オンライン診療とは メリット・デメリット・今後の課題
オンライン診療の環境整備が進んでいる。情報通信機器の進展を背景に、患者側の利便性が高まる一方で、指針を遵守しない実態も確認されるなど安全性への危惧もある。過渡期にある制度ではあるが、スマホを活用した医師へのアクセスが増えると、受診勧奨や健康相談などのサービスも含めて、これまでの生活者の健康管理の在り方に影響を与える可能性もある。
目次
オンライン診療とは?
オンライン診療とは
オンライン診療は、パソコンなどを使ってインターネット上で診察や診断を行うこと。患者の医療へのアクセスが高まることが期待される。ただし初診は原則として対面診療で行い、その後も同一の医師が行うことなどが求められている。2018年度の診療報酬改定では保険適用が認められた。「遠隔診療」という言葉も使われることがあるが、「遠隔診療」は離島やへき地など距離的な制約の解消がメインとなっている。それに比べ「オンライン診療」は、距離的な制約の解消だけでなく時間的な制約の解消の意味も含んでおり、最近はオンライン診療という言葉の方が一般的になってきている。
対面診療との違い
オンライン診療は対面診療に比べて、医師が患者から得られる情報が限定的だとされている。オンライン診療でも初診は対面診療を原則としているのもそのためで、オンライン診療と対面診療を組み合わせることが求められている。
これまでの制度改正の経緯
- 1997年12月
厚生省健康政策局長通知で離島やへき地の場合などで遠隔診療を認める - 2015年8月
厚生労働省医政局長通知で「離島、へき地」はあくまで例示であるとの見解を示し、事実上の解禁 - 2018年3月
「オンライン診療の適切な実施に関する指針」を発出 - 2018年4月
診療報酬改定で「オンライン診療料」を創設 - 2018年9月頃~
診療報酬改定の検証調査 - 2019年6月頃~
調査結果を踏まえ中医協で議論。関係学会からも意見聴取 - 2020年4月
2020年度診療報酬改定。安全性・有効性等が確認された疾患は対象へ。実施の方法や体制も検討
(参考:厚生労働省「オンライン医療の推進について」)
一般的なオンライン診療の流れ
患者がオンライン診療を受ける流れは以下の通り。
- 医療機関を受診
- 担当医に次回以降のオンライン診療の相談
- アプリのダウンロード、アカウント登録
- 診察予約(オンライン診療は予約制が多く、予約可能時間はあらかじめ決められている)
- オンライン診察
- 領収書、処方箋が自宅に配送される
- 場合によっては医薬品の配送
合わせて読みたい記事
オンライン診療のメリットとデメリット
患者メリット
- 医療機関へ行く時間の制約が解消される
- 通院に付き添いが必要な人にとっては付き添いの時間的・経済的な負担も軽減される
- 場所を選ばない(仕事の休憩時間の活用もできる)
- 受診への恥ずかしさがない(脱毛症など受診自体に抵抗がある場合も受診しやすい)
患者デメリット
- 原則、初診は対面診療が必要
- 診断の情報が限定される(聴診や採血での検査はできない)
- 注射、点滴などの処置は受けられない
- デジタルリテラシーが必要(スマホの操作ができない場合はハードルとなる)
- クレジットカードの支払いが必要(オンライン診療にかかる料金はクレジット決済のケースが多い)
- オンライン診療をしている医療機関の数が少ない
- 薬の受け取りに時間がかかる
医療機関メリット
- 触診や聴診ができず誤診の可能性を否定できない
- 万が一の場合の責任の所在が法的に整備されていない
- 医師の拘束時間が長くなる懸念がある
さらに社会保障財源上の懸念として安易な受診による医療費増大や、個人情報の漏えいリスクが指摘されている。
オンライン診療でできること
保険診療
情報通信機器を活用した診療は対面診療を原則とする。その上で有効性や安全性等への配慮を含む一定の要件を満たすことを前提に、診療報酬を算定。オンライン診療を担当する医師は対面診療と同一の医師であることや、緊急時には30分以内に診察可能な体制を有していることなどが条件となる。算定項目は以下の4つ。
- オンライン診療料:700円(1カ月につき)
糖尿病透析予防指導管理料・地域包括診療料・認知症地域包括診療料・生活習慣病管理料・在宅時医学総合管理料などを算定している患者が対象 - オンライン医学管理料:1000円(1カ月につき)
1の要件のほか、算定すべき医学管理(※)を行っている患者に対して、対面診療とオンライン診療を組み合わせた管理を行った場合。(※)特定疾患療養管理料・小児科療養指導料・てんかん指導料・難病外来指導管理料・糖尿病透析予防指導管理料・地域包括診療料・認知症地域包括診療料または生活習慣病管理料 - 在宅時医学総合管理料 オンライン在宅管理料:1000円(1カ月につき)
在宅での療養を行っている患者に在宅時医学総合管理料に加えて算定 - 精神科在宅患者支援管理料 精神科オンライン在宅管理料: 1000円(1カ月につき)
在宅での療養を行っている患者に、精神科在宅患者支援管理料に加えて算定
自由診療
上記のように診療報酬上の要件に定められていない疾患については、自由診療(自費)でのオンライン診療が可能。オンライン診療サービス「クロン」などを手掛けるMICIN(東京・千代田)が実施した、医療機関を対象にしたオンライン診療の利用実態調査によると、自由診療の比率が5割を超えているとのこと。その背景として、オンライン診療と親和性が高いアトピー性皮膚炎や花粉症などがオンライン診療の保険適用からはずれたことが挙げられる。またEDやAGAなど、もともと自由診療の医薬品処方でもオンライン診療が浸透している。オンラインによる自由診療を掲げる医療機関の例は以下。
- W CLINIC(大阪市)では「AGA / FAGA外来」「美容皮膚科・美容外科外来」「まつ毛外来」「ダイエット外来」「コスメカウンセリング」「タトゥー除去カウンセリング」を提供
- 天神レディースクリニック(福岡市)では「低用量ピル」「月経移動」などをメニューとしている
- 桂川洛西口産婦人科まりこクリニック(京都・向日)やポートサイド女性総合クリニック ビバリータ(神奈川・横浜)はピルの処方を行っている
オンライン診療の現状と課題
患者の利便性を高めるためには、オンライン診療の保険適用が認められる対象疾患を増やすことや、限定的に初診からオンライン診療を認める方策が必要となる。ただし、対象拡大には安全性と効果のエビデンス構築が必須だ。一方で不適切なオンライン診療の事例も報告されている。中には医師以外の者がスマホ画面に登場するなど、患者の安全を揺るがすものもあり、どのように安全性を担保するかは大きな課題となっている。利便性と安全性の適切なバランスを求めて、今後も議論が進むとみられる。2018年3月の指針発出以降に指摘された課題を受けて、厚生労働省は2019年1月に新たに「オンライン診療の適切な実施に関する指針の見直しに関する検討会」を立ち上げた。政府の規制改革実施計画でも技術の発展を鑑み、1年に1回以上はガイドラインを見直すことを求めており、今後もオンライン診療の要件は変化を遂げていく可能性が高い。すでに緊急避妊薬の処方では例外的に初回の診療も対面でなくてもよいこととなった。
オンライン診療が開くヘルスケアサービス
紆余曲折を経ながらも、スマホを使ったオンライン診療は今後急速に拡大していくだろう。オンライン診療の議論でも俎上に上っている通り、スマホを使った受診勧奨や健康相談はオンライン診療の範疇ではないことも整理されており、今後はこういった周辺サービスも拡大していくと考えられる。オプティム(東京・港)が展開する「ポケットドクター」では、スマホを活用した医師への相談を1回2,980円~で提供している。特に仕事と育児で忙しいワーキングママ層では、信頼性があり時間の節約になるこうした新サービスがいち早く浸透していくと考えられる。
【編集部おすすめ記事】
■妊婦の不安をサポート 遠隔健康医療相談「産婦人科オンライン」
■拡大する世界のモバイルヘルス市場 国内事例と参考情報
■データヘルス改革とは?2020年に実現する8つのサービスと工程表
■生活習慣病の主な原因とは?予防に向けた国の取り組みと関連ビジネス
■セルフメディケーション税制とは?導入に伴う消費者の意識変化
■遺伝子組み換えの現状と懸念点|今後の市場動向