音声AIを活用したインタビューで、生活者インサイトはどこまで探れる? シニア男女の生活志向調査で検証
音声AIの活用により、日常会話に近い形で生活者インサイトを取得できる可能性が見えてきました。企業のシニアマーケティングを支援するOmelette社と、脳科学の知見を活用したAI事業を手掛ける東京大学発ベンチャーのAgeAI社が、シニアの生活志向をテーマに共同調査を実施。本稿では、その結果とともに、マーケティングにおける音声AIの有用性についてOmelette社が解説します。
目次
音声AIインタビューで見えたシニアの本音
音声AIを活用したシニアインタビュー調査
近年、生成AIや音声AIの発展により、人とAIが対話を通じてコミュニケーションを行う機会が急速に増えている。一方で、高齢者がこうした音声AIとどのように対話し、生活についてどのような言葉を語るのかは、まだ十分に明らかになっていない。そこで今回の調査では、シニアの生活志向を探ると同時に、音声AIによるインタビュー手法の可能性を検証することを目的に、音声AIを活用したインタビュー調査を実施した。
音声AIとは、人の声を認識し、対話形式で応答を行うAI技術である。ユーザーの発話内容や属性情報をもとに会話を進めることで、人との会話に近い形で情報を引き出すことができる。
調査は、シニアマーケティング領域の事業開発を支援する当社Omelette社と、シニアテック領域で音声AIを活用したシニアコミュニケーションサービスを展開するAgeAI社の2社共同で、今年の1月25日に実施した。対象は都市型の自立型シニアレジデンスに入居する高齢者。対象人数は、入居者11名、未入居者10名。音声AIは入居者インタビューに活用し、未入居者については入居者との生活志向を比較するための補完調査として、電話インタビューを実施した。なお、自立型シニアレジデンスとは、介護施設とは異なり、日常生活を基本的に自立して送る高齢者が入居する住まいである。食事や見守りなどの生活支援を受けながらも、個々の生活スタイルを維持できる点が特徴とされている。

【出典】AgeAI(左:スマートフォンと接続したぬいぐるみ型スピーカーと会話するシニア女性。音声AIへの接続は、スマートフォンやタブレットがあれば可能。右:同社が提供する対象者情報入力画面。音声AI調査では、対象者情報を事前学習することでより、深い回答を引き出すことができる)
音声AIとの対話で引き出された生活の声
音声AIとの対話では、事前に学習した対象者の属性(出身地域・生まれ年など)を会話のきっかけとすることで、生活の思い出や日常の習慣などが自然に語られる場面が多く見られた。中には「思い出を思い出させてくれて楽しかった」といった声もあり、AIとの会話が生活経験を引き出すきっかけになる様子も確認された。本記事では、こうしたインタビューから抽出されたシニアの生活志向を、男女差と入居状況という2つの観点から整理する。
男女×入居状況で異なる生活志向
インタビュー結果を整理すると、シニアの生活志向には「男女差」と「入居状況(入居/未入居)」の2つの軸による特徴的な違いが見られた。そこで生活志向を4つのセグメントとして整理した。入居男性では生活の合理化や自由度の確保が重視される傾向が見られた。一方、未入居男性では将来的に周囲へ迷惑をかけないことや生活動線の効率といった「自立志向」が目立つ。しかし今回の調査で特に顕著だったのは、女性の生活志向の違いである。女性では入居と未入居で生活の中心そのものが変化していた。未入居女性では地域活動や外出を中心とした生活が見られるのに対し、入居女性では住まいを拠点に食事や交流などの日常生活が構成されていた。
<シニア生活志向セグメント―4象限セグメントマップ>
入居女性の生活志向―生活を再設計する「生活拠点型ライフ」
生活に関する言葉が中心に現れる
入居女性のインタビューから抽出したキーワードを整理すると、「会話」「食事」「友達」「部屋」「料理」など、生活そのものに関わる言葉が多く見られた。これらの言葉から見えてくるのは、住まいを単なる居住機能としてではなく、生活を楽しむ拠点として捉える視点である。
生活習慣を維持する暮らし
実際のインタビューでも「食べるものは自分で作りたい」といった声があり、入居後も自炊や生活習慣を継続する意識が確認された。また、友人が訪ねてくることや日常的な会話を楽しむことなど、人との交流も生活の一部として語られている。
未入居女性の生活志向、地域を拠点に生活を続ける「地域拠点型ライフ」
地域に関する言葉が中心に表れる
一方で、未入居女性のインタビューから抽出したキーワードでは、「生活」「買い物」「駅」「スーパー」「街」といった地域生活を示す言葉が多く見られた。これらの言葉から、日常生活が住まいの中ではなく、地域の生活圏の中で展開している様子が読み取れる。
生活の中心は「住まい」ではなく「地域」
インタビューでは、「書道」「ランチ」といった活動に関する言葉も語られており、日常生活は地域活動や外出を中心に構成されていることが分かる。「ウォーキング」や「買い物」など、外に出る習慣が生活のリズムになっているケースも多かった。つまり未入居女性の生活は、地域の中で人と関わりながら活動することによって成り立っている。
この特徴は入居女性と対照的だった。入居女性では「住まいが生活の中心」となっていたのに対し、未入居女性では「生活の中心が地域」にある。住まいはあくまで生活の一部であり、日常は街の中で展開している。このように女性は、入居をきっかけとして生活の中心が「地域」から「住まい」へと移行する傾向が見られた。男性では、「地域」から「住まい」へと生活の中心が移る傾向はあまり見られなかった。一方女性では、未入居時は地域活動や外出を中心とした生活が展開されるのに対し、入居後は住まいを拠点に食事や交流などの日常生活が再構成される傾向が見られた。
このように、生活の中心となる場所が変化する点が、女性の生活志向の違いとして今回の分析で最も特徴的だったポイントである。
シニアの生活志向の本質、自由と自立という2つの価値
今回のインタビューから見えてきたのは、シニアの生活志向の核が「自由」と「自立」であるという点である。ただし、その意味は男女で異なっていた。
男性の自立は「迷惑をかけないこと」
男性では、自由とは「干渉されない生活」を指すことが多い。さらに自立とは「周囲に迷惑をかけない生活」という意味で語られるケースが目立った。実際のインタビューでも「人に迷惑をかけなかったらそれでいい」という発言が見られ、社会的な自立を重視する価値観が確認された。
女性の自立は「生活を維持すること」
一方女性では、自由とは「生活を楽しむこと」、自立とは「生活能力を維持すること」として語られる傾向があった。料理や外出、日常生活を自分で続けられることが自立として認識されている。つまり男性にとっての自立が「周囲に迷惑をかけないこと」であるのに対し、女性にとっての自立は「自分の生活を維持できること」である場合が多い。同じ言葉でも、その背景にある価値観は男女で異なるのである。
住み替えのきっかけは生活の変化
また、入居を検討するタイミングにも特徴が見られた。多くのケースで住み替えは長期的な計画ではなく、病気やケガなど生活の変化をきっかけに意識されていた。実際のインタビューでも、骨折などの体調変化をきっかけに住み替えを考えるようになったという声が聞かれた。住まいの選択は将来設計というより、生活の変化に応じて判断されるケースが多いと考えられる。
音声AIインタビューが示した可能性、シニア調査の新しい方法
音声AIが引き出す生活インサイト
今回の調査では、音声AIを活用したインタビューという方法を試みた。実証の中で確認されたのは、シニアがAIとの会話を通じて自然に生活の話題を語る様子である。音声AIには、会話のきっかけを作る、生活の記憶を引き出す、継続的な対話が可能といった特徴がある。これまでシニア調査はアンケートや対面インタビューが中心だったが、音声AIを活用することで、日常会話に近い形で生活インサイトを取得できる可能性が見えてきた。
認知機能の変化を捉える可能性も
さらに音声AIには、生活理解以外の可能性もある。近年の研究では、会話内容や声の特徴を分析することで、認知機能の低下の兆候や生活変化を早期に把握できる可能性が指摘されている。例えば、会話の語彙量や言い回し、発話のスピードなどは認知機能の変化と関連する場合があるとされている。継続的な対話データを蓄積することで、日常生活の中で認知機能の変化を把握できる可能性もある。高齢化社会では、シニアの生活理解と健康支援の両方が重要なテーマとなる。音声AIは生活者の声を引き出す調査手法であると同時に、日常の会話を通じて生活状態を把握する新しいインターフェースとしての可能性も持っている。今回の実証は、シニアの生活志向を探る新しいアプローチを示すとともに、音声対話技術が高齢社会において果たす役割の一端を示す試みと言えるだろう。
【提供元】 Omelette株式会社
当社は、シニア向け事業開発コンサルティング事業・デジタルマーケティング事業を展開しています。会員数310万人の「らくらくコミュニティ」を基盤としたシニアマーケティングDXでは、メーカーや製薬会社を中心に100件以上のプロジェクトを支援してきました。健康食品メーカーの購買促進、大手製薬会社の脳トレアプリ導入支援、自動車メーカーの福祉車両販売促進など、多様な業界での成功事例を蓄積しています。60〜80代のリアルなデータ分析と生活者インサイトに基づき、認知獲得からコンバージョンまで一気通貫で支援します。シニア向け商材をお持ちの企業様、商品開発をご検討の企業様は、豊富な知見とデータを活用したソリューションをご提案いたします。詳細はこちら。
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