月経カップ市場動向 海外事例・国内事例・ユーザーの本音

オーガニックナプキン、布ナプキン。そしてナプキンもタンポンもいらない生理商品の吸収ショーツ。今、生理用品の選択肢が広がっている。その中でも特にこの1年で急速に関心が高まっているのは、“月経カップ”。欧米ではすでに多くの女性が利用しているが、国内ではようやく認知されてきたところ。利用経験のある女性はまだ少ない。はたして、月経カップは国内でも市民権を得るのか?調査結果をベースに、女性消費者視点から考察した。

フェムテックレポート ビジネスモデル、需要性、課題

月経カップ市場、国外・国内の動向

月経カップとは?

月経カップとは膣内に挿入して経血を集めるカップのこと。カップに経血が溜まったら取り出して便器に流し、カップを洗ったら再び膣内に挿入する。洗って繰り返し使えるのが一番の特徴で、さらに、一度挿入したら半日は外す必要がなく(※)、ナプキンやタンポンのように数時間おきの交換を必要としない。使用前〜使用後までは、次の手順を踏む。(※)メーカーによるが12時間ほどの継続使用が可能。だが実際には、経血量にもよるため数時間で交換している女性もいる

  1. カップを3〜5分ほど煮沸消毒
  2. 挿入前に手を洗う
  3. 挿入しやすい体勢をとる(例:便器に座る、片足を便器に乗せる)
  4. カップを折り曲げて膣内に挿入
  5.  経血がカップにたまる
  6. 一定時間経過したらカップを膣から取り出し、経血を便器に流す
  7. カップを洗う
  8. 再度挿入

以下動画は、デンマーク・コペンハーゲンの月経カップ開発・製造会社オーガニックカップ(2012年創業)。挿入手順やコツを解説している。

月経カップ市場 〜グローバル〜

グローバル市場を調査するテクナビオによると、世界の月経カップ市場は2024年に3億915万米ドルに達するとのこと。月経カップのメリットが評価され、市場を後押ししているという(参考:Global Information)。グローバル市場を牽引しているのは欧米で、50年ほど前から月経カップは使われていたが、2000年代に入ってから急速に進化し次々にブランドが立ち上がった。現在は30以上のメーカーが存在し(参考:SchoonCup)、今や月経カップは欧米女性にとって馴染みある選択肢の一つになっている。

例えばイギリスのムーンカップは、2002年に世界初の再使用可能なシリコーン月経カップを開発。市場を牽引するリーディングカンパニーの一つ。2003年にカナダで誕生したディーバカップも、市場リーダー。北米での取扱店は65,000店舗を超え、南米、ヨーロッパ、東南アジア、中国など35カ国以上で販売されている。今年5月には日本国内でも正式に販売が始まった。

ルーンラボは、フェムテック市場でも注目を集めるベンチャー。月経カップの製品開発にとどまらず、スマホアプリと連動させることで経血の量や状態などを可視化する世界初のスマート月経カップ「ルーンカップ」をローンチ。快適性と利便性に加え、月経カップを通じて女性の健康をサポートする。今注目のフェムテックベンチャーだ。以下はルーンカップ の紹介動画。

月経カップ市場 〜国内〜

ひるがえって、国内の状況はだいぶ異なる。月経カップに着目した国内の市場規模に関するレポートは2020年時点では見当たらないが(編集部調べ)、現時点での国内の月経カップ認知率を考えると、かなり小さいと想像できる。市場そのものが形成されるのはこれから、といったところだろう。

国内の市場規模を考えるにあたり参考になるのは、ナプキンとタンポンの市場規模。週刊粧業によると2019年のナプキン市場規模は601億円、タンポンは58億円とのことなので、「第3の生理用品」に位置付けられている月経カップは、今後順調に市場が成長した場合、数億円〜(単純に高く見積もっても)50億円以下とも予測できる。

現状、国内の月経カップ市場をリードしているのは国外の人気ブランドで、前述のカナダ生まれのディーバカップ、ドイツ生まれのメルーナ、アメリカ在住の日本人女性が開発したスクーンカップなどがその例だ。販売チャネルとしては通販が圧倒的に多く実店舗で見かけるのはほぼ皆無だが、メルーナの月経カップは、一部のドラッグストアやドン・キホーテなどで購入できる。

 

月経カップの認知率上昇も、利用経験者はわずか2%

月経カップ、関心高まり始めたのはいつ?

そもそも、いつ頃から月経カップユーザーが国内で登場したのか?リサーチしたところ、2008年にはすでに話題に上っている。当時の発言小町やyahoo知恵袋などの質問サイトには、月経カップの使い方に関するスレッドが立てられている。だが当時はまだ、月経カップは “知る人ぞ知る” アイテム。関心が急速に高まったのはこの5年ほどで、特に昨年から著しい。フェムテックや月経周りのソリューションで起業する女性起業家の躍進も背景にあると言えそうだ。

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認知率、上昇

ミュゼマーケティングがF1層を対象に行った調査(2020年)によると、月経カップを知らない女性は27%で、2018年比で12%減。「使ったことはないが興味はある」は14%で、2018年比で7%増。7割の女性が月経カップを知っており、興味を示す割合も上昇していることがわかった。

経験率、2%

妊娠・出産・育児の情報サイト「ベビーカレンダー」も、月経カップに関する調査を実施している。それによると月経カップを知っている女性は66%。こちらも上記同様に半数以上の女性が知っている結果となった。さらに月経カップの使用経験を聞いたところ、使ったことがある女性はわずか2%だった。月経カップの存在を知っている女性は増えているものの、まだまだ「ナプキン派」「タンポン派」が大多数のようだ。

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月経カップを使うのはどんな女性?

先述の調査結果からもわかるように、今のところ国内の月経カップユーザーは圧倒的に少ないが、各メディアや女性起業家らによる積極的な情報発信で、ユーザー数は今後着実に伸びていくと考えられる。では、どのような女性層がアーリーアダプターとなり得るのか?実際に月経カップを使用している女性たちの声をソーシャルリスニングし、ユーザー像を探ってみた。

<漏れを気にする女性>

  • ナプキンでは漏れてしまうほど経血量が多い
  • タンポンを短時間で交換しないと漏れてしまうほど経血量が多い
  • 漏れで下着を汚したくない
  • 閉経が近くなり経血量が増えた
  • 子宮内膜症で経血量が多い

<臭い・蒸れを気にしたくない女性>

  • ナプキンだと経血の臭いが気になる
  • 座り仕事なので、ナプキンだと蒸れやすい
  • ナプキンとタンポンの併用をしていて、臭いも蒸れも気になる
  • 蒸れて肌が荒れる

<健康状態を確認したい女性>

  • カップに溜まった経血の量や状態を確認したい

<お金を節約したい女性>

  • ナプキンまたはタンポンの使用をやめることで、生理用品やゴミ袋の購入にかかるお金を節約したい

<時間を節約したい女性>

  • ナプキンもタンポンも、つけたり・外したりに時間がかかり面倒
  • ナプキンやタンポンはゴミがたくさん出る、片付けが面倒
  • ナプキンやタンポンの交換のために何度もトイレに行きたくなくない、または(仕事の都合などで)行けない

<環境に配慮した生活を送りたい女性>

  • ゼロウェイストに取り組みたい=月経カップを使用すれば、ナプキン、タンポン、ゴミ袋などのゴミが出ないので、廃棄物を削減できる
  • プラスチックフリーに貢献したい

 

女性ユーザーの評価、月経カップのメリット&不満

メリット

月経カップを実際に利用している女性は、どんな点をメリットと感じ評価しているのか?ベビーカレンダー が調査している。エコである点や快適性を評価する声が多い。

  1. 洗って何度も使える(61%)
  2. 蒸れやかぶれがない(52%)
  3. 長時間使用できる(47%)
  4. 臭いが気にならない(29%)
  5. 荷物が減る(29%)
  6. 経血の状態が分かる(20%)
  7. その他(14%)

不満

続いて月経カップの不満ポイント。使用後の不便を感じる声が多い。

  1. 手が汚れる(57%)
  2. 漏れが心配(52%)
  3. 挿入が難しい(49%)
  4. お手入れが面倒(39%)
  5. 替える場所が限られる(31%)
  6. 価格が高い(17%)
  7. その他(10%)

実際に、ユニ・チャームが2021年4月に新発売したソフィブランド初の月経カップは、ネット上で “ネガティブ” な声が多数あがった。

「絶対使わない」「不衛生」「抵抗がある」など、厳しいコメントが寄せらている。ある投稿者の「煮沸するくらいならナプキンを使って捨てる方がいい」というコメントには、5,000件を超える賛成票が。(引用:【女性の本音】ソフィの新商品 “月経カップ” にダメ出しクチコミ殺到、一体何がダメ?)

 

 

月経カップの国内市場は伸長する?3つの懸念点

国内でも月経カップへの関心がいよいよ高まり、主要女性誌などのメディアも特にこの1年で積極的に取り上げているが、この先はどうなっていくのか?調査結果を見ていると、認知率の上昇に比例して使用率が高まるとは言い切れない気配がある。市場拡大にあたり障壁となりそうな懸念点を、女性消費者の目線から考えてみよう。

懸念点1:挿入型の生理用品、そもそも日本女性は使う?

1つ目の懸念点は、「そもそも、国内の月経カップ受容度は高いのか?」問題。日本女性は圧倒的にナプキン派が多い。既述の市場規模からも見てわかる通り、ナプキン市場は601億円に対しタンポンは58億円で、その差は歴然。マイナビウーマンの調査からも、圧倒的にナプキン派が多いことがわかる。

  1. ナプキン派(90.9%)
  2. ナプキンとタンポンの併用派(5.6%)
  3. タンポン派(3.5%)

タンポンを使わない理由は「挿入に抵抗がある」「(交換時に)自分の手が汚れる」「漏れが心配」など。こういった理由を背景に、日本では挿入型の生理用品の方が受容度は低い。一方で欧米ではタンポン派が主流。月経カップが女性たちの間で浸透しているのは、もとから挿入型であるタンポンが主流であることが関係しているのかもしれない。挿入に対する抵抗がなく、手が汚れることや漏れの心配にも慣れているため、月経カップもすんなり受け入れられたのだろう。

と考えると、タンポン同様に挿入型である月経カップも日本では受容度がそこまで高くない可能性がある。また、月経カップ使用経験者からは「挿入が難しい」「外せない」「痛い」「取り外しには慣れが必要」などのネガティブな声も上がっているので、未経験者はさらに尻込みしてしまう。月経カップの受容度を上げるには、挿入型生理用品に対する抵抗を払拭する必要がある。

懸念点2:月経カップを外せる場所がない

ふたつ目の懸念点は「挿入した月経カップを取り外せる場所が限られる」問題。月経カップを取り外して再度挿入するだけの環境が、自宅以外ではそうない。取り外す時に手が血まみれになる上に、再挿入する時は、カップに溜まった経血を流してからカップを洗わなくてはいけない。自宅なら洗面所で洗えるが、外出先では手洗キャビネットを備えるトイレが少ないので、カップの洗浄ができない。実際に「自宅にいる時だけ使っている」という声は多い。

月経カップ販売店は「外出先で水場がない場合は、経血を便器に流した後ティッシュでカップを拭いて」「あるいは、ペットボトルに水を入れて持ち歩いて」とアドバイスしているが、どうだろう。現実的ではない。ティッシュで拭いてもティッシュのカスがカップに残る心配があるし、手の汚れも気になる。ユーザーからは「手もカップも水でちゃんと洗い流してからまた挿入したい」という声が。ユーザーが「外出先でも安心して使える」という確信ができる方法を提示できれば、外出先での使用ニーズはかなり高まりそうだ。

懸念点3:安全性

月経カップの挿入を不安に感じる女性は多い。例えば「月経カップは安全なのか?」「痛くないのか?」「奥まで入ってしまい、取れなくならないのか?」などだ。トキシックショック症候群(TSS)を心配する声も聞かれる。

TSSはタンポンの使用をきっかけに発症することがあり、それにより脚を切断した、あるいは死亡したという衝撃的なニュースは記憶に新しい。月経カップはタンポンと同じ挿入型であるため、「挿入型生理用品=TSS発症」という連想をしてしまうのは無理もない。月経カップメーカーのスクーンカップによると、月経カップの使用によるTSS発症の報告はこれまでにはないとのことだが、それだけでは不安を払拭できないユーザーもいるだろう。メーカーも販売店も、安全性に関する適切な対応が求められる。

その他、女性たちは月経カップに対しどのような疑問や不安を抱いているのか?「よくある質問(スクーンカップ)」で閲覧できる。

 

月経カップ、吸収ショーツ、どちらが優勢?

月経周りを事業ドメインにするスタートアップが増えていることや、SDGsや女性のエンパワーメント推進で「生理をタブー視しない」動きが世界的に起きていることは、間違いなく国内の月経カップ市場拡大に大きく寄与するはず。リピートユーザーは「快適!」「もうナプキン・タンポンには戻れない」と快適性を高く評価し、経済的でエコなプロダクトである点も、女性の消費行動と親和性が高い。これからを期待できる新市場だ。

だが本項で見たきたように、クリアすべき課題も多い。これらの払拭が進まない場合は、注目度が急上昇中の吸収ショーツの方が先行して浸透していくだろう。すでに現時点で、使用経験の有無について吸収ショーツが月経カップを上回っているという調査結果もある。カラフルなバリエーションに、見たことのない新しいデザイン。視覚的に女性の目を引く月経カップのインパクトは大きいが、さて、どちらが優勢か?今後の動向を引き続き観察していきたい。

 

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