多角的に生活者を分析できる「60のウェルビーイング指標」による調査でわかった、幸福の実態(性・年代別)

ウェルビーイングを提供価値に据える商品・サービスが増えている。各所が発表した2022年のヒット予測を見ても、心に充足感をもたらすモノ・コトのランクインが目立ち、また、昨今の各社のリリースを見ても、「ウェルネス」「ウェルビーイング」を企業理念に掲げたりコミュニケーションに活用する事例が増えている。だが肝心の、生活者へのウェルビーイングの“届け方”についてはまだまだ体系化されておらず、各社がフワッとさせたままでいる印象。バズワードになっているからと、とりあえず使っているケースも見受けられる。ウェルビーイングの言葉だけが先行し、具体的なマーケティング戦略やコミュニケーション戦略への落とし込み方に関して、十分な生活者分析や参考事例がないことが、少なからず原因として挙げられそうだ。

そこで、ウェルビーイングに関する生活者分析に役立つ調査を編集部がリサーチ。言葉そのものは以前からあれど、ビジネス界でのウェルビーイングブームは始まったばかりだからなのか、網羅的に調査したものは見当たらなかったが、唯一参考にできそうなのが、朝日広告社が実施した「第1回 ウェルビーイングに関する調査(※1)」。これを見ると、まだまだ言葉の認知が進んでいないことや、性別による意識の違い、ウェルビーイングの構成要素について理解を深められる。(※1)調査:全国20〜60代の男女2,000名,2021年12月

言葉の認知と共感度、興味深い性差の違い

経営、マーケティング、人事関連のビジネスパーソンの間では「ウェルビーイング」はすでに広く知られた言葉ではあるが、まだ生活者一般には浸透していない。朝日広告社が実施した調査でウェルビーイング の言葉の認知状況について聞いたところ、男女合わせて認知度は21.5%だった(「内容まで知っている」「聞いたことがある」の計)。同時に質問した他のサステナブル関連の言葉の認知状況と比べると、かなり低い。以下は男女計のランキング。

  • 1位:SDGs (84.2%)
  • 2位:ダイバーシティ(80.1%)
  • 3位:地方創生(78.8%)
  • 4位:カーボンニュートラル(71.4%)
  • 5位:マイクロプラスチック問題(67.6%)
  • 6位:スマートシティ(59.0%)
  • 7位:ワーケーション(58.5%)
  • 8位:サステナブルフード(46.4%)
  • 9位:サステナブルツーリズム(40.3%)
  • 10位:エシカル消費(26.2%)
  • 11位:ウェルビーイング(21.5%)
  • 12位:フェムテック(14.8%)
  • 13位:エイジンググレイスフリー(13.8%)
  • 14位:フェーズフリー(12.3%)

興味深いのは男女別の集計結果(以下表)。認知度は女性の方が低いが、ウェルビーイングの意味(※2)に対する共感度については女性の方が高かった。女性の方がウェルビーイングニーズが強い様子をうかがえる。

言葉の認知率と共感度
女性 男性
認知率 (※3) 20.0% 23.0%
共感度 (※4) 61.1% 52.8%

(※2)当調査における「ウェルビーイング」の定義:幸福(な状態)、健康(な状態)という意味。また、心身がともに健康で、社会的にも満たされた状態を表す概念。
(※3)「内容まで知っている」「聞いたことがある」を合計した値
(※4)「共感できる」の値

 

男女ともに40〜50代で下がる幸福度

続いて普段の生活における幸福度について見ていこう。「あなたの普段の生活は幸せだと思いますか?」と聞いたところ、男女全体では「非常にそう思う」「ややそう思う」の合計は66.2%と高く、半数以上の人が幸せを感じていることがわかった。だが年代別に見ると女性は40代で低く、男性は40代・50代で低い。中年期は人生の中で最も多忙で様々なタスク(仕事、家事、子育て、親・義親の介護、住宅・自動車ローン、将来の老後の備えなど)を背負う時期。心身ともに疲弊する時期でもあるため、それが背景にあるのかもしれない。

 

【出典】朝日広告社

男女ともに40代・50代で幸福度が下がることは、別の角度から行った他調査でも説明がつく。厚労省の患者調査(平成29年)によると、うつ病患者数は男女ともに全年代の中で40〜50代で最多。中年期はメンタル面の健康力が低下しやすい=幸福を感じづらい時期だと言える(性別・年代別のグラフは以下記事に掲載)

 

 

中年世代の「今より幸せになりたい」というニーズが他世代と比べて高いのかどうかを調べた調査は見当たらないので明言はできないが、いずれにせよ、中年世代の幸福度が低いことは既述の両調査で見えている通り明らか。ウェルビーイングの潜在ニーズが強いのはこの世代かもしれない。

 

性・年代で異なる、幸せの阻害要因

続いて、幸せの阻害要因について。「あなたの日常生活において、自身の幸せを阻害していると感じるものは何か?」と聞いたところ、以下の結果となった。以下は男女計のランキング。

  • 1位:将来への不安があること(36.8%)
  • 2位:収入が少ない・不安定なこと(34.6%)
  • 3位:精神的なストレスがあること(31.2%)
  • 4位:貯金が無い・出来ていないこと(29.8%)
  • 5位:体調が良くないこと(19.6%)
  • 6位:自分の望む働き方や環境ではないこと(19.0%)
  • 7位:睡眠・食事などの面で健康的な生活が送れていないこと(17.0%)
  • 8位:学ぶ時間やお金が無いこと(15.8%)
  • 9位:自分の時間が取れていないこと(15.6%)
  • 10位:仕事にやりがいが無いこと(15.5%)
  • 11位:家族に問題があること(12.1%)
  • 12位:自分の希望通りの住まいではないこと(11.4%)
  • 13位:家族関係がうまくいってないこと(10.9%)
  • 14位:人間関係がうまくいってないこと(10.0%)
  • 15位:友人がいないこと(8.6%)
  • 16位:住まいの周辺環境に不満があること(8.3%)
  • 17位:住む場所の防災・防犯面に不安があること(4.7%)
  • 18位:近所づきあいが無いこと(4.3%)
  • 19位:その他(1.6%)
  • 20位:阻害していると感じるものは無い(19.9%)

 

【出典】朝日広告社

 

年代別で見ると(上グラフ)、全体的に幸せの阻害要因が多いのは現役世代である若年層で、60代は少ない。60代は現役を引退し生き方が比較的自由になる人が多く、残された人生の時間も見えてきているからだろう、将来への不安・お金の不安・精神的ストレス・生き方の不満・働き方の不満などを感じている人は少ない。反対に、健康関連の不安については若年層と同等に一定数いる。なお、「幸せを阻害していると感じるものは無い」と回答した女性の割合は60代が最も高いという結果に。以下がその結果。

  • 女性20代…15.5%
  • 女性30代…9.5%
  • 女性40代…18.5%
  • 女性50代…19.5%
  • 女性60代…30.0%

 

ウェルビーイングの実態を分析できる、60の指標

生活者全体の幸福度に関する傾向を見てきたところで、もう少し“具に”ウェルビーイングを紐解いていこう。役に立つのが、60のウェルビーイング指標。生活者のウェルビーイングを多角的に分析するための指標で、朝日広告社が独自に開発したもの。OECD(経済協力開発機構)の「より良い暮らし指標(Better Life Index: BLI)」等を参考に、「自分自身」「自身の経済・成長」「生活環境」「周囲との関わり」の4領域と、各領域で3要素を設定。さらに生活者インタビューを重ね、各要素に5つの指標を紐づけた。以下が、その指標60項目。

【出典】朝日広告社

一口に「ウェルビーイング」と言っても、その状態を構成するのはこれだけの項目があることがわかる。ウェルビーイングというフワッとした概念を細かい項目に分解して捉えることで、生活者の充足度を上げているコトと下げているコトを具体的に把握できるので、より詳細にウェルビーイングの実態をつかめる。生活者分析に使える便利な指標だ。

例として上図の4領域のうち「自分自身」に関する調査結果を見てみよう(以下グラフ上段:女性,下段:男性)。グラフ線が外側にあるほど、充足度が高い状態を示している。女性の場合は、「自分の時間(日常生活の中で自分の時間が取れている)」「気分転換(日常生活の中で適度に息抜きや気分転換ができている)」は全体的に高い傾向があり多くの女性がこの項目については充足感を得られていることがわかるが、反対に「不調は無い(身体に不調を感じるところが無い)」「望む生き方(自分の望む生き方が出来ている)」に関しては全体的に低く、女性たちの充足感を押し下げている要因であることがわかる。

【出典】朝日広告社

【出典】朝日広告社

 

性差で考えるウェルビーイング

本項で見てきた調査結果を通じて覚えておきたいのは、ウェルビーイングニーズが強まっているとは言え、性・年代によって今現在の幸福度や幸福を阻んでいるコトは異なり、そして、多様な要素によって幸福が構成されているということ。

朝日広告社が開発したフレームは、感覚的な理解が先行して広がっていたウェルビーイングの概念を的確でわかりやすい言葉で整理整頓されており、マーケティングに有用だ。ウェルビーイングを構成する60項目を踏まえて、生活者分析や商品開発、調査、コミュニケーション戦略を設計してみてはどうだろう?精度の高い解を導き出せそうだ。

最後に、コロナ禍におけるウェルビーイングの男女差についても触れておきたい。ウェルビーイングの動向について内閣府がまとめた「満足度・生活の質に関する調査報告書 2021」によると、コロナ禍で生活満足度が低下したのは男性より女性で、特に「健康状態」「社会とのつながり」「生活の楽しさ・面白さ」において満足度の低下幅が大きいことがわかった(報告書内p.8)。幸福の感じ方に敏感、かつ、ウェルビーイングの状態が崩れやすいのは男性より女性、という見方ができる結果だ。本稿の冒頭でウェルビーイング の意味に対する共感度は女性の方が高いという調査結果を紹介したが、これを見ても、女性の方が幸福に対する感受性の強さをうかがえる。

 

 

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