生活習慣病の種類・原因・予防にむけた国の取り組み
糖尿病や高血圧を筆頭に、食事や運動など生活習慣が要因となる生活習慣病の予防が国全体の課題となっている。生活習慣病は医療費の約3割を占め、死亡者数の約6割と死因でも上位に入る。高齢者が一層増加する中、このままでは医療費財政を圧迫する要因となる。他方、ヘルスケア産業にとっては新たなビジネス創出の機会増大ともなっている。生活習慣病予防に寄与する事業は拡大していくことが見込まれる。さらに最近の特徴は、こうしたビジネスに対し国や行政が後押しする傾向が強いことだ。行政の健康への取り組み強化の政策とあいまって、企業と自治体との協業によるビジネス増大のチャンスも多くなっている。
目次
生活習慣病とは
生活習慣病の特徴
生活習慣病は文字通り、食習慣や運動習慣、休養、喫煙、飲酒といった生活習慣が発症や進行に関与する病気のこと。かつては「成人病」と呼んでいた。
動脈硬化や高血圧、脳卒中、心筋梗塞など働き盛りの中高年以降になって発症が多く見られる病気を総称して「成人病」と呼んでいましたが、こうした病気の発症の原因が加齢や遺伝だけではなく、普段からの生活習慣に深く関わっていることが明らかになり、加えて「成人病」の若年化なども背景に、厚生省(現厚生労働省)は平成8年、「成人病」に代わるものとして「生活習慣病」という新たな概念を導入しました。(引用:NIPRO「忍び寄る影!あなたは大丈夫ですか?」)
例えば糖尿病は食習慣が影響し、高血圧症には運動習慣が影響することが知られている。その他、喫煙は慢性気管支炎、飲酒はアルコール性肝疾患の因子となることが典型として挙げられる。生活習慣要因のほかに、遺伝子による遺伝要因や病原体や有害物質による外部環境要因なども複雑に関係し、病気の発症に影響するとされる。がんや循環器疾患など、命に関わる病気を引き起こすおそれもある。予防には野菜摂取も考慮した栄養バランスのよい食事や適度な運動のほか、禁煙や飲酒習慣の改善、ストレスのコントロールなどが大切になる。
生活習慣病は自覚症状がほとんどないか、かなり進行してから症状が現れるため、数年単位で比較して悪化していないかどうかを把握しておくことが重要(引用:オムロン「生活習慣病を引き起こす「習慣」とその改善方法は?」)
生活習慣病の例
食習慣、運動習慣、喫煙、飲酒の要因ごとに関係のある疾患例は以下。
- 食習慣に関係する主な病気:偏った食生活などが原因とされる
①糖尿病
血糖値が高くなる病気。自覚症状は乏しいが放置して進行すると糖尿病網膜症などの合併症を引き起こす
②肥満
からだに余分な脂肪がついている状態で高脂血症など健康への悪影響を及ぼす
③高脂血症(脂質異常症)
血清脂質の数値が異常値を示す病気。動脈硬化によって狭心症や心筋梗塞、脳梗塞などを引き起こす
④高尿酸血症
足の親指の付け根などに激痛が生じる痛風発作などが起こる
⑤循環器病(心臓病と脳卒中)
血液の流れが悪くなることによって脳や心臓の細胞が壊死する脳卒中や心筋梗塞などがある
⑥大腸がん
大腸に生じるがん。高脂肪、低繊維食といった欧米型食生活が影響しているとされる
⑦歯周病
歯を支える歯肉や歯槽に炎症が起こる。抜歯に至ることもある - 運動習慣に関係する主な病気:日頃の運動不足などが原因とされる
①糖尿病
血糖値が高くなる病気。進行すると糖尿病網膜症などの合併症を引き起こす
②肥満
からだに余分な脂肪がついている状態で高脂血症など健康への悪影響を及ぼす
③高脂血症(脂質異常症)
血清脂質値が異常値を示す病気。動脈硬化によって狭心症や心筋梗塞、脳梗塞などを引き起こす
④高血圧症
血圧の高い状態が続く病気。血管が傷つけられることで脳梗塞、腎不全などの要因にもなる - 喫煙に関係する主な病気:喫煙によって肺や循環器系に負担がかかることなどが原因とされる
①肺扁平上皮がん
太い気管支にできやすく血痰や咳などの症状を生じやすいがん
②循環器病(心臓病と脳卒中)
血液の流れが悪くなることによって、脳や心臓の細胞が壊死する脳卒中や心筋梗塞などを引き起こす
③慢性気管支炎
原因不明のせきとたんの症状が長く続く病気
④肺気腫
肺胞が壊れて 呼吸機能が 低下する。運動時の息切れが特徴
⑤歯周病
歯を支える歯肉や歯槽に炎症が起こる。抜歯に至ることもある - 飲酒に関係する主な病気:飲酒によって肝臓に負担がかかることが原因とされる
①アルコール性肝疾患など
肝臓の細胞の破壊によって肝臓の機能が失われて肝硬変を経て、肝臓がんや肝不全につながることもある
生活習慣病を予防する国の取り組み
国が生活習慣病予防を推進する理由
国は生活習慣病の予防に積極的に取り組んでいる。少子高齢化が急速に進む日本では、医療費の増大が問題となっており、国民の健康寿命を延ばすことは社会保障制度の持続性にもつながるからだ。生活習慣病は重症化すると日常生活に支障をきたすおそれがあり、日常生活に制限のない期間を指す健康寿命を損なう可能性が高い。国は健康寿命を延伸することを重要な政策に掲げている。
健康日本21の取り組み
健康日本21は「21世紀における国民健康づくり運動」のこと。健康増進法に基づき、国民の健康増進の方向や目標を定めている。2013年以降は「健康日本21(第2次)」の取り組みが始まっている。5つの基本的な方向性の中に、「生活習慣病の発症予防と重症化予防」も挙げられている。食生活を改善したり、運動習慣を身に付けたりといった一次予防を重視した対策を推進することなどが明記されている。
女性の健康づくりに関する取り組み
女性の健康問題を社会全体で支援することを目的にさまざまな取り組みが展開されている。
- 女性の健康推進室ヘルスケアラボ
厚生労働科学研究費補助金で作成されたヘルスケアの情報サイト。女性に特化した視点で生活習慣病の情報提供が行われている。例えば閉経後のメタボリックシンドロームのリスクなどが紹介されている - 女性の健康週間
厚生労働省と公益社団法人日本産婦人科医会、公益社団法人日本産科婦人科学会が共催する運動。毎年3月1日~8日に、女性の健康にまつわるイベントや講座が開催される - 健康経営銘柄の選定基準に「女性の健康」を追加
2019年から経済産業省および東京証券取引所が認定する健康経営銘柄の選定基準に、「女性の健康」に関する取り組みの項目が追加された。これまではメタボ対策や生活習慣病を中心に対策が行われてきたが、働く女性の増加や女性活躍の広がりなどを背景に、企業の健康対策トレンドは「女性の健康」に移行しつつある
生活習慣病予防関連ビジネス
「見える化」「数値化」が鍵
例えば糖尿病が進行して透析が必要になると、年間500万円の医療費と週3回の通院が必要となり生活の質が大幅に低下する。こうした「健康力低下や罹患による経済的負担やQOL低下」「自らの健康維持・増進に投資することによる効果」を〝見える化〟することで、個々の積極的な生活習慣病予防への取り組みが期待される。企業・健康保険組合・自治体の積極的な健康サービス活用が進むことも想定される。
健康行動における行動変容は、見える化や数値化によって促されることも多いため、生活習慣病予防ビジネスでは、生活者(あるいは患者)のヘルスケア関連データの「見える化」「数値化」が一つの鍵となる。
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生活習慣病予防に関するヘルスケアビジネス
公的保険外サービスは、糖尿病、高血圧性疾患、運動機能障害、摂食障害を合わせると年間4兆円の市場創出、1兆円の医療費適正化効果が見込まれるとの試算もある(経済産業省)。生活習慣病予防関連ビジネスのチャンスと医療費削減への貢献は大きい。
例えば生活習慣病の重症化予防には、食習慣の改善に寄与する配食事業や栄養アプリ事業、運動習慣の定着を促すフィットネス事業、減塩食や低たんぱく食ニーズに応える食品開発事業、ドラッグストアによる健康相談事業、寝具メーカーに限らず企業各社による睡眠関連事業などが役立っており、生活習慣病予防ビジネスは多岐にわたる。
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医療費適正化が課題となる行政においては、ヘルスケア産業の供給環境を整えるべく、法規制の線引きを明確にする〝グレーゾーン解消制度〟を積極的に運用したり、ヘルスケアサービス創出を支援している。例えば経済産業省は「ヘルスケアサービス 参入事例と事業化へのポイント」で、以下の8件のヘルスケアサービス事例を紹介し、各事業者の新規参入の参考となるよう情報提供を積極的に行っている。
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- (株) True Balance
まちに健康ブームを起こす健康教室事業 - 社会医療法人蘇西厚生会
保険外サービスとして医師会が主導する健康増進プログラム事業 - (株)くまもと健康支援研究所
元気が出る学校・大学(循環型介護予防エコシステム)事業 - (株)データホライゾン ・ (株)DPPヘルスパートナーズ
医療保険者向け保健指導・データヘルス支援サービス事業 - (株)ルネサンス
「シナプソロジー」を活用した認知機能の低下予防事業 - KDDI (株)
健診未受診者対策をサポートする自宅でできる血液検査サービス事業 - 資生堂ジャパン(株)
美容を活用した社会性・心のフレイル対策サービス事業 - (株) エス・ピー・アイ
介護旅行・外出支援サービス事業
(引用:経済産業省「ヘルスケアサービス 参入事例と事業化へのポイント)
- (株) True Balance
地域ごとのサービス創出に着目
生活習慣病予防ビジネスをみると、健康教室や外出支援サービスなど地域ごとのサービス提供に特化しているものも多い。今後は、地域にすでにある施設がスモールビジネスとして新たに生活習慣病予防に資する事業を立ち上げる、あるいは大手メーカーにおいては地域の実情にそくしたサービスにカスタマイズして地域ごとに提供する事例が増加していくだろう。自治体との連携もビジネス拡大への鍵となる。例えばライザップ(東京・新宿)やドコモ・ヘルスケア(東京・渋谷)は自治体との取り組みを積極的に行っている。地域ごとにあわせた事業開発に役立つ無料ツールやデータは以下記事にまとめたのでご参考に。
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