救急搬送2040年代にかけて15%増、高齢化と気候変動が救急医療体制に与える影響を評価 長崎大学
長崎大学、東京大学、国立環境研究所は共同で、日本における高齢化と気候変動が救急医療体制に及ぼす影響を日本で初めて予測・評価した。研究成果は国際誌『Environment International』に掲載された。
日本では急速な高齢化と気候変動が深刻化。特に暑さの影響を受けやすい高齢者の熱中症などの健康被害が増え、都市部を中心に救急医療の需要が高まっている。研究グループは、この変化を科学的に評価する必要性が高まっているとして、全国の救急搬送需要を予測・評価することにした。
研究グループは、全国の高齢者(65歳以上)を対象に救急搬送件数の将来の動向と季節性の変化を、人口動態および気候変動の影響を考慮して、2099年まで予測した。予測にあたり、気象庁、消防庁などの公的データに加え、複数の将来人口および気候シナリオを用いて、都道府県別・季節別に評価した。気候シナリオについては、産業革命前と比べて今世紀中に気温が約2~5℃上昇する4つの将来気候シナリオ(1.7~2.0°C上昇、2.5~3.0°C上昇、約 3.5~4.0°C上昇、4.0~5.0°C上昇)を用いた。
研究の結果、救急搬送件数は高齢者人口の増加により2010年代比で、2040年代にかけて約15%増。その後は人口減少の影響により横ばいまたは減少に転じる可能性が示された。一方で、人口あたりの年間救急搬送発生率は、全てのシナリオにおいて、2090年代まで増加することを明らかにした。また、人口密度が高く人口減少のスピードも緩やかな東京圏(東京都、埼玉県、神奈川県、千葉県)や、愛知県、福岡県などの大都市圏や沖縄県でも、救急搬送件数が2040年代まで増加。その後も2090年代にかけて増加が続くか、もしくはわずかな減少にとどまることが予測された。また気温上昇に伴い、救急搬送のピークが冬季から夏季へと移行する傾向も確認。さらに、今後は冬季・夏季の双方で搬送件数が増加するダブルピーク現象が発生する可能性もあるとした。
研究グループは、「気候変動と高齢化の影響で、救急搬送の需要がいつ・どこで・どの程度増加するのかが明らかになった。これらの成果は、今後の医療政策や地域医療計画の重要な基盤となる。特に、2040年代の搬送需要のピークや夏季への季節性のシフト、都市部における需要の持続的増加に対応するには、医療資源の再配分と、早期かつ計画的な対応が不可欠」とコメントしている。
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