QOD(死の質)が問われる時代へ 自分・家族の「死に方」への意識(2/3)

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5.SNS・動画・メディアを通じ、安楽死・尊厳死の実際を知る

「自分はどのように人生を終えたいのか」。本人の意思による死の迎え方としては「安楽死」「尊厳死」がある。混同されがちではあるが、その目的や過程には違いがある。

安楽死とは「本人の意思に基づき、薬物を投与するなどで人為的に死を迎えさせる」ことを指す。回復の見込みがなく、特に苦痛の激しい末期の患者に対して行われる。「積極的安楽死」とも呼ばれるが、日本では法的には認められていない。

一方、「消極的安楽死」とも呼ばれる尊厳死は、回復の見込みがない患者に対して「本人の『リビングウイル(生前の意思)』に基づいて、寿命が尽きるときに自然な死を迎えさせる」ことを指す。生命維持装置を外すなど、人工的な延命措置を中止することなどがあたる。

リビングウイルとは、完治する見込みがなく終末期にある患者が、提供してほしい医療への希望を事前に記しておくものである。人工的な延命治療によって生命を維持し続けることは「人間としての尊厳を失うことにつながる」と本人が考えた場合、自然な死を選ぶ権利があるという考えに基づく。QODを重視することから、こうした権利が尊重されるようになってきた。実際に、動画やSNSやテレビ番組を通して、国内外の人々の安楽死・尊厳死を一般の人が見る機会は増えている。

  • 【事例1】NHKスペシャル「彼女は安楽死を選んだ」
    体の機能が失われる神経難病と診断された日本人女性が、安楽死が認められているスイスで最後を迎えた実話。自殺未遂を繰り返す本人から「安楽死が唯一の希望の光」だと聞かされた家族は、生と死を巡る対話を続け、最期の瞬間に立ち会った。
  • 【事例2】週刊ポスト「世界安楽死を巡る旅 私、死んでもいいですか」
    脳腫瘍に冒され、尊厳死を遂げた米国人女性の夫にインタビューした記事。この女性は亡くなる1カ月前にネット上の動画で尊厳死を宣言したことで大きな話題を集めた。彼女の死から1年半後、カリフォルニア州議会では尊厳死法が制定された。それ以前は、米国では一部の州を除き医師が処方した薬物を使用した尊厳死は法制化されていなかった。
  • 【事例3】ドキュメンタリー映画「Before It’s Too Late(手遅れになる前に)」
    オランダ人のヘラルト・ファン=ブロンクホルスト監督のドキュメンタリー映画では、アルツハイマー病を患った女性が81歳で安楽死するまでの歩みを追っている。オランダでは、認知症患者が安楽死を求める例は珍しくないという。
  • 【事例4】週刊ポスト「記者がスイスで見た68歳女性、安楽死までの20秒間」
    多発性硬化症と三叉神経痛を患っていた英国人女性が、スイスの自殺幇助団体「ライフサークル」に依頼して安楽死するまでをつづった記事。世界の安楽死事情を取材するジャーナリストの宮下洋一氏が、安楽死に至るまでの背景や安楽死当日の様子をレポートしている。

QOD、生活者はどう考えている?

自分の死やQODへの関心が高まる中、多くの日本人は自身の人生の最終段階についてどのように考えているのか。

自身のQOD:『自分のこと』よりも『家族のこと』

厚生労働省は、1992年からほぼ5年おきに「人生の最終段階における医療に関する意識調査」を実施している。対象は一般国民、医師、看護師、介護職員。人生の最終段階における治療方針の決定方法、希望する治療方針などをヒアリングしている。

2017年に実施した調査では、「人生の最終段階について考える際に重要だと思うこと」という調査項目から一般国民の自身のQODに対する考え方が見えてくる。調査結果からは、自分のことよりも、残される家族を思う気持ちを重視していることがわかる。

  • 1位:家族などの負担にならないこと(73.3%)
  • 2位:体や心の苦痛なく過ごせること(57.1%)
  • 3位:経済的な負担が少ないこと(55.2%)
  • 4位:自分らしくいれること(46.6%)
  • 5位:家族等との十分な時間を過ごせること(41.6%)
  • 6位:信頼できる医師等にみてもらうこと(38.1%)
  • 7位:人間としての尊厳を保てること(34.0%)
  • 8位:不安がないこと(31.0%)
  • 9位:どんなことでも相談できる窓口があること(24.5%)
  • 10位:なじみのある場所にいること(23.7%)
  • 11位:可能な限り長生きすること(5.4%)
  • 12位:積極的な医療を続けられること(5.3%)
  • 13位:無回答(2.0%)
  • 14位:その他(0.3%)
    出典:厚生労働省「人生の最終段階における医療に関する意識調査」

家族のQOD:葛藤に揺れ、迷い多く

死を迎える家族を看取る側の立場では、どういった葛藤や迷いが生まれるのだろうか。読売新聞の医療・健康・介護サイト「yomiDr.(ヨミドクター)」では、超高齢社会における「質の高い死」をテーマにした「QOD 生と死を問う」という連載企画を2016年から実施。2017年には、優れた医療記事に贈られる「第36回ファイザー医学記事賞大賞」を受賞している。

この連載では、葛藤を抱えつつも決断した家族を追った記事もある。人生の最期を迎えるにあたり、どこで過ごし、どんな治療やケアを受けるかを決める際、本人よりも家族の意向が重視されることが多い。特に離れて暮らす家族や親戚が、本人の希望に反して積極的な治療を求めることが少なくないという。

末期の脳腫瘍で余命半年と宣告されたある女性は、「つらい延命治療は受けたくない」と夫に相談し、残された時間を一緒に自宅で過ごしたいと考えていた。しかし子どもたちは「治療するのが当然。あきらめるなんてひどい」と、放射線治療で有名な病院に入院させた。女性はその病院で治療のほかにも緩和ケアや様々な訓練を受け、周囲の人からは「頑張れ」と励まされたという。夫は、ゆっくり休むこともできない妻の様子を見かねてすぐに自宅に連れ帰り、女性はその後、自宅で安らかに息を引き取った。

ただ、「できる限りを尽くしてでも生きていてほしい」と願う家族にも迷いは残るようだ。認知症の母に少しでも長生きしてもらうのが親孝行だと思ったという男性は、医師の意見よりも延命措置を優先させていた。母が帰らぬ人となった後、「今になって、母が本当はどうしたかったのかと考えてしまうこともある」と打ち明けている。

「自分で決めたい」多数、しかし危惧する見方も

SNSや医療・介護系コミュニティ、質問サイトなどではどんな声が上がっているのか。3つの事例を紹介。

事例1.SNS・ブログ

医療関係に従事する「星の屑」さんは、認知症に加えて脳梗塞を発症して何も食べられなくなった祖母に胃ろうを造設することになったことに対する思いを綴っている。医療従事者の一人として星の屑さん自身は不必要な延命措置をしたくはないという考えだが、人によって様々な事情があるので他人がどうすべきという意見ではないと述べている。結局、祖母は胃ろうを造設することになるが、本人の意思と家族の意思に乖離があると気づいたとつづっている。“家族のエゴかもしれない”という言葉が、コトの複雑さを浮き彫りにしている。

  • 祖母の胃ろう造設で考えるQOD(死の質)。尊厳死はあっていい

事例2.コミュニティサイト

コミュニティサイト「みんなの介護」の記事では、各種調査結果を紹介しQODや尊厳死に関する考察を行っている。日本は他国よりも高齢者の医療費負担額が少ないということもあり、「延命治療が長期化する傾向」にあること、尊厳死が認められることで死生観を押し付けてしまう可能性があることなどを指摘している。「死ぬ方が尊厳は守られる」という価値観が一方的に正当化されることを危惧しており、一つの意見だけが正しいとは言い切れない現状を示している。

事例3.質問サイト

質問投稿サイト「発言小町」のトピック「自分の死を自分で選ぶこと」では、「自分の死期や死に方を自分で決めることはいけないのか」という発言に対して様々な意見が寄せられた。10年以上前の投稿となり、QODという言葉自体は出てこないが、安楽死や尊厳死、リビングウイルに関する生活者の本音がうかがえる。認知症などで自分の意思が表明できなくなる前に、自分の命のあり方は自分で決めたいという声が多く、前述した調査結果でもあるように家族が背負う負担をなるべく軽くしたいという意見も目立つ。

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