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次々にやってくる困難、女性は仕事を諦めるべきなのか? 健康問題とライフイベントを突破したRさんの話

本稿は、企業の健康経営と労働安全衛生を20年以上にわたり支援する、さんぎょうい株式会社による連載記事です。前回の「働く女性の『過剰適応』がメンタルヘルス不調へ発展、事例から学ぶ健康経営・女性活躍に必要な予防策とは? 」に続き、実際の支援現場で見てきた実例をもとに解決策を示していきます。今回のテーマは「健康問題とライフイベント」。女性がキャリアを断念しない働き方を、組織にどう根づかせるのか?実例とともに解説します。

次々にやってくる困難、女性は仕事を諦めなくてはいけない?

「結婚したらキャリアは諦めるしかないのかな…」「子育てと仕事の両立なんて夢のまた夢?」多くの働く女性が抱える、こうした漠然とした不安や諦め。特に20代後半から30代にかけては、結婚、出産といったライフイベントと、女性特有の健康問題が重なり、キャリアの継続は一層困難に思える場合があります。しかし、「諦めない」働き方を実現することは可能です。

今回ご紹介するRさんの事例は、仕事で活躍しながらも、様々なライフイベントと健康問題に直面した当時20代の女性のお話です。Rさんはどのようにそれらの壁を乗り越え、キャリアを中断することなく働き続けることができたのか。その背景にある会社の対応や、夫の理解と協力などから、女性が長くイキイキと活躍できる組織になるためのヒントを探ります。

 

健康問題やライフイベントを乗り越え「諦めない働き方」を実現したRさんの挑戦

Rさんは、大手メーカーの総合職として東京都内で働いていました。仕事は、語学力に加えて、専門的知識や正確性、緻密性などが要求される高度な内容でしたが、Rさんはその仕事に面白さと自己成長を感じ、日々熱心に仕事に励んでいました。Rさんはある時期、毎月の月経に伴う激しい下腹部痛と腰痛に悩まされ、やがては仕事にも日常生活にも支障をきたすようになっていました。異常を感じて母親に相談したところ、婦人科の受診を勧められました。診断の結果、この年代の女性に多い子宮内膜症に罹りかけていることがわかりました。幸い、早期の発見と処方薬を服用し続けることで、症状は次第に改善していきました。もし疾患が重くなっていれば、将来不妊になる危険性もありました。

しばらくして、Rさんは同期入社の男性との結婚を考え始めます。ですが、彼はすでに地方都市勤務となっていました。結婚は、いずれかが今の会社を辞めて一緒に暮らすか、結婚後も一緒には暮らさず別居生活を送るか、の二者択一を迫るものでした。Rさんは自身のキャリア形成を大切に思っていましたから、その彼との結婚を諦めなければならないのかと悩みました。そんな折、新型コロナウイルス感染症が世界的に流行し、Rさんの会社も急遽テレワークを導入することになりました。自宅でテレワークを始めたRさんは、在宅勤務でも仕事にほとんど支障が出ないことにすぐに気づきました。この状況をチャンスと捉えたRさんは思い切って上司に、結婚の意思があること、そして彼が地方勤務であるため地方からテレワークで今の仕事を続けたいと相談しました。

Rさんが働く会社は、女性の社員比率も管理職も少ない上に直属の上司が男性のため、Rさんは「理解してもらえるのだろうか」と心配でした。しかし、そのような心配は杞憂に終わります。上司はRさんを組織にとって欠かせない存在と考えており、仕事を継続してもらいたいと思っていたため、Rさんの希望をすぐに役員に相談しました。結論が出るまでに半年以上の時間を要しましたが、実は、Rさんの会社は少し前からワークライフバランスの実現に積極的に取り組み始めていたこともあって、最終的には、地方からの勤務が可能となりました。これにより、Rさんは晴れて結婚し、彼のいる地方でテレワーク勤務を開始することができました。

結婚後しばらくしてからRさんは子どもを望みました。しかし、なかなか子宝に恵まれません。婦人科疾患を患った過去を持つRさんは、ためらわず産婦人科で検査を受けました。その結果、Rさんには特に異常がなく、実は不妊の原因は、夫にあることが分かりました。二人は不妊治療を開始。幸い勤め先の会社は、製造現場の社員以外にはフレックスタイム制を導入していましたので、通院など、ふたりが時間を調整しやすい環境が整っていました。早期の治療が奏功して、程なくして無事に新しい命を授かることができました。Rさんの夫は、妻のキャリア形成も大事に考えていました。ですから、結婚直後から食事や掃除なども積極的に分担していました。そして、Rさんの妊娠後は、さらに多くを分担して、Rさんの体調を気遣いました。産後は産後パパ育休と育児休業を上手に活用して、合計で約4カ月間を休業し、妻の体調の回復と職場復帰を支えます。そのおかげで、Rさんは7カ月ほどで職場復帰して上司や同僚を驚かせました。Rさんはキャリアの中断をほとんど意識せずに済んだのでした。

 

女性がイキイキと働き続けるための3つの重要施策

この実例から得られる、女性が長くイキイキと働き続けるための示唆は何でしょうか?

「女性の健康課題への対応」が、生産性向上と望まぬ離職を防止

Rさんは月経による異常を感じた際に、幸いにも母親に相談し早期に治療を開始できたことで、仕事のパフォーマンス低下を最小限に抑えられました。

多くの意識調査では、「生理によるつらい症状はたいしたことではない」「生理は我慢するもの」、さらには「生理は病気ではない」と考える女性が多いことがわかっています。そのため、Rさんの母親が「生理は病気ではないから我慢しなさい」と返事をしていた可能性も十分に考えられます。もしそうなっていたとしたら、どうなっていたでしょうか? Rさんは婦人科を受診せず、症状を悪化させて重い疾患を患っていたかもしれません。そうなれば、仕事に支障が出るだけでは済まず、休業や、最悪の場合は離職につながっていた可能性もあります。子宝にも恵まれなかったかもしれません。

この実例は、女性の健康問題を個人の問題として放置することが、企業にいかに大きなリスクをたらすかを示唆しています。Rさんのように早期の対応ができなければ、生産性の低下や離職につながる可能性が高まります。個人の問題として放置することは、返って企業に生産性の低下や従業員の休業・離職といった不利益をもたらすのです。企業が積極的に健康問題をサポートすることで、生産性の向上や、従業員本人も企業も望まない離職の防止を実現できるのです。

対応力を上げる具体的な取り組みとして、以下の施策が考えられます。

■リテラシー向上のための研修

正しい知識を共有することで、不調を我慢する女性の意識を変え、また周囲の理解を促進します。

■相談窓口の設置

気軽に相談できる環境は、社員が問題を一人で抱え込まず、適切なサポートを受けるための第一歩となります。

■治療と仕事の両立支援

通院休暇、時短勤務、フレックスタイム制などの制度を整備し、必要に応じた受診を促します。

これらの施策は、女性社員の健康不安を軽減し、パフォーマンスの向上に直結します。女性の健康サポートは、企業価値を高めるだけでなく、優秀な人材の確保と定着につながる重要な経営戦略なのです。

「柔軟な働き方の導入」が、女性のキャリア継続に不可欠

Rさんの実例は、フルタイムのテレワーク制度が導入されたことで、仕事とライフイベントの両立を阻む大きな障壁が解消されたことを示しています。コロナ禍でテレワークの有効性が証明されたことが制度導入の追い風になったのは事実ですが、特筆すべきは、上司の迅速な行動と、貴重な人材の流出を防ぐために会社が下した決断です。社員一人ひとりに寄り添い、キャリア形成を支援する姿勢は、社員の会社への信頼感を高めます。社員は様々な事情で「諦める」選択を迫られることがあり、それは不本意な離職にもつながります。キャリア支援と柔軟な働き方を認める制度は、企業の人材流出を防ぎ、社員のエンゲージメント向上に貢献するのです。多くの企業にとって、フルタイムのテレワーク導入はハードルが高いかもしれません。しかし、従業員のキャリア支援と柔軟な働き方の実現は、必ず企業価値の向上につながります。社員が「諦める」ことがないよう、できることから取り組みを始めることが大切です。

「男性育休の活用促進」が、女性の活躍を加速

Rさんの夫が「産後パパ育休」および「育児休業」を積極的に取得し、Rさんの職場復帰を力強くサポートしたことも、男性の育児参加が女性のキャリア中断を最小限に抑え、活躍を後押しするうえで非常に効果的であることを示しています。さらに、Rさんたちの場合、夫婦間でお互いのキャリア観や子育てについて日常的に話し合っていたそうで、このことも、Rさんのキャリア継続を支える重要な要因となりました。ただ、Rさんの夫の職場では、これまで長期の育児休業を取得した男性は一人もいませんでしたので、長期の休暇を取ることで上司や同僚に迷惑がかかるのではという不安を感じていました。そこで、Rさんの夫は育児休業を分割して取得するなどの工夫をして、業務への影響を最小限に抑える努力をしました。これは、男性育休の新たな先行事例として、今後の制度活用促進に向けた良いモデルケースとなるでしょう。

このように、男性の育児参加は、個別の家庭におけるサポートに留まらず、企業や社会全体にポジティブな変化をもたらします。Rさんの夫のように、男性が育児休業を積極的に取得し、それを周囲に理解してもらうための工夫をすることで、男性育休の取得は特別なことではないという認識が広まります。

 

「ライフキャリア」と「健康問題やライフイベント」は表裏の関係

女性のライフキャリアは、健康問題とライフイベントに大きく影響を受けます。Rさんの実例でみた、「女性特有の健康問題」「結婚とパートナーの転勤」「不妊治療」などは決して珍しいライフイベントではありません。この他にも介護、病気治療などもあります。その他にも数多くのライフイベントがあるでしょう。それらが複雑に相乗してライフキャリアに影響します。ライフキャリアと、健康問題やライフイベントは、表裏の関係にあるという視点を持つことで、より従業員の状況に応じた柔軟なサポートを提供でき、女性従業員が能力を最大限に発揮できる環境を整備できるでしょう。

【提供元】 さんぎょうい株式会社

 

産業医、臨床心理士、保健師、看護師、管理栄養士、理学療法士、社会保険労務士など、医療・健康のエキスパートによるチーム体制で、企業の労働安全衛生と健康経営を20年以上にわたり支援しています。本連載では、当社がこれまで蓄積してきた知見を元に、「健康経営」「両立支援」「女性活躍」に関する実践的な情報を、実際に企業支援の現場で見てきた多様な実例と解決策を取り上げながら紹介していきます。本稿で触れた、女性の健康やキャリアに関する管理職研修や職員研修の詳細は、こちら。産業医の紹介や、健康経営の認定サポート、女性の健康経営も併せて提供しています。

 

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