「ジェンダーニュートラル」の最新動向、ヘルスケア商品・サービス事例(連載Vol.2)

【連載Vol.2】
性差による違いに着目した医療(性差医療)、ヘルスケア(性差ヘルスケア)、美容(性差美容)の研究が進み、フェムテックに代表されるように性差に主眼を置いたヘルスケアソリューションの上市が相次ぐ中、これに逆行しているようにも見える概念「ジェンダーニュートラル」の波。牽引するのはファッション業界やラグジュアリーブランドだが、航空業界やテーマパーク、パブリックスペースなど、業界問わず導入が進み、ヘルスケア界隈だと美容業界が積極的。特に今年は活発化している。

さて、この新潮流「ジェンダーニュートラル」。性差に着目した考え方が加速しているヘルスケア業界と相性は良いのだろうか?新施策として自社での導入に迷う企業の声もチラホラ聞かれるようになってきた。そこでウーマンズラボ編集部がこの答えを探るべくリサーチを実施。全3回の連載でお届けしたい。今回は第2回目。ジェンダーニュートラルを実際に導入したヘルスケア商品・サービス事例を見ていこう。思っていた以上にニュートラル化が進んでいると感じるはず。

ジェンダーニュートラルがコンセプトの商品・サービス事例

ヘルスケア界隈でニュートラル化の事例が増えているのは、美容系商品。健康系商品はまだ事例が少ないが、見せ方や表現の参考になるのでぜひチェックを。なお、連載第1回目で解説した通り、特定のジェンダーを指さない言葉としては、「ジェンダーニュートラル」の他に「オールジェンダー」 「ジェンダーレス」「ジェンダーフリー」「ユニセックス」があり、各社によって採用する言葉はそれぞれ。本項では各社が採用した言葉に倣い紹介していく。

パブリックトイレ(TOTO)

あらゆるジェンダーを対象にしたパブリックトイレが、今、全国的に増えつつある。いわゆる「オールジェンダー トイレ」で、例えば2019年に渋谷で開業したオフィスビル「渋谷ソラスタ」もその一つ。様々なワーカーに配慮するため最上階には、女性用トイレ、男性用トイレ、多機能トイレの他にオールジェンダー向けの個室も設置している(基準階は女性用トイレ、男性用トイレ、多機能トイレのみ。オールジェンダー トイレのイメージはこちらから閲覧可

手がけたのはTOTO。性的マイノリティという言葉の認知が広がり始めた2015年ごろから、パブリックトイレの設置を計画中の施主や設計者から「LGBTの皆さんも使いやすいトイレにするにはどういう配慮をすればいいの?」という問い合わせが増え、性的マイノリティを配慮したトイレ空間の実現に向けた調査を始めたという。同社は以前より様々な人が快適に利用できる水まわり空間の設計に取り組んでおり、1970年代には車椅子使用者に配慮したバリアフリーを、その後は高齢者を配慮したユニバーサルデザインを実現してきた。

多様なジェンダーへの配慮が得意な業界というとファッション業界と美容業界のイメージがあるが、ジェンダーに止まらずあらゆる人々への配慮にいち早く取り組み成功しているのがTOTOだ。同社はこれまでに、小・中学校、大学、企業、商業施設、市役所、屋外トイレなどにオールジェンダートイレ(だれでもトイレ)を設置した。同社ホームページから63件の施工事例を確認できる(2021.8.24時点)

薬用シャンプー(日本メナード化粧品)

日本メナード化粧品は今年5月、オールジェンダーを対象にした薬用シャンプーを発売した。同社のこれまでの毛髪研究では、髪の太さは、女性は30歳頃、男性は20歳頃をピークに加齢とともに細くなることが分かっており、性別に関係なく加齢により起こる頭皮環境の変化に着目し、オールジェンダーが使用できる頭皮用美容液とシャンプーを開発した。

【出典】日本メナード化粧品

【出典】日本メナード化粧品

ボディソープ(FRAMA)

FRAMAは、ハンドソープ、ボディソープ、キャンドル、オイルパフュームなどのパーソナルケア用品をデザイン・開発するデンマークの雑貨ブランド。国内では東京を中心に取扱店があり、三越伊勢丹オンラインストアでも販売されている。北欧をイメージさせるシンプルな世界観で統一されているのが特徴で、ジェンダーを問わないパッケージデザインが評価されている。ジェンダーを問わないこだわりは、香りにも。例えば「Body Wash 375ml」は、その香りの特徴を「さわやかでジェンダーニュートラル、ナチュラルな心地よい香り」と表現HPより確認可)。様々なジェンダーが利用しやすい香りとして訴求している。

 

この投稿をInstagramで見る

 

FRAMA JAPAN(@framajpn)がシェアした投稿

美容ポータルサイト(LINE)

自分にマッチしたコスメや美容情報をLINEで見つけることができる美容ポータルサイト「ラコア」も、サービスのジェンダーニュートラル化に取り組み始めた。

ラコアは2020年8月に開始したサービスで、メインユーザーは20代後半~30代の女性。イエローベース・ブルーベースなどのパーソナルカラーや、肌質・年齢やサイト内の行動履歴に応じてユーザーの好みに合った商品やコンテンツをパーソナライゼーションして提供するもの。国内のみならず、アジア系コスメの取り扱いも強化している。

今年7月からはメンズコスメ、ジェンダーレスコスメの取り扱いも開始し、今人気のメンズスキンケアブランド「バルクオム(BULK HOMME)」「ザ・フューチャー(THE FUTURE)」、ジェンダーニュートラルコスメブランド「アイロ(iLLO)」、人気美容系You Tuberがプロデュースするメンズコスメブランド「レタッチ(RETØUCH)」など計5つのブランドを揃えた。

【出典】LINE

【出典】LINE

特集記事(主要女性誌)

各人気女性誌もジェンダーニュートラルのトレンドに着目している。特に、ハイクラスの読者やトレンドに敏感な読者をターゲットにしている女性誌が取り上げている印象。各誌が実際に取り上げた記事のタイトルを見てみよう。

ファッション・ライフスタイル誌のヴォーグ(コンデナスト・ジャパン)は「今知りたい、ジェンダーニュートラルなメイク論(2021年1月号)」。30代後半〜40代女性を読者に抱えるラグジュアリー誌プレシャス(小学館)は「大人こそ、自然体で『ジェンダーレス』を纏う」。20代後半〜40代のエレガンス系の女性に読まれている25ans(ハースト婦人画報社)は「ジェンダーレスな私の肖像」、毎号特定のテーマを扱うライフスタイル誌フラウ(講談社)は「ファッションのジェンダーフリーを考える(2021年8月号)」。

 

ジェンダーニュートラルの導入メリット・相性・動向予測

連載第2回目となる本稿では、ジェンダーニュートラルを導入したヘルスケア商品・サービスの事例を見てきた。女性誌の取り扱いはまださほど多くはないものの、各社の動きを見ていると今後メディアからの発信も増えていく気配だ。

次回の第3回目ではいよいよ、ジェンダーニュートラルのマーケティングについて考えていきたい。業界全体の関心が性差医療・性差ヘルスケアに向かっている今、果たして、これに逆行しているようにも見える「ジェンダーニュートラル」は業界との相性は良いのか?特にどんなプロダクトと相性が良いのか?また、導入メリットについても考えていきたい。

 

【編集部おすすめ記事】
新潮流「ジェンダーニュートラル」、ヘルスケア業界と相性は良い?自社でも検討すべき?
女性差別の例 〜日本・世界の男女格差/ジェンダー問題の現状〜
「LGBTQ+」のヘルスケア市場規模と、特有の健康課題
【2021年版】ヘルスケア市場の女性ニーズ&消費トレンド
世界の男女格差120位に納得、日本人が感じる男女格差のリアル

 

 

PAGE TOP
×