科学的介護とは?官民の取り組み事例(3/3)
2.“見守るエアコン”で科学的介護(パナソニック)
パナソニックは、超高齢社会の日本において介護現場の厳しい現状とQOLの向上を求める時勢を受け、「エアコンみまもりサービス」と呼称されるIoTとAIを使った新しい科学的介護サービスを発案。高齢者や介護施設に向けて提案されたそのサービスでは、施設職員の負担を軽減し重大な症状の早期発見や入居者一人一人に合わせたQOLの向上が可能となる。特徴は以下。
- 介護スタッフの負担軽減
センサーが室内の状態や入居者をモニタリング。施設職員は訪室せずともPC画面で全室の状態を一目で把握することができる。異常が起きた場合のみ限定的に訪室することが可能となり、夜間業務の効率化を目指すことができる - センサーを使った介護サービス
エアコン本体のセンサーで部屋の温度や湿度を確認し、急激な気温の変化に合わせて遠隔操作で対応することができる。また同様に備え付けられた高精度のルームセンサーで入居者の生活リズムや睡眠状態までを正確に感知することができるため、認知症に見られる不眠や昼夜逆転の傾向も早期発見が可能 - プライバシーの尊重
センサーのみでカメラの無いみまもりサービスであるため、入居者のプライバシーを守りながらその状態をしっかりと把握することができる
導入前、導入後でどのような変化があったのか?同社は「IoT/AIを活用した 科学的介護の実践報告」との中で以下の事例を紹介している。
事例1:自立支援に繋がったケース
- 【導入前】
1日2食で運動もせず、重度の便秘に悩まされていた入居者 - 【導入後】
夜間にほぼ覚醒しており昼夜逆転が起こっていたことが判明
・デイサービスの利用を開始し自発的な運動を実施するようになった
・睡眠時間が週に+7時間改善
・便秘も解消され、1日3食を食べられるようになった
事例2:施設職員の負担軽減に繋がったケース
- 【導入前】
17室全室を2時間ごと計5回巡視し、訪室とその記録だけで1日219分費やしていた - 【導入後】
睡眠リズムの見える化により訪室が必要な部屋と必要な頻度を把握し、夜間巡視を適正化
・訪室は5室のみ、回数も2回に減少
・残りの12室はみまもりシステムのみでの安否確認に切り替わった
・訪室とその記録、システムでの安否確認を含め費やす時間が101分に削減された
・訪室以外も含めた夜間業務の効率化が行われた
3.クローズアップ現代(NHK)〜“科学的介護”最前線〜
科学的介護の登場による認知症ケアへの新たな可能性について言及しているのはクローズアップ現代(NHK)。感情の振れ幅が大きくその要因が瞬時には判断しづらい認知症では、科学的介護による“見える化”が鍵となる。番組内では認知症の人をケアするときの適切な視線を学ぶ方法として、バーチャルリアリティーの活用を紹介している。
バーチャルリアリティーで「視線・距離・傾き」の3項目を判定することで介護技術を”見える化”する取り組みだ。他にも認知症の行動・心理症状として挙げられる徘徊や暴力、うつなどに対しても症状の視覚化を図るケアプログラムが紹介され、改善に向かった実例が取り上げられた。「行き過ぎた自立支援」など懸念される課題も取り上げ、科学的介護の可能性と問題の総括的な内容がまとめられている。詳細は以下で確認できる。
- 「認知症時代に希望 “科学的介護”最前線」(NHK「クロースアップ現代」)
4.竹内理論(竹内孝仁)
国際医療福祉大学大学院の竹内孝仁教授は、介護関連の団体で研究・活動を続けている科学的介護提唱者。「水分・食事・排便・運動」を中心としたケア、いわゆる「竹内理論」が知られている。竹内氏が持つ肩書は以下。
- 介護予防・自立支援パワーリハビリテーション研究会会長
- 日本自立支援介護学会学会長
- 日本ケアマネジメント学会理事
- 富山・在宅復帰をすすめる研究会会長
(参考:国際医療福祉大学大学院「教員紹介」)
認知症の正体を大胆にも〈単なる脱水〉と定義した以下書籍では、水分摂取をボケ予防の最大の鍵として紹介している。身体的活動力や意識レベルの低下を促す脱水症を危険視し、1日1,500ccの水分摂取の習慣を取り入れることで認知症の回復と予防を目指す。
認知症の改善を「水分・食事・排便・運動」を中心としたケアで行う竹内理論についてまとめられている一冊。「脱水症を引き起こす水分不足」「体力の低下や注意力散漫をもたらす食事の不足」「精神状態を左右する便秘状態」「活動力の向上や維持を担う運動量」、これら4つの柱の改善をもって認知症対策を行うことを提言している。
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