待ちわびたSRHR元年、セクシャルヘルスの潮流を女性のヘルスケアマーケへ(2/3)

誕生から25年、SRHRはどうなった?

SRHRの概念を生んだ国際人口開発会議から25年が経過した2019年11月、ケニア・ナイロビでナイロビサミットが開催され、170カ国の政府機関、市民社会、ユース団体、企業などが参加した。25周年を機にSRHRの振り返りが行われたことで、世界・国内で改めて女性のSRHRへの関心が高まった。

世界のSRHRはどうなった?:改善進むも、課題はなお山積み

サミットではSRHRに関してこの25年の間に世界全体で改善したこととして「妊産婦死亡の44%減少」がを挙げ、同時に今後世界で取り組むべき項目を「ナイロビ声明」として発表した。以下はその一部。参考:国際協力NGOジョイセフ

  • 予防可能な妊娠・出産による妊産婦の死亡をゼロに
  • すべての若者が正しい知識と情報を入手し、自身でSRHRの選択ができるように
  • ジェンダーに基づく暴力と児童婚やFGMなどの有害な慣習をゼロに
  • 家族計画サービスへのアクセスが満たされない状況をゼロに
  • SRHR、ジェンダー平等などICPD行動計画を実施するための国際的予算の増
  • ICPD行動計画とSDGsおよびアジェンダ2030を達成する行動と資金調達への努力を加速し、ユニバーサル・ヘルス・カバレッジ(UHC)実現の一環としてSRHRへの普遍的アクセスを達成

その中でも特に優先すべき課題として強調したのは次の3つ。

  • 予防可能な妊娠・出産による妊産婦の死亡をゼロに
  • 児童婚などの有害な慣習とジェンダーに基づく暴力をゼロに
  • 家族計画サービスへのアクセスが満たされない状況(アンメットニーズ)をゼロに

日本のSRHRはどうなった?:日本特有の問題が顕在化

性被害、改善されず

では、日本はこの25年間でSRHRはどう進歩したのか?減少基調が始まったタイミングに違いはあれど、性感染症全体の報告数の減少、妊産婦死亡率の低下(※2)、人工妊娠中絶数の減少、死産数の減少など、特に母子保健領域で改善が進んだ。(ただし例えば人工妊娠中絶数は、減ったと言っても今なお年間で16.2万件/2018年。引き続き改善が必要だ)

改善が進んだ領域がある一方で、強姦・強制わいせつ認知件数はこの25年間で急増したり減ったりと、特に大きな改善は見られない。

(※2)日本の妊産婦死亡率は世界的に見てトップクラスの低水準。戦後までは高率だったが、1950年代から大きく低下した。

女性たちがジェンダー格差を認識

その他、SRHRにおける国内の変化と言えば、女性自身の意識が25年前よりも格段に強まったことだろう。その一つが男女格差。女性の高学歴化や社会進出によって、「ガラスの天井」「ワンオペ育児」「職業におけるエイジズム」に代表される男女格差を実感する場面が増え、それに加え近年は、世界経済フォーラムが発表するグローバル・ジェンダー・ギャップ指数によって日本の男女格差が明白に可視化されたことで、問題意識が急速に高まった。SNSの浸透で女性たち個々が自由に声を挙げられる時代になったことも後押ししている。

性教育の遅れ

日本のSRHRにおいてもう一つ認識しておくべきが、性教育の遅れ。世界と比べ日本の性教育は遅れている上にかつその内容が曖昧であることが指摘されており、例えば、具体的な避妊方法など重要な視点が抜け落ちていることが性教育における問題点として浮上している。

例えばドイツの学校では、性・生殖を生物学のように捉える教育が行われ、授業では避妊具や避妊薬が生徒たちの机に並べられ、生徒らは実際に手にとって避妊方法を学ぶという。日本と比べると随分とオープンだ。日本と諸外国との違いについてはNHKが取材記事を掲載しているので、そちらをご覧いただきたい。ドイツと台湾の例を紹介している。

性教育の遅れは、特に女性側に大きな悪影響を及ぼす。性・生殖に関する正しい知識がなければ、望まない妊娠・人口中絶、性感染症への罹患、性感染症による不妊症など、女性は心身に大きなダメージを受けることになる。

望まない妊娠で出産をすれば心の準備がないまま母親になるため、子どもを虐待したり、貧困に陥るケースも出てくる。計画的な家族計画や生殖活動が妨げられることで、キャリア形成を中断せざるを得ない女性も。こういった女性側に降りかかる問題を解決するためには、計画的かつ実践的な性教育が必要なのだ。

なお、国際的な性教育の指針として性教育のスタンダード「国際セクシュアリティ教育ガイダンス(ITSE)」がアナウンスされている。以下の領域を学ぶ(日本語訳での確認はこちら)。

  • 関係性(家族、恋愛関係、子育てなど)
  • 価値観、権利、文化、セクシャリティ
  • ジェンダーの理解
  • 暴力と安全確保
  • 健康と幸福のためのスキル
  • 人間のからだと発達
  • 性と生殖に関する健康
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