パラサイト・シングルとは? 増加の原因と女性たちの悩み(2/2)

パラサイト・シングルが抱える問題

若いパラサイト・シングルの親は子どもの世話をする元気がまだ十分にあり経済的・時間的ゆとりがあるので、子ども本人に不安はない。不安が大きくなるのは、パラサイト・シングルのまま年齢を重ねた中年期以上だ。

親の介護

パラサイト・シングルがいずれ向き合うことになる問題が、親の介護。親が要介護となった時に生活が苦しくなり共倒れする可能性が高い。パラサイト・シングルではない場合も共倒れするケースはあるが、パラサイト・シングルはそのリスクがより高くなる。生活全般を親に委ねて生きてきたために子ども本人の生活能力は著しく低いからだ。基礎的な生活や家計の管理能力、社会的支援に関する知識が乏しく、親の介護に対する備えや危機意識も十分ではない。親の介護や死に直面した時にようやくその深刻さに気付く。

自分の将来に対する不安

問題の2つ目は自分の将来に対する不安。経済的にも精神的にも依存していた親が亡くなった場合、自立した生活ができるかどうか?という本人の不安は大きい。近年社会問題化している孤独死はパラサイト・シングルにとっては大きな不安要素だ。経済力があるシングルは、将来的にグループホームに入居したり、サービス付き高齢者向け住宅に入居するなどして孤独化を避けることができるが、経済力がなく生活能力も決して高いとは言えないパラサイト・シングルは孤独死やセルフネグレクトのリスクが高い。

本人も親もまだ若く元気なうちは、パラサイト・シングルは収入の多くを自分自身に使えるため消費が活発で経済力があるように見えるが、それは親に依存しているから成り立っていただけであり、親の高齢化や、介護、死をきっかけに生活は困窮する。パラサイト・シングルが増え始めたのが1980年代後半、当時20代前半だったパラサイト・シングルたちは、現在50~60代で、その親が70~90代。パラサイト・シングルの高齢化が進んでいることも特筆しておきたい。いわゆる8050問題だ。

女性のパラサイト・シングルの実態

前述の総務省調査では男女比の記載がないため女性のパラサイト・シングルの正確な割合は不明だが、パラサイト・シングル女性のニーズと悩みをご紹介したい。

女性のパラサイト・シングルならではの悩み

女性のパラサイト・シングルは、例えばアイドルの追っかけに夢中だったり、自分への美容投資額が高いなど、自由を謳歌し消費に積極的な一方で、将来への備えやリスク管理能力に乏しい。また、将来設計を考えず「今が楽だったらそれで良し!」という考えが強いためにパラサイト・シングル状態を継続しているのだから、悩みを抱きやすいというよりは楽観的なキャラクターの女性が多い(ただし、前述の通りパラサイト・シングルは就業しているケースと就業していないケースとに大別される。ここでは主に前者を想定して話を進めたい)。

自称パラサイト・シングルによる口コミサイトやブログへの投稿には、「考えが甘すぎる」「楽観的すぎてびっくりする」「パラサイト・シングルの子どもに何もしつけをしない親も問題」といった非難の声が集中している。楽観的で自由を謳歌しているパラサイト・シングルに対し、実家を出て自立している兄弟姉妹などがその楽観さにイライラを募らせている。自由を謳歌し楽しそうな印象が強いが、そんな彼女たちにも悩みはある。例えば次のような悩みだ。

<就業しているパラサイト・シングル>

  • 親任せにしているため家事全般が苦手、わからない
  • 親が食事管理をしてきたため、いざ一人になったときに健康的な食事づくりができない、わからない
  • 自分の好きなことにお金を使って謳歌してきたため、貯蓄が無い、あるいは少ない
  • お金の管理能力に乏しい
  • そろそろ結婚しないと…と思う頃には適齢期を過ぎており婚活のハードルが高いと考えている
  • 年齢が上がってくると周りの目が少々気になってくる。しかし今さら自立して1人暮らしするのも面倒だし、それによる出費はもったいない
  • 仕事に夢中になり結婚にも興味がなく、ずっと親元で生活してきた。親は亡くなり気づいたらアラカンで独り身。この先ずっと一人かと思うと不安な気持ちになる

<ニートや引きこもりのパラサイト・シングル>

  • 好きでパラサイトしているわけではない。できれば自立したいが体調(精神疾患のケースが多い)が悪いから自立できない
  • 定職に就きたいが(ニート期間が長かったから/引きこもっているから/ブランクが長いからなどが理由で)就けない。非正規雇用のため安定した収入を得たくても現実は難しい

女性のパラサイト・シングルのニーズ

ヘルスケア行動を促すことは、このクラスタ―に関しては容易ではない。ヘルスケアギフトを例に考えてみる。

自己管理能力があり自立している女性は、経済的・精神的ゆとりや気遣い力がありコミュニケーション能力も十分にあるので、家族や親戚にヘルスケアギフトを贈る発想があるが、何でも親まかせのスタンスになりやすいパラサイト・シングルはなかなかそうはならない。

とはいえ、パラサイト・シングルは一定規模の市場を形成しているため企業としてはパラサイト・シングルをターゲットに捉えることで新たな市場開拓の可能性がある。気を付けたいのはニーズがどこにあるのかという点。保険商品、検診など将来の備えに対するニーズや、生活力を上げる商品・サービスに対するニーズよりも、趣味嗜好・欲求を満たすニーズの方が大きいのが特徴。ヘルスケアなら、健康よりも美容系商品・サービスの方がより好まれやすい。美容は趣味嗜好・欲求を満たす要素が強いからだ。

男性との出会いを促すようなスポーツイベントも相性が良いだろう。パラサイト・シングル女性は、中年期頃までは実家暮らしで結婚せず、親に依存していることに焦りを感じていない。しかしアラフォーまたはアラフィフになる頃には「そろそろ私も将来を考えないと」と少しずつ考え出す。しかし一般的な婚活イベントでは年齢の壁がある。そんな彼女たちの心を掴むのは、気軽に参加しながら男性と出会えるスポーツイベントや趣味のイベントだ。

中年期以上の“おひとりさま女性”だけを対象としたツーリズムも相性が良いかもしれない。パラサイト・シングルであることに悩みつつも周囲に相談できずにいる彼女たちに、同じ状況にいる“おひとりさま女性”と集い情報交換ができる場は貴重だ。一般の女性なら興味を示しやすいヘルスツーリズムで気を惹きたいところだが、このケースにおいては彼女たちの関心は「ヘルスケア」よりも「悩みの共有、情報交換」。訴求するときは「おひとりさま女性」の方が適切だ。

 

より詳細な理解には山田昌弘氏の書籍がおすすめ

パラサイト・シングルは社会問題として取り上げられることが多いが、消費力の面ではブルーオーシャン市場として狙いたいクラスタ―。新たな市場開拓に乗り出してみてはどうだろう?なお、パラサイト・シングルをより詳細に理解するには、古い書籍にはなるが1999年と2004年の山田 昌弘氏の以下2冊の書籍が参考になる。

パラサイト社会のゆくえ

パラサイト・シングルの時代

 

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