ヘルステック市場規模・企業事例・米国の動向

ヘルステック市場の動きが活発だ。AIやビッグデータなど進歩が目覚ましい新しいテクノロジーは、ヘルスケア領域のさまざまな課題を解決する可能性を秘めており、国、産業、アカデミアがヘルステックに熱い視線を注いでいる。

ベンチャー企業が参入する事例や、既存のヘルスケアプレーヤーがベンチャー企業と連携してサービスを生み出す事例も多い。メドピア(東京・中央)がアジア開催の事務局を担うヘルステックの国際カンファレンス「Health2.0」のように、カンファレンス開催による情報交換や出会いの場もつくられている。

ヘルステックとは?

ヘルステック(HealthTech)は、「Health」と「Technology」を掛け合わせた言葉。同じように「~テック(xテック)」として使われる言葉に、フィンテック(Fintech=ファイナンス<金融>とTechnology)やエデュテック(Edutech=エデュケーション<教育>とTechnology)などがある。

これらには、従来の領域の課題を新たなテクノロジーによって解決しようとする期待が込められている。例えばヘルステックにおいては、従来の治療効果を上げたり、医療の生産性を向上することなどが期待されている。

ヘルステック・健康ソリューションの市場規模、3,038億円

2022年の市場、2017年比で50%増(富士経済)

富士経済によると、ヘルステック・健康ソリューション関連市場は順調に拡大。2018年の市場は2,248億円で、2022年には3,083億円まで拡大すると予測されている。拡大の背景にはストレスチェック義務化などの政策により、企業が健康経営や働き方改革に関心を高めていることが一つの要因として挙げられる。

ヘルステック市場

出典:富士経済「ヘルステック・健康ソリューション関連市場の調査結果」

市場拡大をけん引、「健康経営サービス市場」

ヘルステック・健康ソリューション関連市場の拡大をけん引しているのが、健康経営サービス。企業の従業員に対する健康維持・増進への関心が高まり、関連サービスを積極的に導入する動きが活発化しているためだ。従業員健康管理システムや禁煙サポートプログラムなど、健康経営関連サービスは多岐にわたる。

人材確保や離職率低下を目的に福利厚生に注力する企業が増えていることから、福利厚生代行サービス市場も膨らんでいる。さらにストレスチェック制度(※)の導入により、メンタルヘルス関連のサービス(ストレスチェックシステム、EAP<従業員支援>サービスなど)も拡大。(※)ストレスチェック制度は、2015年12月から始まったもので、従業員50人以上の事業所に対し、労働者のストレス状況の確認やその支援を義務付けたもの。

消費者のヘルスケア意識向上で拡大、「健康情報測定機器・治療器市場」

健康情報測定機器・治療器市場の関連サービス・製品としては、活動量計や血圧計、骨密度測定器、ウエア型端末(スマート衣料)、体臭測定器、スマート歯ブラシなどが挙げられる。これらサービス・製品は、健康意識の高まりや製品認知度の向上を受けて、市場が拡大している。参入企業増加や低価格製品の投入も市場拡大を支えている。今後さらなる製品ラインアップの拡充と認知度向上により市場は拡大傾向で推移すると予測される。具体的なサービスには以下のものがある。

  • G・U・M PLAY(ガムプレイ)(サンスター)
    歯ブラシにアタッチメントを装着しアプリと連携することで歯磨き動作を数値化・記録し、正しい磨き方を身に付けることができる。ゲーム感覚で歯磨きができるアプリや、ニュースを読み上げるアプリなども用意されている
  • スマートフィット for work(クラボウ)
    衣料に取り付けられた生体センサが心拍や温度などの情報を取得。スマートフォン経由で情報を解析することで熱中症などの作業リスクを低減する。生体センサを取り外しての洗濯が可能

    ヘルステックウェア

    出典:クラボウ

今後の伸びを期待、「検査・健診サービス市場」

検査・健診サービス市場としては、自宅で行える郵送生化学検査や店舗での検査・健診サービスなどがある。企業や健康保険組合が活用したり、住民の健康増進策として自治体が活用することも多い。中でも注目はDTC遺伝子検査サービスで、2022年には122%(2017年比)の50億円に拡大すると予測されている。具体的には以下のようなサービスがある。

  • デメカル(リージャー)
    指先から採血し郵送することで、生活習慣病関連など複数の検査ができる。検査項目は血糖、HDLコレステロール、ガンマGT、腫瘍マーカーなど。健康保険組合の利用やスポーツクラブなどでの会員向け健康増進サービスとしての利用、個人向けのセルフメディケーションとしての活用を想定している
  • GeneLife(ジェネシスヘルスケア)
    遺伝子検査によって病気のリスクが分かる。自宅で唾液を採取し郵送すると結果が送られてくる。ラインアップは豊富で、肥満や肌老化など気になる項目だけを検査するものから、360項目を一気に検査できるものまである

アプリの増加で拡大、「健康プラットフォーム&生活習慣改善サポートサービス市場」

健康プラットフォーム&生活習慣改善サポートサービス市場には、健康マイレージサービスや食事管理サービス、患者向け健康管理プラットフォームなどのサービスが含まれる。特に睡眠改善サービスは近年、拡大傾向。2022年には20倍(17年比)の20億円の市場に拡大すると予測されている。具体的には以下のようなサービスがある。

  • 健康マイレージ(ドコモ・ヘルスケア)
    歩数計や活動量計、スマホアプリなどを活用しウオーキングを促すサービス。団体申し込みが必要で利用者は自治体や企業、健康保険組合など。すべての利用者はランキングやマップ形式で歩いた距離を確認できるほか、抽選でポイントを獲得できるなどのサービスを付加できる
  • Sleep Style(帝人)
    ウェブマガジンやアプリ、セミナー等の提供を通して睡眠をトータルでサポート。アプリ「2breath(ツーブリーズ)」はウェアラブルセンサーが呼吸を読み取りスマホに送信。個人に合った「休息に誘うガイド音」を発することで、ゆったりとした睡眠へ促す

 

ヘルステック市場で今後注目のサービス

ヘルステックの中でも特に今後市場成長性が高いと期待されている領域をピックアップ。

1.メンタルヘルスサービス

メンタルの不調が企業の生産性低下につながるなど、近年注目されているメンタルヘルス。厚生労働省が2015年から始めたストレスチェック制度もあり、企業では従業員のメンタルヘルス管理・不調改善を外部に依頼するケースが増えている。具体的には以下のようなサービスがある。

2.DTC遺伝子検査サービス

ホームページで申し込み後に自宅に郵送され、唾液等の採取後、返送すると結果が得られる手軽さがうけている。疾患リスクが分かるほか、肥満のリスクなどは、ダイエットに関心のある女性にとって興味深い検査項目。具体的には以下のようなサービスがある。

  • ジーンクエスト ALL(ジーンクエスト)
    300項目以上の健康リスクが解析できる。アルコール体質や肥満の傾向などが分かる。例えば2型糖尿病の発症リスクが高いことなどが分かれば、食や運動など生活習慣に気を付けるなど、対策が可能

3.睡眠改善サービス

睡眠の改善はメンタル不調にも影響を及ぼし、企業にとっては生産性向上に関わる。最近ではウェアラブルによって睡眠の実態が把握しやすくなり、スマホと連動することで情報の可視化、解析もできるようになってきた。生活者の睡眠に対する関心度向上も後押しし、スタートアップ企業をはじめ、多くの企業が提供。具体的には以下のようなサービスがある。

  • O:SLEEP (株式会社O: (オー))
    従業員の健康を管理するツール。従業員は睡眠に関するコーチングが受けられ、企業の人事部は従業員の睡眠状況が把握できる。不眠改善のための認知行動療法に基づいたAIコーチングを提供する。睡眠改善による生産性向上や不眠によるメンタル不調が原因の退職低減効果を企業にもたらす。同社は経済産業省主催「ジャパン・ヘルスケアビジネスコンテスト2017」で優秀賞を受賞している

4.オンライン診療

パソコンなどを使ってインターネット上で診察や診断を行う「オンライン診療」は、患者の医療へのアクセスを高めることが期待されている。「原則初診は対面診療が必要」「オンライン診療を実施している医療機関がまだ少ない」「デジタルリテラシーが必要」「オンライン診療の保険適用が認められる対象疾患が豊富ではない」など、課題はあるものの、距離的制約や時間的制約を解消するオンライン診療は、今後さらに広がりを見せることが予想される。

5.治療アプリ

モバイルヘルスの中でも特に注目度が高い「治療アプリ」は、患者のセルフケアをサポートすることで、病気の治療につなげる役割を担う。アメリカが先行しており、日本ではこれから市場拡大が予想される。日本初となる「治療用アプリ(ニコチン依存症治療用アプリ)」を2019年5月に厚生労働省に承認申請したのは、ベンチャーのキュア・アップ(東京・中央)。医薬品でも医療機器でもない、第3の治療手段となる治療用アプリは同社の製品を皮切りに今後多くの企業から登場するだろう。

6.フェムテック

女性特有の健康課題をテクノロジーで解決する「フェムテック」が近年注目されている。例えば、Joylux(米・シアトル)は女性の膣や尿失禁のトラブルを改善するための骨盤底筋ケアのデバイスを開発。メキシコ在住の若き起業家は「乳がん発見IoTブラジャー」を開発。1週間に1回わずか1時間着用するだけで乳がんの早期発見が可能となる。VCのフェムテックに対する投資熱が高まっていることもあり、特にベンチャーを中心にフェムテック参入企業は増えていくだろう。

7.AIホスピタル

診断や治療にAIを活用する「AIホスピタル」の実現に向け内閣府は2018年7月、「AIホスピタルによる高度診断・治療システム研究開発計画」を発表。AIホスピタルの浸透により、高度で先進的な医療サービスの提供が可能となる。例えば「患者に起こる危険な兆候を速やかに察知」「薬剤の誤投与、画像データ見過ごしなどの人為的ミスの回避」「遺伝子・ゲノム情報に基づく個別化医療の実現」などだ。AIホスピタルは、女性の感情に何をもたらすのか?以下記事に掲載。

以下は「AI(人工知能)ホスピタルによる高度診療・治療システム」に関する内閣府公開の動画。

 

米国における動向

米国のヘルスケア市場は3兆ドル規模ともいわれ、市場規模は大きい。しかし産業全体でみるとデジタル化は遅れており、急速に進展するAIなどと融合したサービスが今後登場することで、ヘルスケア市場の中でも特にヘルステック市場は活性化すると予測される。

大手テック企業やスタートアップの参入も活発だ。グーグルやアップルは生体情報収集事業に参入しており、アマゾンはオンライン薬局を買収。個人の健康履歴を蓄積・分析するパーソナルヘルスレコード事業ではアップルも事業展開を進めている。

デジタルヘルス専門のベンチャーファンドのロックヘルスは2018年の投資総額が81億ドルとしており、活発な投資活動がうかがえる。一方、既存のヘルスケア産業も新たなテクノロジーを積極的に取り入れようとしている。開発受託機関企業が創薬のためにAI企業と提携したり投資したりする事例が見受けられる。

テクノロジーとの融合で価値向上を

グーグルやアップルなど大手テック企業が相次いでヘルスケア市場に参入する中、もはや既存のヘルスケアプレイヤーは、テクノロジーと無縁ではいられない。既存の治療法やアプローチが新たなテクノロジーによって塗り替えられるからだ。一方で、既存のヘルスケアサービスも新しいテクノロジーとの融合によって価値向上を実現できないか、検討する必要はあるだろう。ドラッグストアのスギ薬局は、ベンチャー企業のメドピアと資本提携し、ミールデリバリーサービス「スギサポdeli」や食事記録アプリ「スギサポeats」、歩数記録アプリ「スギサポwalk」を提供している。スギ薬局への来店促進にもつながると期待される。こうした既存のサービスと新しいテクノロジーを融合したサービス創出が市場をさらに活性化させていくことだろう。

 

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