フェムテック市場どうなる?国内外の最新動向・課題・未来予測2021(4/4)

国内の課題

(1)偏り

前述の通り、現在の国内市場の主役カテゴリーは「生理ケア」「妊産婦の健康」「セクシャルウェルネス」。特に生理ケア周辺に集中しており、国外と比べるとカテゴリーの多様性に乏しい。プロダクトのターゲット年齢についても顕著な偏りがあり、中高年層向けのものが圧倒的に少ない。本来、女性特有の健康問題は様々にある。例えば…

  • 10代・20代に多い摂食障害(10代はAN,20代はBN)
  • 20〜30代の出産経験がない・少ない女性に多い子宮内膜症
  • 若年層に起きる早発閉経
  • 中年層が抱えやすいダブルケアによる心身の不調
  • 50代以降の生活習慣病
  • 閉経後〜60代に多い子宮脱や萎縮性膣炎

これは一例だが、このように各年齢で特有の健康リスクがある。対象とする健康問題やターゲットの年齢など、今後は多様性が求められる。

なおマスメディアの報道に偏りがある点も、市場の課題と言える。取り上げるに値するプロダクトは数多くあるが、特定の領域・企業や、”映え”するプロダクトへの取材が集中するのはメディアの悪い癖だ。メディア自身も、様々な疾患・健康問題を対象にしているプロダクトを取り上げる必要がある。

 

(2)健康・医療的価値の高いものが少ない

生理吸収ショーツ、セックストイ、フェムケア化粧品などは、これまでの女性特有の不便・不満・ニーズを満たした画期的なものではあるが、一方で、上記で例に挙げたような各健康問題を解決する健康的価値・医療的価値の高いプロダクトは現状少なく、未だ取り残されている。

これは日本で特に顕著な印象があるが、開発力のある国外であっても同様の課題が指摘されている。3Dプリンタの活用で乳房再建術を行うLattice Medical社(仏)の共同創設者兼最高経営責任者であるジュリアン・ペイエン氏は、この市場課題について次のように述べている。

市場が拡大・発展していくのに必要なのは、健康・医療的価値がさほど無いプロダクトではなく、女性に真に健康効果を提供できるテック企業が増えること。The New York Times,2021

 

もちろん、健康的価値・医療的価値が高いプロダクトは国内でも登場している。検査に痛みを伴わない非接触型の乳がん検診装置(株式会社Lily MedTech、女性ホルモン値の検査で更年期の状態などを調べる検査キットcanvas、妊孕力を調べる卵巣年齢検査キットのF checkなどがその好事例だ。

(3)フェムテック新興企業への投資不足

業界的に投資機関・投資家は男性が多いために、フェムテックで起業する女性起業家が資金調達に苦労していることも、フェムテック市場の課題として各所が指摘をしている。男性は女性特有の健康問題に無理解である(あるいは正しい知識を有していない)ことが多いため、投資側にいるのが男性だと、女性の健康ニーズへの共感や市場可能性の判断がができず、出資に至らない、あるいは出資額が小さくなり、起業家はM&AやIPOを達成しづらい環境でビジネスをすることになる。結果的に市場が活性化しないという悪循環に陥ってしまうのだ。

それなら、女性が主導する投資機関や、あるいは投資判断の担当者が女性であれば良いのか?これは難しい問題で、女性だからと言って必ずしも女性の健康問題に精通しているわけではないので一概に「Yes」とは言えない。またVC業界は男性が圧倒的に多いため、女性視点を失い、思考が”男性化”してしまっている女性もいる。

この課題はフェムテック新興企業だけに当てはまるものではない。大手企業であっても、男性が主導する部署、あるいは男性的思考の強い部署の場合、フェムテックでの新規ビジネス立ち上げや企画・開発は困難を極めることもある。「女性視点を大事にすること」と「女性特有の健康問題に関する正しい知識を持ち、女性ニーズを知ること」。この2つが、投資側にも開発者側にも必要だ。

(4)消費者側の低いヘルスリテラシー

フェムテックユーザーとなる女性消費者側のヘルスリテラシーが低いことも、市場の活性化を阻んでいる。

いくら健康的・医療的価値の高いフェムテックが登場したとしても、ユーザーサイドが必要性を感じなければ、そのプロダクトのローンチは意味を成さない。それ以前に、そのプロダクトにアクセスするだけの十分な情報リテラシーやヘルスリテラシーがなければ、「欲しい・欲しくない」の判断に迷うことすらもない。つまり、女性消費者のニーズが顕在化されないということだ。

女性自身であっても自分の体のことをよくわかっていない人は実に多い。日本医療政策機構が女性を対象に行った調査(2018年)では、「これまでに受けた性や女性の健康に関する教育のうち、学校でもっと詳しく聞いておきたかった内容は?」という質問に対し最も多かった回答は「女性に多い病気のしくみや予防・検診・治療の方法」で48%と半数にも上った。女性特有の健康問題に関する知識を、女性自身であっても有していないことがわかる結果だ。

市場の活性化には、業界のヘルスリテラシーや開発力向上のみならず、消費者のヘルスリテラシーを底上げすることも重要だ。

 

フェムテック市場はどうなる?未来予測

現状の課題を踏まえると、今後のフェムテック市場では多様化が急進すると予想される。なおここで言う「多様化」は、主に以下3つの視点があると考えている。各項目は若干被る部分もあるが、フェムテックビジネスを発想する際の視点の持ち方として参考にしてほしい。

<1.対象疾患(健康問題)と対象年齢の多様化>

“各年齢”で訪れる女性特有の”様々な健康問題”に着目したプロダクトの登場が予想される。今から1〜2年ほどで世界的な活況が見られるようになるだろう。

<2.対象クラスターの多様化 〜主にマイノリティ〜>

LGBTQ+や持病者といったマイノリティクラスターを対象にするなど、対象クラスターの多様化も徐々に進んでいくだろう。実際に、LGBTQ+への配慮から「女性向け」という表現をやめ、ジェンダーレスを謳うセクシャルウェルネスのアイテムもすでに登場している。

持病者を対象にするフェムテックも期待大だ。持病や後遺症により生活不便を強いられている人をサポートするプロダクトは、これからの注目カテゴリー。なお持病者を対象にする際は、2次予防領域か3次予防領域のいずれかになるが、開発難易度やコスト面から考えると、3次予防領域の方が先に活性化するのではと見ている。

<3.男女共通の疾患領域における性差への着目>

これはもう少し先になると考えられるが、女性特有ではない男女共通の疾患を対象にしたフェムテックもやがて登場するだろう。今は女性特有の疾患・健康問題を対象にしたプロダクトが主だが、今後は、高血圧や糖尿病など男女共通の疾患・健康問題に着目する動きも出てくるはずだ。

男女共通の疾患・健康問題であっても、罹患した際の心身の状況や、治療による副作用で直面する悩み・困りごと・ニーズ・生活状況には性差がある。こういった性差に着目し、その病気にかかったことで生まれる女性特有の困りごとを解決するプロダクトというのは、世の中にほとんどない。性差医療・性差ヘルスケアの歴史そのものが浅いことも関係しているが、今後この分野は発展が見込まれているので、同時にフェムテック業界でも注目されるカテゴリーへ成長するだろう。

以上が、今後の動向予測。とは言えこれらは、フェムテックへの投資不足という市場の課題が同時にクリアされてこそ。そして、女性消費者のヘルスリテラシー向上による需要拡大も必須条件。フェムテック市場に参入するなら、全方位への配慮は欠かせない。

 

 

 

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