ヒアルロン酸の食べ物の効果、本当のところ
女性に最も広く知られている代表的な美容成分、ヒアルロン酸。関節痛軽減の治療として医療の現場でも使われ年齢・性別関係なくポピュラーだが、食べ物で摂取することの有効性は今なお様々な意見が飛び交う。現時点ではどのような見解が主流で、どのような商品が女性たちに受け入れられているのか?各専門機関や学会などの見解、商品事例、口コミをもとに、ヒアルロン酸の経口摂取について調査した。
目次
ヒアルロン酸とは?利用目的は美容と医療
ヒアルロン酸とは
ヒアルロン酸は多糖類の一種で、皮膚、腱、目、筋肉、脳、血管など人間の体の中に含まれている結合組織の成分。粘性と弾性が高く、また水分保持に優れ、肌の潤い保持や関節の潤滑作用・クッションの役割があるが、加齢や紫外線の影響で減少する。
大人の皮膚に含まれるヒアルロン酸の量は、赤ちゃんの20分の1と言われている。ヒアルロ酸の概要、法規・制度、成分の特性・品質、有効性、安全性については、「健康食品の素材情報データベース(国立研究開発法人 医薬基盤・健康・栄養所研究所)」より確認できる。
ヒアルロン酸の活用法
ヒアルロン酸は、「美容」と「関節の痛み軽減」の主に2つの目的で活用されている。
1.美容
ヒアルロン酸は水分保持に優れていることから、美容を訴求した製品化が多い。若い人や女性の間では、「ヒアルロン酸=美肌に良い成分」というイメージが強い。ヒアルロン酸を含む美容商品には、化粧水、美容液、乳液、クリーム、シワ取り美容注射、入浴剤、サプリメント、飲料、食品(ゼリー、スープなど)などがある。
2015年に機能性表示食品制度が始まってからは、肌の水分保持や肌の乾燥緩和といった機能を訴求する機能性表示食品が次々に登場している。
2.膝など関節痛の緩和
ヒアルロン酸のもう一つの効果は膝関節や肩関節の痛みの軽減で、医薬品の原料として使用される。中高年層の人は、「ヒアルロン酸=関節痛を和らげる成分」と認知している人も多い。
加齢により起こる関節痛の痛みの原因にはヒアルロン酸などの関節成分の減少が挙げられ、医療機関では、膝や肩の関節痛の治療として、少なくなったヒアルロン酸を体外から注射して補う「ヒアルロン酸関節内注射」が行われている。注射により関節の動きが滑らかになったり衝撃吸収作用が回復し、痛みが緩和される。サプリメントなど健康食品に配合されることもある。
ヒアルロン酸が含まれる食べ物の摂取効果
ヒアルロン酸の経口摂取について、ヒアルロン酸製品を扱う企業はもちろんポジティブな研究結果を発表しているが、専門機関や学会は「根拠が曖昧」という見解を示している。消費者庁に届け出受理されている機能性表示食品の状況を確認した上で、企業の研究報告の事例、専門機関や学会の見解を見てみよう。
ヒアルロン酸を含む機能性表示食品
ヒアルロン酸Na(※)を関与成分として消費者庁に届け出受理されている機能性表示食品の数は66(2020年6月4日時点)。アットコスメのクチコミランキング「美容サプリメント」部門で1位を獲得した(2019年)キューピーの「ヒアロモイスチャー」、森下仁丹のサプリメント「ヘルスエイド®ヒアルロン酸」などの商品がある。関与成分別の受理品数を見るとヒアルロン酸Naは5位で依然として人気。※通常、化粧品や食品にはヒアルロン酸Naという形で配合されている
今後もヒアルロン酸Naを関与成分とした機能性表示食品は続々と登場すると考えらえるが、実は受理されたうち、最終製品で臨床試験(人を対象とした試験)を行い機能性がきちんと評価された商品は以下2商品のみ。
それ以外は、最終製品ではなく、ヒアルロ酸Naに関する研究レビューで機能性が評価されたに過ぎず、臨床試験は行われていない。より確かな評価方法で受理された機能性表示食品にこだわるなら、臨床試験で評価された以下2商品が良いと言える。残念ながら、美容を訴求しているヒアルロン酸Na商品で臨床試験が行われている商品は今のところはない。
臨床試験が行われた2商品それぞれの届出情報を見てみよう。(消費者庁の機能性表示食品の届出情報検索より抜粋)
<皇潤プレミアム>
- 商品名
皇潤Premium(株式会社エバーライフ) - 主な対象者
ひざ関節が気になる方 - 届出表示
本品には鶏冠由来ヒアルロン酸Naが含まれるので、日常生活(起床時、階段を上がる時)における健常域でのひざ関節の違和感を和らげます。 - 機能性関与成分
鶏冠由来ヒアルロン酸Na
<国産グルコサミン>
- 商品名
国産グルコサミン(八幡物産株式会社) - 主な対象者
階段の上り下りなど、ひざの曲げ伸ばしにお悩みの中高年の方 - 届出表示
本品にはグルコサミン塩酸塩、サケ軟骨由来コンドロイチン硫酸、ヒアルロン酸Naが含まれるので、ひざ関節の違和感を緩和することで、ひざの曲げ伸ばしを伴う動きを改善する機能があります。 - 機能性関与成分
グルコサミン塩酸塩、サケ軟骨由来コンドロイチン硫酸、ヒアルロン酸Na
経口摂取によるシワ抑制効果を発表(トウ・キューピー)
ヒアルロン酸の研究を行い、ヒアルロン酸の化粧品とサプリメントを販売するトウ・キユーピーは、ヒアルロン酸の経口摂取による肌の水分値上昇効果の他、シワ抑制効果を発表(2018年7月)。経口摂取によりシワの体積が減少することを確認している。
経口摂取におけるヒアルロン酸の効果に疑問視
前述の通り生活者の間では美肌効果と関節痛緩和の効果が知られているが、ヒアルロン酸を含む健康食品の経口摂取が、生活者が求める美肌効果や痛みの緩和に本当に効果があるか?については疑問の声も多い。
医療機関でのヒアルロン酸関節内注射が治療法として確立されていること、また、小ジワへのヒアルロン酸注射が一時的ではあるものの高い効果を実感できることから、ヒアルロン酸の効果は高いイメージがあるが、経口摂取における効果を実証する科学的データは曖昧で、明確な根拠となるデータが少ないことがかねてより指摘されている。
経口摂取したヒアルロン酸は腸管で吸収・分解されるため、ヒアルロン酸が小ジワや関節に直接到達して肌に潤いを与えたり関節の痛みを緩和するとは考えにくいとの見解が今のところは強く、専門機関や医学系学会などはヒアルロン酸の経口摂取に対して明確な答えを出していない、というのが現状。以下は、専門機関、学会、による見解。
国立研究開発法人 医薬基盤・健康・栄養研究所
俗に、「関節痛を和らげる」「美肌効果がある」と言われているが、経口摂取によるヒトでの有効性については信頼できる十分なデータは見当たらない。(引用:国立研究開発法人 医薬基盤・健康・栄養研究所)
日本整形学会
ヒアルロン酸は、関節内投与(注射)に関しては、膝関節と肩関節のみ保険(診療報酬)で公的に認められています。 これは科学的データに基づき有効性が認められているからです。
(中略)ヒアルロン酸の経口摂取の有効性については、現在のところ相反したデータが出されています。ただ有効と結論づけたデータも自覚的に痛みが良くなったというものであって、例えばX線(レントゲン)検査などで改善したというような科学的データではありません。単純に考えれば、ヒアルロン酸のような巨大分子は腸管で吸収される時分解されてしまう筈ですから、直接関節に行って良くなるとは考えにくいと思います。
(中略)しかし、全く効かないというデータもないのです。あるいは個人差があるということも可能性としてはありうると思います。従って日整会では、『これは無効であるから飲むな』と言うことを公式に述べることはできないのです。(引用:日本整形外科学会)
ヒアルロン酸の恩恵を受けるには?
ヒアルロン酸の経口摂取効果に疑問は残るものの、実際に、サプリメントや食べ物で効果を実感している人が多くいるのも事実。ヒアルロン酸をサプリや他食品から摂取している人たちのクチコミを観察すると、「効果は感じられなかった」といったネガティブな評価も見られるが、「飲み続けていたら小ジワが目立たなくなった」「飲むのをやめたら肌や指先がカサカサになった」「飲み始めてから関節の痛みが減った気がする」など好評価の声も並ぶ。
経口摂取の効果にはっきりとした根拠が示されてはいないものの、実際に摂取している人が効果を感じているのは、プラセボ効果や、ヒアルロン酸を摂取する時期にヘルスケア意識が向上し普段より食事や美容に気を使うようになるなど、他の要素が影響していることも一要因として考えられる。ヒアルロン酸の目に見える効果を実感したいなら、目的が美容であっても関節痛の痛み軽減であっても、医療機関での注射が最適と言えるかもしれない。
また、体内にあるヒアルロン酸を減らさない意識を持つことも大切だ。老化による現象は食い止められないが、紫外線による影響を極力抑えることはできる。花王が行ったヒアルロン酸に関する研究では、紫外線を浴びない上腕内部と、紫外線をよく浴びる目尻のヒアルロン酸量を比較したところ、目尻のヒアルロン酸の量が顕著に少ないことがわかった。美容面におけるヒアルロン酸効果を維持するなら、紫外線対策も有効だ。
ヒアルロン酸の経口摂取はした方がいいのか?
ヒアルロン酸の経口摂取による効果は曖昧な部分があるものの、市場に目を向けるとヒアルロン酸は不動の人気を誇っている。美容市場でもロコモ・サルコペニア市場でも生活者の関心は高く維持され、定番成分として生活に浸透している。もはや、エビデンス云々よりも、「効果は商品によってまちまち。相性はまちまち」と心得て商品を選択するのが正解かもしれない。選択基準の一つとして、消費者庁のデータベースのチェックもおすすめ。
女性の健康食品の選択基準は?
小林製薬の紅麹サプリを巡る問題で、健康食品への不信感や動揺が消費者の間で広がっています。特に男性よりも健康意識・健康行動者率が高い女性による “健康食品の摂取控え” が懸念されることから、健康食品を普段摂取している20〜70代女性を対象に、健康食品に対するイメージの変化や、今後の摂取意向、今後の健康食品の選択基準を調査しました。女性たちのリアルな声からは、今後の健康食品の開発・販促・コミュニケーション設計のヒントを見つけることができます。詳細は「紅麹サプリ問題で、健康食品の選択基準に変化 女性消費者分析でわかった88キーワード」へ。
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