ヘルスケアトレンド(健康・美容・予防医療)2018(3/4)

【4】ビヘイビアヘルス

キーワード4は「ビヘイビアヘルス」。ビヘイビアヘルスとは「日々の生活の行動パターンを変え、病気予防・健康維持につとめること」を指す。例えば以下のような行動だ。

  • 例:1時間おきに立ち上がる
  • 例:一駅手前でおりて歩いて帰宅する
  • 例:ヒールをやめてスニーカー移動することで、ウォーキング時間にする
  • 例:オフィス内の通路に少し傾斜をつける

以前から「予防医学」の考え方はあったが、なぜ今になって予防医学と似た概念「ビヘイビアヘルス」が女性の間で取り入れられはじめているのか。その理由は2つある。

一つ目は、国の各施策が介護予防・疾病予防に重点を置いており、社会全体が「健康寿命延伸」に向けた流れになっていること。二つ目は「現代女性はとにかく毎日忙しく、ヘルスケアのためのまとまった時間を確保するのが難しくなった」ことだ。

実際に、「ネット上で人気になり書籍化され10万部のヒットになった『すごいストレッチ』」は、女性たちに「家事の合間にできる」「仕事しながら実践してる」「テレビ見ながら取り組んでいる」と、隙間時間でさっと取り組める手軽さと、日常生活への取り入れやすさ、理解のしやすさが評価されている。


職場で、家で、学校で、働くあなたの疲れをほぐす すごいストレッチ

また、今世界的に人気になっていて日本にも少しずつその流れがやってきているのが「ストリートワークアウト」だ。公園の鉄棒や平行棒を使ったコミュニケーションスポーツで、いつも利用したり通りすがる公園でちょこっと、楽しみながら運動に取り組むスタイルだ。

ビヘイビアヘルスとは、予防医学をもっと身近にライトに捉えた位置づけと言える。「身近でライトなヘルスケア」という形態・概念は、時間をとられない・少しの努力で「予防」という成果につなげることができる健康・美容法のため、一日のタスクが多い女性にこそ喜ばれやすい。予防医学よりも「身近で気軽に取り組めるビヘイビアヘルス」の概念に基づいた商品サービス開発やプロモーションは、女性に受け入れられやすそうだ。

【5】介護する家族の心・体のヘルスケア

キーワード5は「介護する家族の心・体のヘルスケア」。介護市場の話題といえば「被介護者」「介護職員の人手不足」「介護保険制度」「介護ロボットの活用」などに集中しがちで、意外と見落とされているのが「介護する家族の心・体のヘルスケア」だ。

女性の晩婚化による子育てと親の介護が同時期に発生するダブルケア問題、老老介護、介護殺人、介護離職による貧困・孤立、など家庭内の介護の現場には様々な課題があるにも関わらず、介護する家族の心・体のヘルスケアの対策は全く充実していないのが現状だ。

家族の介護を担うのは子育てと同様に、まだまだ女性が多く、彼女たちが求めることは「介護と子育ての両立の仕組み、商品・サービス」「精神的負担や心の疲れ、体の疲労を軽減するモノコト」「情報」「マネープラン」「同じ状況の人たちと交流を図れるコミュニケーションプラットフォーム」など様々にある。

では具体的にはどのような商品・サービスが喜ばれるのか?例えば移動スーパー。トラック販売の移動スーパーというと、高齢者が多く住む過疎地で利用されているイメージが強いかもしれないが、過疎地ではないエリアでも、介護に忙しい女性たちに重宝されている。「家をなかなか空けられないから、家のすぐ近くまで移動スーパーが来てくれるのは助かる」とのことで、喜ばれているのだ。通販サイトが充実しているにも関わらず、彼女たちは「忙しい毎日の中でも、ちゃんと実物を見て食材を買いたい」とのことで、あえて移動スーパーを利用する。

介護する家族の心・体のヘルスケアに関しては、まだまだ商品・サービス・情報が非常に不足している。彼女たちを支えるヘルスケア商品・サービスは、超高齢社会が加速する日本で、今後より一層需要が高まる。介護する家族だけではなく、看護師や介護士など夜勤が多い働く女性たちのヘルスケアも同様に、どう守っていくかも今後の重要課題だ。

【6】ヘルスケア女性の3分類化

キーワード6は「ヘルスケア女性の3分類化」。今後、各社がターゲット策定・ターゲット開発を行う際は、この「3分類化」を考慮する必要がある。

今後は、ターゲティング戦略では、「ヘルスケア度合いがどのタイプか?」を考慮したい

第1分類:ヘルステック好き派

1分類目は「ヘルステック好き派」。ウェアラブルで心身のあらゆるデータを計測・管理するのが好き。様々なヘルスケアアプリも使いこなし、フィットネスは最先端のVRで楽しむ。そして自宅も健康管理型マンションといった、ヘルステックを徹底的に使いこなすタイプだが、現状、このクラスターの女性は非常に少数派だ。

第2分類:ヘルステックほどほど派

2分類目は「ヘルステックほどほど派」。LINEやTwitter、Instagramを利用し、健康管理は、月経管理や歩数計アプリなど簡易的でメジャーなものを適度に使っている程度。特にヘルステックに抵抗があるわけではないが、そこまで積極的に使いこなすわけでもなく、現状の「ほどほどヘルステック」に満足しているクラスターでボリュームゾーンになる。

第3分類:アナログ派・デジタル無関心派

3分類目が「アナログ派・デジタル無関心派」。都会的な生き方に距離を置きロハスな暮らしを好むのが特徴で、多くはないが地方に移住する女性も今少しずつ増えてきている。スマホやパソコンは持っているが、ブログやSNSを使ってロハスな暮らしや田舎暮らしを発信する程度で、積極的にヘルステックを使うことはない。アナログな生活に十分満足しており、せかせかした生き方を好まないため、最先端のヘルステックにも興味を持ちづらい。今はまだ少数だが、働き方改革や、働く女性の増加、女性の資産運用、仮想通貨の台頭など、企業に属せずとも稼ぐ力を身に着ける女性の増加に伴い、都会を離れて自然の多い場所で、ゆったりと生きていきたいという女性が増えてきているので、今後このクラスターは市場に対し一定の影響力を持つようになると考えられる。

このように全世代の女性クラスターを3分類で見た場合、最も多いのは「ヘルステックほどほど派」と「アナログ派・デジタル無関心派」だ。しかし、各社はこぞってヘルステック好き派が好みやすい、最先端技術の開発・販売に注力しており、実際の女性消費者ボリュームゾーンとかけ離れている印象が無きにしもあらずだ。「ヘルステックほどほど派」と、「アナログ派・デジタル無関心派」女性の方が多いので、この2つのクラスターをターゲットにする方が、ビジネス上有利なはずが、各社は「消費者が求めるモノコトを提供する」ことよりも「最先端を追求すること」を重視する傾向にある。

最先端技術が全てではない

最先端の商品やサービスにいち早く関心を示すのは消費者全体の2.5%であるイノベーターと言われているが、あまりにも世界の変化・技術の進歩が速すぎるが故、やがてはイノベーターさえ企業の新製品や市場変化に追いつけなくなってしまうのではという懸念もある。

1000年前、100年前、50年前、30年前と比較して、今・今後は技術の進歩・世界の変化スピードが格段に早くなっており今後ますますそのスピードは加速していくと言われている。おそらく多くの企業がそのスピードにのっていくことになるが、やがて各企業が提供する商品サービスと、女性消費者との間に大きな開きができ、結局「それは誰のためのものなのか?」となりかねないかもしれない。

SNSが話題になっている昨今、あたかもほぼ全員の女性が使っているかのように錯覚してしまうが、LINEを抜いたSNSの20~30代女性の利用率は約半数、40~50代の女性に関しては10~30%だ。つまり、実はSNSを使っていない女性の方が多い、ということになる。意外に感じるかもしれないが、30代女性でも「LINE、Facebookの違いがいまだに分からない、メルカリの使い方が良く分からない」という女性も一定数存在する。

“直観的に楽しめる・理解できる”を意識したい

AI、IoT、ロボットによる医療・介護の質の向上や、経営効率の向上、医療診断精度の向上など、最先端技術の貢献度は確かに大きいが、一般的な消費の現場では「そこまで女性消費者たちは、最先端を求めているのだろうか?」と立ち止まって考えることは大切だろう。

ただこれは決して、最先端技術を否定しているわけではない。最先端技術を使ったプロモーションや商品で女性の心を掴んでいる事例は実際にいくつかある。成功している事例は、直観的に理解できる・心理的ハードルを与えないことに優れているため、女性たちにすっと受け入れられている印象がある。次の動画は、自然派化粧品として人気の高いロクシタンの体感型デジタルシアターを取り入れた店舗の様子(現在は閉店)。最先端技術を駆使した施策を取り入れる場合、女性には、直観的に楽しめる・理解できることを意識したい。

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