女性ヘルスケアビジネスで強化すべき世代は?

こども家庭庁の発足や出産育児一時金の増額、男性の育休取得率公表の義務化、国の最重要課題に少子化対策が位置付けられるなど、最近は子どもにまつわるニュースが社会の関心を集めている。マーケティングの世界では、消費の主役としてZ世代の動向が企業の関心ゴトに。意識・行動・トレンド調査など各所でZ世代の研究がさかんだ。加えて昨年からは、次の消費の主役とされるα世代も話題に。

こんな社会のムードを見ていると、「新製品を開発するなら、対象をZ世代にしよう」「Z世代のトレンドが世のトレント」「α世代の意識・行動が新しい常識」など、マーケティングがZ世代とα世代の感覚に引っ張られがちだが、それは早合点。

時代時代の消費傾向をマーケティングの指針に取り入れたり未来のビジネスに備える意味では、Z世代とα世代のキャッチアップはもちろん重要。だが業界や業態によっては、それが必ずしもプラスに働く訳ではない。返ってコスパとタイパの低下や社内・部署内での混乱を招いたり、事業の方向を見誤り早々の撤退に追い込まれてしまうことも。特にその状況に陥りやすく要注意なのが、ヘルスケア領域。ヘルスケアビジネスの特性上、健康意識が強い中高年層をターゲットに据えるのが本来であれば理にかなっているが、「若い人の方が新しいものを買ってくれるから」「SNSで自社商品をバズらせたいから」「トレンドを生み出すのは若者だから」といった安易な思い込みから若者をターゲットにする企業は、実は意外と多い。「中高年層向けの開発は社内で知見がない」「中高年のニーズはよくわからなくて…自分もまだ若いしイメージができない」といった理由もよく聞く。

だが現在の人口構造から判断しても、中高年層は持続的な事業成長に寄与するポテンシャルの高いセグメント。特に女性がアツい。これからのヘルスケア消費の主役は中高年女性だ!

少子化に歯止めかからず、子どもは総人口の1割

今月4日総務省は、5月5日の「こどもの日」にちなんで15歳未満の人口を発表した。外国人を含む15歳未満の男女は、前年比30万人の減少で1435万人(女子700万人、男子735万人)。42年連続の減少となった。以下グラフは3歳ごとの年齢階級別の子どもの数。年齢が下がるほど減少しており、少子化に歯止めがかからない状況が明らかに。

【画像】年齢3歳階級別子どもの数(総務省よりウーマンズ作成

 

総人口に占める子どもの割合は11.5%。1950年は35.4%で3割を超えていたが年々低下。世界の主要国と比較しても日本は低く、米国18.0%、中国17.2%、イギリス17.5%、ドイツ14.0%。一方で割合が高い国は、コンゴ民主共和国46.5%、フィリピン30.3%、インド25.3%、メキシコ24.5%など。

 

 

50歳以上、女性人口の5割超え

人口ボリューム層は中高年

総人口に占める子どもの割合が低下の一途をたどる一方で、中高年層の割合は男女ともに年々上昇。少子化の進行と同時に、人口ボリューム層である第1次ベビーブーム期(1947年〜1949年生まれの現74歳〜76歳で「団塊世代」)と、第2次ベビーブーム期(1971年〜1974年生まれの現49〜歳52歳で「団塊ジュニア」)に生まれた人々が中高年齢に達した影響が特に大きい。

女性人口に占めるα・Z・中高年の割合

女性の人口のみを引き出してもう少し細かく見てみよう。次のグラフは年齢階級別の割合を示したもの(2022年10月)。α世代は女性人口のうちわずか6%、Z世代は17%ほどだ。一方で、括り方が一気に大きくはなるが、50歳以上の女性は国内の女性人口のうち半数以上を占めている(ここでは説明の便宜上、人口推計のセグメントに合わせてα世代を0〜9歳、Z世代を10歳〜29歳と定義)。

  • α世代…女性人口のうち6%(448万人)
  • Z世代…女性人口のうち17%(1143万人)
  • 50歳以上…女性人口のうち51%(3296万人)

【画像】全国の女性の総人口(単位:万人)(総務省「人口推計2023年3月報(2022年10月確定値)」よりウーマンズ作成

 

中高年女性の消費パワー、いつまで?

「消費の主役」をどのように意味付けするかで言い方は変わってくるが、人口の側面から消費パワーの順位づけをするなら、日本市場の今の主役は圧倒的に男女ともに現中高年層だ。とりわけ女性は消費の8割に関与していると言われているから、さらに期待大。LTVの視点で見るなら人生の中盤〜後半にいる中高年層は魅力的に映らないかもしれないが、女性は男性よりも長生きをする可能性が高い上に、健康への関心や行動者率が男性よりも高いのだから、中高年女性をターゲットに据えた事業開発やマーケティング設計は、ヘルスケア企業にとっては懸命な判断だ。仮に現在の女性の平均寿命である87歳まで生きると考えても、50歳から40年近くは自社製品・サービスを愛用してくれる可能性がある。家族内での口コミから、その子や孫までもが購入するようになるかもしれない。メリットは十分にある。

気になるのは、女性市場で「中高年層のパワーが強い」と言えるのはいつまでなのか?当然、現中高年女性が天寿を全うする数十年先までは今の状況が続くと容易にイメージできるが、改めて、過去からこれまで、そして未来の人口ピラミッドを確認しておこう。見てもわかる通り、やはり中長期的に見ても十分なポテンシャルを秘めている。(以下画像の出典は全て国立社会保障・人口問題研究所

 

 

中高年女性が抱える不とニーズ

この層をターゲットに据えることが勝ち筋である理由は、人口構造の側面以外にもある。年齢やライフステージを背景に、中高年層はアラフィフクライシスをはじめとしたさまざまな問題を抱えやすく、アンメットニーズが多く存在していることだ。中高年女性特有の代表的な問題のうち、ヘルスケア領域に関わるものを見ていこう。

自分の健康 〜悩みは千差万別、どう解決する?〜

中高年女性の代表的な健康問題は更年期と生活習慣病と不定愁訴だが、若年層と比べて特徴的なのは、中高年層の病気や不調は遺伝的要因とこれまでの生活習慣や環境の影響が複合するため、症状も解決方法も複雑で一筋縄ではいかないことだ。それゆえ、適切な医療やヘルスケアの選択がわからず病院ジプシーに陥っていたり、あるいは、情報リテラシー、ネットリテラシー、ヘルスリテラシーの問題から適切なソリューションに辿り着けず我慢していたりーー。中高年女性は健康に関して多様な不(不便・不安・不満・不快)を抱えている(詳細は以下記事に掲載)

 

 

養命酒が実施した20〜60代女性を対象にした日々の悩み事に関する調査によると、20代・30代の第1位は「仕事」、40代は「家計」、50代・60代は「健康状態」。更年期を境に健康状態の変化や体力の衰えなどを実感することが関係しているのだろう、女性たちにとって50代は、悩みや関心ゴトが”健康”に転換する時期にあたるようだ(詳細は以下記事に掲載)

 

 

家族の健康 〜家族と自分の健康、どう両立する?〜

中高年女性が抱えているのは、自分の健康問題だけではない。親、兄弟姉妹、既婚者の場合は義親や夫の健康問題を抱えることも。特にケアワークを担いやすい女性に負担がのしかかる。加えて、自分が病気や不調を抱えていても家族の面倒や家族の健康管理・介護をする必要が出てきたり、子育てと介護が同時にやってくるダブルケアや、高齢同士の夫婦や親子がお互いに介護をする老老介護に直面すると、さらに負担は増大する。

この問題を理解するのにわかりやすいデータがある。国内の要介護状態にある人は、女性470万人・男性218万人で圧倒的に女性に多く、そして、家族を介護しているのも男性より女性に多いことがわかっている(家族の介護をしている人のうち女性は65%・男性35%)。女性は自分自身が要介護状態になるリスクが高いだけでなく、同時に家族の介護をする立場になる可能性も高いのだ。

 

【画像】要介護・要支援認定者数(厚生労働省「介護保険事業状況報告2022年1月」よりウーマンズ作成

 

【画像】同居の主な介護者の性・年齢階級別構成割合(厚生労働省「国民生活基礎調査,2019年」よりウーマンズ作成)

 

長寿化の今、誰にとっても病気との共生は身近になる。自分自身の健康管理をしながら、家族の健康をどうハンドリングしていくか?この不安を取り除いてくれる製品・サービスのニーズが高まっていくだろう。

 

独居 〜単身リスク、どう回避する?〜

未婚率の上昇、世帯構造の変化、長寿化などを背景に、単独世帯は年々増加。全世帯に占める単独世帯の割合は約4割にも上る。以下グラフは、男女それぞれの単身世帯の割合を年齢階級別に表したもの。50代までは単身者が占める割合は男性の方が高いが、60代になると逆転。女性の方が長生きすることから、高年齢になると女性の単独世帯の割合は一気に高くなる。単身女性の割合が最も高いのは75〜84歳で26%。

 

【画像】男女別・年齢階級別の「単独世帯」の割合(%)(総務省,令和2年版国勢調査世帯の種類・世帯の家族類型,年齢,男女別世帯人員の割合」からウーマンズ作成)

 

高齢期の一人暮らしは、社会的孤立、孤独死・孤立死、犯罪被害などが問題になる。特に深刻なのは未婚の場合。頼れる家族がいないケースが多いため、適切な支援が必要だ。子や孫など家族がいても、遠く離れて暮らしている場合も同じ状況に陥りやすいので、同様に支援が必要。

 

人生100年、ヘルスケア消費の主役は中高年女性

年々進む長寿化や「人生100年」の浸透に伴い、健康寿命、認知症、介護問題、ポリファーマシー、孤独死・孤立死、年金問題、老後資金の枯渇、高齢期の就労、高齢ドライバーの事故など、長生きによるさまざまな問題がクローズアップされるようになったことで、長生きをリスクと捉える風潮が数年前から急速に高まった。

だが最近はこの変化に適応しようと、企業も個人も徐々にマインドに変化が。国による人生100年を想定した社会システムの構築を始め、企業は人生100年時代ならではの不安やニーズ、ウェルビーイングに対応する製品・サービスの開発に次々に乗り出し、女性たちも、人生100年を見据えたライフプランやキャリアプランを描く意識が強まってきた(※)

長生きをする可能性が高い女性の方が人生100年をネガティブに受け取っていることは、各所の調査でも明らかにされているが、一方で将来に備えた健康投資に意欲的なのも女性。本稿では主に人口構造の側面から中高年女性層を消費の主役と称したが、人生100年時代に突入したことで女性たちの健康意識が殊更に高まっていることも、中高年女性向けの事業を強化すべきエビデンスだ。Z世代とα世代が創りだす新しい風を適度に読みつつ、中高年女性特有の意識・行動に則したマーケティングを実践しよう。(※)人生100年時代に向けた女性たちの意識や企業の開発事例は『女性ヘルスケア白書2023』のpp.27〜35に掲載。ダウンロードがまだの方はコチラ

 

 

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