ヘルスケア業界にもやってきたアップサイクルブーム 見事に生まれ変わった商品事例
これまでアパレル業界で活発だったアップサイクル。最近は食品・健康・美容などヘルスケア業界でも見かけるようになり、今年は特に食品領域での関心が国内外で高まっている。事例はまだ多くはないものの、SDGsが後押しとなり、このブームは徐々に成長していく気配。ヘルスケア業界では、どんなアップサイクル商品が登場している?アップサイクルしたことでヘルスケア商品に生まれ変わった国内の最新事例をリサーチした。
目次
アップサイクルとは?
アップサイクルとは、本来であれば捨てられるはずの廃棄物に価値を加えることで、新たな素材・製品に作り替えること。廃棄物を回収して再資源化・再利用するリサイクルとは異なり、廃棄物をより良いモノにアップグレードするのが特徴だ。
国内でアップサイクルを切り口にしたビジネスが見られるようになったのはいつからなのか?プレスリリース配信の主要3サイトを手がかりに調べたところ、「アップサイクル」の言葉を使ったリリースが登場するのは2010年以降(参考:PR TIMES,アットプレス,共同通信PRワイヤー)。大量廃棄が国際的に問題視されてきたファッション業界が牽引し、廃棄予定の洋服をバッグ、アクセサリー、洋服などに作り替えるといった、いわゆるリメイクを軸としたビジネスが見られるようになった(ファッション業界におけるアップサイクル商品は、一般的なリメイクよりもデザインが重視されているのが特徴)。
だが肌感として誰もが認識する通り、アップサイクルはビッグトレンドへ成長することはなく、ビジネス面での課題が度々指摘されてきた。実際にアップサイクルに取り組むアパレルベンチャーらは、「事業自体には多くの方が共感をしてくれるが、アップサイクルを理由に商品を購入いただけるケースはまだ少ない」と語っている(伊藤忠「注目集める『アップサイクル 』ビジネス」2019)。消費者にとってアップサイクルであるか否かは、購入時の基準になるほどの魅力はないということだ。
しかしここ最近になり、世の中の空気に変化が。世界的なSDGsの流れが追い風となり、特にこの1年ほどでアップサイクルへの社会的関心や評価は上昇。女性たちにとっては、おしゃれなアイテムとして(あるいはトレンドキーワードとして)注目されるようになってきた。世界的な人気を誇る女性ファッション誌VOGUEも、2020年6月から「アップサイクル 」に関する記事を定期的に公開。電線をアップサイクルした洋服や、コーヒー豆の出がらしをアップサイクルしたコーヒーカップなどを紹介している。ラグジュアリーブランドのルイ・ヴィトンも先月、アップサイクルを取り入れたバッグ「フェルト・ライン」を発売した。今や、世界の最先端を行く女性誌やラグジュアリーブランドまでもが、アップサイクル商品を堂々と売り込む時代なのだ。
アップサイクルで生まれたヘルスケア商品事例
アップサイクル商品の登場が相次ぐ今、ヘルスケア業界もこの新トレンドに積極的な姿勢を見せている。これまで廃棄されてきたモノに新たな価値を加え、見事にヘルスケア商品へと生まれ変わらせた事例を見てみよう。
規格外のジャガ芋を除菌ウエットティッシュに(カルビー)
今月、規格外のじゃが芋をアップサイクルした除菌ウェットティッシュが誕生した。カルビーがサイズや形状の面で規格外となる小玉のじゃが芋を、株式会社ファーメンステーション(東京・墨田)に原料として提供。ファーメンステーションはエタノール除菌ウェットティッシュ「じゃがいもとお米の除菌ウエットティッシュ」を開発した。カルビーは同商品を、自社の販促物として利用する他、関係者への配布物として活用する。
ファーメンステーションは独自の発酵技術を用い、未利用資源を活用した化粧品や食品の開発を行っており、これまでにも、JR東日本スタートアップ株式会社との協業ではリンゴを、全日空商事株式会社との協業ではバナナを活用して除菌ウエットティッシュを開発している。
米ぬかをスーパーフードに(サンスター)
サンスターグループも今月、アップサイクル商品「健康道場ライスブラン生活」の発売を開始した。使用したのは米ぬか。米ぬかは玄米から白米部分を取り除いた果皮・胚芽部分で、食物繊維やビタミン、ミネラルなど玄米の約80%の栄養が集中している栄養豊富な食材。だが「食べ方がわからない」「ニオイや味が気になる」などの理由から実際に食べたことがある人は少なく、精米時に廃棄されるのが一般的。この「栄養価が豊富だが廃棄されている」という現状に着目してアップサイクルしたのがこちらの商品。
ちなみに米ぬかは、今・これからをときめくスーパーフード。日本スーパーフードが先日発表した2022年のスーパーフードのトレンド予測で、米ぬかは5位にランクインした(2022.6発表)。これからの注目食材だ。
廃棄食材を野菜チップスに(オイシックス・ラ・大地)
食品のサブスクサービスのオイシックス・ラ・大地は今月、アップサイクル商品を販売する新サービス「Upcycle by Oisix」を開始した。
同サービスの中で第1弾として発売したのは2種。冷凍ブロッコリーのカット工場で、花蕾をカットしたあとに残る茎を活用した「ここも食べられるチップス ブロッコリーの茎」と、大根の漬物工場で廃棄される大根の皮を使った「ここも食べられるチップス だいこんの皮」。廃棄食材に下処理を施し食感と甘味をコントロールし、味付けに天日塩とてんさい糖を使用。廃棄物をヘルシーな野菜チップスに蘇らせた。
同社は持続可能な社会の実現に向け、これまでにも食品ロス削減につながる取り組みを進めており、今回発売した2商品においては、ブロッコリーの茎と大根の皮をアップサイクルすることで、月間約2トン以上のフードロス削減につなげる。
廃棄食材をヘルシースナックに(スナックミー)
おやつのサブスクサービスのスナックミーも、食品ロス削減を目指し、アップサイクル に着目したビジネスを始めている。昨年春に「アップサイクルシリーズ」としておやつの開発を開始。形・サイズ・色などの規格外を理由に廃棄されることになった果物・野菜・ナッツを生産者などから買い取り、グラノーラやシリアルバーなどを順次開発・発売している。
アップサイクルと健康的価値の両立を
本稿の制作にあたりウーマンズラボ編集部が、アップサイクルで生まれた国内外のヘルスケア商品をリサーチしたのだが、国内事例は健康的価値の面で弱い印象だった。もともとリサイクル文化が根付いている欧米は、アップサイクルの商品事例が豊富な上に健康的価値が明確なものもよく見かける。消費者の受容性も高いようだ。一方で日本はリサイクル率が世界的に見て低いことからも想像できる通り、この分野においては後進国。アップサイクル商品そのものがまだ少ない上に、明確な健康要素を含んでいるものをほとんど見かけない。
「アップサイクル」と「健康的価値」、この両方を追求できた商品であれば、そのアップサイクル商品を購入してもらえる明確な理由が生まれる。「アップサイクルしたからこそ生まれた健康的価値」を提供できる商品であれば商品力はさらに強くなり、なおよしだ。健康意識のある女性たちに振り向いてもらうために、ぜひ “両立” を意識した商品開発を。
女性の健康食品の選択基準は?
小林製薬の紅麹サプリを巡る問題で、健康食品への不信感や動揺が消費者の間で広がっています。特に男性よりも健康意識・健康行動者率が高い女性による “健康食品の摂取控え” が懸念されることから、健康食品を普段摂取している20〜70代女性を対象に、健康食品に対するイメージの変化や、今後の摂取意向、今後の健康食品の選択基準を調査しました。女性たちのリアルな声からは、今後の健康食品の開発・販促・コミュニケーション設計のヒントを見つけることができます。詳細は「紅麹サプリ問題で、健康食品の選択基準に変化 女性消費者分析でわかった88キーワード」へ。
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