ソーシャルキャピタルとは?女性の活躍を推進する効果と事例

ソーシャルキャピタルとは、人と人との協調関係の蓄積が民主主義(Democracy)を発展させ、社会の効率性を向上させるという考え方。地域社会だけでなく、会社組織で応用したり、女性活躍を推進できるとのことで今注目されている。

ソーシャルキャピタルとは?

ソーシャルキャピタルの定義

ソーシャルキャピタルとは、協調行動により社会の効率を高めるといった概念。例えば、信頼、規範、ネットワーク、人脈など、人々のつながりを作る礎になるものがソーシャルキャピタルを形成し、経済・健康・治安などに良い影響をもたらす。ソーシャルキャピタル(Social Capital)の 直訳は「社会関係資本」「社会資本」。「SC」と略されることもある。ソーシャルキャピタルは、物的資本(フィジカル・キャピタル、Physical Capital)や人的資本(ヒューマン・キャピタル 、Human Capital)と並ぶ概念で、アメリカの政治学者ロバート・パットナムの著書「Bowling Alone」で注目されるようになった。

孤独なボウリング―米国コミュニティの崩壊と再生

パットナムは書籍の中で、アメリカにおけるソーシャルキャピタルの減退を指摘し、コミュニティの崩壊を警告した。従来大勢で楽しむものだったスポーツ「ボウリング」を、現代は一人で行う人が多くなっている「孤独なボウリング(=Bowling Alone)」を例に挙げ、アメリカの地域社会において人と人とのつながりの変遷に関する詳細な調査と考察を行っている。この本は米国でベストセラーとなり、社会学分野の他、政治学、経済学を学ぶ人必携の書となっている。

日本におけるソーシャルキャピタル

社会の中で人々が自発的に集まり、社交し、協調関係を築くことで蓄積されていくソーシャルキャピタルは、地域社会における住民同士の交流を活発にし、生活への満足度や安心度を高めることにつながる。ソーシャルキャピタルの以下解説は理解しやすい。

ソーシャル・キャピタルは大きく2つのタイプに分けることができる。1つは結合型で,家族や近所,職場や学年といった同質的な結びつき。強いつながりを築くことができる一方で,この傾向が強くなりすぎると閉鎖的で排他的になる可能性がある。

もう1つは橋渡し型で,年齢や職業などがバラバラな異質な者同士のつながり。つながり自体は弱く薄いが,開放的で水平的な性格を持っている。

結合型が接着剤なら,橋渡し型は潤滑油。どちらも重要なつながりではあるが,結合型はつながりが強くなりすぎると,周りと合わせなければならない,抜け駆けは許さないという風潮を生み出し,そのことが健康を損なわせる可能性がある。お互いが助け合う絆(きずな)ではなく,お互いを縛る絆(ほだ)しとなる。

逆に,橋渡し型は参加することも抜けることも比較的自由にできる。地域のボランティアや社会人サークル,行きつけのお店の飲み仲間なんてのもこれにあたるか。本書では,結合型と橋渡し型を明確に分けてそれぞれの特徴を浮き上がらせてはいないが,橋渡し型のつながりを持つことが心身の健康のカギを握るといわれている。(引用:ソーシャル・キャピタルの重要本-孤独なボウリング)

 

日本においても、政府がソーシャルキャピタルの研究を進めている。内閣府が2005年に発表した「コミュニティ機能再生とソーシャル・キャピタルに関する研究調査報告書」は、コミュニティの衰退と地域格差の拡大について述べている。ライフスタイルが多様化することで、地域社会から孤立した核家族と、家族内で孤立する個人が増えていること、およびコミュニティの崩壊が指摘されている。

内閣府発表(2016年)の調査「ソーシャルキャピタルの豊かさを生かした地域活性化」によると、都市地域よりも農村地域のほうがソーシャルキャピタルの統合指数が高い傾向にあるとのこと。

都市、農村別に見たソーシャルキャピタル

出典:内閣府経済社会総合研究所「ソーシャルキャピタルの豊かさを生かした地域活性化」

 

また、人口増加率が高い地域よりも人口減少率が高い地域のほうが、ソーシャルキャピタルの統合指数が高い傾向にあるのだという。人口減少で活力低下が心配される地域ほど、豊かなソーシャルキャピタルを保持している可能性がある。

人口増減率区分に見たソーシャルキャピタル

出典:内閣府経済社会総合研究所「ソーシャルキャピタルの豊かさを生かした地域活性化」

たとえば特定非営利活動法人(NPO法人)の認定数は増加傾向にあり、2018年度の認証法人数は51,610件に達している内閣府NPOホームぺージ「特定非営利活動法人の認定数の推移」より。NPO法人は、社会貢献活動を行うことを目的とする地域的組織であり、ソーシャルキャピタルの一つとして特に重要性が高いとされている。

NPO活動家が当該NPO法人に参加するきっかけは、「地域にある課題を解決したかった」が多数を占めている(引用:滋賀大学・内閣府経済社会総合研究所 共同研究「ソーシャル・キャピタルの豊かさを生かした地域活性化」)

NPO法人の増加には、地域にソーシャルキャピタルを形成していこうという意識の高まりが見てとれる。

 

企業組織におけるソーシャルキャピタルの効果と定着させる方法

ソーシャルキャピタルという考え方は、人と人との間に形成される信頼関係という意味で用いられている。そこで、地域社会の問題だけでなく企業組織においても通用する概念としても注目されるようになった。

ソーシャルキャピタルが企業組織にもたらすメリットとデメリット

  • 【メリット】
    仲間意識によって互いに協力関係が生まれることがメリット。相互に信頼関係があるため、契約や監視などの人間関係にかけるコストを省くことが可能になる。人と信頼できるつながりがあるので、治安が保たれ、幸福感を得られやすく、健康状態を良好に維持できる
  • 【デメリット】
    同調圧力が強くなることがデメリット。ある物事に対して、みな同じ理解や意見を持つよう求める傾向があるので、異論を唱えにくくなることがある。集団思考に陥り不正行為が増えることがあるのもデメリットだ。みなが知り合いで閉鎖的な社会的環境であるため、窮屈に感じて疲れてしまうこともありうる

企業にソーシャルキャピタルを定着させる方法

企業内にソーシャルキャピタルを形成するには、人と人とのつながりをいかに密にするかが重要だ。社員同士がつながり合える環境を積極的に整え、コミュニケーションの量と質を上げて、信頼関係を築いていかなければならない。例えば以下の方法が考えられる。

  • 社内レクリエーションの実施で従業員同士のコミュニケーションを活性化
  • メンターとメンティーの交流を深める「メンタリング制度」の導入
  • 従業員同士が気軽に交流するきっかけになる、Slack、Chatwork、LINE WORKSなどコミュニケーションツールの導入。メールよりもスピーディかつリアルタイムのやり取りができるため、コミュニケーションの量が圧倒的に増える
  • オフィスのレイアウト変更で従業員同士が交流しやすい配置で仕事を進める。個別席を設けず、一つの大きなデスクを数人で共有すれば自然と会話が生まれる。固定席を設けず、社内の好きなところで仕事ができる「フリーアドレス」も、気軽なコミュニケーションが生まれやすい

 

ソーシャルキャピタルと女性活躍推進の関係性

ソーシャルキャピタルがもたらす女性の活躍推進

ソーシャルキャピタルを充実させると、女性活躍推進や出生率向上の可能性がある。ソーシャルキャピタルが豊かな地域では、子育て世代の女性の雇用就業率が高い傾向にあり、地域活性化への効果が期待されているのだ。女性が仕事と家庭を両立させるには、周囲からのサポートが不可欠。この点、ソーシャルキャピタルが豊かな地域には人と人とが支え合う環境があり、親戚や近隣の協力者から子育ての支援を受けやすい。女性が安心して仕事も育児もできるので、結果として働く人と子供の数が増えて、地域が活性化する。

女性の活躍が促進された事例

ソーシャルキャピタルの醸成により、女性の活躍が促進された事例としては、自治体が行っている「子育て援助活動支援事業(ファミリー・サポート・センター事業)」がある。

育児とソーシャルキャピタルとの関係については「子育ての社会化」という言葉で語られることも多い。社会全体で子どもを育てようという取り組みで、ファミリー・サポート・センター事業もその一環だ。この事業の目的は、育児援助を受けたい人と援助したい人とを地域の中で結び、相互援助を実現することにある。例えば、保育施設への送り迎えや一時預かり、病中病後児の預かりや、早朝夜間の預かりなどを、登録会員間で行う。これにより、働く母親が安心して仕事を継続することができる。

ファミリー・サポート・センター事業

出典:厚生労働省「子育て援助活動支援事業について」

女性の管理職への積極登用など女性活躍の道が開かれる一方で、待機児童問題など育児に関する社会的整備はまだ十分ではない。そのような中、ファミリー・サポート・センター事業は、住民同士が互助の精神で育児をサポートし合うことで女性の活躍を支えようというソーシャルキャピタルの一例である。

 

ソーシャルキャピタルは女性活躍の鍵に

とかく孤立しがちな現代人にとって周囲に信頼できるつながりや頼れる存在があることは、人生を充実させ、ひいては地域の活性化にもつながる。特に女性が仕事と育児を両立させるためには、職場や地域における周囲のサポートが欠かせない。ソーシャルキャピタルという観点から、改めて女性活躍支援を見直してみてはどうだろうか。

今なお多くの地域において、社会経済の停滞・衰退に歯止めがかかったとは言い難い状況にある。地域間の人口移動がこのままで推移すると、多くの地域は将来消滅するおそれがあるとの予測が示され、社会に大きな衝撃を与えた。一方、内外の研究によれば、従来の手段・手法に加えて「ソーシャル・キャピタル」という概念に着目することが、地域の持つ様々な課題への処方箋として有効であるとの結果が示されている。

(略)人口面からみて活力が低下している地域ほど相対的に豊かなソーシャル・キャピタルを有していること、ソーシャル・キャピタルが豊かな地域では、そのことが人口の社会増、あるいは社会減の抑制に寄与している可能性が示唆された。加えて 、出生率の引き上げ、女性の活躍促進、要介護状態の予防等の面でソーシャル・キャピタルが寄与している可能性も見出されている。(引用:内閣府経済社会総合研究所「ソーシャルキャピタルの豊かさを生かした地域活性化」)

 

 

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