待ちわびたSRHR元年、セクシャルヘルスの潮流を女性のヘルスケアマーケへ(3/3)

SRHR元年2020、潮流を感じる女性トレンド

2019年後半はSRHRの重要性が世界的に再認識された年だった。前述のナイロビサミットではSRHR誕生から25年が経過し、これまでの振り返りと今後の課題が提示され、また同年9月に米・ニューヨークで開催された国連ユニバーサル・ヘルス・カバレッジハイレベル会合では、UHC政治宣言の中でSRHRの必要性が明言された。

特に女性を対象にしているこの世界的なSRHRの流れは今後、国・自治体による施策、医療サービス、民間企業の商品・サービスといった形で生活者レベルにまで落とし込まれていく。その波を感じさせる動きが今年に入ってから起きている。具体例を見てみよう。

性教育本、ベストセラーに

子ども向けの性教育本が最近増えている。もちろん以前から性教育関連の書籍は発売されてきたが、特に今年は発売が相次いでいる。その中でも特に人気なのが、アマゾン書籍の「子育て」カテゴリーでランキング1位の(2020.9時点)「おうち性教育はじめます」。


おうち性教育はじめます 一番やさしい!防犯・SEX・命の伝え方

3〜10歳の子を持つ親向けに、性器に関すること、妊娠の仕組み、性関連の病気、性行為などのトピックを親子一緒に学べる内容で、購入者の評価は総じて高い。

・学校ではセックスや妊娠、避妊について教えないから、家庭での性教育は必須

・日本では、詳しく正しい知識に出会える機会がほぼ無いまま、誤った知識に触れて、その認識のまま大人になってしまっているのが現状だと思うので、(そのせいで差別や偏見などが生まれていると思うので)身近に子供が居なくても、是非とも読むのをおすすめしたいです

・「性教育」で想像する内容は、今までの人生で、なんだか触れてはいけない雰囲気で取り扱われ、友人から聞いた話やネットで知ることがほとんどでした。そこにはたくさん誤解や偏見があると気付いたのはずっと後です。息子にはこの誤解や偏見はなくていいものだと知って欲しいです。

・性教育というとアダルトなこととどうしてもリンクしてしまっていたが、それは性教育のほんの一部であり、本来は心身ともに自分や相手を大切にすることにつながるということを、まだ子どもが小さい(2歳)のうちに学べたのがとても良かった。理論だけでなく実践的であり、子供にどう伝えればいいか、具体的なセリフの文があるのがとても良かった。引用:アマゾン

スマホで学べる性の教科書、2020年6月オープン

性と生殖に関するトピックを網羅した情報サイト「セクソロジー」が今年6月にオープンした(運営:公団1moreBaby応援団)。国際セクシュアリティ教育ガイダンスに基づいた内容で、「ジェンダー」「セックス」「避妊」「中絶」「性感染症」「人権」「性暴力」「ポルノ」「インターネット」「ボディイメージ」など様々な視点から性・生殖に関することを学べる。

性・生殖に関するネット検索は恥ずかしくて調べるのは気が引けるという人は多いが、セクソロジーはそういった雰囲気がなく、HPデザインがおしゃれなので見るのに抵抗がない。性別・年齢問わずサイト訪問しやすい世界観は、性教育に対するハードルを下げている。大人も改めて知っておくべきトピックが、わかりやすくまとめられている。ぜひ一読を。

避妊のアクセシリビティ改善を、10万人が署名

今月7日政府は、緊急避妊薬(アフターピル)を薬局で購入できるようにする方針を固めたことを発表した(2021年の導入目指す)。緊急避妊薬とは性交直後72時間に服用することで妊娠を高確率で避けられるもので、性暴力や避妊に失敗した女性が使用する。

世界86カ国では医師の診察なしで購入できるのに対し、日本では医師の処方箋がなければ入手できず、さらに10,000円〜15,000円という高さ。緊急時に服用するものであるのに、医療機関の受診が必要な上に高価格であることから、誰もが手軽に対処できる方法ではない。ましてや、人工妊娠中絶が多い10〜20代女性や低所得の女性であればなおさらだ。

こういった現状に対し以前から改善を求める声は上がっていたものの進展は見られず、最近になりSNSなどで女性たちが批判の声を上げるようになったことで変化が起き始めた。セクシャルヘルスに関する活動をしているNPO法人ピルコンの染谷明日香さん、産婦人科医の遠見才希子さん、「#なんでないのプロジェクト」の福田和子さんがオンライン署名プラットフォーム「Change.org」で立ち上げた緊急避妊薬アクセス改善を訴えるキャペーンには、約10万人がすでに賛同している(現在もその人数は増加中)。ツイッターにも、「#なんでないの」のハッシュタグで投稿が集まっている。

来年から緊急避妊薬を薬局で購入できるようになるということは、女性の性と生殖に関する自由と健康が改善されるということ。避妊に関する低いアクセシビリティがこれで完全に解消された訳ではないが、国内におけるSRHRが前進したことを実感するニュースだ。

性・生殖における男女格差を指摘した記事が話題に

日本の避妊は世界的に見て遅れている上に、性・生殖について明らかな男女格差が見られる。緊急避妊薬のアクセシビリティが2020年になりようやく改善されたこともそれを象徴する事例だが、経口避妊薬についてもそうだ。

男性向けのバイアグラはわずか半年で承認されたのに対し、女性の経口避妊薬の認可は、世界で最も遅く44年もの年月がかかった。これについて前述の福田和子さんが女性誌FRaUのweb版(講談社)で記事(2020.9.29)を執筆している。「日本には男女格差はない」と首をかしげる人は多いが、避妊の歴史を見れば否定はできないだろう。

SRHRの潮流を、女性のヘルスケアマーケへ

SRHRは特に途上国で必要とされるイメージを持つ人もいるが、途上国と先進国ではそもそも改善すべき領域が異なる。途上国は主に母子保健や児童婚など、女性の安全・安心・健康に重点が置かれているのに対し、高水準の母子保健を実現している日本の場合は、本稿で見たきた通り、途上国とは異なる日本ならではの改善領域がある。

妊娠・出産を機に(本当は辞めたくないのに)仕方なくキャリアを諦めて仕事を辞める女性がいること、子どもを産むことが当たり前という思考から、子を持たないDINKsやシングル女性を不思議がったり冷ややかな目で見ること、職場でのセクハラ・マタハラが解決されないこと、乳がんや子宮頸がんなど女性特有の病気に対し危機意識が低く検診受診率が低いことなどがそうだ。

女性の性・生殖に関して自由と健康を求める声は、生活者レベルでこれから方々で高まるはずだ。SRHRはヘルスケア産業と密接に関わる概念。この潮流をリードしていく女性生活者に、ヘルスケア企業がどう歩調を合わせていくべきか?マーケティグ施策を今からしっかり吟味する必要がある。

 

 

【編集部おすすめ記事】
女性の健康問題、一覧(思春期~老年期)
フェムテックとは?市場規模・企業商品事例・動向
急加速するビューティテック 美容業界を牽引するハイテク商品&サービス事例
「女性ホルモンを整える」とは?女性のニーズに応える商品・サービス
フェムテックブームも後押しに 「月経カップ」は国内で市民権得る?

 

PAGE TOP
×