死生観もミニマム化 現代女性の死後ニーズ

冠婚葬祭の簡素化が進んでいる。中でも特に葬儀関連は顕著で、近年は格式ばった豪勢な葬儀・埋葬・供養よりもミニマムにシンプルに済ませたいと考える人が増え、従来の“主流”は下火傾向に。今、死生観に変化が起きている。

自分の葬儀はミニマムにしたい

終活に関するメディア「終活瓦版(株式会社林商会)」が、40代以上の男女250人に自分の死後に希望する葬儀について調査をしたところ、従来の主流であった「一般葬(近所の人や親交のある友人・知人が多く参列する形式)」を希望する声は少なく、葬儀をミニマム化したいニーズが読み取れる結果となった。

人気の葬儀は「家族葬」「直葬」

40代以上の男女に「自身の葬儀はどういった形式で行いたいか?」と希望の葬儀スタイルを聞いたところ、「家族葬(※)」を希望する声が最多で57%(143人)。これまでの主流である「一般葬」を希望している人は全体のわずか8%(22人)に止まった。興味深いのは「直葬(※)」が2位にランクインしたこと。ミニマムな葬儀の中で最も簡素化された形式である「直葬」が「一般葬」を大きく上回り2位にランクインしたのはちょっと驚き。ミニマム思考はかなり進んでいるようだ。(※)各葬儀の一般的な定義は後述。

  • 1位:家族葬(143人)
  • 2位:直葬(47人)
  • 3位:一般葬(22人)
  • 4位:1日葬(13人)
  • 5位:自由葬(10人)
  • 6位:その他(12人)

葬儀をミニマム化したい理由は?

葬儀のミニマム化を望む人が増えている背景には、どのような理由があるのだろうか?同調査では個々に「その葬儀スタイルを希望する理由」も聞いている。「金銭的負担を家族にかけたくない」という配慮や、「シンプルでよい」という自分の死後のスタイルに派手なこだわりを持たない考えが見られた。

<家族葬派の声>

家族葬は家族・親戚・近しい友人など少人数で集まる形式。式の流れは一般葬と同じだが、近しい人だけで見送りたい、参列者が少ないと見込まれる場合、規模を小さくしたい場合などにこの方法がとられる。以下は、自身の葬儀で家族葬を希望する40代女性の声。

祖父や祖母、親戚のお葬式の際、1番悲しいはずの家族が悲しむ間もなくお葬式の準備、参列者の接待(?)に気をとられバタバタと過ごしている姿を見ていて、お葬式ってなんなんだろう、とずっと思ってきました。大掛かりなものでなく、きちんとお別れができる場所であればいいと私は思います(40代 女性)。

<直葬派の声>

直葬は遺体を自宅・病院などから直接火葬場に運んで火葬する形式で、通夜・告別式は行わない。密葬とも言う。基本的には家族・親戚だけ集まり、出棺時や火葬炉前で僧侶による読経が行われる。通夜・告別式がない分、葬儀にかかる費用を大幅に削減できる。以下は自身の葬儀を直葬で済ませたいと言う40代女性の声。

できる限りシンプルにミニマムに済ませたい。人に泣かれたくもないし惜しまれたくもないしお金もかけたくない(40代 女性)

<1日葬派の声>

1日葬は告別式と火葬のみを行う葬儀で、通夜は行わない。通常は通夜と告別式で2日間を要するが、1日葬はその名の通り1日のみ。通夜を省くことで費用を抑えられる他、参列者の時間的・身体的拘束の負担を軽減できる。以下は、1日葬を希望する60代女性の声。

お通夜などで、身体的にも余り負担をかけたくないので一日でお別れの葬儀が終わるのも良いのではと段々思うようになってきています(60代以上 女性)

<自由葬派の声>

自由葬は宗教的な儀式に従わない葬儀のことで、自由なスタイルで行う。無宗教葬とも言う。日本の葬儀は仏式が一般的だが、無宗教の人や、特定の宗教に従うことに違和感がある人などが自由葬を選ぶ。以下は自由葬を希望する40代と60代の女性の声。

自分が死んだあとは、周りに迷惑をかけたくないので、周りの好きなようにやって欲しい。死後まで自分の意思を通す必要はない(40代 女性)

アメリカのドラマに出てくるような形式ができたらいいなと思っています。自宅で簡単な料理を用意して訪問者が自由に出入りし家族と話ができるような形式です(60代以上 女性)

<その他>

その他には、こんな声も。

私は「献体」希望で葬式も気にしないので、大学病院へ依頼しました。(50代 女性)

 

埋葬・供養もミニマムに

葬儀だけではなく、自身の埋葬と供養に対する考え方もミニマム化している。

墓石は不要、5割

続いて「自身の遺骨の埋葬・供養はどのような形式を希望しますか?」と聞いたところ、1位は「先祖と共に納骨される一般墓」で33%だった(84人)。今なお一般墓が主流のようだが、とは言え、それは先祖代々承継(継承)された墓があることが前提のよう。新たに自分用の墓を建立する「一般墓で親族・家族とは別に納骨」になると、希望者の割合はぐんと下がりわずか3%(9人)。一般墓へのこだわりは薄いことが読み取れる。一方で自身の墓は持たず「散骨」「納骨堂」「樹木葬」を希望する人は52%と半数超え(131人)。今や「自分だけの土地・墓石を持たない」考えの方が主流のようだ。

  • 1位:一般墓で先祖代々のお墓(84人)
  • 2位:散骨(57人)
  • 3位:納骨堂(41人)
  • 4位:樹木葬(33人)
  • 5位:一般墓で親族・家族とは別に納骨(9人)
  • 6位:その他(26人)

埋葬・供養をミニマム化したい理由は?

葬儀のみならず、埋葬・供養においてもミニマムを希望する理由は何なのか?金銭的負担の軽減のみならず、自分の死後の負担軽減や、墓守の不在が背景にあるようだ。

<散骨派の声>

散骨は、粉末状にした遺骨を海や山などに撒くこと。実際に散骨を選択する人は圧倒的に少ないようだが、海への散骨をサービスにしているクルージング会社や葬儀会社もあり、一定のニーズはある。調査によれば散骨を希望する人の意見で多かったのが「死後の世界では自由に過ごしたい・縛られたくない」。一般墓や納骨堂など所定の場所に遺骨を納める形式は、遺族への継続的な金銭的負担や管理の手間がかかるが、散骨であれば土地や維持にかかる負担がなく、自身も残された家族も自由に過ごせる。実際に散骨を希望している40代女性の意見を見てみよう。

狭いところに閉じ込められてしまうよりも、塵芥になってどこかへ行き、また地球上の別のものに生まれ変わりたいから(40代 女性)

 

以下は海への散骨サービスを提供している株式会社サン・ライフ(神奈川・平塚)による動画。散骨の様子がわかる。

<納骨堂派の声>

納骨堂は、遺骨を収蔵できる屋内の納骨所のこと。ロッカーのような扉付きの棚の中や、仏壇の形をしたスペースに遺骨を納める。寺院、自治体、宗教法人などが運営しており、墓の承継者(継承者)がいない夫婦や、子どもなどに墓守の手間や経済的負担をかけさせたくない人が選ぶケースが多い。納骨堂での埋葬・供養を希望する50代女性の声を聞いてみよう(納骨堂のイメージはこちら

墓守は大変だし義務でもないので納骨堂の方が来たい時に来てくれたら嬉しいと思います。子孫が重荷にならない様にしてほしい(50代 女性)

 

<樹木葬派の声>

樹木葬は、墓石を設けずに樹木や花木を墓碑として遺骨を埋葬する形式。宗派や宗旨といった宗教的な制約はない。自然に還りたい、墓の承継者(継承者)がいない、安価に埋葬・供養をしたいなどの理由から選択する人が増えている(樹木葬のイメージはこちら

墓石は絶対にいらない。残された家族が大変なので。樹木葬だと自然に帰る感じがするし、墓参りもしなくてもよいので(40代 女性)

 

以下は名古屋テレビで放送された樹木葬の様子(2021.7.01)。樹木葬が人気を集めている秘密について取材・解説している。

 

<その他>

その他には、こんな声も。

バルーン葬というのに興味があります。お墓は必要ないので、思い出してくれる時には空を見上げてくれれば良いと思います(50代 女性)

 

死後の“扱われ方”にこだわらない死生観

調査結果が示す通り、葬儀・埋葬・供養のいずれにおいてもミニマム化を求める声は大きい。背景にあるのは少子高齢化や核家族化、また未婚率の上昇により墓の承継者(継承者)がいないことが大きいが、残された家族など生きている人への優しさもうかがえる。平均寿命の延伸による長生き時代に、自分自身が残せるお金は少ない可能性が高い上に、経済状況が不安定な時代に子孫に経済的負担をかけさせたくないのだろう。一般墓を持つという従来の慣習に無理に従うよりも、現実的な選択をするー。自身の死後の見送られ方、埋葬・供養のされ方にこだわらない死生観が広がっている。

 

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