地域医療、6つの課題と解決策 わかりやすく解説

(2024年3月更新)
団塊の世代が75歳以上になる2025年、医療需要はどのように変化するのか。それを地域ごとに推計し、今から備えようという取り組みが国や地方自治体で活発に行われている。医療や介護の需要は増加するが、それを支える財源や人材は大幅に不足することが容易に予測できるが、特に地方では過疎化などにより医師不足がすでに深刻化しはじめている。「地域医療」の問題点とは?

地域医療の問題点

地域医療とは?

地域医療とは具体的にはどんな医療の姿なのか。自治医大監修の地域医療テキストでは以下のように定義している。

地域医療とは、地域住民が抱えるさまざまな健康上の不安や悩みをしっかりと受け止め、適切に対応するとともに、広く住民の生活にも心を配り、安心して暮らすことができるよう、見守り、支える医療活動である引用「日本老齢医学会雑誌 54巻4号」

 

健康上の悩みはどの世代においても起こるが、その悩みの種類は異なる。例えば乳幼児と高齢者では、かかりやすい疾患も必要なケアも異なる。誰もが自分や家族の健康の悩みに適した相談や治療を地域で安心して受けられることを望んでいる。しかし「超高齢社会」「少子化」「医療崩壊」などの問題が重なり「地域で適切かつ必要な医療サービスを受けること」が難しくなっている。特に地方では深刻化している。地方では医療にどのような問題が起こっているのか。

地域医療が抱える6つの課題

【1】病院や診療科・医師が偏在

2016年の厚生労働省の調査によれば、現在日本には31,9480人の医師がいる。さらに年間約4,000人ずつ医師は増えており、2024年2月の厚労省の発表によると「2022年末時点の医師・歯科医師・薬剤師の数」は過去最多を更新している。

しかしそれは都市部に集中していて、地方では医師不足が深刻化している。この事態を招いた背景には2004年に導入された「臨床研修制度」があると指摘される。

臨床研修制度の導入以降、大学病院において臨床研修を受ける医師が大幅に減少し、また、専門の診療科を決定することが遅れたことも影響して、大学病院の若手医師が実質的に不足する状況となった。このため、大学病院が担ってきた地域の医療機関への医師派遣機能が低下し、地域における医師不足問題が顕在化・加速するきっかけとなった。引用:厚生労働省 臨床研修制度のあり方等に関する検討会「臨床研修制度に関する意見のとりまとめ

 

この制度の導入によって研修医が研修先の病院を選択できるようになり、待遇や条件の良い都市部の民間病院に希望が殺到し、大学病院が研修医を確保しにくくなった。その結果、大学病院は関連病院に派遣していた医師を次々と引きあげ、医師不足が起こっているとされる。

 

【2】夜間や休日の診療に対応する医師が不足

特に産婦人科や小児科で長時間労働や夜間勤務が続き、その過重労働から勤務医が病院を辞めることで医師不足が起こり、中には閉鎖に追い込まれるところもある。「医師が足りない」と、救急隊の要請に応えられないケースも少なくない。このようなことが地方や僻地を中心に全国で発生している。

 

【3】地域によっては診療科が偏在

現在の医学部は臓器別の専門医を育成することが目的となっている。そのため医療の高度化や細分化は進んでいるが、幅広い知識と技術で専門分野以外の患者を診る力が身につきにくい。少子化が進み需要が減っているのに手間がかかる小児科は、診療報酬が少ないことも要因となり減少。同様に人口減少や医療過誤の問題から産婦人科も減少。これらの背景によって医療施設の偏在が起こっている。

 

【4】地方に勤務する医師の支援体制が確立していない

医師の勤務実態及び働き方の意向等に関する調査(厚生労働省)」によれば、医師の44%が今後、地方(東京都23区及び政令指定都市、県庁所在地などの都市部以外)で勤務しても良いという意思を持っていることが報告されている。

意向はあるものの実際は地方勤務をする医師がいない理由としては、次のように報告している。

  • 【20代】
    労働環境への不安。希望する内容の仕事ができない。医局の人事のため選択の余地がない。専門医の取得に不安がある
  • 【30代および40代】
    子供の教育環境が整っていない。家族の理解が得られない。希望する内容の仕事ができない。労働環境に不安がある
  • 【50代】
    すでに都市部で開業している。労働環境に不安がある。家族の理解が得られない

この調査結果から、医師が地方に勤務したくない理由はどの世代であっても労働環境に不安があることや、過剰な勤務負担で家族の理解が得られないことが共通していることがわかる。

 

【5】人口減少とともに患者数が減少、経営難で閉鎖する病院も

医療機関の休業・廃業・解散数は年々増加しており、地方ほどその割合が高い。経営者の高齢化、後継者不足、患者不足による収入源が主な要因だ。日刊工業新聞(2019年4月23日)によると2018年の1月から12月の一年で休業・廃業・解散に至った医療機関は400件。

負債額が最も大きかったのは「磐城中央病院」や「小名浜中央病院」を経営している医療法人翔洋会(負債61億6400万円、福島県、民事再生法)で、以下、医療法人社団大森会(同28億2500万円、熊本県、民事再生法)、医療法人天貴会(同10億5800万円、民事再生法、栃木県)と続いた。翔洋会の負債額は2000年度以降の医療機関倒産のなかで9番目の規模で、東北エリアの医療機関倒産としては過去最大級。引用:日刊工業新聞「休業・廃業は倒産の10倍、深刻化する医療機関の経営」

 

【6】医師1人にかかる負担が大きい

さらに地方では、医師数や医療施設が絶対的に不足しているため医師1人にかかる負荷が大きすぎるという問題もある。医師が少ない地域ほど遠方の住民からも頼られ、また診療範囲も広くなる。もちろん交代要員も不足しているので休みが十分取れないといった問題もある。

地方に限らず、患者の受療行動にも変化が見られる。近年は休日や夜間に比較的軽傷の患者が緊急病院に駆け込むケース、何がなんでも大病院が良いとこだわる大病院志向、はしご受診の繰り返しなどで、これらは医師への負担を過重にし、緊急性の高い重症患者の治療に支障をきたす。さらに過重労働や医師への過度な負担は、医師の早期退職や過労死などの問題を引き起こす。

2024年4月に「医師の働き方改革」がスタートしたため、今後はこの問題も徐々に改善されていくことが期待されるが、医療従事者側の意識改革や、国民の理解・協力が必要となるなか、真の改善にはまだまだ時間を要しそうだ。

医師の残業時間に上限を設ける「医師の働き方改革」は医師の長時間労働の改善を目的にしており、適切な労働環境のもと医師の健康を守ることで医療事故を防ぎ、ひいては患者が安心して受診・受療できる環境づくりを目指す。これまでの日本の医療は医師の自己犠牲的な長時間労働によって支えられてきた側面があり、今後、医療ニーズの変化や医療の高度化、少子化に伴う医療の担い手の減少が進む中で、医師のさらなる負担増加が予想されることから、持続可能な医療提供体制の構築・維持が急務とされている。

着実な浸透に向けては長時間労働を生む構造的な問題の解決が必要で、各医療機関や医療従事者自身の意識改革やタスク・シフト/シェア(※1)の推進、国や自治体による医療施設の最適配置の推進、地域間・診療科間の医師偏在の是正に向けた取り組みが進められている。同時に医療サービスを受ける国民の理解と協力が不可欠であることから、ウェブサイトでは患者やその家族に向け、今後の医療のかかり方について意識変容と協力を求めている。例えば、症状や治療方針に関する医師による説明を夜間や休日ではなく診療時間内に行うことや、複数主治医制(※2)の理解の他、コンビニ受診(※3)の自粛などを求めている。

(※1)医療機関内の看護師や薬剤師など多様な職種の医療スタッフが、医師の業務の一部を担当したり分け合うこと
(※2)患者を1人の主治医ではなく複数の医師で担当する体制のこと
(※3)「平日の日中に行く時間がないから」といった理由で、夜間や休日などの診療時間外に緊急性のない受診をすること

(引用:ウーマンズラボ「医師の働き方改革の周知開始、複数主治医制の理解やコンビニ受診の自粛求める 厚労省」)

 

高齢化の現状と地域医療構想

日本の高齢化の現状

日本の高齢化は世界でも類を見ないスピードで進んでいる。2017年10月1日時点で、日本国内の65歳以上の人口は3,515万人、総人口に占める割合は27.7%(総人口は1億2,671万人)。2017年に国立社会保障・人口問題研究所が公表した日本の将来推計人口によると、2025年の65歳以上の人口は3,677万人に増えると考えられている。この2025年は「団塊の世代」が75歳以上になる年でもあり、「2025年問題」ともいわれる。

同調査によれば、今後総人口は2030年に1億1,913万人、2060年には9,284万人、2065年には8,808万人まで減少すると予測されている。さらに高齢者の中でも75歳以上の増加は顕著で、総人口に占める75歳以上人口の割合は、2065年には25.5%となり、約3.9人に1人が75歳以上の者となると推計されている。この高齢化によって、医療費や社会保障費の増大は避けられず、これまでの社会制度を維持していくことは困難になると言われている。

地域医療構想とは

そこで行政が推し進めているのが「地域医療構想」だ。超高齢社会にも効率的に対応できる医療提供体制を構築するために、2014年施行の「医療介護総合確保推進法」に基づき制度化された。

日本の超高齢化で将来的に必要となる病床数が足りなくなると予測されているが、この法律に沿って厚生労働省は2015年3月に「地域医療構想策定 ガイドライン」を発出。2016年中にすべての都道府県で「地域医療構想」が策定された。これによって「二次医療圏」を基本に全国で341の「構想区域」ごとに高度急性期、急性期、回復期、慢性期の4つの医療機能ごとの病床の必要量が推計されている。

ここで算出された病床数は、現在、各病院が担う医療機能とは大きな隔たりがある。しかし、この推計数をもとに病床の機能文化や連携、地域ごとの病床の余剰・不足などが明白化され、現実と将来のニーズとのギャップを埋めながら在宅医療のニーズも含めて、地域ごとに最適な地域医療の実現について協議する「地域医療構想調整会議」も行われている。2025年に必要となる医療体制の実現に向け、医療機関の分化や医療連携、在宅医療の充実化・医療従事者の確保や要請などの施策が地域ごとに進められている。地域医療構想に関する、より詳細な情報は以下で確認できる。

地域医療の問題に対する解決策案・今後期待されること

多くの課題があり対策が急務な地域医療。ハードルは高いが、今後地域医療に期待されることは例えば以下だろう。

  • 地域医療は「効率性」ばかりに焦点が当てられているが、同時に「生活者視点による地域医療の在り方」を取り入れていくこと
  • 生活者一人ひとりの“医療依存”を軽減し、患者を減らすこと(=予防医療への積極的な取り組み)
  • “医療改革”に、子どもや若者世代も巻き込み、地域全体で取り組む仕掛けをつくること
  • 介護施設における医療機能向上で、医療機関の負担を減らすこと
  • 「高度急性期」「急性期」「回復期」「慢性期」で医療機関が果たす役割が異なることを住民に周知すること
  • より良い地域医療構築につながる情報発信ができる「(イマドキなマーケティング手法である)インフルエンサー」を活用し、地域医療に興味関心が薄い層にも情報がリーチするような取り組みを行うこと
    など

医師の村上智彦さんは著書の中で、地域医療の理想の在り方として都市部の医療機関と地方の医療機関の役割を明確に分けること、としている。

専門的な医療は都市部に集中的に配置して、地方では予防やケアと連携してささえる医療機関にしていくべきです。

(略)例えば循環器の心臓カテーテルの上手い先生が3人いるとします。今の発想では3人の先生方を3か所の病院に派遣して「3か所の医療機関の循環器の医師を充実させた」と言っていますが、本当はこの3人の先生を都市部の1か所に集めて24時間体制で稼働させてでも医師たちが交替で休みをとれるようにすることのほうが大切です。

(略)地域の病院がやるべきことは予防と生活習慣病のケア、高齢者のケアへの連携ではないでしょうか?例えば日本一喫煙率の高い北海道で、いくら循環器の医師や呼吸器の専門医を派遣しても絶対に病気は減らないし、医療費も増えていきます。(引用:「最強の地域医療」pp.64-65,著:医師 村上智彦)

 

実際にどのような地域医療が実践され、成果を上げているのか?以下の書籍では全国48医療機関における先進的な取り組みを知ることができる。

限界集落化し、医療過疎となっているへき地の多くは、急速に高齢化が進行するわが国の将来の姿を先取りしたものといえる。本書で紹介されている、そのような地域で試みられているさまざまな先進的な取り組みには、わが国の医療の将来を考えるうえで重要な示唆に富むものが多い。その中には立地の不便さを補うためのICTの活用、医療スタッフの長期的な定着を実現するためのワークライフバランスのあり方、認知症の高齢者を地域全体でフォローする新しい「見守りシステム」など、今後の医療のロールモデルとなるものが数多く含まれている。(引用:「地域医療はおもしろい!!地域を癒す48の取材記」p.3,編著:北村聖)

 

 

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