女性のスポーツ市場形成は始まったばかり 注目商品・サービス続々登場
10年前と比べるとスポーツ市場は随分と様変わりした。“スポーツは男性のもの、男性が主役”といった雰囲気はすっかりなくなり、今や多くの女性が自らスポーツに参加し楽しめる環境になった。実際に成人のスポーツ人口はここ30年で増加しており、特に平成28年度から急激に伸びている(スポーツ庁「スポーツの実施状況等に関する世論調査」)。新しい市場の形成は始まったばかり。急速に需要が拡大するスポーツ女性の取り込みに、各社が工夫を凝らしている。
目次
変化する、女性たちにとってのスポーツの位置付け
スポーツ実施率は女性よりも男性が高いことも関係してのことか、これまで長らく、スポーツをする女性向けの商品やサービスは男性ほど充実していなかった。そんなスポーツ市場に女性向けのものが登場するようになったのは健康ブームが到来したここ数年のこと、2010年代後半から。
米国セレブのワークアウトや健康的な食事の様子がSNSで発信されるようになったのを機に、国内の特に若い女性たちの間で「体に良いものを食べる」「体を動かす」といった健康的なライフスタイルが「おしゃれ」と定義づけされるようになった。”SNS映え”ブームの到来も後押しとなり、女性のためのオシャレでかわいいランニングウェア、ゴルフウェア、ヨガウェアなどが次々に誕生しては女性たちの心をつかんだ。スポーツウェアを普段着に取り入れるファッションスタイル「アスレジャー」が、最先端ファッションとして2016年頃から国内外でブームになったのも、その流れ。
ダイエット、リフレッシュ、美容、趣味、おしゃれ、SNS映え、仲間との交流、生活習慣病予防、ロコモ予防など入り口は人それぞれだが、今の女性たちにとってスポーツとは、”心身のケア”や”娯楽”の領域を超え、”おしゃれをする場”でもあり”自分を表現する場”でもありー。一昔前と比べると、生活の中に占めるスポーツの重要性は格段に上がった。
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スポーツに特化した女性向け商品・サービス
そんな時代の変化を捉え、今各社がスポーツに取り組む女性をターゲットに新商品を提案。チャネルの使い分けで女性客を新たに取り込むところも。まだ事例はそう多くないが、注目商品をリサーチした。特にユニ・チャームのスポーツ用生理用品はすでに女性たちの間で好評だ。
スポーツ用の生理用品
ユニ・チャームは、生理用品ブランドの「ソフィ」からスポーツ用のナプキンとショーツを2020年4月に発売開始した。
スポーツ、通勤、育児などを通した日常的な動作によるナプキンの“ズレ”や“動きモレ” に対応する。同社調査によると、約6割の女性がナプキンがずれるトラブルを経験している。有職女性の増加や健康意識の高まりに伴う女性の運動実施頻度の増加を背景に、商品開発・発売にいたったという。これまでに各社から「漏れない!ズレない!」を謳った生理用ナプキンが発売されてきたが、やはり漏れやズレは避けられず、対応策として、(特に量が多い日は)タンポンとナプキンの両方使いをする女性が多かった。
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ネット上の声を観察すると、早速すでに高い評価を獲得している。スポーツ用ナプキンという新しさやデザイニッシュなパッケージが、女性たちの関心を集めているようだ。商品本体の機能性はもちろん、デザインへの評価も多く散見された。
スポーツ用の洗濯洗剤
運動時の服の汗のニオイを気にする女性たちにとって嬉しいのが、スポーツ用を想定した洗濯用洗剤。P&Gジャパンは、衣料用洗剤ブランド「アリエール」から、新ラインナップとしてスポーツ用の洗剤を2019年に発売開始。
近年のスポーツ市場の拡大に伴い、衣料用品はコットン素材から合成繊維素材へと進化しており、スポーツウェアや作業着、子どもの部活着に多く利用されるようになっている。しかし、合成繊維はコットン素材に比べて「ニオイのもととなる皮脂の汚れがつきやすく落ちにくい」という難点もあった。同商品は「洗剤はスポーツ科学で進化する」のコンセプトのもと、繊維のしつこい汚れも強力洗浄し、着用中も続く消臭効果を実現した。アリエール史上最強の消臭洗浄力を持っているとのこと。
男女が同じ空間で運動するスポーツジムなどで女性が嫌がることの中に、「男性の汗のニオイ」がある。これを敬遠し女性専用スタジオや男性がいない場所でのトレーニングを好む女性がいるほどだ(もちろん、女性専用を選ぶ理由は他にもあるが)。他人の汗の匂いをそこまで嫌がるのだから、当然、自身の運動時のニオイも気になるもの。スポーツ用洗剤は、スポーツ好きの女性や、スポーツをする子どもを持つママの必須アイテムとなりそう。
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気軽に購入できるチャネルで、スポーツをする女性をサポート
今年3月に全国のドラッグストア、量販店などで発売開始されたのは、ピップ(大阪)のコンプレッションウェア「スポーツテックタイツ」。コンプレッションウェアとは、伸縮性の高い生地で身体を包み込むことにより筋肉をサポートする機能性スポーツウェアのこと。主に本格的な運動習慣を身に着けている人たちに利用され、ランニング中に着用する人を多く見かけるようにもなったが、実はまだ一般化された商品とは言えない。
実際に同社の調査によると、コンプレッションウェアの女性の使用意向は41.7%と高いにも関わらず、実際に使用している女性は4.2%にとどまっている。
一般的にコンプレッションウェアはスポーツ用品店で高価格帯で販売されていることが多いが、同社調査によると、使用意向があるのに購入しない理由としては「価格が高い」からとのこと。さらにコンプレッションウェアを購入したい場所として、スポーツ用品店に次いでドラッグストアが第2位であるものの、手軽に買い物できる場所であるドラッグストアではなかなか販売されていない。
そんな背景から同社は多くの人に購入してもらえるよう、ドラッグストアをメインの販売チャネルとして発売を開始した。手軽に購入できる場所・価格帯で販売されることで、コンプレッションウェアを利用する女性はこれから増えそうだ。
スポーツ時の尿漏れに 腹圧性尿失禁の治療
スポーツをする女性の悩みに寄り添うのは、ヘルスケア企業が提供する商品だけではない。スポーツ中の尿漏れには医療機関が対応してくれる。
尿漏れは女性に多く、また高齢や出産経験に関係していることが知られているが、P&Gジャパンが実施した調査では、20代で出産経験のない女性も尿漏れの経験があることがわかっている。体に力が入った時などに起きやすいため、尿漏れのある女性は思い切り体を動かすことに不安を感じ、スポーツに集中できない。
東京女子医科大学東医療センターによると、女性の尿漏れのうち7割は腹圧性尿失禁で、腹部に力が入ったときに尿が漏れるとのこと。同センターでは「行動両方」「減量」「薬物療法」「手術療法」の4つの治療方法を提案している。
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アスリート女性の健康問題「三主徴」に注意
女性アスリートならではの健康問題として知られている「女性アスリートの三主徴(※)」は、過度な運動トレーニングにより引き起こされる。アスリートほどのハードなトレーニングは積まないにしても、スポーツそのものにのめり込みすぎたりダイエットで過度な運動を続ければ、一般女性であっても三主徴を引き起こしかねないので注意が必要だ。(※)無月経/骨粗しょう症/摂食障害の有無によらない利用可能エネルギー不足
三主徴の一つである「無月経」が続けば、若い女性であれば将来の妊娠・出産の可能性がなくなったり、早期閉経のリスクがある。また、更年期以降で骨密度が急激に低下する女性にとって、「骨粗しょう症」は将来の寝たきりリスクにつながる。過度なスポーツは女性ならではの健康問題を引き起こす。スポーツ女性をサポートする際は「三主徴」の視点からもマーケティングに取り組たい。
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