変化した3つの美容市場 〜化粧品、美容家電小売、美容医療〜
COVID-19のパンデミックで市場縮小を迫られるも変革期のチャンスが到来した化粧品市場。ニューノーマルに後押しされる形で拡大した美容家電小売市場。自粛生活を逆手に取り生まれた女性たちの美容行動や非外科的施術の人気を背景に好調に拡大を続ける美容医療市場ー。パンデミック禍を契機に変化が起きた美容市場の動向が今年は次々に明らかになった。
今年公表された美容領域の市場調査レポートのうち、健康業界もチェックしておきたい注目市場のレポートを3つピックアップ。COVID-19による女性消費者のニーズ変化、購買行動の変化、市場動向の変化をサクッと見ていこう。
【化粧品】外出自粛で縮小も、変革期到来
2020年の化粧品市場は前年度比84.4%の2兆2,350億円(矢野経済研究所,国内の化粧品市場規模推移と予測,2021)。緊急事態宣言発出の影響によって国内需要が減少したことに加え、インバウンド需要がほぼ消失したため、市場規模は大きく縮小した。
カテゴリー別の市場ランキングと構成比は以下。
- スキンケア市場:1兆700億円(構成比47.9%)
- ヘアケア市場:4,350億円(同19.5%)
- メイクアップ市場:3,990億円(同17.9%)
- 男性用化粧品市場:1,210億円(同5.4%)
- フレグランス化粧品市場:260億円(同1.2%)
化粧品市場はパンデミックによるマイナスの影響を大きく受けた市場の一つ。2020〜2021年は厳しい状態を強いられたが、矢野経済研究所はポジティブな見方もしている。過去に数度やってきた経済危機が化粧品市場に変革をもたらした事例を取り上げ、今回の経済危機も新市場の創出の契機になると見ている。
過去の経済危機、1997年のアジア通貨危機と2008年のリーマン・ショックという経済危機後の化粧品業界の変遷を見てみると、「市場構造の変革」と「新市場の創出」が起こった点がいずれも共通している。1998年~1999年にはドクターズコスメの台頭やM&Aの活発化、大手化粧品メーカーを中心に海外戦略が進展した。また、通信販売などネットビジネスが台頭し、卸の大型合併なども起こった。
2009年~2010年では異業種からの市場参入が活発化し、エシカルな消費ブームの高まりで自然派・オーガニック化粧品が本格的に市場を拡大したほか、テレビ通販の台頭や業界全体での中国市場への進出が加速した。 今回も経済危機を契機として「市場構造の変革」や「新市場の創出」など化粧品産業に大きな変革が起きるものと予測する。(source)
今回のパンデミックを契機とした化粧品市場の変革と言えば、DX化の進展や非接触型サービスの進化など、マーケティング分野の変革が挙げられるだろう。化粧品によるウェルビーイングの追求が加速したことも当てはまるかもしれない。
2021年は消費者側も企業側もニューノーマルへの対応力が向上したことから、化粧品需要は徐々に回復。2兆2,700億円(前年度比101.6%)と予測している。
【美容家電小売】消費者ニーズの変化で拡大
2020年の美容家電小売市場の推計は、前年比108.8%で1,655億円と伸長した(矢野経済研究所,美容家電小売市場規模・予測,2021)。背景にあるのは外出自粛により「おうち美容」が活発になったことが大きいが、同所は違う視点からも分析しており、突如やってきたニューノーマルによるニーズ変化で美容家電のサブスクサービスの受容性が上がった点に着目している。
“サブスク”というキーワードが一般消費者に爆発的に広まったのは2018年のことである。すでにデジタル化が進んでいた音楽・映像配信サービスは、インターネットを通じて音楽や映像を視聴することに心理的なハードルが低いユーザーが多く、一気に普及が進んだ。一方で、直接肌につける美容家電や口に入れる料理を調理する調理家電では、衛生面や故障などのトラブルを懸念する消費者も多く、認知は進んでも利用までたどり着くことが難しかった。
しかし、2020年4月以降、緊急事態宣言発出にともなってテレワーク化が進み、新たな住環境・仕事環境を整備するためにサブスクリプションサービスを導入する動きが加速した。家具や家電は比較的サイズが大きく高額であることも多いため、実際のサイズ感や使用感、室内に設置したときの雰囲気など、一度試してから自分に合うかどうか、続けられるかどうかを試したいというニーズは潜在的にあった。突然の在宅勤務に迅速に対応する必要性も追い風となり、月額定額制で気軽に始められるサブスクリプションサービスの利点が特にコロナ禍での消費者ニーズとうまくマッチしたようだ。(source)
2021年の伸長率は落ち着くものの、「おうち時間を充実させたい」というニーズは今後も続くと見られることから好調な推移を同所は予測しており、1,701億円規模に。同様の見解は博報堂生活研究所も示しており、単なる自粛生活向けという観点ではなく生活を充実させる観点から、今後も自宅用の商品・サービスのニーズは続くと見ている。
【美容医療】非外科的施術が増え拡大
2019年の美容医療市場は前年比125.2%の4,070億円(矢野経済研究所,美容医療市場規模推移,2021)。美容医療市場は拡大基調にあり2019年は大きく伸長した。同所は市場動向として以下のように分析し今後を見通している。
- 施術内容としては、外科的施術の割合は減少
- 美容皮膚科領域や美容内科領域などの非外科的施術の比率が高まっている
- 美容皮膚科を標榜する医療施設が増加
- 人口が集中している首都圏での開院へ注力する施設が増加
- アンチエイジング分野での再生医療を強化する施設や、医療脱毛を専門とする脱毛特化型クリニックが急成長
- 今後も市場は拡大する見通し
- 今後は外科的施術の割合は減っていく
- 一方で、美容皮膚科領域の非外科的施術比率は高まっていく。特に「脱毛」「ボトックス注入」「にきび・にきび痕除去」「美肌」「二重瞼(埋没法)」「しみ・あざ・ほくろ除去」「ケミカルピーリング」などの施術が有望
2020〜2021年は外出自粛により医療機関の受診控えが起きたが、美容医療に関しては逆の現象も起き、「マスクをしている今がチャンス!」と積極的に施術を受けに行く女性たちの姿が見られた。また、切らないフェイスリフトとして圧倒的支持を得たハイフの人気に火がついたのも同時期。いずれであっても、美容医療や非外科的施術のニーズや関心ははパンデミック禍にも関わらず一気に押し上げられた。その点から見ても、美容医療市場の拡大予測には裏付けがあると言えるだろう。
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