エビデンスベースとは?科学的根拠の重要性と事例(3/3)
エビデンスベースをマーケティングに活かす
マーケティングにおけるエビデンス
マーケティングにおいてもエビデンスを活用する取り組みは広がっている。科学的根拠を示すことで、分かりやすく、信頼性のある商品価値を顧客に伝えることができる。
エビデンスベースのマーケティング戦略 「JINS」「キリン」
エビデンスベースのマーケティングを取り入れているJINSとキリンの取り組みを見てみよう。
例1.JINS
眼鏡チェーン店「JINS」のブルーライトをカットする商品「JINS SCREEN」。同品のプロモーションにおいて、ブルーライトを発するメディアに接触する時間が近年急増していることやその影響を論文を用いて解説している。さらには同社の「JINS SCREEN」のブルーライトカット率についても欧州統一規格である「EN基準」を用いていると説明。
こうした手法を評価する声がネット上に投稿されている。
JINSがマーケティングで絶対に外さないポイントのひとつがエビデンスです。具体的には科学的な根拠に基づく実証された効果を、目に見える数字として提示をしながら訴求をしていくマーケティングですね。JINS PCの商品を説明したページを見てもらえればその意味合いは伝わると思います。医療の世界では科学的根拠に基づく医療としてのEBM(Evidence-Based Medicine)は基本になっていますが、JINSのそれは言わばEvidence-Based MarketingとしてのEBMですね。(中略)エビデンスの有無で商品に対する信頼度、そこから生じる説得性というものは大きく違ってきますからね”(引用:「伊藤友紀の『ビジネス・リフティング365』」)
例2.キリン
2つ目の事例はキリンの「キリンフリー」。キリンは「キリンビール事業方針」において、エビデンスマーケティングを積極的に採用することで「商品を通じて、分かりやすい根拠・裏づけのある価値をお客様に提案していく」としている。背景に「分かりやすい商品に対するニーズへの高まり」があるとしている。成功例として、2009年に発売したノンアルコール・ビールテイスト飲料「キリン フリー」を挙げている。キリンフリーでは、ノンアルコール飲料に対して顧客ニーズが高い「車の運転は問題ないのか?」を想定し、警察庁科学警察研究所の論文を参考に運転シミュレーターでの実験を実施。「キリン フリー」を飲んでも運転能力に影響がないことを確認している。
エビデンスベースは必要不可欠なのか?
最適な治療法を検討するエビデンスベースの考え方は、看護ケア手法や教育の在り方、政策立案手法にまで広がってきている。こうした流れは最終的には消費者へ波及することにつながり、商品選択で科学的根拠を求める意識がこれまで以上に消費者の間で高まると考えられる。
企業サイドで見ると、商品の価値提案において科学的な根拠を示せる論文を集めたり、自社で研究の実施、統計データをマーケティングに利用する活動が特にヘルスケア業界を中心に急速に広まっている。
一方でエビデンスベースの手法が広がるにつれ、課題も指摘されるようになってきた。エビデンスは意思決定に至る材料の一つでしかなく、あまりにエビデンスを重視しすぎて、医療現場の医師や教育現場の先生の経験則を軽視や排除するものではないという観点も強調されるようになった。
ビジネスシーンにおいても、エビデンスベースは絶対的である、とも言えない。「サプリメントを購入する時の重視点は何か?」という調査で「エビデンス」と回答した女性は27.8%で7位となっており、企業が思うほどエビデンスを重視しているわけではない様子がうかがえる。
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エビデンスを重視するが故になかなか事業を開始できないというケースも少なくない。例えばヘルスツーリズム。エビデンスを得るために時間とお金をかけたものの集客に苦戦し、結果、日の目を見ることなく自然消滅することが割と頻繁にある。反対にエビデンスを得ていないのに、集客に成功し、さらにはヘルスケア効果をしっかり実感させて客を満足させている人気のヘルスツーリズムもある。ヘルスケア業界においては、当然エビデンスは重視されるべきだが、エビデンスが必ずしも求められているのか?と俯瞰して考えることも必要だ。
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他、エビデンスを活かそうにも、活用すべきデータの集積が進んでいない、さらにはデータの解析や理解は簡単ではなく、そうした専門知識を持つ人が少ないといった問題も指摘されている。程よくエビデンスを取り入れる“ちょうど良いバランス”が必要なのかもしれない。
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