時代の最先端はボーダーレス、“区切らない” 商品・サービス・プロモーション事例

今、女性市場で時代を牽引する最先端アイテムのコンセプトは“ボーダーレス”。これまで当たり前に意識してきた「人を区別する」「使い方を区別する」といった概念は徐々に薄れ、何人も何事も区切らない商品・サービスに注目が集まっている。背中を押すのは、周知の通りSDGs。2030年の目標達成に向けた各国・各業界の取り組みが活発化したことで、ダイバーシティや環境問題の意識が一般に広く浸透したことが大きい。

というわけで今回は、市場のボーダーレス化を象徴する具体的なトレンドキーワードを4つ紹介。いずれも以前からあった言葉だが、時代の変化でようやく日の目を見るといったところだ。もはや誰かを・何かを区別する思考習慣は過去のもの?あなたの会社の商品・サービスは、誰かを・何かを区別していない?

【ジェンダーニュートラル】男女を区別しない

「区切らない」という考え方で今最も注目されている概念といえば、「ジェンダーニュートラル」。社会的制度などから人々の性別を判断したり、性別による役割や物事を区別するべきではないという考え方で、要は男女のいずれにも偏らないことを意味する。新しいマーケティング概念として以前ウーマンズラボでも取り上げたので、その記事から引用して説明を補足したい。

「公共トイレを男女で区別して設置する」「機内アナウンスの冒頭で『レディース&ジェントルマン』と呼びかける」「履歴書や出生届などに記載する性別欄は『男性』と『女性』の2種のみ」「男子生徒の制服はスラックス、女子生徒の制服はスカート」などといった従来の社会システムは、世の中には男性と女性の2つの性のみが存在することを前提とし、かつ「男だからこうあるべき」「女だからこうあるべき」といった社会通念のもと構築されてきた。

だがこのような社会は、LGBTQ +やノンバイナリー(自身の性認識が男でも女でもない人)など、性自認や性的指向が多様な人々に疎外感を感じさせたり、「男は強くあるべき」「女性は美しくいるべき」「女性が家事・育児をすべき」といった性別役割分業やステレオタイプを生み出し、男女それぞれに生きづらさを感じさせてしまう。

このような、男女を区別した社会で構築されてきた制度・思考・慣習などを打破することで、あらゆる人々が自分らしく生きることができる暮らしやすい社会を目指す言葉として使われているのが、ジェンダーニュートラルだ。引用:新潮流「ジェンダーニュートラル」、ヘルスケア業界と相性は良い?自社でも検討すべき?

 

なお、ジェンダーニュートラルと似た言葉に「ユニセックス」「ジェンダーレス」「オールジェンダー」「ジェンダーフリー」があるが、いずれも意味はほぼ同じ。使われ方の微妙な違いや、特に企業のPRで使われている言葉など、詳細は以下の記事で解説。

 

 

【ノーマライゼーション】健常者と障がい者を区別しない

ノーマライゼーションとは、障害があっても健常者と変わらない生活・生き方ができるように社会を整えるという社会福祉の理念。一般社会からの物理的・心理的隔絶を無くす社会を目指し、1950年代に北欧で誕生した。日本でも厚労省が障がい者の自立と社会参加の促進を目的に、ノーマライゼーションの理念に基づいた取組みを進めている。

似た概念に、障がい者や高齢者などにとって生活の障壁となるものを取り除く「バリアフリー」、性・年齢・国籍・障害の有無に関係なくあらゆる人にとってやさしいデザイン「ユニバーサルデザイン」があり、どちらもベースにあるのはノーマライゼーションの考え方だ。

障がい者、高齢者、持病のある人、妊産婦、外国人など多様な人が暮らしやすい社会を目指す動きは以前から起きていたものの、SDGsの社会的関心の高まりでようやく本格的な社会実装が始まりそうなのが、まさに今。有名企業の事例を見ても、障がい者を始めとした多様な人が健常者とともに社会に自然に溶け込み始めている。

例えば企業のプロモーション。世界的なダイバーシティとインクルージョンの流れから、障害のある人を起用する動きが活発化している。ファッションブランドであるグッチのビューティブランド(グッチビューティ)や、世界的な女性向けファッション誌ELLE(メキシコ版)は、ダウン症の女性をモデルに起用。国内では資生堂が義足の女性をアンバサダーに起用し話題を集めた。

 

 

健常者と障がい者を区別しないノーマライゼーションは、子ども向けおもちゃの世界でも。いわゆる「共遊玩具」と呼ばれるもので、障害があってもなくても子どもが楽しめる配慮がされたおもちゃを指す。1990年以降に確立されたジャンルで、毎年開催される日本おもちゃ大賞(主催:日本玩具協会)では「共遊玩具部門」が設けられている。今年はタカラトミー、バンダイ、メガハウスなどが受賞をした。

 

【出典】メガハウス

大賞を受賞したのは、「ルービックキューブ ユニバーサルデザイン(メガハウス)」。キューブの各面に凹凸が施されているため、目が不自由でも“触覚”で揃えることができる。このおもちゃのうまいところは、健常者にも「(目をつぶって)やってみようかな」という気持ちにさせる点。目の不自由な人に配慮したことで、かえって、おもちゃとしての魅力が倍増。障がいのある人も健常者も、どちらもが手に取れる商品となった。これこそがユニバーサルデザイン。実際にその点が大賞受賞の評価ポイントとなり、日本玩具協会は「『目の不自由な方向けの配慮』とアピールするのではなく『手触りだけで揃える』遊びを新しいチャレンジとして多くの方に提案している点などが評価されました」とコメント。区別なく誰もが楽しめる商品の理想的なあり方というものがわかる事例だ。

他、優秀賞を受賞したのは、タカラトミーの「リカちゃんもくもくジュージューにぎやかバーベキュー(以下動画)」。バーベキューで食材を焼いている様子を音と視覚からもわかる設計にしているので、目・耳が不自由でも楽しめる。健常者であれば、より臨場感を味わえる。こちらも、障害の有無関係なく楽しめるユニバーサルなデザインが評価された。

他、バンダイの「ライト&オーケストラグランドピアノ」なども受賞。各賞の受賞理由・評価ポイントを読むと、おもちゃにおけるボーダーレスの意味を理解できる。詳細はおもちゃ大賞2021のサイトに掲載。

 

【フェーズフリー】平常時と災害時を区別しない

フェーズフリーとは、平常時・災害時というフェーズによる制約に縛られない考えのことを指す。どちらの状況でも使えるモノやサービスのことで、その具体例として生活情報誌のオレンジページ(9月2日号)では、次の事例を紹介している。

  • 趣味のベランダ菜園が、災害時には食料になる
  • 鍋料理で使う卓上コンロが、非常時には貴重な調理器具に
  • 撥水加工の風呂敷が、非常時には怪我した体を固定する三角巾や、水を運ぶバケツ代わりに
  • 電気自動車は、平常時は環境・家計にやさしく。停電時には電源として使える

備蓄対策として知られるようになった「ローリングストック」と同じ考え方だ。平常時と災害時を分けた買い物やストックでは、モノが増える上にフードロスにもつながりやすい。お金もモノもスペースも無駄になりがちだが、フェーズフリーやローリングストックの考え方は、平常時と災害時を区別することなく使えるので無駄も無理もない。家計にも環境にもやさしいのだ。

この「フェーズフリー」の概念を広げようと、フェーズフリー協会(東京・文京)が今年で第1回目となるフェーズフリーアワード2021を開催し、2020年にオープンした東京・豊島区の公園「としまみどりの防災公園(愛称:IKE・SUNPARK)」などが受賞した。ちなみに同公園のフェーズフリーポイントは、平常時は一般的な公園だが、災害時は帰宅困難者の避難場所になったり、救援物資の集積・集配所等として機能する点。

 

【エコフレンドリー】環境配慮と経済を区別しない

エコフレンドリーは環境にやさしいとう意味で、エコフレンドリー の「エコ」には、「エコロジー(環境)」と「エコノミー(経済)」の両方の意味が込められている。環境を守る意識が世界的に高まっているものの、環境配慮の追求が必ずしも消費者の購入理由になるわけではない。経済として成り立ってこそ=人々のニーズに応え消費されてこそ、サステナブルな環境配慮が成立する。そんな観点から、エコフレンドリーには環境と経済の両方が込められているのだ。

とは言え環境配慮と経済の両立は難しく、環境配慮型商品は意外と高価だったり、購入したいと思えるだけの魅力的なデザインではないなどを理由に、盛り上がりはイマイチ。人々のニーズを満たしているとは言い難い状況だった。だがSDGsの加速が始まった今、状況は急速に変化。「これが環境配慮!?」と見紛う商品が次々に登場している。ラグジュアリーブランドによる市場投入も、影響として大きいだろう。例えばルイ・ヴィトン。リサイクル素材やバイオ素材を90%以上使用したスニーカー「チャーリー」が今月登場した。

【出典】ルイ・ヴィトン

ファッション誌のGLOW(宝島社,10月号)は、環境配慮型商品のデザイン性が高まっていることに着目し、「サステナお洒落のビッグウェーブがやって来た!」と特集。バッグ、靴、サングラス、洋服などオシャレなアパレル商品がズラリ。「環境配慮型商品って、オシャレじゃなくてなんだか微妙…」というイメージが消える日はもう近い。これぞ、環境に配慮をしつつニーズにも応える=経済も回るエコフレンドリー だ。

 

ボーダーレス発想で商品開発・マーケ設計

ボーダーレスを象徴する4つのキーワードを見てきた。いずれかを取り入れても良し、あるいは本稿の事例を参考に、「何人も何事も区切らない」という概念で自社商品を見つめ直すも良し。そんな視点を起点にすると、新しい商品やマーケティング戦略を発想できるかもしれない。

 

 

 

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