シニアマーケティング 事例・プロモーション・トレンド(1/3)
シニアマーケティングへの注目が急速に高まっているが、シニアマーケットを理解する情報や成功事例がまだ多くないことから、シニアマーケティングを難しいと捉える企業は多い。
実際に多くの企業から聞こえてくるのは「シニア市場に参入したいが、今まで若い世代(20~40代)中心の市場で展開してきているから、アプローチの手法がわからず参入への不安がある」「シニア市場に入ってみたがうまくいかない。失敗要因は何なのだろう…」という声。
2025年には人口の3割が高齢者となり、今後国内消費の主力となっていく。本稿では、女性シニア市場を理解できるデータなどの基本情報と、シニアマーケティングの事例や消費トレンドを解説。プロモーションのキーワード発見にも。
目次
シニアマーケティングの市場を理解する
シニアは何歳以上か?
シニアとは具体的には何歳以上の人を指すのか?定義は業界や個々で認識が異なり、以前は50歳以上をシニアと呼ぶケースも見られたが、近年はWHOが定義する65歳以上をシニアと捉える流れが強い。
なお、人口統計における区分では次のように定義されている。世間一般的なイメージとしては、60~70代がシニア、80~100代が高齢者。ここから先に紹介する各省庁や企業の統計・調査では、「シニア」「高齢者」を定義する年齢がそれぞれで異なるため、わかりやすく解説することを目的に本稿では60歳以上を「シニア」として話を進める。
- 6〜14歳…児童
- 15〜34歳…青年
- 35〜64歳…壮年
- 65〜74歳…前期高齢者
- 75歳以上…後期高齢者
シニアの人口(2019年9月時点での推計)
- 65歳以上の人口は3,588万人で過去最多(総人口に占める割合は28.4%で過去最高)
- 65歳以上の男性は1,560万人
- 65歳以上の女性は2,028万人
- 2040年には、65歳以上の人口は推計3,921万人(総人口に占める割合は35.3%)
参考:総務省統計局
シニア向け産業の市場規模
みずほコーポレート銀行産業調査部は、65歳以上のシニア向けの市場規模(「医療・医薬、介護、生活産業」)についてリサーチ。レポートでは次のように分析している。シニア向け市場の対象範囲は図の通り。
- 2025年に101.3兆円規模に成長見込み(2007年対比161%)
- 医療、医薬、介護産業は50.2兆円規模に(2007年度:22.6兆円)
- 生活産業は51.1兆円規模に(2007年度:40.3兆円)
シニアの消費推移
人口動態の変化に伴いシニアの消費支出全体が増加するため、今後シニア向け商品・サービスの急速な需要拡大が見込まれるのは必至。「家計消費全体に占めるシニアの消費割合予測」を見ると、1990年は24.6%(33兆円)だったのが、2030年には47.0%(77兆円)まで拡大するとの予測がある。今後はシニアが国内消費のメインプレーヤーになっていく。
シニア市場についてより深く理解する記事
シニア女性の特徴
シニア市場の全体像がつかめたところで、次にシニア女性についての理解を深めよう。
「シニア女性のライフスタイル」の考え方
女性シニアマーケティングを考えるとき、「ライフスタイル」を想定すると戦略設計をしやすい。その際以下の3点について配慮しよう。
- シニアを一括りにしない
- 年齢を重ねるほど、ライフコースが多様化することを理解する
- 年齢を重ねるほど、生活状態が多様化することを理解する
シニア女性といっても、60代前半と100歳代女性ではおよそ40年の開きがある。まずはじめに戦後生まれ/戦前生まれという違いがあり、これだけでも価値観の違いは大きい。高齢で40年もの年齢差があれば当然元気の度合いも異なる。シニア女性は一括りで考えないようにしたい。また女性のライフコースは年齢を重ねるほどに多様化していくことも忘れてはいけない。
10代・20代の若い頃は皆が一律同じようなライフコースを歩んでいても、30代でライフコースは一気に多様化し、その後も女性たちはライフイベントを迎えるごとに(例:離婚、夫との死別、介護の開始、子の独立など)ライフコースが多様化していく。そのため、生活行動・消費傾向・価値観・時間の使い方・趣味嗜好・資産などあらゆることが年齢の上昇とともに多様化する。
- <例:10~20代前半>
ライフコースの多様化がまだ見られず、ほぼ同じライフコースを歩む。
⇒10代後半は多くの女性が学生
⇒20代前半は多くの女性が就職 - <例:30代>
20代後半頃~30代は一気にライフコースが多様化。
⇒結婚する女性
⇒独身の女性
⇒専業主婦として子育て中の女性
⇒継続就業しながら子育てをする女性
⇒子育てが一段落つき、パート復職する女性
など
さらに、女性シニアのライフスタイルを考えるときに考慮すべきは「生活状態」。貯蓄額(経済的余裕の有無)、世帯収入、家族構成、体の状態、住まいなどは個々で大きな違いがある。
- <体の状態例>
・特に不調はない女性(自立している)
・持病があり通院している女性(自立している)
・要介護者 - <住まい例>
・自宅(一人暮らし)
・自宅(夫婦二人暮らし)
・2~3世帯住宅
・介護付有料老人ホーム
・住宅型有料老人ホーム
・サービス付き高齢者向け住宅
・ケアハウス
・特別養護老人ホーム
・グループホーム
「シニア女性のライフスタイル」を考える際は、上記のように多様化していることを前提とし、「ターゲット女性がどのタイプか?」をまずは策定した上で、「ターゲットシニア女性のライフスタイルの策定」を行うのが望ましい。
シニア女性の情報収集の方法
「シニア層のデジタル利用率やスマートフォン所有率は上がっている」との調査結果が多く出ているため、あたかもシニア女性(特に60~70代)の多くがすでにパソコンやスマホなどのデバイス操作に慣れデジタルからの情報を使いこなしているように錯覚してしまう。いわゆる“東京型マーケティング”で考えるのではなく、日本全体・地域全体をならして俯瞰してシニア女性のデジタル市場を見てみると、必ずしも「デジタルがシニア女性たちに浸透している」と捉えることもできない。シニア女性のデジタル利用について見てみよう。
【デジタル利用意向】
中高年層の「健康情報の測定・管理方法」を見ると、デジタルよりも測定機の利用率が高い。
「安心して買い物するために信頼している情報源」に関しては、若い世代とシニア世代を比較すると、シニア世代に関しては「インターネット」が著しく低くなる。
デジタル利用者は確かにシニア層でも増えているが、「デジタル浸透度」については“まだまだ”だ。
【スマホ所有率】
NTTドコモモバイル社会研究所の調査によると、スマホの所有率は以下の通り。女性シニアのスマホ所有に関しては、娘の存在が大きい。娘が親に「孫の写真を送りたいから」「ラインしたいから」と言って、スマホへの買い替えを促し、スマホの選び方や使い方を娘が教えるケースが多いからだ。娘の有無、娘が近居かどうか、はシニア世代のスマホ所有率に影響力を持っていそうだ。
- 60代:56%
- 70代:31%
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【SNS利用率】
60代女性の主なSNS利用率は次の通り(平成29年版 情報通信白書 「主なSNSの利用率」)。
- LINE(23.9%)
- Facebook(7.1%)
- Twitter(5.2%)
- mixi(0.6%)
- Instagram(2.6%)
SNSを利用したい派、しない派の声(マイボイスコム調べ)。
- 【利用したい派】
年をとって来たので社会とのつながりのため。(女性66歳) - 【利用しない派】
時代と共に企業の宣伝などが多く、個人的につまらなくなってきた。(女性65歳)
最近は、60代以上で積極的にSNSを活用する女性が少しずつ増えている。
シニア女性の消費行動の特徴と興味関心分野
前述の通りシニア女性でもさまざまなタイプに分類されるのでクラスターによって消費行動の特徴は異なるが、シニア女性の消費行動の特徴一例を以下に紹介。
シニア女性の消費行動の特徴と興味関心分野
- 子育て中ママと同じくらい、食に対して安心安全志向が強い
- 子・まごの影響を受けやすい
- 健康、終活、生前整理への関心が最も高い年代
- 運動行動者率が高い
- ブランド重視派が多い(ブランド力=購入するに値する信頼力)
- 他者とのリアルな接触を好む(若者世代はデジタルによる接触重視)
- 60~80代のネット通販利用率は2~3割(消費者庁「平成29年版消費者白書」)
- 60代・70代の6 〜7割が、豊かな暮らしのために最も重要なことは「健康」(消費者庁「若者の消費に対する意識」)
- マスメディアの影響をわりと強く受ける
- テレビ視聴時間が長い
- DMや折り込みチラシをわりとしっかり読み込む
- 商品検討の際、口コミをあまり参考にしない。参考にするのは3割(平成29年消費者白書「若者の消費」)
- 現在お金を掛けているもの(60代):食べること(68.1%)、医療(36.1%)、旅行(31.8%)(平成29年消費者白書「消費者を取り巻く社会経済情勢と消費者意識・行動」)
- 現在お金を掛けているもの(70代):食べること(69.2%)、医療(49.3%)、交際(27.8%)(平成29年消費者白書「消費者を取り巻く社会経済情勢と消費者意識・行動」)
- 60代の連絡手段はスマホ・携帯電話、70代は固定電話(NTTドコモ モバイル社会研究所)
- ICTによる健康サービス利用者はわずか8%、今後使ってみたいは24%(NTTドコモ モバイル社会研究所)
- 自然、文化芸術、歴史に対する興味関心が高い
- 地域への興味関心が高い(地域のイベントなど)
など
他世代との比較
消費行動の特徴を他世代と比較すると、次の違いが見られた(ウーマンズ実施調査)。
- <20~30代>
ユーザビリティよりデザイン重視 - <40代>
効果、利便性、お得感を重視 - <50代>
企業の“消費者に対する姿勢”や“理念”を重視 - <60代>
ブランドを重視(ブランド力=購入するに値する信頼力がある)
シニア女性の不満とニーズ
シニア女性でもさまざまなタイプに分類されるためクラスターによって不満・ニーズは異なるが、以下に一例を紹介。
- 企業や社会が“高齢者扱い”をするから、気持ちが先に老け込む
- 大人の紙おむつのCMは夫と一緒に見ていると気まづくなる
- シャンプーのボトルに記載されている文字が小さくて読みづらい。HPも同様
- 企業への問い合わせ電話。人と直接話したいのに自動音声対応のため、問題を解決できないことが多い
- 店頭でのシニア割引で、販売員に年齢を証明できるものを提示しなくてはならないのが嫌。「女性は年齢を隠したいものなのに、なぜわざわざ年齢を証明できるものを出さなきゃいけないの?」
- 一人暮らしが不安な理由(厚生労働省「高齢社会に関する意識調査平成28年」)
1位:病気になったときのこと(79.7%)
2位:寝たきりや身体が不自由になり、介護が必要になったときのこと(79.1%)
3位:買い物などの日常生活のこと(43.5%) - 一人暮らしで受けたいサービス(高齢社会に関する意識調査「厚生労働省 平成28年」)
1位:通院、買い物等の外出の手伝い(51.1%)
2位:洗濯や食事の準備などの日常的な家事支援(37.5%)
3位:配食サービスの支援(27.9%) - 高齢者の家庭内ヒヤリ・ハット経験(東京都「平成28年度 ヒヤリ・ハット調査」)
1位:リビング・居間(34.2%)
2位:自宅の玄関・階段・廊下(33.4%)
3位:台所・ダイニング(30.5%)
4位:自宅の庭・ベランダ(20.1%)
5位:寝室・ベッド・寝具等(19.9%) - 高齢者向け(80~100歳代)の基礎化粧品、メイクアップ商品がない
- テレビや販売員の会話など、早口で聞き取れない(理解できない)
シニアマーケティングの戦略ヒント
ターゲティング
ターゲティングでは、クラスターの策定を始めに行いたい。シニアマーケティングやシニア研究を行う各社がシニアのクラスター分析を行っているので、それらを参考にするか、あるいは自社でクラスター分析を行う。なお、当サイト運営会社の当社ウーマンズでは20~70代女性を20クラスターに分類しているので「20~70代の中間層女性・富裕層女性のクラスター」もご参照頂きたい。
シニアのクラスター分析を行うとき、検討材料として必ず入れたいのは「医療・介護レベル」。
- <医療・介護レベル例>
・特に不調はないクラスター(自立している=いわゆるアクティブシニア)
・持病があり通院しているクラスター(自立している)
・要介護者のうち身体機能低下クラスター
・要介護者のうち認知機能低下クラスター
ペルソナ設定時のポイント
ターゲティングが決定したら、次にペルソナを策定する(マーケティングではペルソナ策定を強く推奨するケースが多いが、ペルソナ策定は必ずしも必要というわけではない)。ペルソナ設定時のポイントは以下。
- 特にシニアの場合、都市在住派か、地方在住派かで傾向が大きく変わることを理解しておく
- ペルソナは定期的な見直しを行い、常に社会情勢やトレンドを反映させる
- シニアマーケティングでは、ペルソナ設定時に「医療・介護レベル」を必ず入れる
- 自社都合の“理想”にならないようにする
- リアリティある人物像を描く
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デザイン・世界観
シニア向けの商品・サービスのデザインやブランディングは、どうも“年寄りくさい”ものがいまだに多い。そうならないよう注意しよう。例は以下。
- サイトやチラシに採用される写真は、フリー素材写真のような安っぽいもの。よく見かけるのは、「芝生×青空×白髪のシニア」の3セット
- グレーや深緑、黒、茶色など地味な色が多い
- 20~40代女性をターゲットにした商品のような「キラキラ感」を感じさせないデザイン
- 小さくて読めない文字サイズが多い。他、文字×背景色(透明のボトルに白文字を採用するなど)、行間への配慮がない
- 複雑な商品説明で理解しづらい(シンプルに理解できる構成が◎)
など
プロモーション、コピー
シニア女性へのアプローチに悩む企業は多い。若い世代のように活発にSNSやネットを使わないからだ。以下は、コピーやプロモーションのヒントに。
- 長く複雑な文章・コピーよりも、簡潔で理解しやすい文章・コピー
- カタカナや英語、新しい言葉などは使わない(耳慣れた言葉を好み、耳慣れない言葉は避ける傾向にあるため)
- 体験談をもとにしたコピーを使う(チラシなどに掲載される体験談を信頼する傾向が強いため)
- 不快感を与えないよう配慮する(「紙おむつ」「失禁」などダイレクトな言葉はNG)
- イメージコピーよりも、ダイレクトにメリットを伝えるコピーの方が購買意欲を高める
- 〇〇歳の女性におすすめの△△、のような年齢表記が有効な場合もあるが、かえって年齢表記が購買意欲を削ぐこともあるため、年齢表記の有無は要検討。年齢表記をせずに「〇〇歳の女性に購入してほしい」場合は、イメージで伝えるのが◎(例:CMで採用するのは70代の女優にするが、キャッチコピーには「70歳」を表記しない)。
3K不安の払拭
シニアの3K不安とは、「健康」「経済(金)」「孤独」不安のことで、よく、シニアビジネス成功には「3K不安の解消」にあると言われる。3K不安をどう払拭するか?の視点からマーケティングを考える必要がある。
人生の後半期には3K不安を解消しようと「スマート・エイジング」、歳を重ねることによる体と心の変化に賢く対処し、知的に成熟する生き方にシフトしていく。
私たち東北大学では、これまでの医学、心理学、社会学などの知見を統合して、スマート・エイジング実現のためには「運動」「認知」「栄養」「社会性」の4つの条件が満たされる必要があると結論づけた。(引用:日経MJ 2019年4月19日)