【2022年トレンド③】病気と共生する時代へ、商機は3次予防ソリューション
ウーマンズが毎年2月に発表する恒例の「女性ヘルスケア市場のトレンドキーワード」。2022年は7つのキーワードを発表した(下記)。本稿では「病気と共生する時代へ、3次予防ソリューション」について解説。
医療技術の飛躍的な進歩や長寿化により病気と共生する人が増えている今、3次予防領域で需要が高まっている。中でも「女性特有の健康問題」や「高齢者」に焦点を当てた3次予防ソリューションは、社会トレンドから見てもチャンスが大きい。スモールマスで商機を見つけたい企業や期待市場を探している企業は必見、3次予防ソリューションの可能性を探ってみよう。
- ジェンダード・イノベーション発想のヘルスケアソリューション
- 関心層にも無関心層にも、意識させないヘルスケア
- 病気と共生する時代へ、商機は3次予防ソリューション(◀︎今回はココ)
- 自宅で簡単・本格的に、2次予防ソリューション
- マジョリティは高齢者。エイジテックの急伸
- デジタルの“負”に商機、デジタルウェルビーイング
- 加速するアクティブ・エイジング
目次
3次予防ソリューションとは?
3次予防領域のヘルスケアをサポートするソリューションにはどんなものがあるのか?事例を見る前に、まずは予防医療の段階についてサラッとおさらい。
予防医療の段階 〜0次・1次・2次・3次予防〜
予防医療とは「病気になってから治療をするのではなく、健康を害する要素を取り除いて発病を防ぎ健康を維持増進することを目的とした医療」のこと。一般的には1次予防、2次予防、3次予防の3段階が知られているが、予防医療の概念が広まっている近年は、1次予防より前の段階で病気を予防する「0次予防」の考え方も提唱されている。各段階の定義は以下。
段階 | 定義 | 例 |
0次予防 | 遺伝子情報や生活環境に基づいた病気の発症予防 | 遺伝子情報を元に自分の体質を知り、病気の発症を予防する。健康増進を図る前に、生活している環境(住んでいる場所・室内環境・家庭環境など)を改善することで発症を予防する(参考:LSIメディエンス「animus2016 VOL87」pp.3-8) |
1次予防 | 健康増進、特殊な防護 | 食生活の改善、運動、禁煙、予防接種、ストレス解消などで病気を未然に防ぐ |
2次予防 | 早期発見・早期治療 | 健康診断や人間ドックで病気を早期発見。病気が見つかったら早期治療で重症化を防ぐ |
3次予防 | 障害を抑える、再発防止、社会復帰 | 適切な治療やリハビリにより障害を最小限に抑え、再発防止や社会復帰を目指す |
【表1】予防医療の段階(参考:予防医学テキスト改訂第2版)
各段階のソリューション事例
具体的には段階別にどんなソリューションがあるのか?身近なもので事例を見てみよう。
- 0次予防…遺伝子検査サービス
- 1次予防…ダイエットアプリ、フィットネスジム、健康書籍、禁煙ガム、予防接種
- 2次予防…人間ドック、検査キット、オンライン診療、ペースメーカー
- 3次予防…産後の膣トレ、乳がん術後ブラ、減塩食、流動食、松葉杖、車椅子、へバーデン結節用テーピング、弾性ストッキング、認知症や体の不自由な高齢者の自立した生活を支えるスマートホーム
各段階の事例と比較すると、どんなものが3次予防ソリューションなのかを理解できるだろう。要は以下に当てはまるような、病気や障害を抱える人の生活をサポートする商品・サービスだ。
- 術後・退院後・治療後の日常生活や仕事復帰をサポート
- 病気・怪我・障害による不自由な生活をサポート
- 後遺症の発症や悪化を予防・緩和
- 重症化の予防・緩和
- 治療中の副作用を抑制・ケア
- 寛解の維持
- 症状のケア
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3次予防ソリューション、商機の理由
3次予防領域のヘルスケアソリューションに、なぜ今商機があるのか?医療技術の進展や長寿社会により「病気や障害を抱えながら生きる人」が増えたことが理由として大きいが、昨今のフェムテックブームやウェルビーイングのニーズも後押ししている。
1)長寿社会による要介護者の増加
日本の平均寿命は伸び続け、女性87.74歳、男性81.64歳(2020年)。2050年には女性90.40歳、男性84.02歳で、100歳以上の人口は68万人にも達すると推計されている。100歳人口は昭和38年時点ではわずか153人だったので、この1世紀の間でいかに長寿化が進展していくのかがわかるだろう。言わずもがな高齢になるほどに有病率は上昇し、加えて要介護者も増加の一途を辿る(以下グラフは65歳以上の要介護者数の年次推移)。「病気や障害を抱えながら生きる人」が増加している最たる理由だ。
2)治療と仕事の両立ニーズ
ガンの診断精度や治療技術の進歩、検診受診率の向上も、3次予防ソリューションの需要押し上げに繋がっている。ガン患者の10年生存率は58.9%(2021年発表,国立がん研究センター)で年々向上しており、ガンを患い通院しながら仕事をしている人は32.5万人に上る(平成22年国民生活基礎調査推計)。
生存率が向上しているということは、ガンが「不治の病」から「長く付き合う病気」に変化してきたということ。ガンになったからといってすぐに離職しなければならないという状況は必ずしも当てはまらなくなり、特に働き世代・子育て世代は、治療と仕事の両立が目下の課題。重症化予防のソリューションや、症状や後遺症のケアをしながら仕事・家事・子育てをサポートしてくれるソリューションのニーズが強い。
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3)病中・病後のウェルビーイングニーズ
世界的に高まっているウェルビーイングニーズも、病気・障害を抱える人たちの3次予防ニーズを顕在化している。そもそも、病気・障害を抱える人にとってウェルビーイングとは何なのか?もちろん、病状や経済状況、あるいは住環境や家族環境などによって人それぞれ異なるが、一言で言うなら、病気を患ったり障害を抱えても自分らしい生き方を選択することや、QOLや自己肯定感を高めることだ。
それを叶えているインフルエンサーがすでに登場しており、例えば、ダウン症のファッションモデル、リンパ浮腫により大きく膨れ上がった脚をインスタグラムに投稿しているファッションアイコン的なインフルエンサー、義足のシンガーソングライター、ガンサバイバーのユーチューバーなどだ。彼女たちは社会から隠れるように生きるのではなく、ありのままの自分の姿や状況を自分の個性として”見せる”生き方を選択し、同じ状況にある多くの女性に勇気を与えている。
「病気や障害を抱えても自分らしく生きたい」と考えるニーズが、3次予防ニーズを強めている。
4)3次予防特化のフェムテックの登場
3次予防特化のフェムテックが登場していることも、3次予防ニーズを顕在化させ、需要拡大の底上げに寄与していくと考えられる。
例えば、乳房を切除した乳がんサバイバー専用のブラジャーや、人工乳房。女性特有ガンの後遺症であるリンパ浮腫を予防・ケアする弾性ストッキング、中高年女性に起こりやすい子宮脱や膀胱脱を予防する骨盤底サポーターなどは、まさに3次予防に特化したフェムテック。いずれも病中・病後の症状をケアしてくれるものだ。
3次予防に着目したソリューションは以前からあったものの、社会的に注目される機会は少なかった。病気と闘っている人に対する配慮であったり、企業側の複雑な心境(大々的にPRしたいが、人の不幸で売上げていると思われることが怖い)であったり、様々な都合(CSRの側面から取り組みは行うものの、ブランディングの観点から積極的なPRは控えたい。あるいはマス市場ではないため予算をかけられない)や、メディアの関心が向かなかったからだ。
だが、3次予防ソリューションも含め女性向けの健康商品が「フェムテック」とワーディングされるようになったことで、ちょっと”重たい”商品・サービスも、公の場で堂々とスポットライトを浴びるように。「病気になってもケアできることはある」と、病気・障害を抱える女性が気づきを得る機会となり、そして、企業も商機と捉えるようになった。
5)男性より女性に強い予防医療ニーズ
これは3次予防に限定した話ではないが、予防医療のニーズは男性より女性に強いことが調査で明らかになっている。一般的に女性の方がヘルスリテラシーが高く、ヘルスケアニーズも強いことが関係していると考えられる(調査結果詳細は以下の記事に掲載)。行動者率やヘルスケア消費の視点で見ても、女性向けの3次予防ソリューションを開発する意義は大きいだろう。
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圧倒的に不足している3次予防ソリューション
3次予防ソリューションの商機の理由をいくつか見てきたが、その他に、難病指定が増えていることや(2022年時点で338疾患が指定難病に指定されている)、ヘルスケア市場に参入する企業が業界内外で増えていること、これまで参入しやすかった1次予防領域がレッドオーシャン化していること、SDGsの世界的な波でダイバーシティとインクルージョンが徐々に実現されつつあることも挙げられるだろう。
ヘルスケアビジネスというと、「健康維持増進」「病気予防」を目的としたソリューションの開発ばかりに関心を向けがちだが、社会構造も市場環境も人々の価値観も急速に変化するなか、3次予防は期待のブルーオーシャン市場だ。1次予防ソリューションで狙えるようなマス市場ではないが、現状は圧倒的に不足しているためポテンシャルは無限だ。明確なエビデンスはないものの、予防医療の全段階の中で3次予防は最もソリューションの選択肢が少ないと言っても過言ではない。
QOLや自己肯定感を押し下げることなく病気・障害との共生を図れる生き方を、各社の技術力をもって、多くの女性に提案してほしい。
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