子どもの言語発達遅延に身近な化学物質が関連か

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母親が妊娠初期にフタル酸エステルと呼ばれる身近な化学物質に曝露すると、子どもが3歳になった時点で言語発達遅延がみられる可能性が高いことが、米マウントサイナイ・アイカーン医科大学教授のShanna Swan氏らによる新たな研究で示された。研究の詳細は「JAMA Pediatrics」10月29日オンライン版に掲載された。

この研究は、スウェーデンと米国で実施された長期の観察研究のいずれかに参加した妊婦とその子どもを対象とし、それぞれ963組と370組の母子を対象に分析を行った。母親に子どもが理解している単語の数について尋ね、生後30~37カ月の時点で理解できる単語の数が50個以下の場合を言語発達遅延と判定した。

その結果、子ども全体の10%に言語発達遅延がみられ、その割合は女児よりも男児の方が高かった。また、妊娠10週の時点で母親から採取した尿検体から評価したフタル酸エステルの曝露量と子どもの言語発達遅延の間に関連が認められた。

フタル酸エステルは、マニキュアやヘアスプレー、食品包装材やビニール製の床材など幅広く使われているプラスチック製品だけでなく、化粧品にも含有されている。この研究では、妊婦がフタル酸エステルの中でもフタル酸ジブチル(DBP)およびフタル酸ブチルベンジル(BBP)の2種類の化学物質に曝露すると、子どもが3歳前後の時点で言語発達遅延となるリスクが30%上昇することも明らかになった。

Swan氏は「フタル酸エステルはホルモンに作用し、内分泌系に影響を及ぼすことが知られている」と指摘する。DBPとBBPはいずれも妊娠初期の妊婦の血中テストステロン値を低下させることが知られており、この作用により、これらの化学物質が子どもの知能発達に影響を及ぼすメカニズムが説明できるとしている。なお、フタル酸エステルはこれまでにも発達遅延や知能指数(IQ)の低下、男性器の発育不全との関連が認められている。

この研究を率いたカールスタード大学(スウェーデン)教授のCarl-Gustaf Bornehag氏は「DBPとBBPは極めてありふれた物質であり、誰もが常に曝露している」と指摘する。DBPとBBPを含むフタル酸エステルの6物質は、日米欧で多くの製品での使用が制限されているが、例えばビニール製の床材は20~30年にわたり使用されることがあり、多くの人がこれらの物質に長期間曝露され続けることになる。また、フタル酸エステルは室内の空気中やほこり、食品や飲料水からも日常的に検出されているという。

Swan氏によれば、フタル酸エステルへの曝露を避けるには製品のラベル表示を注意深く確認するしか手段がないが、ラベル表示自体にも問題があるため、完全に避けるのは難しいのが現状だという。さらに、フタル酸エステルの代替に使用される化学物質にも同様の問題があると、同氏は付け加えている。

専門家の一人で米神経毒性学神経障害研究所(INND)のSteven Gilbert氏は、本当の問題は、日常的に使用される家庭用品に含有される化学物質の使用が規制されていないことだと話す。このような化学物質は、何年も使用された後に問題が生じてから初めて禁止措置が取られることが多いという。(HealthDay News 2018年10月29日)Copyright © 2018 HealthDay. All rights reserved.

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