富裕層のマーケティング・定義
富裕層マーケティングは、中間層と比較して情報が把握しづらいこともあり、難しいと言われてきた。例えば、企業が頻繁に実施するモニター調査やアンケート調査は、一般的にはモニター登録者が中間層~低所得者層に集中しやすい傾向がある。また人口全体に占める富裕層の割合が少ないこともあり、その実態を掴むのは容易ではない。こういったことが「中間層マーケティング」よりも「富裕層マーケティング」の難しさをつくりだしていたが、富裕層女性が以前よりも誕生しやすい環境になった最近は、富裕層マーケティングに着手しやすくなってきた。
実際に、これまでは中間層をメインにしていた企業が、新たな販路開拓に向けて富裕層・プチ富裕層を新規ターゲットにマーケティングを再考する事例を耳にする機会が増えてきた。
目次
日本の富裕層と貧困層、定義は?
富裕層の定義
富裕層の明確な定義はない。マーケティング会社やシンクタンクによって富裕層の定義は異なるが、一般的には以下の条件をおよそ満たしている場合を富裕層と定義する傾向がある。
- 世帯年収1,000万~3,000万以上(※)
- 純資産1億以上
(※)ただし上記世帯年収が「富裕層」に分類されるかどうかは、世帯人数によるので注意
貧困層の定義
貧困層も富裕層と同様に明確な定義はない。貧困の定義は複数あるが大きくは「絶対的貧困」と「相対的貧困」に分かれる。前者は最低限の生存を維持する生活が困難な状態を指していて、例えば「食べ物を満足に食べられない」「医療を受けることができない」などの状態。後者はその国の生活水準や文化水準を下回る状態に陥ってる状態を指す。日本の場合は「相対的貧困」が社会課題となっている。
厚生労働省による最新の調査「平成30年 国民生活基礎調査の結果から グラフでみる世帯の状況」によると、日本の相対的貧困の基準となる貧困線(※)は122万円となっている。
(※)国民生活基礎調査における相対的貧困率は、一定基準(貧困線)を下回る等価可処分所得しか得ていない者の割合をいう。 貧困線とは、等価可処分所得〔世帯の可処分所得(収入から税金・社会保険料等を除いたいわゆる手取り収入)を世帯人員の平方根で割って調整した所得〕の中央値の半分の額をいう。これらの算出方法は、OECD(経済協力開発機構)の作成基準に基づいている。「貧困率」に関する算出法など詳細はこちらに掲載。
富裕層の実態(職業、世帯数)
富裕層に多い職業
富裕層に多い職業は「会社代表者(創業者/創業者から継承した者/サラリーパーソン)」「役員」「医師」「不動産オーナー」「自由業(インスタグラマー、ユーチューバー、個人投資家など)」「会社員」などが挙げられる。古いデータではあるが、富裕層にあたる男女それぞれの職業について調査した結果が「富裕層の財布(三浦展,プレジデント社,2007年)」に記載されている。
- 【開業医】男26.3%,女6.3%
- 【会社経営者(自ら起業)】男20.4%,女3.9%
- 【会社経営者(親などから継承)】男11.1%,女2.1%
- 【病院長、理事長】男9.3%,女1.1%
- 【会社員】男8.2%,女6.7%
- 【会社役員】男5.6%,女14.8%
- 【会社経営者(サラリーマン)】男5.0%,女1.4%
- 【勤務医】男2.1%,女1.8%
- 【自由業】男1.3%,女2.1%
- 【不動産経営】男1.3%,女1.8%
- 【弁護士】男1.3%,女0.4%
- 【自営業】男0.8%,女3.9%
- 【専業主婦・無職】男2.9%,女45.8%
- 【その他】男3.1%,女8.1%
- 【無回答】男1.1%,女-%
(出典:「富裕層の財布著者p.13」著者:三浦展)
上記は13年前の調査結果なので、「働く女性の増加」「管理職のうち女性が占める比率の(わずかな)向上」「副業する男女の増加」「幸せややりがいを求めて、“勤め人”をやめて自分の好きなことをする若者(農業従事、小規模カフェの経営など)の増加」「インターネットを使って簡単に稼げるようになった」など今の時代の潮流を考慮すると、2020年現在、再度調査を行えばおそらく上記職業のうち以下職業について数値が向上しているかもしれない。
- 会社経営者(自ら起業)の女性
- 会社員の女性
- 会社経営者(サラリーマン)の女性
- 自由業の男女
- 自営業の男女
富裕層の年齢別割合ランキング
所得金額階級別世帯数の相対度数分布
厚生労働省「所得金額階級別世帯数の相対度数分布」をみると、富裕層の割合は以下のグラフの通り。所得1,000万円以上を富裕層とすると12.2%が富裕層となる(2018年調査)。
金融資産別割合
年収ではなく、金融資産(※)別割合でみた場合の富裕層の割合はどれくらいなのか。「日本の新富裕層(三浦展&三菱総合研究所生活者市場予測システム,洋泉社,2014年)」によると以下だった。
(※)預貯金+有価証券の合計
- 1億円以上(0.9%)
- 5000万円~1億円未満(2.3%)
- 3000万円~5000万円未満(3.7%)
- 2000万円~3000万円未満(4.7%)
- 1500万円~2000万円未満(3.9%)
- 1000万円~1500万円未満(5.2%)
- 500万円~1000万円未満(11.1%)
- 400万円~500万円未満(4.2%)
- 300万円~400万円未満(4.9%)
- 200万円~300万円未満(5.6%)
- 100万円~200万円未満(10.4%)
- 50万円~100万円未満(9.5%)
- 50万円未満(12%)
(出典:「日本の新富裕層p.8」三浦展&三菱総合研究所生活者市場予測システム)
富裕層・超富裕層の世帯数
野村総合研究所の推計(2018年公開)によると、2017年の日本の富裕層・超富裕層の世帯数は、推計開始をした2000年以降最多となった。預貯金、株式、債券、投資信託、一時払い生命保険や年金保険など、世帯として保有する金融資産の合計額から負債を差し引いた「純金融資産保有額」を基に、総世帯を5つの階層に分類し、各々の世帯数と資産保有額を推計している。富裕層の中でも5億円以上の資産を保有している層を「超富裕層」と呼び、同社推計によると超富裕層は8.4万世帯いるとのこと。各富裕層の世帯数推計は以下図の通り。
富裕層の都道府県別の状況
富裕層はどこに住んでいるのか?参考になる2つのデータがある。
高齢富裕層の分布、都道府県別(大和総研)
大和総研は「高齢富裕層はどこにいるのか」を2017年にレポートとして公開。当レポートでは、高齢層に限られてはいるが、それによると都道府県ランキングは以下の通り。群を抜いて割合が高いのは1位の東京。詳細についてはレポートp.4/10を確認。
- 東京
- 神奈川
- 愛知
- 大阪
- 埼玉
- 兵庫
- 千葉
- 静岡
- 福岡
- 広島
- 北海道
- 京都
- 岐阜
- 茨木
- 長野
- 群馬
- 岡山
- 新潟
- 三重
- 栃木
- 宮城
- 奈良
- 福島
- 山口
- 愛媛
- 富山
- 香川
- 滋賀
- 石川
- 和歌山
- 熊本
- 鹿児島
- 徳島
- 沖縄
- 福井
- 山梨
- 岩手
- 長崎
- 大分
- 山形
- 青森
- 高知
- 宮崎
- 島根
- 佐賀
- 秋田
- 鳥取
日本のお金持ち研究(書籍)
「新・日本のお金持ち研究(森剛志,橘木俊詔,日経ビジネス人文庫,2009)」は、同書内で「第1章 お金持ちはどんなところに住んでいるのか」を記しており、概要は以下の通り。古い情報ではあるが概要としては参考になる。
- 海側よりも山側に住む傾向があるのかも
┗例:フランスのモンマルトル、香港のヴィクトリア・ピーク、アメリカのビバリーヒルズ、大阪の桜ヶ丘・桃山台、兵庫の芦屋など - ただし、富裕層には「通勤上不便を感じない、都市の真ん中で暮らす利便性追求型」と「多少の不便を受容しつつ、ゆったり暮らせる環境重視型」の2種に分かれる
- 年収1億円以上でみた場合、大半は東京住まい
富裕層の世界ランキング 最多はアメリカ
世界で見ると、日本の富裕層は“小粒”と言われている。ビジネス誌「フォーブス」が毎年発表する「世界長者番付」で2019年のランキングを見ると、Amazon創業者のジェフ・ベゾス氏を筆頭に、ビル・ゲイツ氏(マイクロソフト)、ウォーレン・バフェット氏(投資家)が続いており、上位10人中7人がアメリカ人。日本人はというと、41位に柳井正氏(ファーストリテイリング)、43位に孫正義氏(ソフトバンク)、69位に滝崎武光氏(キーエンス)がランクインしている。そして大きく飛んで365位に高原豪久氏(ユニ・チャーム)。かつては堤義明氏(西武グループ)が世界第一位にランクインした時代もあったが、日本経済が停滞してからは、100位以内にランクインする日本人はわずかとなり、さらにトップ10入りはできず、の結果となっている。
富裕層マーケティングはチャンス
近年、所得の二極化が色濃くなっている。働く女性が増えたこと、ユーチューバーやティックトッカーとして成功し、若くして短期間で数千万〜数億円を稼ぐ女性が増えていること、女性アントレプレナー(連続起業家)が登場していること、パラキャリ女性が増加していることなどを背景に、プチを含む富裕層女性は以前より増えていくと考えられる。
富裕層女性のタイプをチェック
稼ぐ力を身に付ける女性が増えている中、富裕層マーケティングは企業にとって大きなチャンス。当社の感覚ではあるが、中間層女性をターゲットにした女性マーケティング戦略に関する相談は大手企業に多く、富裕層女性をターゲットにした女性マーケティング戦略の相談は今のところ中規模企業に多い印象がある。富裕層女性への展開を新たなチャンスとして検討してみてはどうだろうか。
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