男性のHPVワクチン接種、費用補助する自治体が増加 女性がん・男性がんの予防に
子宮頸がんなどを防ぐための「HPVワクチン」。男性の接種に費用を助成する自治体が増えている。
ヒトパピローマウイルス=HPVは子宮頸がんの主な原因として知られ、性交渉を通じて感染する。性別に関係なく、中咽頭部周辺のがん(舌根、口蓋、扁桃、中咽頭)、肛門がん、性感染症などを引き起こすこともわかっており、国立がん研究センターによると(子宮頸がんとその他のHPV関連がんの予防,2023)、HPVと関連がある中咽頭部周辺のがんの年間の罹患数は4,826例(女性1,066例・男性3,760例, 2019年)、死亡数は1,300人(女性261人・男性1,039人,2020年)。罹患数・死亡数ともに男性に多い傾向があることから、男性のワクチン接種も有効とされ、また男女ともにワクチンを接種することで、相互感染を防ぐ効果も期待できる。
2020年12月に厚労省が男性へのHPVワクチン接種を認めたものの、男性が接種する場合は約5~6万円の費用を全額自己負担するしかなかった。そこで各自治体が独自で助成に動き出した。青森県平川市や北海道余市町、千葉県いすみ市、山形県南陽市などが助成を始めた他、今年8月は都内初となる中野区でも助成が始まった。
国内で初めて助成を始めたとみられる青森県平川市に取材したところ、市議会議員から男性の接種の助成に関する質問が上がったことから、実現に至ったという。同市では、厚労省が2020年4月に女性へのHPVワクチン積極的接種の勧奨を再開する以前よりキャッチアップ接種を開始しており、他自治体に先行して取り組みを進めてきた。男性への助成を始めた理由は3つとのこと。
- 男性の命と健康を守る
- 男女がお互いに相手の健康・命を守る(例:仮に女性が接種していなくても、男性が接種していれば女性の感染も防げる)
- 集団免疫を獲得して社会全体で感染を防ぐ
同市での助成は2022年8月に始まり、今年の3月末までに接種した12~25歳の男性は、20人。1.22%の接種率だったという。各自治体が助成に動き出す中、国としては今後、男性のHPVワクチン接種をどう位置付けていくのか。厚労省に聞いたところ「定期接種化についてはその是非も含め、今後議論を行う」とのこと。
女性の子宮頸がんの年間の罹患数は約11,000例で、約3,000人が死亡している。罹患リスクが急激に高まるのは20代で、ピークは40代(国立がん研究センター「がん情報サービス」子宮頸部の統計情報)。その原因のほとんどがHPVの感染とされることから、HPVワクチンは、初めての性交渉前に接種することが望ましいとされている。2013年4月に、小学校6年生から高校1年生相当の年齢の女子を対象にHPVワクチンが定期接種となったが、体の不調などを訴える人が相次いだことを受け、厚労省は積極的な勧奨を中止した。しかし有効性や安全性が国内外で報告されたことなどを受け、2022年4月からHPVワクチンの定期接種の勧奨を再開している。
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