ヘルスケアトレンド(健康・美容・予防医療)2018
ヘルスケア(健康・美容・予防医療)トレンドを10キーワードでご紹介。ウーマンズが日々行っている、ヘルスケア市場の女性消費者動向・トレンドの分析予測、各種主要媒体の定点観測、ヒット商品分析、女性消費者の口コミ分析などをもとに10キーワードを選出。女性消費者のヘルスケア消費傾向・トレンド理解の参考にどうぞ!(こちらの内容は、2018年2月1日開催「健康博覧会2018」展示会でウーマンズが担当させて頂いた講演内容をもとに再構成しています)
最大の変化は「ヘルスコンシャスが消費基準」
最初に理解しておくべき点は、女性の「ヘルスケア概念の変化」だろう。以前までは、ダイエットや美肌ケア、引き締めといったヘルスケア行動は、女性にとって「服の買い物」「彼とのデート」「海外旅行」「女子会」といった様々な生活・消費行動の中の一つの選択肢でしかなかった。しかし近年は、様々な生活行動・消費行動が「健康」を中心に選択・決定がなされるようになってきた。
健康を軸とした生活・消費行動
以下のケースで考えると分かりやすい。
- <旅行>普通に旅行するより、ヘルスツーリズム型プランの旅行を選ぶ
- <住む場所>ジョギングを日課にしたいから川沿いや海沿いなど運動しやすい立地を選ぶ
- <働き方>福利厚生が充実し、ワークライフバランスを重視できる会社を選ぶ
- <食事>糖質オフ、カロリー低め、減塩、添加物が入っていないものを選ぶ
- <眼鏡>目の健康を考え、ブルーライトカット眼鏡を購入
このように、あらゆる場面で「健康を軸」とした生活行動・消費行動が行われるようになっているのが、最近の女性消費者の最も大きな特徴の一つだ。さらにこれらの行動は「健康になりたいから」と意識的に行われているのではなく、無意識的に行われるようになっている。つまり、多くの女性の生活の中に「健康の概念」が“自然となじみ始めた”と言える。
国内最大マーケットへ成長 競争激化の時代へ
医療・介護分野含めたヘルスケア市場は2025年には100兆円規模となり、国内最大マーケットへ成長すると言われている。これは、我々ヘルスケア市場に身を置く企業にとっては力強い追い風であり、また消費者にとっても多様な選択ができるようになるためポジティブな流れである一方で、マイナス面としては今までとは比較にならないほど競合が急増することだ。実際に、近年これまで健康のイメージが全くなかった大手企業が続々と、成長戦略の柱に「健康」を位置付けると発表、健康市場への参入を果たし、また、じゃらんは2018年の旅のトレンドを「へるしい旅」、クックパッドは2018年の食のトレンドを「和食・健康」としている。
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他業種からの大資本による新規参入だけではない。海外セレブたちがこぞってプロデュース・販売する化粧品は老舗化粧品ブランドを上回る人気を集め、大ヒット商品を生み出しているフローフシ(東京・港区)やI-ne(大阪市)などに代表されるベンチャー企業の躍進も目立つ。
今後さらに競争が激化するヘルスケア市場において、どうすればより多くの女性消費者の心を掴めるのか?その答えの一つが「女性の興味関心がどこにあるのか?消費傾向は今後どうなるのか?トレンドはどうなるのか?」といったことをリアルタイムで常に把握し続け、「消費者起点でモノを発想し、マーケティングを設計する」ことではないだろうか。以下10キーワードが各社様の戦略立案のヒントに繋がれば幸いである。では早速見ていこう!
【1】働き方改革・健康経営支援型の商品サービス
キーワード1は「働き方改革・健康経営支援型の商品サービス」。B to B企業だけではなく、B to C企業にもおすすめのカテゴリーだ。健康経営を行うオフィス内では、次のような商品・サービスの需要が高まっている。
- 昇降型デスク
- 仕事をしながら走れるウォーキングマシン
- 腰痛や肩こり対策のための低周波治療器
- 健康データ管理システム
- 従業員向けのヘルスケアアプリやヘルスケアポータルサイト
など
そして、企業が健康経営を行うことで(健康経営を行っていない場合もあてはまるが)、ワーカーにはこのような需要が生まれ始めている。
- ワークライフバランスを大事にしたいから生産性を高めて定時で帰りたい
- 治療と仕事を両立しながら働きたい
- 心身に過度なストレスを与えてまで仕事をしたくない(健康ファースト)
広がる、仕事と治療の両立
治療と仕事を両立しながら働く人たちを「ながらワーカー」と呼び、最近は公益社団法人ACジャパンが「ながら勤務」をテーマにしたCMを流すなど、治療と仕事の両立が広がりを見せ始めている。今後は「オンライン診療を気軽に受けられるようにしたい」「病院での待ち時間、周りを気にせず仕事ができるスペースをつくってほしい、待ち時間を減らす仕組みを導入してほしい」など、仕事と治療の両立を助ける環境や商品サービスが求められるようになるだろう。
健康経営は、ワーカーのプライベートにも変化をもたらす
社会全体の「健康に働く」という流れは、ワーカーのプライベートにも変化をもたらし始めている。平日の仕事のパフォーマンスをあげるために、日頃から「脳疲労対策」「ストレスケア対策」「疲れ対策」をしようと、個々のプライベートタイムにおけるヘルスケア意識が高まっている。ジョギングを日課にしたり、寝る前にマインドフルネスを実践したり、ヘッドスパに定期的に通ったり、トレッキングに山まで出かけたり、などなど。このような「仕事のパフォーマンスをあげるためのヘルスケア行動」の受け皿として、例えばリラクゼーションサロンやエステティックサロンは「ワーカー向けのメニュー開発」を行うなどすれば、新たな顧客開拓が可能になるだろう。
また「健康に働く」という概念の広がりにより今後、働く時間は総じて減少していくため、余暇市場の拡大も期待される。ワーケーションというスタイルも、健康経営の広がりによるものだ。
見落とされやすいオフィス型ワーカー以外のワーカー
このように見てみると、健康経営を実践する企業の増加に伴い、様々な場面でワーカーがヘルスケア商品・サービスを求めるようになることが分かる。健康経営支援型商品サービスを提供できるのは、B to B企業・データ解析やアプリ開発などのIT関連企業・大手企業が中心と思われがちだが、ワーカーのヘルスケアニーズはオフィス内だけで発生するわけではない。様々な場面でヘルスケアニーズが発生するので、ぜひ「ワーカー向け商品サービス」という視点で新たに開発・プロモーションしてみてはいかがだろうか。
ただ気を付けたいのは、健康経営支援のモノコトを求めるのはオフィス型ワーカーだけではないことだ。工場勤務員、販売員、施設スタッフ、介護病院スタッフ、教師といった、いわゆるオフィス型ワーカー以外のワーカーは「健康経営支援」カテゴリーにおいて見落とされがち。オフィス型以外の職場での女性ワーカーたちのヘルスケアニーズにも着目したい。
【2】行動変容支援型商品・サービス
キーワード2は、「行動変容支援型商品・サービス」。最近女性たちの間で人気になっているヘルスケア商品・サービスには「行動変容を手助けしている」という共通項がある。
Googleプレイベストオブ2017に入賞したアプリ「みんチャレ」は、行動変容技術とAIを使った習慣化支援アプリ。3日坊主にならないよう、様々な工夫が取り入れられている。LilyというダイエットSNSサービスも人気だ。動画でエクササイズを紹介しており、継続させる・取り組ませる工夫が取り入れられている。“一つのエクササイズを、2〜5分の短時間動画”で紹介するのがLilyの特徴だ。今まではDVDエクササイズに取り組もうとすると30~60分、フィットネスの場合は店舗まで往復する時間や着替えの時間なども含め2~3時間はかかっていたため、時間がハードルになり、継続を諦める女性も多かった。
2~5分と短時間で、隙間時間を活用して取り組めるLilyは、日々のタスクが多い女性にとっては非常にありがたく、継続のモチベーションにつながる。動画解説のためエクササイズの方法がわかりやすい点や、誰もがアクセスしやすいYouTubeやインスタグラム上で情報を展開するという「情報へのアクセスのしやすさ」も人気の要因と考えられる。
アプリ内ではメンバー同士でグループをつくって励まし合いながら取り組めるようになっており、「コミュニケーション」+「手軽さ」が、飽き性の女性の継続を後押しする。
最近注目されているVRフィットネスも、「行動変容支援型」だ。以下の動画をご覧頂きたい。
面倒で億劫になりがちな運動だが、映像を見ながらゲーム感覚で取り組むことができれば、たちまち楽しみなタスクに変わる。VRフィットネスは「運動のゲーミフィケーション」と言えるだろう。
ヘルスケア関連の類似商品・サービスが次々に登場するが、「行動変容支援」の切り口で差別化を行う商品サービスはまだまだ少ない。一方で行動変容支援型は消費者評価は非常に高いので、ぜひ行動変容という視点で開発・プロモーションを行ってみてはいかがだろうか。
【3】ヒュッゲなヘルスケア
キーワード3は「ヒュッゲなヘルスケア」。ヒュッゲとは、世界幸福度ランキングで常に上位にランクインするデンマークのライフスタイル形式のことで、今世界的に注目され始めているキーワードだ。日本語に直訳できる言葉がないのだが、「居心地いい雰囲気、あたたかい雰囲気」という表現に近い。例えば以下のようなスタイルをヒュッゲなライフスタイルだ。
- 暖炉の前で炎を眺めながらワインを飲み、家族とゆっくり過ごす
- テレビやスマホをやめて、もこもこした肌触りの良い毛布にくるまって読書をする
- 外の落ち葉や花を集めて自宅でアロマキャンドルをつくる
居心地がいい時間・空間で体と心に良いことをする
ヒュッゲの概念は、国や各専門家によってとらえ方は違うのだが、ウーマンズではヒュッゲなヘルスケアの概念を以下と位置付けている。
- 心にも体にも心地よいことをして人生を味わう
- 日々を楽しむ余裕を持つことで心と体の健康保つ
少々分かりづらいと思うので、「ヒュッゲなヘルスケア」の概念を具体的な健康行動で解説したい。
- 以前までは「最近疲れやすい」と思ったときの女性の課題解決方法は「整体やサロンに行こう」「ドリンク剤で栄養補給しよう」などだったが、最近は「毎日忙しいせいかも。週末は家でのんびり読書して過ごそう」という方法に変化
- 以前までは「最近目がかすむ」と思ったら「目に良いサプリや食材を摂取しよう」「眼鏡を変えてみよう」という行動をとっていたが、最近は「テレビやスマホを見る時間を減らしてデジタルデトックスをしよう」という行動に変化
つまり、何かをプラスαするヘルスケアではなく、「現状の環境で、居心地がいい時間・空間をつくりだし、体と心に良いことをしよう」という考え方にシフトしてきているのが「ヒュッゲなヘルスケア」だ。
過剰なモノコトを手放すシンプルライフを好む傾向
最近の女性消費者は「過剰なモノコトを手放すシンプルライフ」を好んだり、「現状を受け入れ、非日常ではなく日常を楽しみ、日常に幸せを見出す」傾向が強くなっている。このような消費行動・価値観の変化がヒュッゲなヘルスケアの広がりを今後更に後押ししていくと考えられる。
実際にヒュッゲなヘルスケアに関連する商品・サービスは女性たちにとても人気だ。「人間をダメにするソファ」「透明の瓶の中にドライフラワーとオイルを詰め込んだ観賞用インテリアグッズのハーバリウム」「大人の塗り絵コロリアージュ」などだ。他にも最近は脱デジタルをあえて実践する女性も増えており、これもヒュッゲなヘルスケアと捉えることができる。ヒュッゲの世界観を理解するには、「ゆっくり私時間(日本テレビ 金曜)」「ネコのしっぽカエルの手(NHK Eテレ 日曜)」が役に立つ。
【4】ビヘイビアヘルス
キーワード4は「ビヘイビアヘルス」。ビヘイビアヘルスとは「日々の生活の行動パターンを変え、病気予防・健康維持につとめること」を指す。例えば以下のような行動だ。
- 例:1時間おきに立ち上がる
- 例:一駅手前でおりて歩いて帰宅する
- 例:ヒールをやめてスニーカー移動することで、ウォーキング時間にする
- 例:オフィス内の通路に少し傾斜をつける
以前から「予防医学」の考え方はあったが、なぜ今になって予防医学と似た概念「ビヘイビアヘルス」が女性の間で取り入れられはじめているのか。その理由は2つある。
一つ目は、国の各施策が介護予防・疾病予防に重点を置いており、社会全体が「健康寿命延伸」に向けた流れになっていること。二つ目は「現代女性はとにかく毎日忙しく、ヘルスケアのためのまとまった時間を確保するのが難しくなった」ことだ。
実際に、「ネット上で人気になり書籍化され10万部のヒットになった『すごいストレッチ』」は、女性たちに「家事の合間にできる」「仕事しながら実践してる」「テレビ見ながら取り組んでいる」と、隙間時間でさっと取り組める手軽さと、日常生活への取り入れやすさ、理解のしやすさが評価されている。
また、今世界的に人気になっていて日本にも少しずつその流れがやってきているのが「ストリートワークアウト」だ。公園の鉄棒や平行棒を使ったコミュニケーションスポーツで、いつも利用したり通りすがる公園でちょこっと、楽しみながら運動に取り組むスタイルだ。
ビヘイビアヘルスとは、予防医学をもっと身近にライトに捉えた位置づけと言える。「身近でライトなヘルスケア」という形態・概念は、時間をとられない・少しの努力で「予防」という成果につなげることができる健康・美容法のため、一日のタスクが多い女性にこそ喜ばれやすい。予防医学よりも「身近で気軽に取り組めるビヘイビアヘルス」の概念に基づいた商品サービス開発やプロモーションは、女性に受け入れられやすそうだ。
【5】介護する家族の心・体のヘルスケア
キーワード5は「介護する家族の心・体のヘルスケア」。介護市場の話題といえば「被介護者」「介護職員の人手不足」「介護保険制度」「介護ロボットの活用」などに集中しがちで、意外と見落とされているのが「介護する家族の心・体のヘルスケア」だ。
女性の晩婚化による子育てと親の介護が同時期に発生するダブルケア問題、老老介護、介護殺人、介護離職による貧困・孤立、など家庭内の介護の現場には様々な課題があるにも関わらず、介護する家族の心・体のヘルスケアの対策は全く充実していないのが現状だ。
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家族の介護を担うのは子育てと同様に、まだまだ女性が多く、彼女たちが求めることは「介護と子育ての両立の仕組み、商品・サービス」「精神的負担や心の疲れ、体の疲労を軽減するモノコト」「情報」「マネープラン」「同じ状況の人たちと交流を図れるコミュニケーションプラットフォーム」など様々にある。
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では具体的にはどのような商品・サービスが喜ばれるのか?例えば移動スーパー。トラック販売の移動スーパーというと、高齢者が多く住む過疎地で利用されているイメージが強いかもしれないが、過疎地ではないエリアでも、介護に忙しい女性たちに重宝されている。「家をなかなか空けられないから、家のすぐ近くまで移動スーパーが来てくれるのは助かる」とのことで、喜ばれているのだ。通販サイトが充実しているにも関わらず、彼女たちは「忙しい毎日の中でも、ちゃんと実物を見て食材を買いたい」とのことで、あえて移動スーパーを利用する。
介護する家族の心・体のヘルスケアに関しては、まだまだ商品・サービス・情報が非常に不足している。彼女たちを支えるヘルスケア商品・サービスは、超高齢社会が加速する日本で、今後より一層需要が高まる。介護する家族だけではなく、看護師や介護士など夜勤が多い働く女性たちのヘルスケアも同様に、どう守っていくかも今後の重要課題だ。
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【6】ヘルスケア女性の3分類化
キーワード6は「ヘルスケア女性の3分類化」。今後、各社がターゲット策定・ターゲット開発を行う際は、この「3分類化」を考慮する必要がある。
第1分類:ヘルステック好き派
1分類目は「ヘルステック好き派」。ウェアラブルで心身のあらゆるデータを計測・管理するのが好き。様々なヘルスケアアプリも使いこなし、フィットネスは最先端のVRで楽しむ。そして自宅も健康管理型マンションといった、ヘルステックを徹底的に使いこなすタイプだが、現状、このクラスターの女性は非常に少数派だ。
第2分類:ヘルステックほどほど派
2分類目は「ヘルステックほどほど派」。LINEやTwitter、Instagramを利用し、健康管理は、月経管理や歩数計アプリなど簡易的でメジャーなものを適度に使っている程度。特にヘルステックに抵抗があるわけではないが、そこまで積極的に使いこなすわけでもなく、現状の「ほどほどヘルステック」に満足しているクラスターでボリュームゾーンになる。
第3分類:アナログ派・デジタル無関心派
3分類目が「アナログ派・デジタル無関心派」。都会的な生き方に距離を置きロハスな暮らしを好むのが特徴で、多くはないが地方に移住する女性も今少しずつ増えてきている。スマホやパソコンは持っているが、ブログやSNSを使ってロハスな暮らしや田舎暮らしを発信する程度で、積極的にヘルステックを使うことはない。アナログな生活に十分満足しており、せかせかした生き方を好まないため、最先端のヘルステックにも興味を持ちづらい。今はまだ少数だが、働き方改革や、働く女性の増加、女性の資産運用、仮想通貨の台頭など、企業に属せずとも稼ぐ力を身に着ける女性の増加に伴い、都会を離れて自然の多い場所で、ゆったりと生きていきたいという女性が増えてきているので、今後このクラスターは市場に対し一定の影響力を持つようになると考えられる。
このように全世代の女性クラスターを3分類で見た場合、最も多いのは「ヘルステックほどほど派」と「アナログ派・デジタル無関心派」だ。しかし、各社はこぞってヘルステック好き派が好みやすい、最先端技術の開発・販売に注力しており、実際の女性消費者ボリュームゾーンとかけ離れている印象が無きにしもあらずだ。「ヘルステックほどほど派」と、「アナログ派・デジタル無関心派」女性の方が多いので、この2つのクラスターをターゲットにする方が、ビジネス上有利なはずが、各社は「消費者が求めるモノコトを提供する」ことよりも「最先端を追求すること」を重視する傾向にある。
最先端技術が全てではない
最先端の商品やサービスにいち早く関心を示すのは消費者全体の2.5%であるイノベーターと言われているが、あまりにも世界の変化・技術の進歩が速すぎるが故、やがてはイノベーターさえ企業の新製品や市場変化に追いつけなくなってしまうのではという懸念もある。
1000年前、100年前、50年前、30年前と比較して、今・今後は技術の進歩・世界の変化スピードが格段に早くなっており今後ますますそのスピードは加速していくと言われている。おそらく多くの企業がそのスピードにのっていくことになるが、やがて各企業が提供する商品サービスと、女性消費者との間に大きな開きができ、結局「それは誰のためのものなのか?」となりかねないかもしれない。
SNSが話題になっている昨今、あたかもほぼ全員の女性が使っているかのように錯覚してしまうが、LINEを抜いたSNSの20~30代女性の利用率は約半数、40~50代の女性に関しては10~30%だ。つまり、実はSNSを使っていない女性の方が多い、ということになる。意外に感じるかもしれないが、30代女性でも「LINE、Facebookの違いがいまだに分からない、メルカリの使い方が良く分からない」という女性も一定数存在する。
“直観的に楽しめる・理解できる”を意識したい
AI、IoT、ロボットによる医療・介護の質の向上や、経営効率の向上、医療診断精度の向上など、最先端技術の貢献度は確かに大きいが、一般的な消費の現場では「そこまで女性消費者たちは、最先端を求めているのだろうか?」と立ち止まって考えることは大切だろう。
ただこれは決して、最先端技術を否定しているわけではない。最先端技術を使ったプロモーションや商品で女性の心を掴んでいる事例は実際にいくつかある。成功している事例は、直観的に理解できる・心理的ハードルを与えないことに優れているため、女性たちにすっと受け入れられている印象がある。次の動画は、自然派化粧品として人気の高いロクシタンの体感型デジタルシアターを取り入れた店舗の様子(現在は閉店)。最先端技術を駆使した施策を取り入れる場合、女性には、直観的に楽しめる・理解できることを意識したい。
【7】人生100年時代の不安を払拭する
キーワード7は、「人生100年時代の不安を払拭する」。女性の場合、更年期症状から始まり、40代半ばごろから様々な不安を抱えるようになる。人生の前半期(産まれてから30代頃)までは、進学・卒業・入社・結婚・妊娠・出産・自宅購入など、様々な「楽しい」ライフイベントが起こるのに対し、人生の中盤~後半期に関しては、全般的に「ネガティブなイベント」も増えてくるようになる。例えば「更年期」「子供の独立」「閉経」「親の介護」「親や夫の死」「退職」「お金の不安」などだ。実際に、女性に行った幸福度調査では、年齢が上がるとともに幸福度が低下する傾向があることが分かっている。
40代半ばころから抱えやすい不安とは
年齢を重ねると様々な問題に直面するようになるため、各調査機関が行う「100歳まで生きたいと思うか?」という調査では決まって「100歳まで行きたくない」と回答する女性が半数を超えるという結果になる。
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では、実際に40代半ばごろからどのような不安が起こるのか。40~50代では、老化による見た目変化に対する漠然とした不安・更年期に対する不安。60代からは「身体機能低下不安・介護する側される側としての不安・認知症に対する不安」「現役を離れることになる60代は、社会とのつながりが薄れていく不安」、後期高齢者の頃になると「終末期への不安」「買い物や家事仕事など日常生活をスムーズに行うことができるか?という不安」などが挙げられる。
不安払拭型の商品・サービスのニーズ 人生後半期から強くなる
これら不安は一部に過ぎず、人生の後半期は様々な不安を抱えながら生きていくことになるため、人生後半期の女性は「不安を払拭してくれる商品サービス」に対するニーズが強くなる。
例えば明治安田生命が昨年12月に発売開始した90歳でも入れる医療保険は、発売直後から好評だという。また阪急交通社が提供しているシニア向けの趣味提案講座、阪急たびコト塾も人気だ。
不安払拭型商品やサービスは、男性よりも平均7年長生きする女性には特に喜ばれやすい。女性は「老後の面倒を夫にも子供にも見られたくない。」という気持ちが男性よりも強いため、今現在夫や子供がいる女性でも「周りに迷惑をかけずに長生きする覚悟、いつかは一人で生きていく覚悟」という気持ちが強い。
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覚悟する一方で、当然何歳まで生きるか分からない漠然とした不安も多くあるため、今後急増する高齢女性向けに、各社は「100年生きることを見据えた、不安払拭」をテーマにした商品サービス開発、プロモーションを展開していくことは、大きなビジネスチャンスだ。
不安払拭型市場 4つのポイント
不安払拭型マーケットを攻略するためのポイントが4つあるのでご紹介したい。
ポイント1.更年期関連市場にチャンス
更年期関連市場がおすすめの理由は二つ。一つ目は、人口ボリューム層である団塊世代の子供たち(団塊ジュニア世代)がちょうど更年期世代であるため。そして2つ目は意外に思われるかもしれないが、女性向けヘルスケア商品サービスの中でも、更年期向け商品・サービス情報が、充実していないからだ。そのため、解決策が分からず更年期に関する悩みを放置したままの女性や、買い物難民になっている女性、正しい対策ができずにいる女性は少なくない。
ポイント2.80~90代向けの「普通」のモノコト
80~90代以上の女性向け商品サービス情報というと、医療・介護関連に集中しがちで、いわゆる“普通”の商品・サービス・情報(例:80~90代女性を対象としたコンサート・旅行・テレビ番組・食べ物・飲食店・エンタメ施設・オシャレな服・ネイルサロンなど)が圧倒的に不足している。医療・健康産業の急速な発展で、今後は80代以上でも心・脳・身体が元気な高齢者は増えていくため、80代以上を対象にした“普通”の商品・サービス・情報は、今後充実を図っていきたい市場だ。病気・介護関連のモノコトはすでに多くの企業が参入しているので、狙うべきは80代以上女性たちが「ワクワク・キラキラできる普通のモノコト」関連市場だ。
ポイント3.心の充足・心の刺激
「安心・生きがい・楽しさ・幸せ・未知な体験」といった心の充足・心の刺激に重点を置いた商品サービスプロモーションを行おう。
ポイント4.価値観・状態別のマーケティング施策
一言でシニア世代といっても、60歳と100歳女性では、40年の開きがあり、戦前戦後といった括りを含め生きてきた時代背景も環境も全く異なる。また身体機能の状態、資産状況、消費傾向、生活価値観も個々で大きく異なるため、それら「違い」を考慮した上で、マーケティング戦略を設計すると、ターゲット女性にリーチしやすくなるだろう。
【8】美の価値観の多様化による、パーソナライズ化
キーワード8は、「美の価値観の多様化による、パーソナライズ化」。一昔前までは、多くの女性たちの美の価値観はおよそ同じだった(多くの女性がいっせいに“聖子ちゃんカット”をする、“アムラー”になるなど)。ところが、多様な生き方をし、多様な価値観を持つようになり、そして個人主義化が進むようになった今の女性たちの美の価値観が「人それぞれ」になってきている。例えば、以下のようなケースだ。
- 流行よりも自分に似合う、自分が一番かわいく見えるメイクをする
- 痩せてる女性が好きな女性もいれば、ふっくらした女性をかわいいと感じる女性もいる(今世界的に少し太めの女性モデルを指す「プラスサイズモデル」が女性に人気だ)
- 若さ=キレイ・魅力の象徴、という概念が薄れつつある(「美しいと思う人は誰?」というアメリカのある調査で、選ばれた女性たちの平均年齢が、数年前は30歳前後だったのに対し、現在では30代後半になった。最近では80歳のモデルが注目を集める)
このように美の基準が、個々で異なるようになった結果、女性たちが求めるようになったのが「自分だけのための、データにもとづいたパーソナライズ化商品・サービス」だ。パーソナライズ化というと、以前より1:1でトレーニングを教えるパーソナルトレー二ングサービスや、完全オーダーメイドでエステティックのメニューを提供するサービスがあった。“個々にあわせた完全オーダーメイドが価値”として提供されていたため、価格は高く設定されており、特別感・ラグジュアリー感があった。しかし今後はそのパーソナライズ化が“あらゆる場面”で求められるようになり一般的になっていくだろう。いくつか事例をご紹介したい。
(1)自分の唇のコンディションにあわせて選べるリップトリートメント
自分の唇のコンディションにあわせて選べるフローフシのリップトリートメント。自分の今の唇の状態にあわせて、どの商品を選ぶべきか?というのをHP上や店頭で提案している。
(2)99種類のカラーが揃ったアイシャドウ
99種類のカラーがそろった、コーセーのアイシャドウ。99種類もあるため、自分の欲しい・似合うカラーが必ず見つかる。ネット上の口コミには「自分に似合う色を必ず見つけられる!」と好評だ。
(3)1000パターン以上の組み合わせから提案 スキンケアシステム
資生堂のIoTスキンケアシステムは、その日の肌状態や気象条件、気分にあわせて1000パターン以上の組み合わせから、美容液・乳液を提供してくれる、パーソナライズ化スキンケアシステムだ。
(4)個々の体調にあわせてドリンクを提案
ネスレのウェルネス抹茶も、個々の体調にあわせてその日のおすすめドリンクを提案してくれる。サイト上で食事・生活習慣チェックができるようになっているので読者の皆さんも体験してみよう。
他、様々な分野で、パーソナライズ化が進んできている。デジタルマーケティングツールの業界では、以前からパーソナライズ施策が行われていたが、今後は商品サービスそのものが、パーソナライズ化していき、そしてパーソナライズ化商品・サービスが女性たちの基準になっていくだろう。
【9】脳ケア
キーワード9は、「脳ケア」。世界的に脳に対する関心が高まっており、昨年はFacebookが脳で操作するコンピュータ技術開発に取り組み始めたことを発表し、話題になった。
脳に対する関心が高まる中、脳ケアに積極的に取り組む消費者が増え始めている。脳ケアは今のところ主に「疲労・ストレス緩和型」と「機能低下予防型」の2つに大別される。
疲労・ストレス緩和型は、昨年注目を集めて話題になった「マインドフルネス」や、香りからアプローチする脳ケア、デジタルデトックス、脳疲労解消CD、ヘッドマッサージなど様々な商品・サービスが人気だ。
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もう一つは「機能低下予防」。東京・恵比寿には、脳を鍛えるフィットネスジム「ブレインフィットネス」が登場。他、脳を鍛える書籍や脳トレ関連のゲーム、公文の「脳の健康教室」、大塚製薬の認知機能の機能性表示食品など、機能低下を予防する商品サービスが各社から登場している。
脳といえば、以前までは「現役世代には全く関係がなく、高齢者のもの」というイメージが強かったが、最近は現役世代の女性たちも、脳ケアに関心を寄せている。
【10】シーンで選ぶヘルスケア
キーワード10は、「シーンで選ぶヘルスケア」。何かヘルスケア行動に取り組むとき、以前までは「どの商品・サービスを使うか?」という選択が真っ先に行われていたが、最近は「その商品・サービスを、どのようなシーンで使うか?楽しむか?」の選択が同時に行われるようになっている。以下に事例を挙げる。
- 自宅で、テレビや雑誌、映画を見ながら運動やストレッチをしよう
- ナイトアクティビティの一環で、ナイトランイベントを楽しもう
- 婚活・恋活で、トレッキング・カヌーを体験してこよう
- 観光で、ヘルスツーリズムを体験しよう
- 職場で、簡単にできるエクササイズを習慣化してみよう
なぜこのような流れになってきているのか?これには「女性消費者の無関心化」が大きく関係している。商品サービスが過剰にあふれる今の時代、商品サービスそのものに興味を持ちづらくなっている一方で、「体験」に関しては興味関心が高まっている。単純にヘルスケア商品・サービスを購入するよりも、それをどのようなシーン、つまりどのような体験とセットで使えるか?楽しめるか?を基準に考えるようになっている。
つまり、「商品・サービス」と「シーン」を掛け合わせた提案をしているモノコトの方が、女性消費者に選ばれる率は高くなる、ということだ。開発・企画・プロモーションでは、「商品サービス」に「シーン」を掛け合わせる、という発想もおすすめしたい。
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