クアオルトとは?ヘルスツーリズムとの違い、日本型と活用企業の事例(2/3)

日本型のクアオルトとは

ドイツのクアオルトを参考に日本でもクアオルトを広める動きが起きているが、日本では国による認定はなく、クアオルトの推進に取り組む「日本クアオルト協議会」が承認を行っている。同協議会は、日本型クアオルトを次のように定義している。

日本の風土や社会風習・伝統文化に適合し、様々な地域資源を活用しながら、医科学的な裏付けを持つ健康づくりプログラムを提供する滞在型で質の高い生活環境を有した健康保養地引用:日本クアオルト協議会規約

日本型クアオルトの具体的な指標は日本クアオルト協議会が定めており、6つの各領域で10の項目が示されている。クアオルトとしての品質を維持・向上するためのチェック項目となっている。

現在、日本型クアオルトとして承認されている(=協議会に加盟)のは次の9の自治体。

  • <2011年度:3自治体でスタート>
    山形県上山市 大分県由布市 和歌山県田辺市(※)
  • <2014年度>
    石川県珠洲市
    新潟県妙高市
  • <2015年度>
    秋田県三種町
    島根県大田市
  • <2016年度>
    群馬県みなかみ町
  • <2017年度>
    兵庫県多可町
  • <2018年度>
    三重県志摩市
    出典:日本クアオルト協議会「加盟自治体」
    (※)和歌山県田辺市は2019年6月に協議会を脱退

「ヘルスツーリズム」と「クアオルト」の違い

「ヘルスツーリズム」と「クアオルト」、どちらも「健康」を軸にしているが、両者の定義は微妙に異なる。ヘルスツーリズムは、企業・自治体・団体などが健康的な旅のプランをコーディネートし、“観光資源”としてPR・提供するのに対して、クアオルトは地元の人々の健康づくりが主眼。旅行に伴った健康づくりか、健康づくりのための滞在かという点で前提となる目的が異なる。

  • ヘルスツーリズム=健康増進を図ることを目的とした旅行
    一般的な観光旅行の流れのなかに温泉や和食といったヘルスケアプログラムを導入する旅行スタイル。健康づくりや地域活性が期待される
  • クアオルト=治療・療養・保養を目的とした療養地での滞在
    健康づくり・治療・療養・保養そのものを目的とした、指定された特別な地域への滞在。医療保険が適用され治療行為にあたる。日本では保険適用外

日本型クアオルト、事例

上山市(山形県)

日本で最も知られているクアオルトは山形県の上山市。その豊かな自然環境から、温泉・食などの恵まれた地域資源を生かし、全国に先駆けて市民の健康増進を目指した街づくりをスタートさせた。平成23年度には大分県由布市、和歌山県田辺市と温泉クアオルト研究会を設置し、平成26年度には日本クアオルト協議会を発足した自治体でもある。

  • [クアオルト事業の背景]
    ・友好都市ドイツ・ドナウエッシンゲン市との国際交流
    ・クアオルトを目指していた由布院温泉(大分県)との交流
    ・山形県内でも高水準にある市民一人当たりの医療費や高齢化率
    ・観光で訪れる年間宿泊者数の減少
  • [特徴]
    ・開湯560余年の歴史ある温泉地「かみのやま温泉」を有する
    ・城下町、宿場町、温泉街の特徴を併せ持つ
    ・里山と標高1,000m以上の蔵王高原坊平が近接し、平地から高地までの環境がそろう
  • [実施プログラム]
    クアオルト健康ウォーキング
    体表面温度を冷たく保ちながら、森や林の傾斜地を歩いて無理しない心拍数を維持して持久力を高める「気候性地形療法」を実施。通常よりも高い運動効果を得るウォーキング方法として、ドイツでは心臓のリハビリや高血圧の治療に活用される。現在上山では、日本で唯一ドイツのミュンヒェン大学の認定を受けた運動負荷の異なるコース(5カ所8コース)が用意され、専任ガイドの案内のもと年間360日開催されている。このプログラムには一般人も参加可能。

みなかみ町(群馬県)

群馬県を代表する温泉地であるみなかみ町は、日本クアオルト協議会の加盟自治体(2016年度加盟)。温泉街と川や山に囲まれた豊かな自然環境の強みを生かしクアオルト事業に取り組んでいる。

  • [クアオルト事業の背景]
    ・豊かな自然環境と豊富な観光資源の活用、保全
    ・過疎地域自立促進特別措置法による過疎団体の指定
    ・観光施策の強化
  • [特徴]
    ・大小18の温泉が点在する温泉の町
    ・利根川の源流と5つのダムを有する水源の町
    ・谷川岳など5つの日本百名山に抱かれた山岳の町
  • [実施プログラム]
    FUN to WALK みなかみ
    「歩行の質」にこだわるクアオルトウォーキングの実施。一般向けには行っておらず法人・団体向けに行っている。一年を通して楽しく快適に活動できるプランを、温泉街や山岳地帯といったエリア別に設定。地域の個性や四季の風を肌で感じながら、自身の足で “歩く喜び” を実感してもらうプログラム。運動効果やエネルギー消費量をアップするために、インストラクターによるウォーキング講座も行っている

所沢市(埼玉県)

埼玉県の所沢市は協議会の加盟自治体ではないが、埼玉県がヘルスツーリズム産業の創出に向けた取り組みとしてクアオルト・ウォーキングコースのプログラム導入を決めた。それにともない2019年よりクアオルト健康ウォーキングを開始。プログラムはクアオルトでのプログラム作りを支援する(株)日本クアオルト研究所が監修。期待する効果や実施内容は以下の通り。

  • [クアオルト健康ウォーキングの効用]
    ・生活習慣病の予防(高血圧、高血糖、高脂血症等)
    ・認知症の予防
    ・ロコモティブシンドロームの予防
    ・メンタルヘルスの改善
  • [ウォーキングコース]
    所沢クアオルト健康ウォーキング
    「荒幡富士特別緑地保全地区コース」と「上山口堀口天満天神社周辺里山保全地域コース」の2種類を用意

小山町(静岡県)

静岡県の小山町も協議会の加盟自治体ではないが、地域住民の健康づくりに取り組む自治体を支援する「太陽生命クアオルト健康ウォーキングアワード2017」を受賞した。その支援をもとに(株)日本クアオルト研究所監修のもとクアオルト健康ウォーキングコースを設定、2018年よりオープン。

  • [クアオルト事業の背景]
    ・静岡県独自が行う健康寿命指標「お達者度」(65歳から元気で自立して暮らせる期間)において、男女ともに最下位(2014年)
    ・運動習慣の推進
    ・町民の健康寿命の延伸
  • [実施プログラム]
    クアオルト健康ウォーキング
    実施日は「5」のつく日と「0」のつく日のみで誰でも参加することができる。全長と高度差が異なる「須走・富士山眺望コース」と「足柄古道・銚子ヶ淵コース」を用意。毎月5~6回のペースで交互に開催される
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