また、保険者が個人へ働きかけを促すインセンティブや、経営者が主体となり従業員の健康維持・増進を図る取り組みも不十分であると分析している。
そこで、予防・健康づくり等に向けた加入者の行動変容を促す保険者の取り組みを推進するため、保険者に対するインセンティブを強化している。健保組合・共済組合については、後期高齢者支援金の加算・減算制度の加算率・減算率ともに、段階的に引き上げて2020年度には最大で法定上限の10%まで引き上げる計画だ。また、協会けんぽについては2018年度からインセンティブ制度を本格実施し、2020年度から都道府県単位保険料率に反映する計画。
国は、健康管理と病気・介護予防、自立支援に軸足を置いた「新しい健康・医療・介護システム」を構築することで健康寿命をさらに延伸し、世界に先駆けたモデルケースとして一人ひとりが自信を持った“生涯現役社会”を実現させることを目指している。その実現にあたって、健康スコアリングは今後重要な役割を担うことは間違いないだろう。
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