【女性特有の健康問題】闘病生活のリアル、摂食障害編
摂食障害の代表である「拒食症」「過食症」を聞いたことがある人は多いだろう。圧倒的に女性に多く特に思春期・青年期の若年で好発する疾患で、国内にはわかっているだけでも21万人もの患者がいる。だがその実態や正しい知識を理解している女性は多くなく、また国が治療環境改善を推進するも整備は思うように進まず、社会的に問題提起はされながらも、事実上は完全に取り残されている。本人のみならずその家族は、苦しい闘病生活を数年〜十何年と長い間強いられているのが現状だ。
毎年6月2日は、摂食障害に対する理解を深める世界摂食障害アクションディ。女性に多い健康問題の一つとして、理解を深めよう。
若年女性に多い摂食障害
摂食障害は食行動の異常が見られる疾患のこと。一般に知られている「拒食症(神経性やせ症/AN)」「過食症(神経性過食症/BN)」はどちらも摂食障害にあたり、前者は低体重であっても食事量を制限・絶食したり痩せるための行動をとり、後者は頻繁に過食をしたり、嘔吐など痩せるための行動をとるといった食行動が見られる。
摂食障害の推定患者数は約21万人(平成29年精神保健福祉資料)。10〜20代の思春期・青年期で発症しやすく、男女比は1:6〜1:10と圧倒的に女性に多い。近年は患者の低年齢化・高齢化・遷延化が指摘されている。
怖いのはそれによる心身への様々な影響で、極端な体重減少・増加、無月経あるいは不規則になる、性成熟の停止、便秘、むくみ、疲労、貧血、骨粗しょう症、胃腸障害、無欲状態などが引き起こされ、死に至ることもある。
摂食障害の要因は複雑に絡み合っているが主に考えられているのは以下で、これらを誘発する主な因子は、「人から太っていることを指摘される」「学業成績への不満足」「入学・単身生活の開始などによる自立」といった心理的ストレスとされている。(参考:女性医学ガイドブック2016/厚生労働省における摂食障害対策令和2年)
- 社会的要因…スリム体型思考の社会的風潮、養育・教育の歪み
- 心理的要因…自己同一性の葛藤、家族病理(例:一人親、虐待などの家族環境など)
- 身体的要因…間脳の脆弱性(食欲中枢、情動中枢、自律神経中枢)
摂食障害に関する女性たちの認知
女性に圧倒的に多い摂食障害だが、実は女性たち自身の間で正しい理解は進んでいない。一般女性の摂食障害の認識(病名の認知度、摂食障害に対する誤解や偏見)に関する調査では、ある程度の認知は進んでいるもののステレオタイプや偏見が存在し、正しく理解されていないことが明らかになった(一般女性における摂食障害の認識調査,2020,日本心身医学会)。
言葉の認知は進むも、理解は曖昧
10〜50歳以上の女性4,107名を対象に「摂食障害」「拒食症」「過食症」について知っているか聞いたところ、「摂食障害」を知っている人(※)は65.7%、「拒食症」は85.4%、「過食症」は85.1%で、「摂食障害」よりも「拒食症」「過食症」の方が認知が進んでいることがわかった。(※)「よく知っている」と「ある程度知っている」の計
摂食障害 | 拒食症 | 過食症 | |
よく知っている(%) | 17.7 | 21.8 | 21.5 |
ある程度知っている(%) | 48.0 | 63.6 | 63.6 |
病名のみ知っている(%) | 27.8 | 13.7 | 13.9 |
聞いたこともない(%) | 6.5 | 0.9 | 0.9 |
ちなみに同調査では、女性特有の他の健康問題の認知率も調べており、「子宮頸がん」について聞いたところ、知っている人は63.7%(※)。「拒食症」「過食症」は「子宮頸がん」よりも知られていることがわかった。(※)「よく知っている」と「ある程度知っている」の計
誤解・偏見がある摂食障害
前述の通り「摂食障害」「拒食症」「過食症」の言葉の認知はある程度進んでいる。だが正しい理解はされておらず、誤解や偏見があることも同調査でわかった。以下の各項目は全て「摂食障害」「拒食症」「過食症」に関する誤解や偏見(つまり、いずれも必ずしも正しいとは言い切れない)なのだが、それについて「そう思う」「少しそう思う」「あまりそう思わない」「そう思わない」「無回答」を選択してもらって誤答率を調べたところ、次の結果となった(以下は誤答率が高い順のランキング=誤解されている項目ランキング)。
- 1位:摂食障害はダイエットが一番の原因だ(67.7%)
- 2位:拒食症の人は自分の意志で拒食をしている(36.0%)
- 3位:過食症の人の多くは肥満だ(31.6%)
- 4位:過食症の過食は強い意志があればやめられる(26.8%)
- 5位:摂食障害から完全に回復することは可能だ(21.1%)
- 6位:摂食障害は母親の育て方が原因だ(20.9%)
- 7位:摂食障害は女性だけの病気だ(13.0%)
- 8位:拒食症は体重さえ回復すれば治癒する(7.1%)
- 9位:過食症は食べすぎるだけで大きな問題ではない(4.3%)
- 10位:摂食障害の治療に家族は関与不要(4.0%)
- 11位:摂食障害はストレスが関係する疾患だ(2.6%)
- 11位:拒食症はやせているだけで特に問題がない(2.6%)
この調査結果についてレポートでは、メディアの偏った情報や教育不足の影響も一因となり、誤解や偏見を高めている可能性があると指摘している。上記項目の正しい理解や誤答の背景などについては、同レポート内(p.168,2.摂食障害への誤解と偏見)に掲載。
闘病生活のリアル
ブログサービスのアメブロには#摂食障害に関する記事が数多く投稿されている。闘病生活を自分自身で記録(あるいは回顧)しているものが主だが、母親が娘の闘病生活を綴っているケースも目立つ。摂食障害は中高生の思春期での発症が多いからだろう。
太ること・食べることへの恐怖と闘う娘の「食べるのが怖い」「体重計で40kgの数字を見るのが怖い」「お母さんがご飯をよそう姿を見るのが怖い」といった気持ちに寄り添おうと懸命に努力する母親の姿や、摂食障害の次女とそうではない長女を同時に育てる難しさなど、母親たちのリアルな苦悩や困りごとを読み取ることができる。
摂食障害の本人が投稿しているブログには、大量のお菓子・菓子パン・揚げ物の写真や、自己否定、後悔、希死念慮の言葉が。中には「22年間の摂食障害を乗り越えた」という女性も。
治療環境は不十分、摂食障害のビジネス海外事例
チーム医療で摂食障害の患者を治療する体制が整っている欧米と異なり、日本では専門医や対応可能な治療施設が絶対的に不足しており治療環境の整備が遅れている。2014年に摂食障害治療支援センターの設置が国の主導で始まったものの(※)、未だ全国で4カ所のみにとどまっている(宮城県、千葉県、静岡県、福岡県)。
この状況について編集部が厚労省に問い合わせたところ、支援センターの設置は各都道府県ごとの判断となるため国がコントロールできるものではなく、思うように進まないのが現状とのこと。最終的には全国で均一の治療を患者に提供できるよう各地域での設置を目指していると言っていたが、この調子では何十年かかることやら。行政に頼るより、民間企業の力で何とかする方が早そうだ。(※)厚生労働省における摂食障害対策,令和2年
米国では摂食障害に特化したオンライン診療サービスが登場しており、フェムテックベンチャーとしても注目されている。EQUIP(米)は、医師・栄養士・セラピスト・ピアメンター・家族メンターがチームとなって治療を行うオンラインサービスで、特筆すべきは、摂食障害の子を持つ親など家族の負担軽減を訴求している点だ。摂食障害の治療は家族の協力が大きな役割を果たしており、故に、親の仕事や生活は大きく制限がかかってくる。というのも、摂食障害は精神症状と身体症状のそれぞれで多様な症状が出るため、他科横断的な治療を必要とするからだ。各科への通院、各専門家との面談、自宅での食事管理やメンタルケアなど、家族は日常的に複数の場所・人と関わりながらケアをしなくてはならない。
その時間的・物理的負担に着目したのがこちらのサービスで、サービスコンセプトは「家族が治療に合わせて生活を変えるのではなく、治療が家族のスケジュールに合わせる」。オンライン上で予約・治療・データを一元管理できるようにすることで、家族の負担を大きく軽減。QOLを維持しながら子の治療を効率よく着実に進めることを可能にした。摂食障害の患者とその家族を対象にしたビジネスの好事例だ。
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繰り返しになるが、日本の患者数はわかっているだけでも21万人。実際にはもっと多く存在すると言われているので、それなりの商機は眠っている。画期的な商品・サービスの登場が待たれる。
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