大人社会にはびこる、障がい者いじめの実態
東京オリ・パラ開会式の楽曲の作曲担当者であった小山田圭吾氏が、学生時代に障害のある同級生をいじめていたことが国内外の激しい怒りを招き、19日に辞任した。同氏の過去の言動は実に卑劣で決して許されるものではない。
一方で、障がい者の生きづらさやいじめの実態が改めて浮き彫りとなり、図らずも、多くの人々が障がい者を取り巻く社会問題について真剣に考えるきっかけとなった。障がい者に関するニュースは日頃から大々的に報じられることがないため実態があまり知られていないが、障がい者を対象にしたいじめ・虐待は、子ども社会でも大人社会でも起きている。今回は、大人社会の中でも特に差別・偏見が多いとされている “職場” に着目し、実態をリサーチした。
目次
障がい者とは?定義と男女比
障害者白書(令和3年版,内閣府)によると、障がい者数は年々増えており、身体障がい者は436万人、知的障がい者は109.4万人、精神障がい者は419.3万人で、計964.7万人。国民の7.6%が何らかの障害を有していることになる。各障がい者の定義と男女比について見ていこう。
身体障がい者
身体障がい者は身体上に障害がある人(※1)のことで、障害とは具体的には以下を指す。
- 視覚障害
- 聴覚又は平衡機能の障害
- 音声機能、言語機能またはそしゃく機能の障害
- 肢体不自由
- 心臓、腎臓または呼吸器の機能の障害
- ぼうこう又は直腸の機能の障害
- 小腸の機能の障害
- ヒト免疫不全ウイルスによる免疫の機能の障害
- 肝臓の機能の障害
上記を見ても分かる通り、身体障害は老化により出現する障害も含むため、社会全体が高齢化すると、必然的に身体障がい者数は増えていくことになる。実際に以下の年齢階層別の身体障がい者数の推移を見ると、65歳以上の占める割合が年々高まっていることが、全体的な増加を押し上げている理由になっていることがわかる。
次に、身体障がい者の男女別の人数を見てみよう。65歳未満・65歳以上、ともに男性に多い(出典:令和3年版 障害者白書,内閣府,障害者の状況「障害者手帳所持者数等,性・障害種別等別」)。
- 【65歳未満】女性:男性=48.6万人(44.9%):59.3万人(54.8%)不詳0.3%,3000人
- 【65歳以上】女性:男性=156.5万人(48.8%):162.7万人(50.8%)不詳0.4%,1.3万人
(※1)原則として身体障害者手帳の交付を受けている者を「身体障がい者」というが、身体障害者手帳の交付を受けていなくても、指定医又は産業医(内部障害者の場合は指定医に限る)の診断書・意見書により確認されている者も含む。(厚生労働省,身体障害者手帳)
知的障がい者
知的障がい者は、知的機能の障害により、複雑なこと・会話・状況の理解や計算が苦手など、日常生活に不自由が生じる障害がある人(※2)のこと。
知的障害における障害は発達期に現れ、それ以降に新たに生じるものではないことから、知的障がい者数の増加は、人口の高齢化の影響を大きくは受けていない。以前に比べ知的障害に対する認知度が高くなり、知的障がい者の障がい者手帳(療育手帳)を取得する人が増えたことが、知的障がい者数増加の一因と見られている。
以下は知的障がい者の男女別の人数。65歳未満・65歳以上、ともに男性に多い(出典:令和3年版 障害者白書,内閣府,障害者の状況「障害者手帳所持者数等,性・障害種別等別」)。
- 【65歳未満】女性:男性=29.5万人(37.1%):49.7万人(62.5%)不詳0.4%,3000人
- 【65歳以上】女性:男性=7.3万人(43.5%):8.9万人(53.0%)不詳3.0%,5000人
(※2)具体的には児童相談所、知的障害者更生 相談所、精神保健福祉センター、精神保健指定医又は障害者職業センターによって知的障害があると判定された者をいう。
精神障がい者
精神障がい者とは、統合失調症、気分障害、依存症などの精神疾患により、精神機能の障害が生じて日常生活や社会参加に困難をきたしている状態の人(※3)のこと。病状が深刻になると、判断能力や行動のコントロールが著しく低下することがある。精神障がい者数も年々増加しており、近年は特に75歳以上の高齢者の増加が目立つ。
以下は精神障がい者の男女別の人数。65歳未満では男性に多く、65歳以上では女性に多い(出典:令和3年版 障害者白書,内閣府,障害者の状況「障害者手帳所持者数等,性・障害種別等別」)。
- 【65歳未満】女性:男性=28.2万人(47.5%):30.7万人(51.7%)不詳0.8%,5000人
- 【65歳以上】女性:男性=13.0万人( 52.6%):10.6万人(42.9%)不詳4.5%,1.1万人
(※3)精神障害者保健福祉手帳の交付を受けている、あるいは、産業医、主治医等から統合失調症、そううつ病又はてんかんの診断を受けている人で、症状が安定し、就労可能な状態の人をいう。
障がい者いじめの実態
厚労省は昨年、職場における障がい者の虐待について調査を実施し、結果を公表した(令和元年度使用者による障害者虐待の状況等)。これを見ると、虐待を受けやすい障がい者、虐待が発生しやすい業種・企業規模などがわかる。
最多は、知的障害がい者への虐待
事業主や職場の上司などによる障がい者への虐待について調査を実施したところ、労働局などに通報・届出のあった事業所は年間で1,458で、1,741人の障がい者が何かしらの虐待を受けていることがわかった(このうち実際に虐待が認められた事業所は535、虐待が認められた障がい者は771人)。
では、何の障害を抱える人がどのような虐待を受けているのか?それについて全体像をまとめているのが以下のグラフ。通報・届出が最も多いのは知的障がい者に対する虐待で、虐待の種別(※4)を見ると、経済的虐待が最も多い。
虐待種別・障害種別の各内訳は以下。いずれの障害においても、経済的虐待と心理的虐待が圧倒的に多いことがわかる。
(※4)各虐待の定義は以下
【身体的虐待】:障がい者の身体に外傷が生じ、若しくは生じるおそれのある暴行を加え、または、正当な理由なく障がい者の身体を拘束すること。
【性的虐待】:障がい者にわいせつな行為をすること、または、障がい者にわいせつな行為をさせること。
【心理的虐待】:障がい者に対する著しい暴言、著しく拒絶的な対応または不当な差別的言動、その他の障がい者に著しい心理的外傷を与える言動を行うこと。
【放置等による虐待】:障がい者を衰弱させるような著しい減食または長時間の放置、当該事業所に使用される他の労働者による上記3つの虐待行為と同様の行為の放置その他これらに準ずる行為を行うこと。
【経済的虐待】:障がい者の財産を不当に処分すること、その他、障がい者から不当に財産上の利益を得ること。
虐待が多い業種・企業規模
ここからは、通報・届出があったうち実際に虐待が認められた事案について見ていきたい。調査では業種別に集計をしており、それによると、虐待の発生が最多なのは製造業、次いで医療・福祉業界。規模別に見ると、虐待が多いのは圧倒的に中小規模の事業所で、大手での発生は少ない。
職場で実際に起きた、障がい者への虐待事例
具体的には、どのような虐待が職場で起きているのか?
<心理的虐待の事例>
社内ルールを繰り返し違反した障がい者に対し、上司がその都度指導していたが、一向に改善されなかったことから感情的になり「アホ」などの人格を無視した発言を繰り返す。見かねた同僚が公共職業安定所に相談した。
<心理的・放置による虐待の事例>
職場の管理者が障がい者に対して必要な業務指示を行わないために円滑な業務を遂行できないにもかかわらず、業務上のミスを起こした際には、激しい口調で叱責。障がい者本人が市町村に相談した。
<身体的・放置による虐待の事例>
屋外に設置された販売所で勤務しているものの夏期において熱中症対策が講じられておらず、障がい者本人が市町村に相談した。
<経済的虐待の事例>
入社時に事業主と契約した約定賃金額が地域別最低賃金額を1時間当たり約20円下回っていたところ、半年後、本人の合意なく更に地域別最低賃金額を約50円下回る約定賃金額に変更させられ、これについて障がい者本人が労働基準監督署に相談した。
<性的虐待の事例>
わいせつな会話など上司から性的虐待を受けているため事業主に相談したが、防止措置が講じられず、障がい者本人が労働局に相談した。
世論調査で「差別・偏見あると思う」8割
内閣府が実施した障害者に関する世論調査によると(2017年調査)、「世の中には、障害のある人に対して差別や偏見があると思う」と回答した人は83.9%にも上ることがわかった。
一方、障がい者本人に「日常生活において、差別や偏見を受けたと感じる場面がある」と聞いた調査では、59%もの人が「感じる」と回答している(障がい者総合研究所「障がい者に対する差別・偏見に関する調査,2017」)。
調査実施時期はそれぞれ少し前になるが、これが、今の日本の障がい者に対する見方だ。障害者差別解消法が2016年に施行されてから現状は少しずつ良い方向に向かってはいるが、障がい者は今なお生きづらい世界にいる。
【編集部おすすめ記事】
■障がい者向けビジネスを牽引するファッション業界、注目のアダプティブアパレルブランド3選
■JHeC2021グランプリに学ぶ、マイノリティ市場のヘルスケア
■健常女性だけが世界の主役じゃない! 色んなボディポジティブを採用した有名企業の最新事例5選
■コロナ禍 健常者が気づかない、視覚・聴覚障がい者らの不安・不便