炭水化物・脂質の摂取量と死亡リスク、影響は男女で逆 日本人8万人の調査で
本稿は、たちばな台クリニックの秋谷進医師による連載記事です。ダイエットの大敵とされがちな炭水化物と脂質は、「減らす方が健康に良い」というイメージが広がっていますが、最新の研究では、脂質を多く摂取すると女性は死亡リスクが低下し、男性は炭水化物の摂取が少ないと死亡リスクが上がるという驚きの結果が報告されています。
目次
炭水化物・脂質を減らすのは本当に良いこと?
健康を意識して生活していると「炭水化物や脂質はどれだけ食べるべきなのか」という問題を避けては通れません。食事の中で、どのような炭水化物や脂質をどれだけ摂るかは、健康と寿命に深く関わるテーマです。一般的には「炭水化物を減らすと痩せられる」「脂質を控えれば健康に良い」といったイメージがあるので、炭水化物も脂質も減らす方がいいと考えがちです。確かに短期的にはメリットが多いように感じるのですが、長期的な影響は十分にわかっていませんでした。そこで今回は、炭水化物と脂質の摂取量と死亡リスクの関係について長期的に調べた研究を紹介します。名古屋大学の田村 高志氏らは炭水化物、脂質の摂取量と死亡との長期的な関連性についての研究を『The Journal of Nutrition』に2023年8月発表しました(Takashi Tamura, Kenji Wakai, Yasufumi Kato,et al.Dietary Carbohydrate and Fat Intakes and Risk of Mortality in the Japanese Population: the Japan Multi-Institutional Collaborative Cohort Study.The Journal of nutrition. 2023 Aug;153(8);2352-2368. doi: 10.1016/j.tjnut.2023.05.027.)。
炭水化物・脂質と死亡リスクの関係を調査
研究背景:炭水化物と脂質の摂取と死亡リスク
これまでの疫学研究では、炭水化物や脂質の摂取割合と死亡リスクの関係について、一貫した結論が得られていませんでした。また先行研究の多くは欧米人を対象に行われており、日本人特有の食生活を反映した分析は限られていました。この研究では、炭水化物や脂質の摂取量の長期的な影響を明らかにすることと、日本人における大規模なデータを得ることを目的に行われました。
研究方法:35~69歳の食事内容と死亡リスクを調査
35~69歳の約81,300人(女性46,440人/男性34,893人)を対象に、食事に占める炭水化物・脂質のエネルギー比率(%E)が、その後の死亡リスクにどう影響するのかを長期的に調査しました。炭水化物や脂質の摂取割合は、自己記入式の「半定量的食品摂取頻度調査票(FFQ)」によって評価されました。このFFQでは、炭水化物や脂質を含む食品や飲料46項目について、過去1年間の摂取頻度を回答形式(例:週1回、1日2回など)で集め、それぞれに標準的な量を掛け合わせて、1日あたりのエネルギーおよび栄養素の摂取量を推定するものです。
研究結果:男女で死亡リスクは逆
平均8.9年間の追跡の結果、女性では945人、男性では1838人が死亡しました。具体的には、女性で炭水化物の摂取比率が総摂取エネルギーのうち65%以上を占める食事を5年以上続けていたグループは、50~55%の人を基準 (1.00) とした場合、全死亡リスクが1.71倍(95%CI:0.93–3.13※)と有意に高くなることがわかりました。一方で男性は、炭水化物摂取が40%未満になると、全死因死亡リスクが1.59倍(95%CI:1.19~2.12)と有意に高くなることが示されました。すなわち、男性の場合は炭水化物の摂取量が少ないと、死亡リスクが高まる傾向が明らかになりました。
脂質については、男性で脂質のエネルギー比率が35%以上の人は、20~25%のグループと比べてがんによる死亡リスクが1.79倍(95%CI:1.11–2.90)と有意に高くなることが明らかになりました。一方女性では、脂質摂取が多いほど全死因およびがん死亡リスクがやや低下する傾向がありましたが、その傾向は統計的な有意性では「境界的(P-trend ≈ 0.054–0.058)」にとどまっていました。
(※)信頼区間(Confidence Interval:CI)は推定値の不確実性を示す範囲を表します。たとえば、95%信頼区間は、同じ試験を100回繰り返した場合、95回は試験結果の平均値がその区間内に含まれることを意味します。すなわち推定の精度や信頼性を示す重要な統計指標です。
研究で得られた知見:摂取量は少なすぎもて多すぎても悪影響
今回の研究から、炭水化物と脂質の摂取量と死亡リスクの関連について、女性と男性で異なる興味深い結果が明らかになりました。女性では、炭水化物のエネルギー摂取比率が食事全体の65%を超えるような「極端な多さ」が、寿命を縮めるリスクとなるという結果が示されました。一方、男性は「極端に炭水化物を減らす」ことが、寿命にマイナスの影響を及ぼす可能性が示されました。また、脂質の影響にも性差が見られ、女性では脂質を多く摂取することがリスク低下につながる可能性があり、一方、男性では脂質を多く摂取することによって、がん死亡リスクの高まる可能性が示されました。健康的な生活を送る上で、極端な食事習慣を避け、バランスの取れた食事をすることが心にとっても体にとっても重要です。
私の目を気にして、彼女はデートでの食事を我慢
極端なダイエットは身を滅ぼしてしまう可能性があるようです。私が高校生の時にお付き合いしていた女性は、「いっぱい食べる子だ」と私に思われるのが嫌で、私と一緒に食事をするときは少量しか食べず、その後、帰宅中にハンバーガー店に寄って、空腹を満たしていました。ある日、友人カップルとのダブルデートの時に、友人の彼女が美味しそうに食事しているのを見て、私が「美味しそうに食べるね」と思わず言ったのを聞いて、私の彼女は「我慢するのをやめよう」と思ったそうです。彼女はもともと「食」に興味がある方でしたので、それからのデートでは好きなものをしっかり食べるようになり、2人にとって健康的で楽しいものになりました。女性は周囲の目が気になり、食事を我慢したり無理なダイエットをする傾向がありますが、長い目で見ると、健康や命に悪影響を及ぼすため、良い判断とは言えません。ちなみに私は1型糖尿病のため、20歳から食事制限をしています。「美味しいものを健康のことなど考えずに食べられたらどんなに幸せだろう」と日々思う私にとって、テレビの大食いタレントは生まれ変わりたい存在です。
なお、子どもにとってダイエットはデメリットが多いのでおすすめできません。小児科の肥満外来では、「食事の質を変えることや運動量を増やし、あくまでも”減量”ではなく”体重を増やさないこと”を目標にした治療を行います。
今回の研究では、食事摂取量を極端に増やすのも極端に減らすのも悪影響になることがわかりました。日々の食事は、短期的なメリットだけでなく長期的に体の状態を適切に保つことが重要です。今後もこのような研究が行われ、適切な摂取量がさらに判明してくることが望まれます。
【執筆】秋谷進
小児科医・児童精神科医・救命救急士。子育て経験に基づいたエッセイ『児童精神科医二十五年目のエッセイ』著者。他、書籍多数。朝日新聞先生コネクトなどで連載中。たちばな台クリニック小児科勤務。1973年東京都足立区生まれ、神奈川県横浜市育ち。1992年、桐蔭学園高等学校卒業。1999年、金沢医科大学卒。金沢医科大学研修医、国立小児病院小児神経科、獨協医科大学越谷病院小児科、児玉中央クリニック児童精神科、三愛会総合病院小児科、東京西徳洲会病院小児医療センターを経て現職。過去の記事一覧はこちら。

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