女性特有の9疾患 × 食品21種を解析して見えた意外な結果、「食」と「女性の健康」の関係に新知見
本稿は、たちばな台クリニックの秋谷進医師による連載記事です。今回のテーマは「女性特有の疾患と食品の関係」。体に良いと思われている食べ物が、実はリスクになることもーー。最新の研究で、健康と食品の新たな関係が見えてきました。
目次
女性の健康と食品の選択、どう関係する?
突然ですが、皆さんは普段の食事で何を選ぶかをどれくらい意識していますか?「美容のためにビタミンを摂ろう」とか「ダイエットのために糖質を控えよう」といった工夫をされている方は多いかもしれません。実は、私たちが何気なく口にしている食べものが、一見関係なさそうな「女性特有の病気」のリスクにも深く関わっていることが、最新の研究で明らかになったのです。今回は、2026年に発表されたメンデルランダム化解析(MR)という信頼性の高い手法を用いた研究結果をもとに、食品と女性特有の疾患の因果関係について分かりやすく解説していきます。今回は、女性の健康と幸福に関する『BMC Womens Health誌(2025年12月)』に報告された、中国蘇州大学第一附属病院のMengyu Fu氏らの研究報告を解説します。
従来の観察研究と異なる視点で解き明かす、女性特有疾患に及ぼす食事の影響
遺伝子から読み解く食品の影響、メンデルランダム化解析とは?
今回の研究で使われた「メンデルランダム化解析(MR)」という言葉、あまり聞き馴染みがないですよね。これは、遺伝的な変異を指標として使うことで、特定の生活習慣(今回は食品)が病気の原因になっているのかを調べる統計手法です。従来の調査では「健康意識が高いから野菜を食べるし、運動もしている」といった他の要因が混ざってしまい、食品が本当の原因かどうかを判断するのが難しいという課題がありました。しかし、MR法を使うことで、あたかも「生まれつき特定の食べものを多く摂る傾向がある人とそうでない人を分けた、大規模な臨床試験」のような結果を導き出すことができるのです。
21種類の食品と、女性に多い9疾患の因果関係を検討
今回の研究では、46万人もの人を対象にして、21種類の食品(※1)と9つの女性疾患(※2)の関係が調べられました。その中で、意外にも多くの女性特有の病気が食べ物と関係していたのです。
(※1)21種類の食品:牛肉(Beef)、 豚肉(Pork)、非油性魚 / 白身魚(Non-oily fish)、 ロブスター(Lobster) 甲殻類/貝類(Shellfish)、 果物・穀物・加工食品ドライフルーツ(Dried fruit)、 全粒パン・全粒小麦(Whole-wheat / Whole grain bread)、 オムレツ / 卵料理(Omelette / Egg dishes)、 ダークチョコレート(Dark chocolate)、 チーズ(Cheese)、 嗜好品・飲料コーヒー(Coffee)、 アルコール(Alcohol)。本研究ではこのほかに、紅茶、各種肉類・魚類の分類違い、野菜類、マクロ栄養素構成比などを考慮した上で、計21項目について調べた。
(※2)9つの女性疾患:乳癌(Breast Cancer)、 子宮頸癌(Cervical Cancer)、 子宮体癌(Endometrial Cancer)、 卵巣癌(Ovarian Cancer)、 子宮筋腫(Uterine Fibroids / Uterine Leiomyoma) 、 子宮内膜症(Endometriosis)、 卵巣嚢胞(Ovarian Cysts)、 早発卵巣不全(POF / POI)(Premature Ovarian Failure)、 多嚢胞性卵巣症候群(PCOS:Polycystic Ovary Syndrome)
■ドライフルーツの定期的な摂取が乳がんリスクを低減
まず、ドライフルーツを定期的に食べる習慣がある人は、乳がんの発症リスクが46%低くなる(オッズ比:0.54)可能性があるという結果が出ました。ドライフルーツには抗酸化作用を持つ成分が凝縮されており、それが、がんの予防に役立っている可能性が考えられます。
■コーヒーの定期的な摂取が子宮筋腫リスクを増大
さらに意外かもしれませんが、コーヒーを飲む習慣がある人は子宮筋腫のリスクが81%高まる(オッズ比:1.81)可能性が示唆されました。これは、カフェインが肝臓におけるエストロゲン代謝に影響を与えるためではないか、という説があり、今後のさらなる研究が待たれるところです。
■そのほかの食べ物と病気の関連
ほかにも、統計的な確定度は上記2つに比べると控えめですが、興味深い傾向がいくつか報告されています。例えば、次の通りです。
・乳がん
牛肉の摂取が多いとリスクが高まる傾向
・子宮頸がん
ドライフルーツがリスクを下げる可能性
・子宮体がん(子宮内膜がん)
コーヒー、アルコール、そして「脂ののっていない魚(非脂肪魚)」の摂取が、リスクを高める因子
・卵巣がん
アルコールや脂ののっていない魚はリスクを高める一方、豚肉、ドライフルーツ、牛肉はリスクを下げる
また、良性の疾患についても例えば以下のような関連が見つかっています。
・子宮内膜症
チーズやコーヒーの摂取はリスクを下げ、貝類の摂取はリスクを上げる可能性
・多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)
ヨーグルトやハーブティー、新鮮な果物の摂取がリスク上昇と関連
ヨーグルトやハーブティは健康なイメージが強いため、意外に思う方も多いかもしれません。こうしてみると、女性特有の病気は、普段の食生活と非常に大きく関わっていることがわかりますね。
日々の「食べもの」で将来の病気のリスクは変えられる
この論文は、例えば「人種・地域差」「食品量や調理法のばらつき」「思春期・妊娠・閉経などの時期を区切っていない」など、さらに検討すべき要素が多いため、「これを食べればがんを防げる」といった安易な捉え方はするのは不適切です。本研究結果を見て、「大好きなコーヒーをすぐ完全にやめないといけない」と極端に不安になる必要もありません。特に、今回の調査対象はヨーロッパ系の人々が中心であり、すべての人にそのまま当てはまるわけではないからです。しかし、食事は自分で変えられる習慣であり、将来の病気のリスクを減らす手段になり得るというのは、希望の持てる発見でしょう。
2人の友人医師を乳がんで亡くして感じたこと
日本では、乳がんの患者数が増加傾向にあります。女性のがんの中で最も多く、日本人女性の9人に1人が生涯で乳がんと診断されています。原因の1つとして、食生活の変化が指摘されています。もし、家系として乳がんになる方が多いのでしたら、まずは今日のおやつをドライフルーツに変えてみてください。そして、牛肉の摂取をちょっと少なくしてみる。それだけで、将来の乳がんが予防できるかもしれません。
そして、乳がんは、早く見つかるほど命が助かる可能性が高いと考えられています。実際、無症状のうちに検診で見つかった早期の乳がんは、適切な治療につなげることで予後が良くなることが分かっています。しかし、医師でさえ、忙しさや自分は大丈夫だろうという気持ちから、定期検診を後回しにしてしまうことがあります。実際に私の友人医師2人も乳がんで亡くなったのですが、どちらも乳がん検診は受けていませんでした。見つかったときには、すでに乳がんがかなり進行しており、そこからあっという間に旅立ってしまいました。あまりにも残された時間は短く、何かできることはなかったのかという思いが今も消えません。亡くなってから5年以上がたった今でも、私は2人の死を受け入れられずにいます。がんは、その人の命を奪うだけではありません。本人の苦しみばかりでなく、家族や友人など、周りにいる多くの人の心にも深い傷を残します。だからこそ、乳がんをはじめとするがんは、「自分だけの問題」ではなく、支えてくれる人たちの未来にも関わる病気だと感じています。
体調やライフスタイルに合わせて、無理のない範囲で食事のバランスを見直すこと。そして、セルフチェックや検診を受診するなど、できることから始めて健康管理を行ってくださいね。
【執筆】秋谷進
小児科医・児童精神科医・救命救急士。子育て経験に基づいたエッセイ『児童精神科医二十五年目のエッセイ』著者。他、書籍多数。朝日新聞先生コネクトなどで連載中。たちばな台クリニック小児科勤務。1973年東京都足立区生まれ、神奈川県横浜市育ち。1992年、桐蔭学園高等学校卒業。1999年、金沢医科大学卒。金沢医科大学研修医、国立小児病院小児神経科、獨協医科大学越谷病院小児科、児玉中央クリニック児童精神科、三愛会総合病院小児科、東京西徳洲会病院小児医療センターを経て現職。過去の記事一覧はこちら。

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