【防災の日】防災領域で進むジェンダー配慮、見落とされてきた”災害時の女性視点・健康問題”とは?(2/2)

災害時の「女性視点」活用、国が推進

災害時の「男女のニーズの違い」への配慮

女性への無配慮が浮き彫りとなったことを受け、国はその後、災害時における女性視点の活用を推進。災害時のあらゆる局面で男女のニーズの違いに配慮するとともに、防災・復興に係る意思決定の場への女性の参画を推進するよう各自治体に求め、全国的な対策が始まった。

国が各地域で防災・復興に係る意思決定の場に女性の参画を求めるのは、各地域の防災会議における女性委員の割合が少ないというそれまでの問題点を是正するため。そもそも、災害時の物資や避難所生活で女性への配慮が圧倒的に不足していたのは、防災会議などを仕切る人のほとんどが男性だったことが理由として指摘されている。女性がいないということは男性が主体となって備蓄や避難所設計を行うため、生理用品、着替える場所、授乳場所、性的暴力や嫌がらせから女性を守るといった女性視点が抜け落ちるのだ。

実際に47都道府県に調査を行ったところ、「防災会議に女性委員がいない」と回答したのは47都道府県のうち19(2004年)。4割の都道府県が女性委員がいないまま防災会議を進めていたことがわかった。東日本大震災の2年後には、女性委員がいない防災会議は皆無となったが、それでも今なお女性が占める割合は低い。全都道府県のうち39が、防災会議に占める女性の割合は20%以下にとどまっている内閣府「地方公共団体における男女共同参画社会の形成又は女性に関する施策の推進状況」令和元年度

「女性視点」で防災を、各自治体の事例

防災会議に占める女性の割合はまだ十分とは言えないが、それでも徐々に、女性視点を活用した防災活動に取り組む自治体が増えている。地域の防災活動への女性参加を促すための人材育成、避難所に女性リーダーがいることの重要性を学ぶ講座、避難所生活での身の守り方を解説するリーフレットやミニブック作成など、各自治体で取り組みが進んでいる。

また自治体のみならず、NPOや女子大学生による啓発も活発に行われ、「防災女子」「防災ガール」などの言葉も生まれた。以下に、国が策定したガイドラインと、自治体の事例をピックアップ。

●内閣府:女性視点を生かしたガイドライン

男女共同参画の視点から内閣府は、「災害対応力を強化する女性の視点 〜防災・復興ガイドライン〜,令和2年5月」を策定。子どもや女性の避難所での安全確保、要配慮者への対応方法、避難所の空間設計などを女性視点からまとめている。女性に配慮した避難所生活を送れるようにするための内容となっている。

●東京都:女性の防災人材育成

東京都は防災活動への女性の積極的な参加を促すことを目的に、女性を対象にした防災セミナーを開催。育成テキスト(東京都女性防災人材育成テキスト)も用意しており、災害時の職場や避難生活で起きることを女性視点から学べる内容で構成されている。

●静岡県:女性と子ども向けに避難所生活の防犯マニュアル作成

災害発生時に避難所で配布することを想定し静岡県は、女性や子どもを対象に防災防犯マニュアルを記載したリーフレットを作成。リーフレットのタイトルは「防災女子」。避難所内では、プライベートスペースを確保したり物干し場などの配置場所を工夫するなど、犯罪防止につなげる方法を提案。また、「女性目線で避難所生活について意見を述べる」など、避難所運営への積極的な参加を促す。

女性ニーズに着目した防災対策、企業事例

女性用防災セットを販売(アスクル)

アスクルは防災の日に合わせ、女性の悩みに着目して選定した女性向け防災セットの販売を今年8月21日に開始。飲料水や保存食、ライト、簡易トイレなど基本の防災セットに加え、緊急時に女性が備えておきたい特有アイテムとして生理用品や使い捨てショーツ、ドライシャンプー、メイク落としにも使えるウエットティッシュなど21品目をセレクト。

出典:アスクル

女性自身や家族・ペットの防災マニュアル作成(ユニチャーム)

赤ちゃんからお年寄りまで、すべてのライフステージに寄り添うユニチャームならではの防災マニュアルを作成。家族皆それぞれのライフステージに合わせた防災方法や、避難に備えて用意しておきたい衛生商品を紹介。女性、赤ちゃん、シニア、在宅介護をしている人、ペット、それぞれに必要な情報がまとめられているので、実用的でとても参考になる。

乳幼児ママやプレママ向けのプロジェクト立ち上げ(明治)

明治は2019年に「明治ほほえみ防災プロジェクト」を立ち上げ、子育て世代の防災に取り組んでいる。乳幼児の防災に関する調査活動、防災サイト「ママと赤ちゃんの防災サイト」内で災害時のカップフィーディング(哺乳瓶を使わない授乳)の方法などお役立ち情報の紹介、自治体が主催する防災イベントで「赤ちゃんのための防災ブック」を配布するなどしている。

女性の衛生ニーズに配慮したグッズ選定(楽天市場)

楽天市場内で「防災セット 女性用」を検索すると525件がヒットする(2020.8.31時点)。各ショップが女性ならではの必需品をセレクトしリュックとセットで販売。内容物は店舗によって多少異なるが、生理用ナプキン、尿とりパッド、大人用おむつ、大人用お尻拭き、大人用膣内を清潔にする膣洗浄液、必要最低限のスキンケアセット、身だしなみをチェックするための手鏡、ソーイングセット、カイロなど。

防災の場でも求められる「ダイバーシティ」「マイノリティー」の視点

防災における性差への本格的な取り組みは東日本大震災が契機となったので、女性視点を重視した防災の概念はまだ10年足らず。歴史があまりにも浅いため、防災領域における女性ニーズや困りごとに対応できていないことは今なお山積みだ。

避難中の性犯罪や生理用品の必要性など、女性ならでのは困りごとが明確に言語化されたことは大きな一歩だが、完全な解決には至っておらず、劣悪な環境の中で我慢を強いられたり、自身や家族の安心・安全・不調・持病などの不安を抱えながら過ごしていのが現状。

なお今のところ防災領域では女性全体への配慮が重視されているが、女性特有の健康問題や持病別の対策といった個別への配慮も必要だ。また今後は、LGBT(あるいはLGBTQ、あるいはそれ以上)など性的マイノリティーや外国人への対応も考えなくてはいけない。SDGsが広がる今は、防災の場でもダイバーシティとマイノリティの視点が必要だ。

 

 

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