予防医療のモチベーションは何?健康行動が起きる17のキーワード
厚労省の調査によれば、健康行動に取り組んでいない女性は6割(詳細:健康行動に取り組んでいない女性6割、なぜ無関心?)。これだけ健康情報・製品・サービスが溢れ健康を意識する人が増えているとは言え、結局のところ、健康行動者率は半分にも満たないのが現実だ。背景にあるのは、時間・お金・生活環境、心理的負担、低い危機意識、本人の性格など。多様な要素が複雑に絡み合うため、ヘルスリテラシーや健康への関心さえ高ければ健康行動・健康消費が起きるわけではないのが、ヘルスケアマーケティングの難しいところ。加えて女性はPMS、産前産後、更年期、老齢期をはじめ、メンタル不調で気持ちが揺れ動きやすいため、健康行動が断続的になりやすく、そして途切れやすい。
健康関心層に向けて販売しても思っているほど響かなかったり、あるいは、ナーチャリング施策でターゲット層のヘルスリテラシー向上を図っても購入に繋がらないのであれば、健康行動を阻害している本当の要因を見極める必要がある。あるいは、これまでとは違う視点でマーケティングを設計するのもあり。例えば、ターゲット層が健康行動を起こす“モチベーション”になっているものをプロモーションに組み込むのも一手。ではどんなことが、女性たちにとって健康行動を起こすモチベーションになっているのか?それを解き明かした調査結果があるので見ていこう。
調査概要
ヘルスケアマーケティングの支援を行う朝日広告社が、全国の20〜70代の男女10,001名を対象に「予防医療(※1)に関する調査」を実施(2022.12)。予防医療の認知・実践者の割合、実践している部位などを明らかにした。同時に、予防医療を実践する1,200人を対象にアンケートを行い、予防医療の実践に気持ちを駆り立てる17のモチベーションを突き止めた。(※1)ここで言う「予防医療」は、病気にかからないようにすることや、心身機能について不健康な状態にならないように予防する行動、いわゆる「一次予防」を指す。
予防医療の意識・行動
予防医療の実践率
20〜70代の男女に「『病気にかからないようにする』『心身機能について不健康な状態にならないようにする』ために何か予防対策をしているか?」聞いたところ、次の結果に。
- 予防対策の実践者率は女性の方が高く、女性全体で43.2%、男性全体で35.1%。一般的に女性の方が男性より健康行動者率が高いことが知られているが、同様の結果に
- 女性を年代別に見ると、現在予防対策を行っている実践者率は20〜40代までは横ばいだが、50代以上で高くなる。更年期や加齢による不調が健康行動を起こしている可能性がある。一方で男性は60代以上で高くなる。同社によると「50代までは仕事で忙しく健康にかまっていられない、退職により会社での定期健康診断がなくなったなど、退職を機に健康行動が起きている」とのこと
- 「今まで予防対策を行ったことはないし、今後も行うつもりはない」と強気な姿勢を見せている割合は男性の方が高く、女性においては若年層ほど高い。この層の健康行動を促進するのは難しそうだ
- 現在は実践していないが予防対策の意向がある(※2)のは男性より女性。この層は健康行動が起きる可能性が高い(※2)「過去予防対策を行ったが、継続できず今は行っていない」「まだ予防対策を行っていないが、今後行いたいと思っている」
部位別の不調・疾患の有無
続いて「今現在、心身で不調を感じたり実際に検査などで指摘された箇所はあるか?」と聞いたところ、次の結果に。
- 不調や病気のある人の割合は全体で男性が高く、女性全体で51.8%、男性全体で54.3%
- 不調や病気のある人の割合は、40代までは女性の方が高いが50代以降は男性が高い
- 男女ともに高年齢層ほど「生活習慣病」の割合が高く、女性は70代で3割に、男性は50代以降で3割に
- 男女差が大きい不調・病気のうち、女性の割合が特に高いのは「関節や筋肉、骨」
- 男女差が大きい不調・病気のうち、男性の割合が特に高いのは「血管や心臓、循環器」
予防対策を行った箇所
続いて予防対策を実践したことがある人(※3)を対象に「予防や対策を行った箇所」を聞いた。実践者率を性別・年代別に見ると、各クラスターの健康行動が起きやすい不調・病気がわかる(※3)「現在予防対策を行い、継続できている」「途中何度か中断はしたが、ほぼ継続して予防対策を行っている」「過去予防対策を行ったが、継続できず今は行っていない」
- 男女全体で、予防対策の実践者率が最も高いのは「歯や歯肉、口腔やあご」で、最も低いのは「肛門」
- 実践者率の男女差が大きい不調・病気のうち、女性の実践率が特に高いのは「歯や歯肉、口腔やあご」
- 実践者率の男女差が大きい不調・病気のうち、男性の実践率が特に高いのは「血管や心臓、循環器」
部位別の予防対策充足率
不調や病気に対して予防対策はどれくらい実施されているのか?予防対策充足率(※4)として算出した男女別の図が以下。「数値が高い部位ほど健康行動が起きやすい=予防対策の関心が高い部位」という読み取り方ができる。(※4)予防対策充足率=予防対策をしている人÷不調を感じている人数
予防医療のモチベーション、17のキーワード
続いて「予防対策を実践している」と回答した1,200名に文章完成法によるアンケートを実施。予防対策を行っている部位、そのきっかけ、継続できている理由などを記入してもらい、その結果をもとに予防対策に気持ちを駆り立てる17のモチベーションを突き止め、「17のヘルスケアドライバー™」としてキーワード化した。各キーワードの具体例やマーケティングのヒントについても言及しているので、いくつか見ていこう。
■もっと怖い病気 〜より深刻な不健康リスクは避けたい〜
例えば「歯周病と認知症の関係」など、ある特定の症状がさらなる不健康やより深刻な病気を引き起こしてしまうリスクがある場合。その事実や関係性を認識することは、原因となる症状の予防対策に取り組む動機になっている
■不調こそタイミング 〜不調が起きるタイミングは、自分を大切にしていいタイミング 〜
ある不調をきっかけに取り組みはじめた行動が、自分をケアしている気持ちを高めることにつながっている。不調のサインを自身の身体や心と向き合い、大切にするきっかけにして、予防対策を提案するのはどうだろう?
■人生100年チャレンジ 〜健康寿命をどれだけ延ばせるのか、その挑戦がモチベーションに〜
自分らしく人生を楽しむためには、何といっても健康が欠かせない。人生100 年時代において、健康を維持することはすべての土台であり、終わりのないチャレンジとして取り組んでいるよう。
■うちは●●家系 〜身近な親族の病歴は、自分ごと化されやすい〜
血のつながった親族の病気や健康状態は、自分にも起きうるリスクとして認識されやすい。何もせず放っておけば自分もそうなるのではないかと焦りを感じ、対策に向かわせるきっかけになっているよう。
■家族のため 〜大切な人のために健康でいることは自分の責任〜
自分のためだけだったら挫折してしまうことも、パートナーや子どものためならがんばれる。パートナーとずっと健やかに暮らしたい、子供をいつまでも見守っていたい、自分がいなくなった後の家族が心配 。行動のモチベーションは、大切な家族の中にあるよう。
■私しかいない 〜独り身の危機感が、行動の強い決意に〜
親に何かあった時は「私」がいるけど、私に何かあった時は頼れるのは自分。「頼りになるのは、自分だけ」という状況の自覚が、予防対策に対する決意と行動につながっている。
■身だしなみ 〜きちんとしていたい、という美意識やプライドが動機に〜
健康的で自立していることはもちろん、見た目のキープも心がけている。予防対策は「美容院に行くのと同じ、身だしなみの一つ」という発言も見られた。“きちんとしていたい”という美意識やプライドに訴えることが、予防対策に導く鍵になりそう。
■いっしょなら 〜相手の存在が、行動の刺激になる〜
“誰かといっしょ”が、自分もやらないといけないという気持ちを喚起したり、“予防対策そのもの”が、共通の話題として楽しみにつながっていたりする。一人では続けられそうにないことも、パートナーや仲間といっしょであれば、続けられるよう。
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