フェムテックのビジネスモデル 市場成長の”阻害”要因

コンサルティング・市場リサーチのフロスト&サリバン(米)は今年5月、フェムテックのグローバル市場の分析レポート(※)を公開した。COVID-19が市場に与えた影響、今後の市場の成長機会の分析、フェムテックの売上高予測などをまとめたもの。その中でフェムテック市場の成長要因と成長阻害要因についても言及しており、今後の市場トレンドを先読みするのに役立つ内容がまとめられている。同レポートに記載の内容を参考に、今回は市場の成長”阻害”要因を見ていこう。市場の成長要因については前回の記事「フェムテックのビジネスモデル 市場成長の要因」でまとめているので、ぜひそちらも。(※)レポート原文のDLはこちら

フェムテック市場、成長阻害要因

1.スケールできるビジネスモデルが少ない

フェムテック市場の成長の阻害要因としてまず挙げられているのが、スケールできるビジネスモデルがフェムテック業界に少ないこと。

今のところフェムテックビジネスで成功している国内外の事例は、デジタル搭載型フェムテックであれば、バイタルデータなどの記録・管理・予測ができるウェアラブルデバイスやアプリ、郵送検査キット、オンライン診療、医療機関向けソリューションで、デジタル非搭載フェムテック(いわゆるフェミケアに分類されるもの)であれば、生理ケア、デリケートゾーンケア、セクシャルウェルネス関連商品あたりが主流だが、その中で(あるいはそれ以外で)実際に継続的なマネタイズに成功できているのは一握り。フェムテックブームに乗ってはみたものの、脚光を浴びる企業がいる一方で、その裏ではビジネスモデルで苦戦し撤退する企業も多いのが現実だ。

フェムテック起業家に多いのは女性だが、女性は男性と比べるとビジネスモデルの構築を苦手とする人が多いと一般的には言われている。さらには、そのような傾向も手伝い女性起業家は男性起業家と比べると調達できる資金が少額であるケースが多く、その結果スケールしづらいという背景もある。

いずれであっても、フェムテックビジネスはスケールしづらい状況にある。これは各国で指摘されており、女性が起業した(あるいは女性が主導している)フェムテック企業で大型の資金調達に成功できている事例は非常に稀だ。十分な資金を調達するためにも、そして継続的なマネタイズを可能とする事業に育てるためにも、起業家自身が「スケールできるビジネスモデル」の構築を意識することが必要だ。

2.女性のフェムテックに対する認識・理解不足

女性生活者のフェムテックに対する認識不足・理解不足も、市場成長を阻害する要因として挙げられている。これだけフェムテックが国内外で盛り上がっているものの、実はフェムテックの言葉の認知が広がっているのは、ヘルスケア業界や一部のヘルスリテラシーが高い女性、あるいはトレンドセッターの女性に限られており、一般生活者の認知率は驚くほど低いことが調査で明らかになっている。2020年3月時点での調査結果になるが、「フェムテック」という言葉を知っている人はわずか1.9%(調査結果詳細は以下記事内に掲載)

今年は国内のマスメディアによる報道が相次いだこともあり、現在の認知率は前述の調査時点より上がっていると考えられるが、とは言え、認知率が今後上昇したとしても、女性たちがフェムテックを消費するかどうかは別問題。重要なのは認知率よりも、自身の健康問題と向き合えるだけのヘルスリテラシーが女性たちにあるかどうか。ヘルスリテラシーが低ければ、フェムテックの価値は理解されず、需要は起きない。

フェムテック市場を拡大させていくには、各社がユーザーとなる女性たちに向けヘルスリテラシーを上げていく取り組みが必要だ。時間とコストがかかるが、女性の健康問題に焦点を当てたプロダクトでビジネスをする以上、これは避けては通れない。ヘルスケアマーケティングの重要施策として、常に位置付けておくのが賢明だ。

3.医療者のフェムテックに対する認識不足

これは医療機関向けに開発・販売するフェムテックに発生する阻害要因で、医療者のフェムテックの認識不足が、市場成長を阻害すると見られている。医療の現場では古いソリューションに依存し、新しいソリューションを試すのに消極的だからだ。

これは先行して一大トレンドとなったデジタルヘルス業界においても指摘されていることで、例えば高齢化した医師・医療機関は、デジテルツールへの苦手意識を理由に、新しいソリューションの導入に踏み切らないケースが多い。あるいは医師は興味があったとしても、他スタッフのデジタルリテラシーが低いために導入を断念するケースも。

それ以前に、医師がフェムテックに懐疑的な目を向けていることもあり、これも市場成長の阻害要因となる。臨床的証明に乏しいものが多いことから、医師自身も、そして患者や不調者がフェムテックを使うことも快く思わないのだ(もちろん、医師それぞれの見解は異なるが)。フェムテックの社会的受容性を引き上げ市場を拡大させていくには、医療者の理解も必要だ。

4.臨床的証明が乏しい

フェムテックの有効性や、商品化を裏付ける臨床的証明が乏しいことも、市場成長の大きな阻害要因となる。欧米と比べると日本は特にこれが顕著で、そもそも国内市場では、医療的価値・健康的価値の高いフェムテックが現状少ない。

国外の事例をリサーチしていると、成功しているフェムテックは臨床的証明がされているものが実に多く、ホームページ上でも大々的に打ち出している。資金力がさらに豊富であれば、ベンチャーであっても社内でR&Dの体制を十分に整えており、医師・研究者・専門家が勢揃いというところも。

これについても大きなジレンマがあり、現実は女性起業家は大型の資金調達が困難であるため、臨床的証明をしたくても投入できるだけの十分な資金がないというもどかしい問題が立ちはだかる。さらには、日本は理工学分野で活躍する女性が少ないため、臨床的証明そのものにハードルを感じる、あるいは臨床的証明を必要とするようなハイテク型フェムテックの開発そのものに着手しない、という側面も。日本のフェムテック市場は現状、アプリ系サービスを除くと、生理吸収ショーツ、デリケートゾーンケア、セクシャルウェルネスが主役だが、この日本特有の市場特性も、理工学分野のジェンダーバランスに偏りがあることが背景にあるのかもしれない。

だが日本でも状況は変わっていくと考えられる。これまではフェムテックと標榜するだけでマスメディアなどの注目を集めることができたが、今後は厳しい淘汰が始まり、臨床的証明がされているプロダクトが生き残っていくだろう。

5.社会にはびこるスティグマやタブー

社会にはびこる、女性や女性の体・健康問題に関するスティグマやタブーも、市場成長を阻害する要因となる。どういうことか?

例えば日本なら、「更年期の話題はしづらい、ネガティブなこと、触れてはいけない」「職場で(あるいは上司に)生理のことを言いづらい」といったタブー視があてはまる。開発途上国の中には生理を汚らわしいものと見なす地域があり、生理期間中は隔離された場所で過ごさなければならず、学校にも行けないといった慣習が残っている。

各国で状況の深刻さや内容は異なるものの、こういったスティグマやタブーが社会に残っていると、女性は自分の体について自由に話すことができず、社会や企業は女性特有の健康問題について、実態やニーズをつかむことができない。あるいは、その分野で起業したりプロダクトを開発することすらためらわれる。結果的に、性差医療・性差ヘルスケアに特化したプロダクトが誕生せず、市場成長の機会を逃すのだ。

フェムテックの社会的受容性を上げて市場を拡大させていくには、フェムテック企業がこういったスティグマやタブーを克服していく必要がある。

6.男性投資家のジェンダーバイアス

男性投資家のジェンダーバイアスも、市場成長を阻害する要因になるとレポートは指摘している。ジェンダーバイアスとは、ジェンダーに基づく差別のことで、例えば、男女間における固定観念や偏見、性別役割分業のことを言う。

ビジネスにおけるジェンダーバイアスの代表例としては「女性は理工学分野に弱い」「結婚・出産する女性は、イグジット(IPOやM&A)できない」「ビジネスをスケールできない」といった決めつけで、これにより投資額が小さくなるという問題が起きている。

ジェンダーバイアスが及ぼす問題はそれだけではない。例えば、生理痛や更年期といった女性特有の健康問題に理解を示さない男性投資家であれば、女性特有の健康問題に焦点を当てたフェムテックに商機を見出すことができない。結果的にフェムテックベンチャーへの投資額が小さくなり、市場の活性化を阻むことになる。

この問題は、何もベンチャーと投資家の間だけで起きているわけではない。大手企業でもこれは往々にして起きており、男性主体の企業や主に男性に決裁権が集中している部署の場合、社内や部署内合意を得づらく、フェムテック事業が立ち消えになるという話はよくある。

フェムテック市場を盛り上げていくには、男性投資家や社内の男性のジェンダーバイアスを取り払い、女性特有の健康問題に耳を傾けてもらい、理解してもらう必要がある。

7.「フェムテック」という表現

「Female(女性)+Technology(テクノロジー)」の造語である「フェムテック」は基本的には女性を対象にした言葉であるため、性的マイノリティに疎外感を感じさせ、それがフェムテックユーザーの獲得を逃しているという意見が最近、欧米で聞かれるようになってきた。レポートでは特にトランス男性(女性として生まれたが、男と認識している人)の需要を逃していると指摘。

ダイバーシティの世界的な浸透から、フェムテックという言葉そのもののあり方を問う声は、徐々に大きくなっていくかもしれない。やがて死語となりフェムテックに代わる新しい言葉が誕生すれば、市場は性的マイノリティをも囲いこみ、より拡大基調を見せる可能性がある。

 

国内のフェムテック市場、どうなる?

ここまで、フェムテックグローバル市場の成長を阻害する要因について見てきたが、国内は今後どうなるか?現在の国内の動向や課題は、以下の記事にまとめているので、今後のフェムテックビジネスの参考に、ぜひこちらも。

女性ヘルスケア市場を分析しているウーマンズラボ編集部としては、今後、国内のフェムテック業界では淘汰が始まり、明確なビジネス戦略がフェムテック企業に求められる段階に入っていくと見ている。フェムテック元年と言われた昨年から今年にかけては、プロダクトそのものや女性起業家への注目が一気に高まり、「マネタイズの可能性」「ユーザー獲得の戦略」「ユーザーからの評価」に対する社会的関心は低かったが、来年以降はシビアにこのあたりが社会から求められるようになるだろう。

 

 

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