化粧品開発の現場から探る美容市場の最新動向、トレンド・ニーズ・技術の融合で生まれた製品5選
本稿は、化粧品の原料販売やOEM・ODM事業を行うホシケミカルズ株式会社による寄稿記事です。前回の「異業種から化粧品市場への参入動向」に続き今回のテーマは、化粧品アイテムの開発トレンド。同社が保有する顧客データと化粧品開発の具体的な事例を取り上げながら、最新の開発トレンドを見ていきます。
最新の化粧品アイテムのトレンドを総括
近年の美容トレンドのひとつに、“美容成分”を意識して化粧品を選ぶという消費行動があります。「成分買い」「成分指名」「成分推し」などと呼ばれ、当初はスキンケアアイテムを中心に見られた消費行動でしたが、現在はメイクアップやボディケア、ヘアケアにも広がりを見せています。背景には、美容医療が身近になったことによる肌への投資意識の高まりや、肌の状態に合わせて美容成分を選ぶことで、より高い効果感を期待する心理などがあります。
ヘアケアについては、スキニフィケーション(頭皮のスキンケア化)という考えも浸透し、頭皮も顔同様にケアする意識が高まっています。その他、新型コロナ5類移行による脱マスク・外出機会の増加や、猛暑の影響でUVケア・ベースメイク領域も活発です。1年を通してUVケアニーズが高い点も見逃せません。紫外線から肌を守るだけでなく、シミやしわなど肌ダメージの予防、アンチエイジングといった美容効果を重視する傾向も顕著です。肌負担の軽減や猛暑によるメイク崩れの懸念から、素肌ケアに力を入れてファンデーションを使用しない“ノーファンデ層”の需要も続くとみられます。
問い合わせデータから見る人気の化粧品カテゴリー
3大開発トレンドは「スキンケア」「ヘアケア」「メイクアップ」
続いて、業界側の視点から化粧品の開発トレンドを見ていきましょう。2024年度の1年間に当社に寄せられた化粧品OEM開発に関する問い合わせデータをもとに、開発の要望があったアイテムを10カテゴリーで分類したところ、「スキンケア」が約29%、「ヘアケア」が約19%、「メイクアップ」が約17%、「ボディケア」が約12%、「UV(日焼け止め)」が約9%、「口腔ケア」が約4%、「健康食品」が約2%、「ネイル用化粧品」と「ペット用化粧品」が約1%、「指定医薬部外品」が約0.3%という結果でした。
1位の「スキンケア」は、これまでも安定して問い合わせがありましたが、2位の「ヘアケア」と4位の「ボディケア」は、近年になり顕著に伸長が見られる化粧品カテゴリーです。「スキンケア」や「メイクアップ」といったレッドオーシャンの市場と比較して、まだ顕在化していない消費者ニーズが存在し、今後のビジネスにおいて成長が期待できる領域であることを裏付けるものと見ています。実際に、これらのカテゴリーでは、ありそうでなかった隙間ニーズを突いた開発コンセプトや、ニッチながらも確かな需要が見込めるであろうターゲット層を想定した問い合わせも見られました。

【画像】2024年度の問い合わせデータを元にホシケミカルズ作成。「その他」に含まれるのは、コンセプトやターゲット、使いたい成分や認証(ハラール認証、エコーサート認証)は決まっているが具体的な化粧品カテゴリーやアイテムが未定、アロマオイルや潤滑ローションといった雑貨など
1位:スキンケアの内訳と傾向「細分化が進行」
最多のスキンケアは、約29%と全体の3割近くを占めました。内訳は、クレンジングローション・ジェル・ミルク・クリーム・オイル・バーム、洗顔フォーム・ジェル・クリーム、ブースター(導入液)、化粧水、美容液、乳液、オイル、バーム、オールインワンジェル・美容液・クリーム、アイクリーム、マッサージクリーム、パック、男性用化粧品、水素化粧品などです。
近年の傾向としては、クレンジングを例に見ると、ローション・ジェル・ミルク・クリーム・オイル・バームなど、様々な剤型で開発の要望があり、ターゲット層や使用目的ごとに、かなりの細分化が進んでいることがわかります。
2位:ヘアケアの内訳と傾向「スペシャルケア品が伸長」
次いで2位はヘアケアで、約19%と全体の2割を占めました。内訳は、シャンプー、クリームシャンプー、コンディショナー、トリートメント、ヘアクリーム・ミルク・オイル、セットローション、スカルプ・頭皮ケア(クレンジング、エッセンスなど)、ヘアトニック、育毛剤(医薬部外品)、養毛用化粧品などです。
近年の傾向としては、シャンプーやコンディショナーといった基本のお手入れアイテムに加え、育毛剤や頭皮ケアなどスペシャルケア品の伸びが見られます。特に育毛剤は、これまで男性向けが大半でしたが、美髪課金ブームやスキニフィケーションの浸透を背景に、特に女性向けの問い合わせが増えています。
3位:メイクアップの内訳と傾向「猛暑対応型の需要高まる」
3位はメイクアップで、約17%を占めました。内訳は、化粧下地(プライマー)、パウダー・リキッド・クリームファンデーション、クッションファンデーション、メッシュファンデーション、BB・CCクリーム、コンシーラー、フェイスパウダー、化粧崩れ防止(メイクキープ パウダー・リキッド)、チーク、アイシャドウ、アイブロウ、アイライナー、マスカラ、口紅 、リップグロス、リップクリ-ム、リップバーム、マットリップ、プランパーリップなどです。
近年の傾向としては、日中もスキンケア効果が期待できるベースメイク品や、近年の猛暑の影響で”過酷な使用シーン”を想定したメイクアップを開発したいといった要望が増えています。
4位以降:ボディケアはフェムケアが伸長
4位には約12%の「ボディケア」が入り、デオドラントやフェムケアといった具体的な要望が見られました。続いて5位の「UV(日焼け止め)」は約9%となり、高いSPF・PA値とスキンケア効果を兼ね備えたアイテムへのニーズが顕著でした。6位は「口腔ケア」が約4%で、洗口液など口臭ケアに関するものです。7位は約2%の「健康食品」で、美容視点のサプリメントなどに関するもの、8位に「ネイル用化粧品」(ネイルオイルなど)と「ペット用化粧品」(シャンプーなど)がそれぞれ約1%、そして10位に「指定医薬部外品」(殺菌消毒剤など)が約0.3%で続きました。
- 4位:ボディケア
ボディソープ、ボディローション・クリーム、ハンドクリーム、ボディスクラブ・ピーリング、デオドランド品、フェムケア(デリケートゾーン向け洗浄剤)、ミスト、クリーム、オイルなど - 5位:UV(日焼け止め)
日焼け止め、スキンケアUVなど(※UV機能付きのメイクアップ品とスキンケア品は除く) - 6位:口腔ケア
歯磨き粉、洗口液、ホワイトニングジェルなど - 7位:健康食品
ドリンク、サプリメントなど - 8位:ネイル用化粧品
ネイルオイル、マニキュア、除光液など - 9位:ペット用化粧品
シャンプー、サプリメントなど - 10位:指定医薬部外品
殺菌消毒剤、ひび・あかぎれ用など
トレンド・ニーズ・技術の融合で生まれた製品5事例
ここからは、当社に実際に相談のあった個別の要望に対し、美容トレンドや技術をどのように反映して開発を支援したのか?その事例をいくつかご紹介します。いずれも、ターゲット層に刺さる製品に仕上げるために、さまざまな工夫を取り入れました。
スキンケア:「スペシャルケア」より「日常使い」の仕様で設計
抗酸化作用や分子が小さいことによる浸透力といった美容効果への期待に加え、クリーンなエネルギーとしての社会的な注目から、水素を用いた化粧品開発の問合せが増えています。市場でよく見られるのは、使用直前に水素を発生させる2剤式ですが、スペシャルケア品ではなく毎日使いたくなる利便性の高い1剤式のスキンケア製品を開発したいとの要望でした。気体である水素の安定配合には課題があったことから、エアゾール製品に強みを持つ専門企業との技術連携で水素を噴射剤とするエアゾール缶のブースター(導入美容液)を開発。成分表示に「水素」と明記できる点も、魅力の一つとして開発しました。
ヘアケア:ブームの「美髪課金」がコンセプト、若年女性向けの育毛剤
育毛剤は、「女性用・男性用なのか?」に加え「どの年代に向けたものなのか?」といったターゲット設定と、それに合わせた使用感を追求する必要があります。Z世代〜30代女性をターゲットにしたいということで、未来のための美髪課金というコンセプトのもと開発しました。毎日使いやすいようアルコールの配合量を抑え、嫌な匂いや、男性用によく見られる過度な清涼感を低減し、海藻エキスや米ぬかエキスなど、育毛への期待感を醸成できるような天然由来成分も配合しました。
ボディケア:デリケートゾーン市場に後発参入、女性向け試験実施で差別化
洗浄アイテムを筆頭にフェムケアを謳ったデリケートゾーンケア品が増えつつある市場で、差別化したクリームを開発したいとの要望でした。肌表面に保護ヴェールを作ることで、下着などの摩擦ダメージを軽減し、汚れが直接付着することを抑制する保護クリームをベースに開発を進めました。粘膜を含む皮膚への使用における安全性を重視した独自基準を設定するとともに、膣粘膜試験などデリケートゾーンに特化した女性向け試験を実施した2種のイタリア産原料を採用。また、イタリアの製造元メーカーは、企業としてサステナビリティな活動を評価する機関の表彰を受けており、効果以外の魅力も合わせて差別化ポイントととしました。
UV(日焼け止め):ノーファンデ層の取り込みも視野に入れた設計
外出先などで気軽に塗り直しやすい日焼け止めを開発したいとの要望を頂きました。メイク直しの手間や肌負担を軽減するためにファンデーションを普段塗らない”ノーファンデ層”も視野に入れ、あえて色をつけない設計としました。その代わりに、パールを配合することでパールの微細な輝きによる自然なツヤ感とトーンアップを実現。スキンケア成分を贅沢に配合するとともに、皮脂吸着効果が期待できる成分により、化粧崩れも防止します。また、さっとお直しができるよう、容器はクッションファンデーションタイプを選択し、開発しました。
メイクアップ:美容男子に向けたBBクリーム、若年世代特有のニーズを反映
メンズメイクブランド立ち上げの第一弾商品として、美容意識の高い男性をターゲットにしたBBクリームを開発したい、という要望を頂きました。皮脂コントロールに重点を置き、皮脂吸着パウダーを配合。球状パウダーの採用により、ベタつきを抑えたサラサラ感と、毛穴を自然にぼかすメイクアップ効果を実現しました。また、男性特有の青ひげやクマを効果的にカバーするため、オレンジ系の色味を基調とすることで、男性の肌色に自然になじみ白浮きしにくい設計としました。開発過程では、従来の男性向けに見られる清涼感の付与も検討しましたが、若い世代の自然な仕上がりへのニーズを踏まえ、女性向け製品に近い自然な調色で、従来品より明るい色味への改良を重ねました。
【提供元】 ホシケミカルズ株式会社
化粧品の原料商社として1975年に創業。国内外の企業様に向け、“オリジナル化粧品・医薬部外品(薬用化粧品)・健康食品の企画・製造・技術を提供”する提案型OEM/ODM企業です。研究所は東京・埼玉の2拠点、国内4工場体制(化粧品GMP取得)、インドネシア(PT. KEMAS INDAH MAJU)では容器製造も手掛けます。メイクとスキンケアを融合したコスメや、安全性を重視したフェムケアシリーズなど、すぐに商品化も可能なオリジナル開発品も充実しています。
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