女性ヘルスケア市場のビジネスで差別化に迷った時に役立つ3つの視点

女性ヘルスケア市場は今、国内で注目の的。この市場への関心は年々高まってきてはいたものの、これほどまでに活況を呈するのは今年が初めて。背景にあるのはやはりフェムテック・生理ブームで、これを好機と捉え女性特有の健康問題に着目したビジネスへの参入を試みる企業が急増している。しかし差別化に苦戦する声が多く聞かれるのも実際のところ。そこで今回は「女性ヘルスケア市場での差別化」をテーマに、差別化戦略で参考になる3つのポイントを解説したい。各社が参考にできる事例もピックアップした。

新技術・新発想で女性ニーズに応える

あらゆるモノ・コトが飽和状態の今、新しい技術・発想で新商品を開発するのはそう簡単なことではないが、視点をちょっと変えてみたり、取り残されている女性たちの健康悩みやニーズを丹念に調べてみると、差別化につながる新しい発見がある。新技術・新発想で差別化ポイントを見出した事例をみてみよう。

事例:タブー視領域の女性ニーズにエビデンスで応える

まずは、タブー視されてきた女性ニーズに着目して機能性表示を取得した健康食品の事例から。今年4月に登場した「ココラクト(雄飛堂)」は、膣内環境を良好にする機能性表示食品。国内で初めて「膣内の調子を整える」で受理されたことから話題になり、同商品をウーマンズラボで紹介した際も反響が大きかった。

この事例から学べるのは、膣環境を食品で整えるという新発想と、これまで女性たちが声を大にして言えなかった膣悩みに、機能性表示食品という“正攻法”でダイレクトに訴求できるようにした点だ。

におい・かゆみ・おりものの変化といった膣トラブルは、スポイト型の膣洗浄器や坐剤など、膣から挿入するものを使ってケアするのが一般的。食品でのケアは広くは知られていない。また、これまで膣ケア商品は、大々的に宣伝されることなくひっそりと通販などで売られてきた。そんな中、正当な健康食品として登場したことが注目要因となった。詳細は以下記事に掲載。

 

事例:コモディティ化した市場に、新技術・新発想で進出

自社商品(あるいは企画中の商品)が完全にコモディティ化した市場のものであっても、差別化を諦める必要はない。例えば生理用タンポン。これ以上進化のしようがないものの代表例に見えるが、新技術の搭載や、女性の価値観・ニーズ変化や社会トレンドといった情勢にマッチした開発に取り組んだことで、各社が見事に独自のポジションの獲得に成功した事例がある。以下記事で、海外のスタートアップ事例を掲載。

 

最先端のマーケトレンドを採用

技術やエビデンスなど製品力での勝負が難しい場合は、最先端のマーケティングで差別化を図るのも手。資金力のある大手にしかできないこともあるが、手法によっては、予算が小さい部署やスタートアップでもできることはあるので、最新事例は常にチェックしておきたい。成功事例として先行できれば、業界内に止まらず業界外での注目度も上がりPR効果を高められる。ここでは最新のマーケティングトレンド3つをピックアップ。事例と合わせて見ていこう。

事例:バーチャル体験

VRブームに加えCOVID-19による影響もあり、バーチャルマーケティングの事例がこの1年で特に目立って増えてきた。積極的なのは、観光、音楽、ゲーム、ファッションなど映像映えのする業界。ヘルスケア業界だと、若年・中年をメイン顧客に抱える美容企業。業界的性質もあり、華やかで洗練されたVR空間づくりはやはり美容業界が得意だ。高いクオリティの体験を消費者に提供している。

バーチャルマーケの利点は何と言っても、外出困難な人や遠くにいる人もマーケティングの対象にできること。VR空間内に設置したコンテンツからオフライン(サービス利用や商品購入)へ自然に誘導できる点も強い。ゲーミフィケーション要素があるので、サイト来訪者の滞在時間を伸ばしやすいのもメリット。以下記事では、美容企業のバーチャルマーケ3事例を紹介。

 

事例:いろんなボディポジティブを採用

近年流行っているプロモーショントレンドと言えば、多様な人種・年齢・体型のモデル起用。いわゆるボディポジティブの考えを取り入れたプロモーションだ。コーポレートサイト、SNS、企業広告などで多様な女性モデルを見る機会が増えているので、ビジネスパーソンとしても生活者としても、この新潮流を実生活の中で感じている人は多いだろう。ダイバーシティとインクルージョンの浸透が背景にあるが、SDGsの目標達成年が近づいていることから、この1〜2年ほどで急加速している。

この潮流を牽引しているのは、人物モデルの起用が特に多い化粧品業界とファッション業界。そして女性起業家が率いるスタートアップ。海外が先行し日本ではまだ一般的ではないが、それでも、状況は確実に変わってきている。多様な女性を起用する例が国内でも見られるようになってきた。今や、完璧な容姿バランスを持つモデルだけで描き出す世界感よりも、多様な女性を起用している方が今ドキ感を醸し出せる。

以下の記事では、グッチビューティ、資生堂、ELLEなどのボディポジティブの事例を紹介。特に皆さんにも見ていただきたいのは、口紅キャンペーンで歯並びの悪い口元を採用したグッチビューティ。不完全な歯並びを見事にアートスティックかつ美しいクリエイティブに仕上げたのは、さすが。

 

事例:アニメ動画でプロモーション

事例としてはまだ多くはないが、グローバル系企業の間で見られるようになってきたのが、アニメ動画を活用したプロモーション。イヴ・サンローランなど美しい世界観を重視してきたハイブランド化粧品が導入しているのはちょっと意外だが、だからこそ逆に新鮮。つい見入ってしまう。

見ている者をクスッと笑わせるショートストーリーから、映画級のクオリティで仕上げられた長編ものまで、方向性はそれぞれ。各社が工夫を凝らしている。

人・モノ(商品)をただただ美しく見せるだけのプロモーションやSNS投稿では、消費者の気を惹き続けるのはもう難しい。時には顧客の期待を良い意味で裏切り、ブランディングを崩さない程度のさじ加減でアニメ動画を取り入れるのは新鮮でアリだ。最後まで閲覧させるだけの吸引力もある。以下記事ではイヴ・サンローラン、SK-Ⅱ、エルメス、アディダスなどの事例を紹介。

 

マイノリティ市場に進出する

ターゲットを策定する際によく取られるセグメンテーションは、年齢、ライフステージ、ライフコースの視点だが、「マイノリティ市場」の視点でターゲット層を探すのもおすすめ。これまでは見えてこなかった市場チャンスの発見につながることがある。また、自社商品がコモディティ化した市場に属しているものの、新技術や新発想での差別化ができない場合も、マイノリティ市場への進出がおすすめ。市場規模としては限定的になるが、ここで紹介するマイノリティ市場・マイノリティクラスターはいずれもブルーオーシャンなので、チャンスは大。

LGBTQ+

マイノリティ市場の代表とも言えるLGBTQ+。ヘルスケア業界の関心度はまだ低いが、一定の市場規模・特有の健康問題・ニーズが存在するので、検討の余地は大いにあるだろう。電通の推計によるとLGBTQ+の市場規模は5.42兆円で、そのうちヘルスケア関連は8,343億円。特に大きいのは医療・保健費・化粧品・理美容商品費。

LGBTQ+の人々は、性的マイノリティ故の特有の健康問題・健康不便を抱えており、例えば次のような悩みが。

  • 自認する性(戸籍とは逆)のトイレが使えないため我慢していたら、膀胱炎になった
  • 性同一性障害なので戸籍の性別を変えるために子宮を摘出したら、更年期の症状が出始めた
  • 自分のことを話せないストレスが積み重なって、パニック障害になった

これはほんの一例。このクラスター特有のヘルスケアニーズは完全に取り残されている。

エイジテック

今世界では、「高齢者×テクノロジー」を意味するエイジテック(Age Tech)が黎明期を迎えている。高齢者の健康・生活をサポートするテクノロジーや、高齢化する社会で顕在化してきた様々な課題を解決するテクノロジーを指す。

日本ではまだ話題性に乏しいが、高齢化率が世界一の課題先進国である日本は市場チャンスが大きく、国内で成功すればその後の海外展開の可能性もある。

エイジテックのターゲットとなる高齢者のデジタルデバイド問題や、大手・ベンチャーともに高齢者向けビジネスに積極的に投資をしないといった現状もあり、急速な進展は見られない気配だが、これから確実に盛り上がる期待市場だ。特に、高齢女性特有の健康問題にフォーカスしたエイジ・フェムテックは要注目。

3次予防領域

予防医療の4段階(0次予防〜3次予防)のうち、おすすめは3次予防。3次予防とは、持病者や治療後の人の再発防止・障害抑制・社会復帰を目指した予防領域を指し、例えば、特定の疾患治療のために行った手術後の健康悩み・後遺症・生活不便を解消する商品・サービス、持病を抱えている人の生活・健康管理をサポートする商品・サービス、リハビリをサポートする商品・サービスなどが該当する。

3次予防領域はこれまで企業が積極的に着目してこなかったため、今ならブルーオーシャン。マス市場ではないため大手が積極的に参入しないことから、中堅企業やベンチャーが優位に立ちやすい(とは言え、最近は大手もスモールマスを狙っているので、領域にはよるが、今後は大手の参入も相次ぐ可能性がある)。

マイノリティクラスター

ライフコースや近年の社会問題の視点からセグメンテーションをするのも、マイノリティ市場を発見するのに役立つ。例えば2000年代に入り増えている中高年の単身女性、DINKs女性、晩産化で増えているダブルケアラー(育児と介護を同時に行なっている人)、ヤングケアラー(家族の介護を担う子ども)、高齢出産の女性、病児を抱える母親、掛け持ち介護をしている女性、掛け持ち介護や遠距離介護をしている女性、老々介護をしている女性などー。こういった社会問題に目を向けると、健康不便を強いられている女性がたくさんいることがわかる。市場としては小さいが、発想によっては様々なビジネスチャンスになり得る。

以下の記事では、ライフコースの基本的な考え方や、これから減る・増えるライフコースについて解説。

 

 

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