サバティカル休暇制度への注目加速 日本の事例と海外事例
欧州では導入が進んでいるサバティカル休暇。日本ではまだ広くは知られていないが、経産省が2018年に企業へサバティカル休暇の導入を呼びかけたことで関心が高まり始めた。導入している日本企業はまだ少ないが、ヤフーやソニーなど一部の大手ではすでに導入されている。
目次
サバティカル休暇とは?
サバティカル休暇の歴史
サバティカル休暇とは、所定の期間勤務した従業員に長期間の休暇を付与する制度。導入企業にもよるが、1カ月〜1年間が付与される。サバティカルという言葉は旧約聖書に出てくるラテン語の「sabbaticus」に由来し、「安息日」という意味。1880年にハーバード大学(米国)で導入されたのが起源とされ、大学教員の研究のために長期休暇が与えられるようになったが、やがて徐々に企業にも広がった。ワークライフバランスの意識が高い欧米人とサバティカル休暇の親和性は高く、欧米では多くの人が利用しており、休暇の時間を、家族と過ごす時間、リフレッシュ、休息、学び直し、ボランティア参加などに使っている。なお、サバティカル休暇の名称や、サバティカル休暇の条件、賃金支払い(有給・無給・一部支給など)といったことは企業によって異なる。
ワークライフバランスとは?
サバティカル休暇制度の導入、経済産業省が呼びかけ
日本ではまだ普及していないが、2018年3月に経済産業省の有識者研究会が人生100年時代の到来を見据えた人材戦略などについてまとめた「我が国産業における人材力強化に向けた研究会(経済産業省、中小企業庁)」の中で、国が推進している「リカレント教育(学び直し)」を普及させる一助としてサバティカル休暇制度の導入を企業に呼びかけたことで、企業やビジネスパーソンの間で注目度が高まってきた。
リカレント教育とは?
人手不足や人材力強化を目的に今後導入する企業は増えていくと考えられる。書籍「2019年 日本はこうなる(三菱UFJリサーチ&コンサルティング)」の中では、サバティカル休暇について次のように言及している。
本制度の主眼は長期休暇により社員が非日常的経験を通して変化や成長のきっかけを得ることにある。会社はその成果を組織の活性化につなげ、活躍する社員を最大の競争力とすることが肝要だ。(引用:「2019年 日本はこうなる(三菱UFJリサーチ&コンサルティング)」p.173)
サバティカル休暇の導入メリットとデメリット
サバティカル休暇の導入メリット(従業員側)
1.知識向上
サバティカル休暇の使い方は自由とされるのが一般的だが、休暇を自己成長に利用したい従業員にとって、まとまった時間を確保できるサバティカル休暇はスキルアップやキャリアップ準備の格好のチャンス。業務に関連した専門知識の習得や読書で知識が向上する。
2.ワークライフバランス向上
まとまった時間を使って、新しいことにチャレンジしたり趣味やスポーツに励んだり、リフレッシュのために旅行をしたり、家族と一緒に過ごす時間を増やせる。従業員はプライベートの時間を持てるようになることでワークライフバランスの向上を実感できる。
3.健康維持・増進
サバティカル休暇取得に“正当”な理由は必要ない。例えば、まとまった治療期間が必要な持病のある従業員は、長期休暇を治療にあてることもできる。治療後は自宅やヘルスツーリズムで静養して健康を回復・維持することも可能。家族の病気や介護への対応に時間をあてる人もいるだろう。サバティカル休暇は自身や家族の健康維持・増進、心身の疲れ回復にも有益だ。
サバティカル休暇導入のメリット(企業側)
1.従業員の勤続へのモチベーション向上
サバティカル休暇の条件は企業によって異なるが、勤続年数を設定するケースが多く見られる。制度導入により従業員の勤続に対するモチベーションが向上する。
2.既婚者・未婚者、子有り・子無しの従業員が公平に働ける
近年、女性の活躍推進や働き方改革により育児休暇や時短勤務を積極的に利用する女性が増えているが、一方で、それらを利用しない未婚者や子のいない女性は、仕事の負担の大きさから不公平感を感じているという課題がある。サバティカル休暇制度があれば、未婚・既婚、子の有無関係なく休暇を取得できるので、未婚者・子無しの従業員の不満を解消し、社内に良い空気が流れる。
3.人材確保
サバティカル休暇の認知が広がりを見せる中、サバティカル休暇の導入有無は企業の一つの魅力になる。就職・転職の際の一つの基準になる日は近いかもしれない。
サバティカル休暇導入のデメリット(従業員側)
1.収入の減少
企業によってはサバティカル休暇中に活動資金を支給するケースもあるが、支援がないケースもあれば、支給があっても通常の給与より少ない。経済状態にある程度ゆとりがないと利用は難しい。
2.復帰後の調整問題
長期休暇取得から復帰した際の周囲の同僚との仕事調整やキャリア形成のタイミングへの影響などが、企業風土によっては問題になることもある。取得前に仕事を調整することも大事だが、復帰後の調整をどうするか?自身でも会社に確認したりプランニングが必要だ。従業員にとって「復帰後のキャリア形成がどうなるのか?」は不安要素になりやすい。
サバティカル休暇導入のデメリット(企業側)
1.残された従業員(代替要員)の長時間労働やワークライフバランス低下
長期休暇取得者の仕事をカバーするだけの体制を十分に整えていないと、通常業務に就く従業員の長時間労働を招いたりモチベーションを低下させてしまう。サバティカル休暇を利用したことがある従業員や、所定の勤続年数が経過しサバティカル休暇を利用する権利を有する従業員であれば取得者への理解はあるが、勤続年数が満たない者にとっては不満要素になる。取得者のワークライフバランスだけではなく、残された従業員側のワークライフバランスにも注意を払う必要がある。
サバティカル休暇導入における課題
休暇取得に対する罪悪感
同僚への配慮から休暇取得に対する罪悪感が強い国民性も影響してか、世界的に見て日本人の休暇取得率は低い。有給取得率の国際比較を見ると、日本は2017年から3年連続最下位という調査結果が出ている(エクスペデイアジャパン)。互いが互いの休暇取得を快く認める風土作りが必要だ。
中小企業の導入は難しい
人的リソースが十分な大手企業はサバティカル休暇を導入しやすいが、そうではない中小企業は、休暇取得者の仕事をカバーするだけのリソースが不十分であるため導入へのハードルは高い。導入の際は社内で十分に体制を整える必要がある。
日本のサバティカル休暇導入事例
実際の職場への導入例は以下5つが参考になる。
ヤフー株式会社
勤続10年以上の正社員を対象に、自己成長を目的としたサバティカル休暇制度(最短2カ月間・最長3カ月間)を2013年に導入。休暇期間中は休暇取得者に活動支援金を支給。同社はこの他に、ボランティア活動参加のための「課題解決休暇(3日まで)」、専門知識や語学力を習得するための「勉学休職制度(勤続3年以上、最長2年)」などの休暇制度も設けている(参考:ヤフーの休暇制度)。
ソニー株式会社
配偶者の海外赴任や留学への同行で、英語など自身の語学力やコミュニケーション能力向上を図るための休職(最長5年)や、自分の専門性を深化させるための就学のための休職(最長2年)ができる「フレキシブルキャリア休職制度」を設けている(参考:ソニーの人事制度)。
株式会社リクルートテクノロジーズ
勤続3年以上の社員を対象に、3年ごとに取得できる長期休暇制度「STEP休暇(最大連続28日)」。心身のリフレッシュや自己成長を目的とし、休暇取得者には活動支援金として30万円を支給(参考:リクルートテクノロジーの休暇・休職制度)。
株式会社ぐるなび
勤続5年で取得できる「プチ・サバティカル休暇(連続3日間)」。活動支援金として2万円を支給。(参考:ぐるなびの福利厚生)
東京大学
勤続年数7年を超えた東京大学教員を対象に、自主的調査研究を目的としたサバティカル休暇制度を設けている(参考:東京大学教員のサバティカル研修)。
海外ヨーロッパのサバイティカル休暇導入事例
フランス
休暇先進国のフランスでは、1930年代には全ての労働者が毎年連続2週間の有給休暇を取得できる「バカンス法」が定められ、長期休暇の文化が根付いている。フランスのサバティカル休暇では、以下を条件に最大6〜11カ月の長期休暇を取得できる。
- 勤続年数3年以上
- 通算勤務年数6年以上
- 当該企業で過去 6 年間に長期休暇を利用していない
(参考:欧州における長期休暇制度(立命館大学教授 前田信彦)
スウェーデン
それまで試験的に地域で導入されていたサバィティカル休暇制度が2005年から全国に拡張。勤続2年以上の従業員を対象に最長1年間の休暇を取得できる。その間は賃金の68%の手当が国から支給され、休暇取得者は育児・学習などに専念できる(参考:サバティカル休暇制度の導入(労働政策研究・研修機構)。
ドイツ
労働時間が短いことで知られるドイツでは、「労働時間貯蓄制度」という休暇制度がある。残業した時間などを口座に貯蓄し、その時間を好きな時に休暇として自由に使える制度(ドイツの「労働時間貯蓄制度」,労働政策研究・研修機構)。
サバティカル休暇の実際
日本では企業での導入が広がっていないサバティカル休暇だが、自分らしい働き方を追求する意識が強い若者世代を中心に関心は徐々に高まっている。ツイッターでは「#サバティカル休暇」で多数の投稿があり、「自分の会社にはない制度」「そういう制度があるといいな」「初めて聞いた、発想がおもしろい」などの声が。実際にサバティカル休暇を利用している人の話は、個人運営メディア(サバティカル休暇で1カ月会社を休んでわかったこと)などでも見つけることができる。
長期休暇ニーズの高まりを受け、長期休暇取得のための仕事段取り術の書籍も登場。
サバティカル休暇、日本で
サバティカル休暇は名称そのものもまだ広がっていないが、働き方改革や健康経営の推進で企業も個々も働き方を見つめ直すようになった今、ニーズは徐々に高まると考えられる。リソースに乏しい中小企業への導入は大手から遅れをとりそうだが、従業員の知識向上や、離職率の低下、人材確保の一助に今から検討を進めておきたい。
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