ワーク・ライフ・バランスとは?基礎知識と現状の課題

少子化や高齢化社会を背景に、女性や高齢者を積極的に雇用する企業が増えてきた。ここで重要になるのが、ワーク・ライフ・バランスを考えた働き方改革。ワーク・ライフ・バランスを巡る現状や課題とは?

ワーク・ライフ・バランスの基礎知識

ワーク・ライフ・バランスとは

ワーク・ライフ・バランスとは、仕事と生活のバランスを取り、両方を充実させる働き方や生き方のこと。「生活も大事にしながら仕事をするバランスが大事」という考え方や仕組みのことで、仕事よりもプライベートを優先させるという意味ではない。ワーク・ライフ・バランスでは、個人の生活や人生の段階に合わせて多様な働き方を選べることを理想としている。人生にはいろいろな段階があり、それぞれのステージに合わせた働き方が必要だ。たとえば、若いときは比較的自由に仕事ができるが、家庭を持ったり子どもができると家族との時間も考慮しながら働かなければならない。

長時間労働による 健康被害が問題視され、 職場での男女均等が進み、テレワークや在宅勤務など多様な働き方を求める人が増えている今、 多くの企業がワーク・ライフ・バランスの実現に向けた取り組みを実施している。内閣府では「仕事と生活の調和(ワーク・ライフ・バランス)憲章」を策定、国や地方公共団体も積極的に推進している。

以下動画は、岐阜市公式チャンネル「考えよう!ワーク・ライフ・バランス~女性が働きやすい社会へ~」。

ワーク・ライフ・バランスが重視される理由

人口減少時代を迎えたことで労働人口が減少し、企業には「多様な人材の活用(ダイバーシティ)」が求められている。そこで、これまで労働力として認識されてこなかった子育て期の女性や親の介護を抱えた人、高齢者などが重要な人材となってきた。しかし、こうした人材に活躍してもらうには「働き方に関する支援」や「柔軟な働き方の提供」が必要になる。たとえば、女性の場合は出産・育児と仕事の両立が可能になるような支援が必要。介護を行う人の場合は介護と仕事の両立支援が必要。ワーク・ライフ・バランスが重視されるようになっているのは、多様な人材が活躍できる体制づくりに迫られていることが大きい。

ワーク・ライフ・バランスを実現するメリット

女性ワーカーのメリット

ワーク・ライフ・バランスを実現している企業で女性が働くメリットは、次のようなものがある。

  • 多様な働き方ができる
    時短勤務、リモートワーク、在宅勤務など、自分の都合に合わせた働き方ができる
  • 出産・育児、介護、通院など、仕事との両立が可能
    出産・育児、介護と仕事が両立できるようになるため、各ライフイベントを迎えても離職せずにすむ
  • 生産性向上やモチベーションの向上
    プライベートが充実し、仕事に対するモチベーションも向上
  • 健康を損なわない働き方ができる
    過剰業務・労働に陥らないので、健康を維持できる環境で仕事ができる

企業のメリット

ワーク・ライフ・バランスを導入すると、企業は次のようなメリットがある。

  • 女性ワーカーが会社に定着する
    休暇取得や復職支援に関する制度が整い従業員は多様な働き方を選択できるので、出産や育児を経ても働き続ける女性が増える。人材確保が重要課題である今、せっかく育てた優秀な女性ワーカーが家庭の事情で退社してしまうのは、会社にとっては大きな痛手。ワーク・ライフ・バランスで女性の離職が減れば、女性管理職の育成や成長にも貢献できるだろう
  • 優秀な人材の獲得や定着
    労働条件が見直され ワーカーが働きやすい環境が整うため、ワーカーが離職しにくくなる結果、優秀な人材の獲得や定着につながる。ワーカーを大切にする会社、柔軟な働き方ができる会社として対外的にもアピールできるようになり、採用にも良い影響を及ぼす
  • 労働生産性の向上
    優秀な人材を確保できること、ワーカー一人一人の仕事に対するモチベーション向上により、労働生産性が上がる

ワーク・ライフ・バランス推進の現状と課題

ワーク・ライフ・バランス推進の現状

第1子を出産する前後の女性が、仕事を辞めずに継続して就業する割合は上昇しつつある。一方で家事や育児に参画する男性の割合はまだ低い。男性にも育休を認めている企業は多いが、実際に制度を利用している男性ワーカーは少ない。

以下図は「6歳未満の子どもをもつ夫の家事関連の行動者率」。共働き世帯であっても(以下左グラフ)、「家事」「介護・看護」「育児」「買い物」は夫の行動者率は圧倒的に低く、妻側に負担が強いられていることがわかる。

続いて以下グラフは「介護・看護を理由に離職・転職した者」の男性・女性比率。こちらも圧倒的に女性の方が離職・転職が多いことが分かる。

女性がワーク・ライフ・バランスを実現した働き方をするには、 柔軟な働き方の導入や、夫の積極的な育児・家事・介護参加が必須だ。しかし現状は女性が一方的に負担や我慢を強いられ、家事と仕事の両立に奔走している姿がうかがえる。社会も企業も「女性活躍を!」と声高に叫ぶ一方で、家ゴトに関しても女性に完璧を求める。これでは女性は疲弊してしまう。ワーク・ライフ・バランスの実現はまだまだほど遠いのが現状だ。

勤務時間については、週労働時間60時間以上の労働者の割合は低下しつつあるが、2016年、2017年ともに7.7%と変わっていない。

ワーク・ライフ・バランスを推進する上での課題

ワーク・ライフ・バランス推進には、例えば次のような課題が挙げられる。

  • 施策だけが先行してしまう
    労働時間を減らすなど施策だけが先行しても、持ち帰り残業が常態化すれば、かえって生産性は低下。ルールを決めるだけでなく、適切な業務量を設定したり、新たに人材を採用することが求められる
  • ワーカーの間で不公平感が生まれる
    育児休暇や介護休暇などを利用できるのが特定のワーカーに限定される休暇を充実させると、制度を利用できないワーカーが不満を抱えやすくなる。特定のワーカーだけが優遇されるような支援だけを充実させてしまうと、仕事へのモチベーション低下にもつながりかねない。有給休暇を長くする・取得しやすくするなど、公平な福利厚生を心がけたい

ワーキングマザーの仕事は自然と女性社員がカバーすることになる。しかも子育て中の社員に負担をかけられないとする暗黙の了解が社内や管理職にあり、結果的にシングル女性や既婚で子どものいない社員にその役回りは集中した。ワーキングマザーが少なければ一時的な負担増なので周りも辛抱できた。でも今はフォローが常態化していて、子どものいない女性に不平・不満がたまっている。「職場の飲み会があったとき、それとなく男性課長に相談したこともあります。『(略)今は女性活躍推進の時代でしょ。女同士なんだからうまくやってよ』と頼りにならない返事でした。男性にとっては他人事なんですよね」と木谷さんは締めくくった。(引用:「働く女性 ほんとの格差(日経プレミアムシリーズ)p.66」石塚由紀夫

  • 残業時間削減に伴う給与減額
    ワーク・ライフ・バランスで残業時間が減ると、それに伴って給与の減額が生じるケースもある。これまで給与の中で残業手当の割合が多かったような会社では、ワーク・ライフ・バランスを実現することで大幅な給与ダウンにつながる。ワーク・ライフ・バランスや働き方改革を推進しようとすると、ワーカーの反発を招くケースがあるが、給与減額を心配していることが大きな要因。健康経営基本給や賞与のアップなどを検討する必要があるかもしれない
  • 粘り強い意識改革が必要
    長時間労働を美徳とする日本企業ならではの悪しき風潮の蔓延で、ワーク・ライフ・バランスを推進しようとしても「定時で帰るのは抵抗がある…」「(いつまでも残業している)上司よりも先に退社できない」などの意識が強く残っているため、社内風土がなかなか変わらないといったケースは多い。“必要のない残業” “無意味な忖度”がはびこっている場合は、まずは意識改革が必要だ

注目を集めたのは、「自分の仕事が終わったら帰る」と考える社員の比率。48.7%が「用がなければ帰宅する」と答えた。(略)「この数字を、『最近の若者はワークライフバランスに対する意識がますます高まっている』などと解釈しては本質を見誤る。ここはむしろ、残りの51.3%、2人に1人が『用がなくても帰らない』という現実を重く受け止めるべきだ」。人材育成を得意とする経営コンサルタントの木村勝氏はこう強調する。(引用:日経ビジネス まるわかり働き方改革,p.48

ワーク・ライフ・バランスの取り組みに関する企業事例

実際の企業のワーク・ライフ・バランスの取り組みを見てみよう。厚生労働省では「仕事と生活の調和推進プロジェクト」を実施しており、以下はこれに参画している企業の実例だ。

キヤノン株式会社

グローバル企業として日本だけでなくアジアや欧米にもワーカーを抱えるキャノンでは、各国や地域の労働慣行を考慮した柔軟な働き方を促進している。休暇制度としては、30分単位で取得できる時間単位休暇制度を導入し、育児や病気の際に休暇を取りやすくした。育児休業制度は子どもが満3歳に達するまで利用できる。育児短時間勤務制度では、1日2時間までの短縮を小学校3年生修了まで利用できる。長時間労働削減については、原則として時間外労働を禁止し、有給休暇の取得促進や生産性の向上などで働き方を見直した結果、2017年の一人当たりの総実労働時間は1,735時間となり、全社で前年比64時間減少を達成した。

日産自動車

2015年から「Happy8」という働き方改革プログラムを導入し、ワーク・ライフ・バランスの実現に取り組んでいる。1日8時間の業務時間を意識して、生産性高く仕事をし、仕事・生活・健康を充実させることを目指している。 育児介護を抱えたワーカーの両立支援にも力を入れ、 コアタイムなしのフレックス勤務制度、半休制度、在宅勤務制度などを用意。育児・介護両立者の在宅勤務については所定労働時間の50%まで認めている。長時間労働削減に関しては、労働時間のモニタリング、オフィス一斉消灯、ノー残業DAY、毎月最終金曜日に早い帰宅を促す「Happy Friday」制度などで取り組んでいる

日立製作所

「個性と多様性を生かした、働きがいのある、グローバルな職場環境」を掲げ、女性のキャリア促進やライフスタイルに合わせた働き方ができる「ワーク・ライフ・マネジメント」に積極的に取り組んでいる。仕事と家庭の両立支援制度としては、フレックス勤務制度、裁量労働制度、短時間勤務、回数制限なしの半日年休、在宅勤務(原則として総合職が対象)、家族看護休暇などを整備、2016年には新たに「育児・仕事両立支援金」制度を導入した。これにより、 子1人につき年間最大10万円を小学校3年修了まで支給する。出産・育児休暇後の女性の職場復帰率は98.5%、定着率は98.0%(いずれも2017年)と高い水準である。

 

ワーク・ライフ・バランスを実現して誰もがいきいきと働ける社会に

ワーク・ライフ・バランスを意識した働き方改革を押し進めることで、 ワーカーが自分のライフスタイルに合った働き方を選択できるようになり、仕事への意欲とやりがいを維持して働くことができるようになる。まだまだワーク・ライフ・バランスは発展途上だが、企業が主体的に取り組むことで、 ワーカー一人ひとりの意識が高まり、ワーク・ライフ・バランスを言葉だけでなく、実質のあるものとして社会に浸透させることができるだろう。

 


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