クアオルトとは?ヘルスツーリズムとの違い、日本型と活用企業の事例

ドイツが生み出した自然を活用した治療手法クアオルトが、健康志向の高まりをみせる日本でも注目されている。医療が進歩した今日、あえて自然の力を使って、人間が本来持っている自然治癒力を取り戻すクアオルトは、健康促進だけでなく健康寿命の延伸にも効果的。地域資源と繋がることで新たな価値を生み出すクアオルトの可能性とは?

クアオルトとは?

自然を活用して治癒力を高めることを目的としたドイツ発祥の「クアオルト」。自然や人々との交流を楽しみながら自然の力で健康を目指す治療手法は、ドイツにおける一般的な健康づくりの一つとして定着している。日本ではまだ認知こそ低いものの、承認を行う協議会のもと取り組む自治体は少しずつ増えつつある。

クアオルトはドイツ語で「療養地」

クアオルトの意味

クアオルトとは、ドイツ語のクア(Kur:治療・療養、保養のための滞在)とオルト(Ort:場所・地域)を組み合わせてできた言葉で「療養地」を意味する。ドイツでは、国が指定する基準をクリアして認定された特別な地域(基本的には自治体)のことを指し、そこでは次の4つの療養要因で医療保険を適用することができる。

  • <療養要因>
    医療保険が適用される療養要因は以下の4つ。いずれも疾病を治療・緩和・予防する効果を持った“自然の治療薬”のことを指している。
    ┗土壌:土に由来する温泉・蒸気・泥等
    ┗気候:太陽光線や清浄な空気などの気候
    ┗海:海に由来する海水・海風・海の泥等
    ┗クナイプ式:クナイプ牧師の手法(※)
    (※)クナイプ式とはクナイプ牧師が自身の結核を治癒させた手法を体系化したもの。人が本来持つ自然治癒力に着目し、「水療法」「運動療法」「植物(ハーブ)療法」「食事療法(栄養)」「秩序療法(生活のバランス)」を5つの柱として、自身の自然治癒力を引き出し高める治療手法。

クアオルトの数

ドイツのクアオルトの数は、2007年時点で以下。

  • 土壌:温泉が157箇所、泥・蒸気の場所が56箇所
  • 気候:68箇所
  • 海:91箇所
  • クナイプ式:68箇所

なかには複数の療養要因で認定を受けている場所もあるため、計436称号374箇所となる。ちなみに温泉でのクアオルト認定が最も多いが、源泉だけでは認定とはならない。

認定者

クアオルトの品質は「クアオルトの概念規定」により保証される。1937年に決定したのち改正を重ね、現在では第12版。クアオルトの認定は、この概念規定により連邦の州等が各々制定したクアオルト法に基づき設置された特別委員会が行っている。州等が認定したものは国が認定した事とみなされるため、一般的に「クアオルトは国が認定した」と言われている。

クアオルトが有する施設例

クアオルトは、4つの療養要因を使って治療するための施設を有する。その例はクアパーク(保養公園)やクアハウス(保養交流施設)、テルメ(温泉施設)とさまざま。クアハウスではコンサートホールやレストラン、図書館など滞在中に人々が交流するための施設が備えられ、交流を促進している。温泉のクアオルトであるテルメのほとんどでは、体温以下の水温で水着を着用して男女一緒に利用することができる。また飲用可能な泉質の場合、温泉が飲めるトリンクハレ(飲泉所)も設置されている。

 

日本型のクアオルトとは

ドイツのクアオルトを参考に日本でもクアオルトを広める動きが起きているが、日本では国による認定はなく、クアオルトの推進に取り組む「日本クアオルト協議会」が承認を行っている。同協議会は、日本型クアオルトを次のように定義している。

日本の風土や社会風習・伝統文化に適合し、様々な地域資源を活用しながら、医科学的な裏付けを持つ健康づくりプログラムを提供する滞在型で質の高い生活環境を有した健康保養地(引用:日本クアオルト協議会規約)

日本型クアオルトの具体的な指標は日本クアオルト協議会が定めており、6つの各領域で10の項目が示されている。クアオルトとしての品質を維持・向上するためのチェック項目となっている。

現在、日本型クアオルトとして承認されている(=協議会に加盟)のは次の9の自治体。

  • <2011年度:3自治体でスタート>
    山形県上山市 大分県由布市 和歌山県田辺市(※)
  • <2014年度>
    石川県珠洲市
    新潟県妙高市
  • <2015年度>
    秋田県三種町
    島根県大田市
  • <2016年度>
    群馬県みなかみ町
  • <2017年度>
    兵庫県多可町
  • <2018年度>
    三重県志摩市
    出典:日本クアオルト協議会「加盟自治体」
    (※)和歌山県田辺市は2019年6月に協議会を脱退

「ヘルスツーリズム」と「クアオルト」の違い

「ヘルスツーリズム」と「クアオルト」、どちらも「健康」を軸にしているが、両者の定義は微妙に異なる。ヘルスツーリズムは、企業・自治体・団体などが健康的な旅のプランをコーディネートし、“観光資源”としてPR・提供するのに対して、クアオルトは地元の人々の健康づくりが主眼。旅行に伴った健康づくりか、健康づくりのための滞在かという点で前提となる目的が異なる。

  • ヘルスツーリズム=健康増進を図ることを目的とした旅行
    一般的な観光旅行の流れのなかに温泉や和食といったヘルスケアプログラムを導入する旅行スタイル。健康づくりや地域活性が期待される
  • クアオルト=治療・療養・保養を目的とした療養地での滞在
    健康づくり・治療・療養・保養そのものを目的とした、指定された特別な地域への滞在。医療保険が適用され治療行為にあたる。日本では保険適用外

日本型クアオルト、事例

上山市(山形県)

日本で最も知られているクアオルトは山形県の上山市。その豊かな自然環境から、温泉・食などの恵まれた地域資源を生かし、全国に先駆けて市民の健康増進を目指した街づくりをスタートさせた。平成23年度には大分県由布市、和歌山県田辺市と温泉クアオルト研究会を設置し、平成26年度には日本クアオルト協議会を発足した自治体でもある。

  • [クアオルト事業の背景]
    ・友好都市ドイツ・ドナウエッシンゲン市との国際交流
    ・クアオルトを目指していた由布院温泉(大分県)との交流
    ・山形県内でも高水準にある市民一人当たりの医療費や高齢化率
    ・観光で訪れる年間宿泊者数の減少
  • [特徴]
    ・開湯560余年の歴史ある温泉地「かみのやま温泉」を有する
    ・城下町、宿場町、温泉街の特徴を併せ持つ
    ・里山と標高1,000m以上の蔵王高原坊平が近接し、平地から高地までの環境がそろう
  • [実施プログラム]
    クアオルト健康ウォーキング
    体表面温度を冷たく保ちながら、森や林の傾斜地を歩いて無理しない心拍数を維持して持久力を高める「気候性地形療法」を実施。通常よりも高い運動効果を得るウォーキング方法として、ドイツでは心臓のリハビリや高血圧の治療に活用される。現在上山では、日本で唯一ドイツのミュンヒェン大学の認定を受けた運動負荷の異なるコース(5カ所8コース)が用意され、専任ガイドの案内のもと年間360日開催されている。このプログラムには一般人も参加可能。

みなかみ町(群馬県)

群馬県を代表する温泉地であるみなかみ町は、日本クアオルト協議会の加盟自治体(2016年度加盟)。温泉街と川や山に囲まれた豊かな自然環境の強みを生かしクアオルト事業に取り組んでいる。

  • [クアオルト事業の背景]
    ・豊かな自然環境と豊富な観光資源の活用、保全
    ・過疎地域自立促進特別措置法による過疎団体の指定
    ・観光施策の強化
  • [特徴]
    ・大小18の温泉が点在する温泉の町
    ・利根川の源流と5つのダムを有する水源の町
    ・谷川岳など5つの日本百名山に抱かれた山岳の町
  • [実施プログラム]
    FUN to WALK みなかみ
    「歩行の質」にこだわるクアオルトウォーキングの実施。一般向けには行っておらず法人・団体向けに行っている。一年を通して楽しく快適に活動できるプランを、温泉街や山岳地帯といったエリア別に設定。地域の個性や四季の風を肌で感じながら、自身の足で “歩く喜び” を実感してもらうプログラム。運動効果やエネルギー消費量をアップするために、インストラクターによるウォーキング講座も行っている

所沢市(埼玉県)

埼玉県の所沢市は協議会の加盟自治体ではないが、埼玉県がヘルスツーリズム産業の創出に向けた取り組みとしてクアオルト・ウォーキングコースのプログラム導入を決めた。それにともない2019年よりクアオルト健康ウォーキングを開始。プログラムはクアオルトでのプログラム作りを支援する(株)日本クアオルト研究所が監修。期待する効果や実施内容は以下の通り。

  • [クアオルト健康ウォーキングの効用]
    ・生活習慣病の予防(高血圧、高血糖、高脂血症等)
    ・認知症の予防
    ・ロコモティブシンドロームの予防
    ・メンタルヘルスの改善
  • [ウォーキングコース]
    所沢クアオルト健康ウォーキング
    「荒幡富士特別緑地保全地区コース」と「上山口堀口天満天神社周辺里山保全地域コース」の2種類を用意

小山町(静岡県)

静岡県の小山町も協議会の加盟自治体ではないが、地域住民の健康づくりに取り組む自治体を支援する「太陽生命クアオルト健康ウォーキングアワード2017」を受賞した。その支援をもとに(株)日本クアオルト研究所監修のもとクアオルト健康ウォーキングコースを設定、2018年よりオープン。

  • [クアオルト事業の背景]
    ・静岡県独自が行う健康寿命指標「お達者度」(65歳から元気で自立して暮らせる期間)において、男女ともに最下位(2014年)
    ・運動習慣の推進
    ・町民の健康寿命の延伸
  • [実施プログラム]
    クアオルト健康ウォーキング
    実施日は「5」のつく日と「0」のつく日のみで誰でも参加することができる。全長と高度差が異なる「須走・富士山眺望コース」と「足柄古道・銚子ヶ淵コース」を用意。毎月5~6回のペースで交互に開催される

 

クアオルトを活用する企業事例

健康増進に有効なクアオルトは、企業のCSR活動、健康経営、ビジネスにも活用されている。

CSRに活用(太陽生命保険)

太陽生命保険では「健康寿命の延伸」という社会課題解決に貢献することを目的に、日本クアオルト研究所と連携して2016年から「太陽生命クアオルト健康ウォーキングアワード」を実施している。3年間の受賞自治体は以下。

  • 【2016年の受賞自治体】
    ・岐阜県飛騨市
    ・岡山県新見市
    ・兵庫県多可町
  • 【2017年の受賞自治体】
    ・宮崎県延岡市
    ・静岡県小山町
  • 【2018年の受賞自治体】
    ・岐阜県岐阜市
    ・三重県志摩市
    ・埼玉県横瀬町

健康経営に活用(SOMPOひまわり生命保険)

SOMPOひまわり生命保険では健康経営の取り組みとして、2017年に全社員に向けてクアオルトプログラム体験を実施。

  • [実施背景]
    保険事業の枠をこえ、長く顧客に寄り添い健康に関する新たな価値を提供する「健康応援企業」への変革を目指す同社は、社員の健康維持と増進に取り組む。そこで得た知見を健康応援に活用することで「健康応援企業」としてのブランドを確立する
  • [取り組み内容]
    ・3,200 名全社員の1泊2日クアオルト体験
    ・社員への宿泊型新保健指導プログラムの導入
  • [今後について]
    日本クアオルト協議会加盟自治体との連携により、日本型クアオルトの普及・拡大を目指す。日本クアオルト研究所とともに「太陽生命クアオルト健康ウオーキングアワード2019」を開催、2019年11月20日に授賞式が行われる。また、同社が提供する健康アプリやウェブサイトを通じてクアオルトの情報発信も行っている

商品に活用(クアオルトホットタブ)

ドイツのクアオルトをコンセプトにした重炭酸入浴剤「クアオルトホットタブ」は、ドイツの天然療養泉を特許製法で再現。重炭酸の力で皮脂汚れを除去し、女性に嬉しい美容効果も期待できる。高い保湿効果が実感できるほか、疲労回復や冷え性、にきびにも良い。

クアオルトに関する情報

現在日本におけるクアオルトについては「日本クアオルト協議会」「日本クアオルト研究機構」「日本クアオルト研究所」の三つが連携し取り組んでいる。

団体・企業

  • 日本クアオルト協議会
    大分県由布市、和歌山県田辺市、山形県上山市の3市が中心となって始まった研究会。健康、医療、環境、景観、観光・産業、計画・連携の6 領域60 項目を日本型クアオルト指標としている。良質なクアオルトの普及を目指す
  • 日本クアオルト研究機構
    日本で唯一のクアオルトの総合研究団体。社会環境の整備や健康づくりに関わる公共政策の研究によって日本型クアオルトの確立・拡充・発展、および国民の健康増進に関わる学術的な支援を目指す。ホームページでは日本型クアオルトにおける健康プログラムや地域の事例を紹介
  • (株)日本クアオルト研究所
    ドイツの事例を基本に、日本型クアオルトを取り入れたい地域・法人・団体などを支援する企業。人材育成や気候性地形療法のコース設定といった実務的な事業についても請け負う。なお、同社の中に日本クアオルト研究機構の運営事務局が入っているが資本関係はない

 

日本型クアオルトのこれから

クアオルトが日本の生活者に浸透しているとはまだまだ言い難い状況ではあるが、豊かな自然環境に身を置いて自身のもつ治癒力を取り戻すという考え方は、現代人の健康ニーズや、セルフメディケーションニーズ、デジタルと距離を置いてリフレッシュ・リラックしたいニーズと相性が良い。宿泊以外の充実を求める近年の旅行ニーズの変化から考えても、需要は高いはず。だが実際は、ヘルスツーリズムとの違いがいまいちよくわからない上に、クアオルトならではの魅力が伝えきれているか?というと、今一つの印象。企業との積極的なコラボやPR、女性が喜ぶポイント・楽しめるポイントを多面的に押さえつつ地域資源を活かしたクアオルトプログラムであれば、世代問わず広く受け入れられるのでは。今後の展開を引き続き見ていきたい。

 

 

【編集部おすすめ記事】
医療観光、2020年の市場規模5,500億円へ 日本の取り組みと課題 
地域医療の問題点と今後期待されること
エリアマーケティングに役立つ無料ツール・データ・事例・書籍
日本全国いろんな “一流” を見れる大図鑑 富裕層マーケ・エリアマーケの参考に
47都道府県ランキング各種 ~エリアマーケティングのヒントに~
都道府県ランキングに見る地域の特徴2019 エリアマーケティングに

 

PAGE TOP
×