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女性活躍推進10年の転換点、「量的拡大」から「質の向上」へ 数値の達成を「組織の力」に変える戦略的アプローチ

本稿は、企業の健康経営と労働安全衛生を20年以上にわたり支援するさんぎょうい株式会社が、現場目線で解決策を示す連載記事です。昨年の女性活躍推進法の改正で新設された「女性の健康課題への対応」について解説した前回の記事に続き、今回は、女性活躍に関する状況把握・課題分析を、経営戦略として活用するためのハウツーを見ていきます。

女性活躍は「労働力確保」から「人的資本経営」へ

女性活躍推進法の施行から10年が経過し、女性の就業率向上など確かな進歩が見られました。その一方で、正規雇用の「L字カーブ」や管理職比率の低さといった構造的課題は依然として残っています。こうした中、取り組みの重点は単なる数値目標の達成から、一人ひとりが力を発揮できる実効性ある環境整備へと移りつつあります。その目的も、単なる労働力不足の解消に留まらず、「人的資本経営」や「イノベーションの創出」といった経営の本質へと拡大しており、今や女性活躍推進は持続的成長に不可欠な経営戦略となっています。詳しくは、以下の記事をお読みください。

 

 

今回は、101人以上の企業に義務付けられた自社の女性活躍に関する状況把握・課題分析を、経営戦略としていかに活用するかを具体的に解説します。

 

自社の「詰まり」はどこ?「パイプライン分析」で構造的課題を可視化

女性活躍推進法に基づき、企業は「行動計画」の策定や「実績情報」の公表が求められています。分析に必要なのは、「採用比率」「勤続年数」「労働時間」「管理職比率」の4つの基礎項目と「男女間賃金差異」です。これらの数値には「組織の課題を見える化する」という明確な狙いがあり、それを理解すれば、数値は「自社を強くする戦略データ」へと変わります。以下では、採用から定着・育成、そして登用へと至るパイプラインの流れに沿って、各項目の本来の狙いを解説します。

1:採用した労働者に占める女性労働者の割合(採用割合)

女性活躍を阻む要因は、入社後の育成ではなく「入り口」の時点で発生しているケースが多いため、まず採用割合を見ます。チェックポイントは3つです。

  • 「将来の候補者」が入ってきているか?
    管理職候補となる層の採用数が少なければ、10年後、20年後に女性管理職が増えるはずがありません。確率論として、まずは入り口の「母数」を確保する必要があります。
  • 「コース別」に偏りはないか?
    「女性採用比率は高いが、大半が一般職や限定職」というケースが多くあります。意思決定層につながる「本流」のパイプに女性が流れているか、その中身を問う必要があります。
  • 「女性が来ない」は本当か?
    自社の広報や選考基準に無意識のバイアスがないか検証が必要です。労働市場に女性人材がいるのに自社だけ採用が低い場合は、市場とのギャップを直視することが大切です。

 

2:男女の平均継続勤務年数の差異(継続勤務年数の差異)

2つ目は「勤続年数」です。パイプラインの視点では、「途中での水漏れ(人材流出)」を発見するセンサーです。採用を通過した女性が、管理職にたどり着く前に離脱していないかーー。この数値には、次の2つのシグナルが隠されています。

  • 年数の壁と制度の形骸化という構造的課題
    多くの日本企業では昇進に「一定の経験年数」が求められますが、昇進時期が間近に迫った時期にライフイベントが重なることで、離職を選ばざるを得ない女性が多くいます。仕事との両立を支援する制度があるのに男女の勤続年数の差が開いているなら、職場の理解不足や復帰後の展望の欠如といった「見えない壁」が潜んでいます。実効的な仕組みの再点検が不可欠です。
  • 人材投資ロスの発見
    採用・育成した社員が早期に離職することは、企業にとって莫大な投資コストの損失です。「女性定着」は福利厚生ではなく、育成コストを利益につなげる経済合理性の高い経営戦略です。

(注)男女の平均継続勤務年数の差異は、新規採用に占める女性の割合を大幅に増やした場合、一時的に拡大する可能性があります。

 

3:労働者の各月ごとの平均残業時間数等の労働時間の状況(労働時間の状況)

この項目は他と異質です。「採用比率」や「勤続年数」が組織活動の「結果」であるのに対し、「労働時間」は女性活躍を阻む「原因」そのものだからです。ここには、組織が乗り越えるべき3つの課題が隠されています。

  • 「長時間労働=評価」という不文律の存在
    日本では長時間労働が「やる気」や「責任感」の証とみなされ、評価や昇進に有利に働いてきました。この空気が残る限り、物理的に長時間働けない社員には越えられない「時間の壁」が立ちはだかります。女性管理職を増やすには、この「古い成功の方程式」の見直しが不可欠です。
  • 恒常的な長時間労働
    男性社員が長時間労働をしている限り、家事・育児の負担はパートナーの女性に集中します。男性が早く帰れないと、女性は外で活躍できないーー 。男性側の長時間労働の是正が、女性活躍の必須条件です。
  • 「時間」から「成果」へ
    労働時間可視化の真の狙いは、「時間あたりの生産性」を競う組織への転換です。「限られた時間で成果を出す人」を正当に評価することで、全社員が健全に競争できるフェアな土壌が整います。

 

4:管理職に占める女性労働者の割合(管理職割合)

最後は、パイプラインの出口にあたる管理職比率です。これは、ここまでの取り組みがすべて機能した結果として表れる最終的な通信簿です。もし、採用も定着も順調なのに、出口から水が出てこないとしたら?そこには、最後の最後に詰まりが存在することになります。この数値は、以下の3つの問題をあぶり出します。

  • 「ガラスの天井」の存在
    女性社員は定着しているのに、なぜか管理職だけが少ない。この場合、疑うべきは女性の能力ではなく、組織に潜む「無意識の偏見」や「男性中心の評価制度」が、最後の最後で女性の行く手を阻んでいるのかもしれません。
  • 意思決定の「死角」リスク(ダイバーシティの欠如)
    現場に女性がいても意思決定層が男性ばかりであれば、多様化する市場ニーズや価値観の変化を見誤るリスクがあります。女性の管理職比率は平等の問題ではなく、経営判断の質を高めるための必須条件です。
  • キャリア展望の遮断
    管理職層に女性が極端に少ない状態は、若手社員のキャリア展望を遮断します。制度が整っていても活躍する女性が決定の場にいなければ、「この会社では無理」と感じた優秀な次世代層がパイプラインから離脱してしまいます。

この数値は、組織が多様な人材に対し、公平な成長機会を提供できているかを示すバロメーターでもあります。

 

+1:男女の賃金差異の公表

最後は、2026年4月から対象が101人以上の企業に拡大される項目です。なぜ「賃金」という指標を見るのか。それは、採用・配置・育成・評価・登用など、企業内のあらゆる活動の結果が積み重なった、非常に客観的なデータだからです。この項目からは、具体的に次の3つのことが見えてきます。

  • 構造的な差の可視化
    採用・勤続年数・管理職比率など、パイプラインの個別課題はすべて最終的に「賃金差」という一つの数値に集約されます。平均賃金の差が大きい場合、それは個人の問題ではなく、職域や配置の偏りといった組織構造のアンバランスを示唆しています。
  • 配置の偏り
    「給与テーブルが男女同一だから問題ない」は誤解です。問われているのは法的な不備ではなく、「なぜ給与水準の高い職務や役職に女性が少ないのか」という構造的課題です。女性が特定の層に滞留しているなら、配置や登用プロセスの見直しが必要です。
  • 人的資本経営の「ものさし」
    グローバルでは男女間賃金格差の開示は企業の透明性を測る標準指標です。格差が小さい企業は人材を効率的に活用していると評価され、持続的成長性を測る人的資本経営の重要な指標となっています。

 

分析で見えた「詰まり」を、組織の進化へ繋げる

パイプライン分析によって可視化された数値は、組織の健康状態を映し出す診断書です。しかし、真の課題解決は、数字を把握した後に組織の仕組みや価値観をどう見直すかにかかっています。

長時間労働を前提とした成功モデルが特定の層の活躍を阻害していないか。ライフイベントに直面しても乗り越えられる柔軟なキャリアパスが用意されているか。無意識のバイアスは存在しないか。こうした見えない壁を取り払い、「成果と貢献」に基づいて正当に評価される文化を築くこと。それが本分析の本来の狙いです。

女性活躍推進を自社の強みに変える鍵は、データに基づく現状分析と、それを改善へ繋げる戦略的な姿勢にあります。分析で明らかになったボトルネックを「伸びしろ」と捉え、全社員が能力を最大限に発揮できる仕組みづくりへ着手する羅針盤として、まず自社のパイプラインの現在地を確認することから始めてみてはいかがでしょうか。

(文:阿曽泰三)

【提供元】 さんぎょうい株式会社

産業医、臨床心理士、保健師、看護師、管理栄養士、理学療法士、社会保険労務士など、医療・健康のエキスパートによるチーム体制で、企業の労働安全衛生と健康経営を20年以上にわたり支援しています。本連載では、当社がこれまで蓄積してきた知見を元に、「健康経営」「両立支援」「女性活躍」に関する実践的な情報を、実際に企業支援の現場で見てきた多様な実例と解決策を取り上げながら紹介していきます。本稿で触れた、真の健康経営へ組織文化を変革を推進するためのサポートについては、こちら(mezame@sangyoui-inc.com)へお問い合わせください。産業医の紹介や、健康経営の認定サポート、女性の健康経営も併せて提供しています。

 

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