「女の子らしさ」「男の子らしさ」は生まれつき? 子どもの感情表現に隠された真実とは

本稿は、たちばな台クリニックの秋谷進医師による連載記事です。今回のテーマは「感情表現の性差」。感情の表し方は生まれつきの特性だけで決まるものではなく、環境や周囲との人間関係で変化するようです。米国で報告された研究結果を解説します。

子どもの感情表現に性差はあるのか?

「女の子の方が、気持ちを言葉や表情で伝えるのが上手」「男の子は感情を表に出しにくい」このような見解は、子どもについて語るとき、ごく自然なことのように受け止められがちです。しかし、本当にそうなのでしょうか。性別による感情表現の違いは、生まれ持ったものなのでしょうか。それとも、育った環境や周囲の人の関わり方の影響を受けて形づくられていくものなのでしょうか。

このような素朴で大切な疑問に向き合った論文が、アメリカで報告されています。米国エール大学医学部精神医学教室のTara M Chaplin氏らが、乳児期から思春期までの研究をまとめ、子どもの感情表出に性差があるかを検討したメタ解析です。心理学分野の学術誌『Psychological Bulletin』、2013年の報告です。今回はその研究をもとに、子どもの感情表現にみられる性差について考えてみたいと思います。

 

感情表現の性差、環境や状況でも変化

研究では、子どもの感情表現に性差がみられる場面は確かにありました。ただし、その違いは生まれつきの特性だけで決まるものではなく、むしろ成長のなかで進む社会化や、その場の状況によって大きく変化することがわかりました。

研究背景:「女の子らしさ」「男の子らしさ」はどこから生まれる?

私たちの社会には、「女の子らしさ」「男の子らしさ」といったジェンダー観が広く存在します。こうした考え方は、子どものふるまいや感情表現の受け止め方にも影響を与えているかもしれません。一方で、実際の行動や表情において、女の子と男の子の感情表現にどのような違いがあるのかについては、これまでの研究でも結果が一致していませんでした。そのため、性別による違いがどの程度みられるのかについては、はっきりした結論が出ていなかったのです。そこで研究グループは、0歳から17歳までの子どもを対象に、顔の表情、声の調子、しぐさといった感情表現に性差がみられるかどうかを検討することにしました。あわせて、その違いが年齢とともにどう変化するのか、また周囲の環境の影響をどのように受けるのかについても分析しました。

研究方法:166件、2万人超のデータを分析

研究では、1979年から2010年までの32年間に発表された166件の研究を集め、合計2万1709人の子どものデータをもとにメタ分析を行いました。メタ分析とは、複数の研究結果をまとめて検討し、全体としてどのような傾向があるのかをみる方法です。分析では、感情表現を大きく3つに分けました。

  1. 喜びや笑顔などのポジティブな感情
  2. 悲しみや不安、思いやりのような内向的なネガティブ感情
  3. 怒りのような外向的なネガティブ感情

そのうえで、性差がどの程度みられるのか、さらにその違いが年齢や周囲の環境によってどう変化するのかを、統計的な指標(効果量:g)を用いて分析しました。

効果量gとは、ここではHedgesを意味します。ばらつきを表し、gが0に近いと差はほとんどない、gが正なら定義した一方の群が高い、gが負なら反対の群が高い、絶対値が大きいほど差が大きい、gが0.2前後なら小さい差、gが0.5前後なら中くらいの差、gが0.8以上なら大きい差を示します。

研究結果:感情の種類や年齢で異なる男女差

分析の結果、いくつかの感情表現では統計的に意味のある性差が確認されました。

1)ポジティブな感情
喜びや笑顔などのポジティブな感情は、全体として女の子の方が男の子よりも多く表現する傾向(g=-0.08)がみられました。その差は大きいものではありませんが、統計的には確認されています。また、この傾向は年齢とともに強まることも示されました。特に小学生の時期(g=-0.20)や、思春期(g=-0.28)では差がやや大きくなり、成長にしたがって感情表現の違いが目立ちやすくなる可能性がうかがえます。

2)内向的なネガティブ感情
悲しみや不安、相手への思いやりのような内向的なネガティブ感情についても、女の子の方が男の子より多く表現する傾向がみられました。全体の効果量は g = -0.10 で、差は大きくはないものの、統計的には確認されています。なかでも目立っていたのは、「恥ずかしさ」の表現です。この感情では女の子の方が高い傾向が示されており、効果量は g = -0.56 でした。

3)外向的なネガティブ感情
怒りのような外向的なネガティブ感情では、年齢によって傾向が異なっていました。幼児期と小学生期では、男の子の方がこうした感情を多く表現する傾向がみられ、効果量はそれぞれ g = 0.17、g = 0.13 でした。一方で、とても興味深いことに、思春期になるとこの傾向は逆転しました。思春期では、女の子の方が外向的な感情を表現する傾向がみられ、効果量は g = -0.27 でした。ここまで読むと、やはり感情表現には性差があるのだと感じるかもしれません。ただし、この研究で本当に重要なのは、その違いが固定的なものではなかったという点です。

4.周囲の環境や状況による影響
この研究で特に重要なのは、感情表現の性差が、いつでも同じように表れるわけではなかったことです。つまり、男女差は生まれつき固定されたものというより、周囲の環境やその場の状況によって強まったり弱まったりしていました。実際、親と一緒にいるときには、感情表現の性差は比較的小さくなっていました。子どもにとって親と一緒にいることは比較的安心しやすい場面になるため、男の子も女の子も感情を出しやすく、感情表現の性差が小さくなりやすいと考えられます。

その一方で、「見知らぬ大人や友人と一緒にいるとき、あるいは一人でいるとき」には、性差がより大きくなる傾向がみられました。見知らぬ大人や友人と一緒にいる場面では、子どもは周囲から自分がどう見られるかを意識しやすくなります。そのため、「女の子はやわらかく気持ちを表すもの」「男の子は感情を抑えるもの」といった周囲の期待を学んでいる場合、その期待に沿った振る舞いが表れるため、感情表現の性差が大きくなると考えられます。

例えば、嬉しくないプレゼントを受け取った場面で、失望を隠して笑顔を作るよう求められる場面では、女の子の方が笑顔を見せやすい傾向が示されました。効果量は g = -0.27 で、周囲の期待や社会における役割意識が感情表現に影響している可能性をうかがわせます。つまり、親と一緒にいる場面では、「女の子らしさ」や「男の子らしさ」といった違いは目立ちにくくなります。一方で、周りの目や社会的な役割が意識されやすい場面では、そうした違いが表れやすくなるようです。このことからは、子どもの感情表現にみられる性差が、生まれつき決まったものとして現れているというよりも、周囲の期待やその場の空気を受けながら形づくられていく面がある、と考えられます。言い換えれば、子どもたちも成長のなかで、その場に合った「らしさ」を自然に身につけていくのかもしれません。とても興味深い研究です。

 

「男の子らしさ」「女の子らしさ」は固定的ではない

本研究の結果からは、子どもの感情表現にみられる性差が、生まれつきの固定されたものではないことがうかがえます。むしろ、そうした違いは、成長のなかで進む社会化や、その場の状況によって大きく左右されることがわかります。

例えば、女の子が見知らぬ大人の前や気まずい場面で笑顔を見せやすいのは、周囲と波風を立てずによい関係を保ちたい、あるいは期待に応えたいという、一般的に言われやすい女性としての役割意識が働いているからかもしれません。一方で、男の子が幼い時期に怒りを表に出しやすいのも、社会のなかで求められる役割意識の影響を受けている可能性があります。逆にいえば、女の子はその場の空気を踏まえて、「ここでは怒りを表に出さない方がよい」と自然に抑えているのかもしれません。

子どもを見て「男の子らしい」「女の子らしい」と感じたときは、そのしぐさそのものだけでなく、どんな場面でそうしているのかにも目を向けてみてください。感情表現はいつも同じように表れるわけではなく、場面によって使い分けられている可能性があります。そう考えて観察してみると、これまでとは違った発見があるかもしれません。

 

児童精神科医、そして4児の父として感じる「感情表現」

筆者である私は、児童精神科医として多くの子どもたちを診療する一方、女の子3人、男の子1人の父親でもあります。性差について一律に語ることはできませんが、今回の研究を読みながら、家庭での子どもたちの姿を思い浮かべました。娘3人(そして妻も)は、学校であったことを尋ねると、「あの先生がどうだった」「あの友達がこうだった」と、感情豊かに次々と話します。話を聞くのが好きな私でも閉口するほどです。一方、息子は年齢を重ねるにつれて、黙り込んだ後にポツリポツリと話すようになりました。もちろん個々の性格による違いもありますが、今回の研究で示されたような感情表現の性差と重なる部分もあるのかもしれません。

ただ、児童精神科の診療となると、家庭での会話とは事情が異なります。私自身の診療経験では、特に思春期の女の子から悩みや弱音を聞くには、「この人になら話してもいい」と思ってもらえるような信頼関係を築くことが欠かせません。そこで私は、普段から娘たちとの会話を通じて、子どもたちの間で流行しているものを教えてもらっています。「すとぷりでは誰が推しなの?」「ちいかわでは誰が好き?」。そんな話をきっかけに少しずつ距離を縮めながら、「人がいるところだと、おなかが痛くなることもあるよね」と、その子が抱えている悩みへと会話をつないでいきます。その際、こちらの価値観や好みを押しつけず、その子自身がどう感じているのかを聞くことを大切にしています。

今回の研究が示したように、子どもの感情表現は、性別だけで決まるものではなく、誰といるのか、どのような場面にいるのかによっても変化します。だからこそ、表に出ている言葉や態度だけでその子を捉えるのではなく、安心して自分の気持ちを表現できる関係をつくることも大切なのだと思います。そして、私が子どもの関心事に耳を傾け、安心して話せる関係をつくろうとしているのは、中学・高校時代にさまざまな理不尽さを感じていた私自身が、当時、大人にそうしてほしかったからなのだと思います。

子どもたちの感情表現に見られる性差は生まれ持った資質だけでなく、周囲の環境や社会的役割への意識、そして「誰と一緒にいるか」といった状況の影響を受けながら形づくられていくものだということですね。

参考文献:Tara M Chaplin,Amelia Aldao.Gender Differences in Emotion Expression in Children: A Meta-Analytic Review.Psychol Bull.2013 Jul;139(4):735-65.

【執筆】秋谷進

 

小児科医・児童精神科医・救命救急士。子育て経験に基づいたエッセイ『児童精神科医二十五年目のエッセイ』著者。他、書籍多数。朝日新聞先生コネクトなどで連載中。たちばな台クリニック小児科勤務。1973年東京都足立区生まれ、神奈川県横浜市育ち。1992年、桐蔭学園高等学校卒業。1999年、金沢医科大学卒。金沢医科大学研修医、国立小児病院小児神経科、獨協医科大学越谷病院小児科、児玉中央クリニック児童精神科、三愛会総合病院小児科、東京西徳洲会病院小児医療センターを経て現職。過去の記事一覧はこちら。

秋谷様 プロフ画像

 

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