日本女性の自己肯定感が低いのはなぜ?国際比較・男女別で明らかに 止まないブームの背景にあるもの

「自己肯定感」ブームが止む気配がない。「自己肯定感」をタイトルに含んだ書籍が次々に発売され、女性誌、テレビ番組、ラジオ番組などマスメディアもこぞって取り上げている。自己肯定感を高めるセミナーも活況だ。「私、自己肯定感すごく低いの!」と口を大にしては言わないものの、実は、ありのままの自分を受け入れらずに悩んでいたり、他人と比較して疲れてしまったり、自己肯定感を高めたいと考えている女性は多い。日本女性の自己肯定感が世界的に見ても低いことは調査で明らかにされているが、なぜなのか?そして、なぜ今、自己肯定感にこんなにも関心が寄せられているのか?

世界的に低い日本女性の「自己肯定感」、なぜ?

「自己肯定感」への関心、急速に高まる

自己肯定感とは自分の存在意義や価値を肯定できる気持ちのこと。ありのままの自分を認めていたり自分に自信を持っていると自己肯定感は高く、反対に、自分の価値を自分自身で認められないと自信がなくなり自己肯定感は低くなる。自己肯定感が低い人はイライラしたりストレスや不安などネガティブな感情を抱えやすいため、人間関係に悩んだり生きづらさを感じる。

この「自分自身を肯定する」ことに近年、急速に関心が高まっている。2016年頃から徐々に関心が高まり、特に2018年以降で顕著に。今現在も関心は高まり続け、自己肯定感を高めるハウツー本が次々に発売されている。書店をのぞくと、「自己肯定感」「自己受容」「ポジティブマインド」などといった言葉をタイトルに含む書籍を頻繁に見かけるだろう。自己肯定感を高める方法、自己肯定感を上げる働き方、恋愛中の自己肯定感を高めるハウツー、子どもの自己肯定感を高めるための子育てハウツー、育児中のママ自身の自己肯定感を高めるメソッドなどーー。実に多様な視点から自己肯定感を高める方法が語られている。

【出典】Googleトレンド(「自己肯定感」の検索ボリュームの推移,2004〜2024年)

 

国際比較・男女別に見る日本女性の低い自己肯定感

なぜ、こんなにも自己肯定感をテーマにしたコンテンツが人気を集めるのか?背景にあるのは、日本人の低い自己肯定感だ。10〜20代の若者に限定した調査だが、国際比較があるので見てみよう。内閣府の「子供・若者白書(令和元年版)」によると、自分自身に満足している人の割合は、7カ国中、日本が最も低い。6位の韓国から大きく引き離され半数以下だ。

【出典】内閣府

  1. :アメリカ(87.0%)
  2. :フランス(85.8%)
  3. :ドイツ(81.8%)
  4. :イギリス(80.1%)
  5. :スウェーデン(74.1%)
  6. :韓国(73.5%)
  7. :日本(45.1%)
    ※( )内は「そう思う」と「どちらかといえばそう思う」の合計の割合

 

日本の若者の自己肯定感が世界的に見て低い事は、これまでにもすでに各所で問題視されてきているが、性差で違いが見られる点についても着目したい。これは各国に共通して見られる特徴で、男性よりも女性の自己肯定感が低いことがわかっている。

 

 

女性の自己肯定感が低い理由 〜はびこる社会の3大差別主義〜

上記で紹介した調査結果は若者に限定したものなので、これを日本人全体の傾向として論じるのは少々雑だが、自己肯定感が低い要因として幼少期の体験・教育が関係していることや、日本人特有の思考習慣を考えると、上記の調査対象には入っていない30代以降で自分に満足している人の割合が急激に上がるとは考えづらい。また冒頭で紹介した通り、これほどまでに自己肯定感への関心が高まっていることも、自己肯定感に関して何かしら悩み続けている人が多いことを裏付けている。

では、なぜ日本人女性の自己肯定感はこうも低いのか?それについては多数のメディアや専門家が取り上げているのでここでは詳細は割愛するが、日本人全体の傾向としてよく指摘されているのは、空気を読まなくてはならない文化や同調圧力、自分がどうありたいかよりも他人からの評価で自分の行動や価値を決める、などといった日本人特有の思考習慣だ。

さらに女性のみに関して言えば、自己肯定感が低い要因として「ルッキズム(外見至上主義)」「エイジズム(年齢による偏見・差別)」「セクシズム(男はこうあるべき、女はこうあるべきなどの性差別)」がはびこる社会の中で、自分の外見、加齢、存在価値を受け入れられないことが挙げられる。

女性であるがゆえに社会から求められていること、というものは実に多く、それらが女性たちを苦しめ自己肯定感を押し下げている。例えば「顔やボディラインが美しい女性ほど価値がある」「若い女性ほど価値がある」「シミ・シワがない肌ほど美しい」「女性は人前でメイクをするのがマナー」「女性は肌がツルツル=女性はムダ毛を剃るべき」「女性は子どもを産むべき」「女性は料理が上手で当たり前」「家族の介護をするのは女性」などといったことだ。

 

「性差」をイノベーションにつなげる!世界的な新潮流

 

自己肯定感への関心が急速に高まっている理由

今まさに「自己肯定感」はトレンドキーワードだが、しかし、日本人の低い肯定感はこの数年で始まったわけでもない。ではなぜ、ここ最近になりこんなにも注目されているのか?「自己肯定感」という言葉がメディアを通じて広く認知されたことがもちろん大きいが、もう少し掘り下げると、社会環境の急速な変化で自己肯定感がこれまでになく揺らぎやすくなっているタイミングで認知が広がったことが背景にあると考えられる。自己肯定感への関心を高めている主な社会環境の変化は4つ。

1.SNSの浸透により、他人と自分を比較することが増えた

SNSで日本中・世界中の人々と簡単につながるようになった分、他人の外見や他人の人生と自分自身を比べる機会は格段に増えた。容姿が完璧な女性、華やかな私生活を送る女性、いつも最先端のファッションやメイクで完璧なオシャレをしている女性など、いわゆるキラキラした女性と自分を比較してしまう。その結果、自分が劣っていると感じ自己肯定感が低下する。

特筆すべき興味深い点は、画像共有アプリであるインスタグラムの人気の高まりと並行して「自己肯定感」への関心が高まり続けていること。インスタグラムのユーザーは2015年頃から徐々に増え広く普及したが、時をほぼ同じくして自己肯定感への関心も高まり始めたのだ。推察の域ではあるが、この相関性は無視できなそうだ。それまで主流だったテキストベースのSNSから画像をベースにしたSNSへと人気が移行したことは、女性たちにとって他人と自分を比較する機会が増大したことを意味している。自己肯定感の低下に少なからず影響をしていると考えられる。

2.生き方・働き方の多様化で、自己肯定感が揺らぎやすくなった

「結婚にはこだわらない」「40代独身」「50代結婚歴なし」「子は持たずDEWKsとして生きる」「好きなことを仕事にする」「華々しいキャリアを捨ててフリーランス転向」「趣味優先でゆるく働く」など、女性の生き方・働き方は急速に多様化している。働く女性の増加で経済力を身につけた女性が自分らしく生きられるようになったのは喜ばしいことだが、一方で、生き方・働き方の選択肢が増えたことで、他の女性の生き方・働き方と自分の生き方・働き方を比べたり、自分の人生に迷いを感じ続けながら生きる女性も同時に増えた。

その結果、「自分が選択した今の生き方・働き方を肯定したい」「今の自分自身の生活に自信を持ちたい」「新しい人生の選択をする勇気を得たい」などといったニーズが女性たちの間で強まっている。

3.社会環境の変化で心身のストレスが増大

情報過多、働く女性の増加、平均寿命の延伸、晩婚化・晩産化といった社会環境の急激な変化により、人々が心身に抱えるストレスは増幅する一方。女性を疲弊させる現代ならではのストレス要因とは、例えば、育児と仕事の両立、育児と介護の両立(ダブルケア)、介護と仕事の両立、職場での人間関係など。

そして、働く女性の増加で近年社会問題化してきたのが、仕事と出産のタイミング、仕事とPMSの折り合いのつけ方、仕事と更年期の折り合いのつけ方といった女性特有の健康課題。こういった問題は、仕事によるストレスでさらに悪化し、そして症状の悪化により仕事の生産性がさらに低下するという悪循環にも陥る。様々なストレスがきっかけとなり、人間関係の悪化を招いたり、自分の存在意義や自信を失ってしまうことがある。

女性特有の健康問題をチェック

4.女性のエンパワーメントの向上

ダイバーシティの世界的な広がりで、国内でも女性のエンパワーメントが推進されていることも、女性たちの自己肯定ニーズを押し上げている。これまで「ルッキズム」「エイジズム」「セクシズム」に苦しみ、「私は女性だから仕方ない」と黙っていた女性たちが声を上げ、社会に向け女性としての意見や存在意義を主張する動きは世界各地で起き、国内でも、ジャーナリストや女性起業家、インフルエンサーなどが中心となって声を上げている。昨今のフェムテックのブームも、これまでに仕方なく受け入れてきた女性特有の健康課題を解決することが起点になっている。こういった女性のエンパワーメント向上は、女性たちを様々な抑圧から解放し、「他人にどう見られたいのか?ではなく、自分自身は本当はどうしたいのか?どうありたいのか?」と、自分自身と真剣に向き合う機会をもたらしている。

 

女性の自己肯定感が低くなるクラスターとタイミング

日本人女性は全体的に自己肯定感が低いとは言っても、その強弱はクラスターによって異なる。どんなクラスター女性の自己肯定感が特に下がりやすいのか?女性マーケティング視点の分類で見ていこう。

SNSヘビーユーザー

既述の通り、SNSの中では世界中の様々な“完璧な女性”を目にする。他人と比較して劣等感に陥る機会が必然的に多いため、SNSヘビーユーザーの中には、SNSによって自己肯定感が低下した女性が多く存在する。特に10〜20代の若い女性の外見コンプレックスへの影響は大きく、完璧な容姿の女性に近づくために、摂食障害や過剰な美容整形、安全性が確認されていないサプリにはまるなど、健康被害やトラブルにも繋がる。

働くママ

働くママ(特にまだ育児中の場合)は、あらゆるクラスターの中でも特に忙しい。そんな多忙を極めながら働くママはたくさんの「こうせねば」と葛藤している。「子どものご飯は手作りしなくちゃ」「おしゃれで綺麗なママでいなくちゃ」「仕事と家事・育児を完璧に両立せねば」「保育園への急なお迎えや時短勤務で同僚に迷惑をかけないよう、家での隙間時間で仕事を片付けなきゃ」などだ。「女性誌やSNSに登場するママも、同僚ママも、公園で見かけるママも、皆、笑顔でそつなく仕事も育児もこなしているように見えるけど、私はそんなにキラキラできない。もういっぱいいっぱい…」と、自分だけが上手くできていないと感じてしまう働くママは多く、両立や育児の自信を失うことをきっかけに自己肯定感が低下する。

いろいろなタイプの専業主婦

専業主婦の中でも特に時間的余裕または経済的余裕がない女性や、社会との接点がない女性の場合、自己肯定感が下がりやすい。例えばそれまでバリバリと仕事をしていた女性が妊娠・出産を機に突如専業主婦隣、自宅でワンオペ育児をするケース。特に一人目の出産でこの状況に陥りやすく、慣れない育児ストレスの中で自宅にこもる生活が続くと、「社会から切り離された」「社会での役割を失った」と感じ、自己肯定ができなくなってしまう。実際にある調査では、子育て中に孤独を感じたママは「会社員」や「パート・アルバイト」より「専業主婦」に多く8割に上ることを明らかにしている。特に子どもが0歳児と1歳児の時に孤独を感じやすいこともわかっている。

また、ワンオペをしながら忙しい夫の世話をしている女性、家族の介護を一人で担っている女性、ダブルケアラーの女性など、1日のほぼ全ての時間を家族の世話に費やし自分時間が皆無という女性も、自己肯定感が下がりやすい。家族の面倒を見ることで自分の存在意義を感じる女性もいるが、体力的・精神的負担が大きくなってくるとやがてストレスが増大し、「家族の世話のために自分は生きている。自分自身の人生を歩めていない」と、自分自身の人生を肯定できなくなる。

女性ホルモンのバランスが変化するタイミング

月経前、更年期、妊娠中・産後など、女性ホルモンのバランスが変化する時も、自己肯定感が下がりやすいタイミング。これは多くの女性が経験していることで、不安・イライラ・悲しい・自己嫌悪などのネガティブな感情が生まれる。中には、自分は何のために生きているのかわからなくなり、希死念慮にかられる危険な状態を引き起こすこともあるほど、精神的に不安定になりやすい。更年期については、年齢的に子どもが巣立つタイミングで「空の巣症候群」に陥りやすい。子どもが進学・就職・結婚を機に家を出ることで、母親が自分の存在意義を見出せなくなる。

エイジングサインが顕著になった時

シミ、シワ、たるみ、体型の変化など、エイジングサインが顕著になった時に自己肯定感が低下する女性もいる。もともと美容感度の高い女性、外見を強みにした仕事をしている女性(モデル、役者、インフルエンサーなど)、エイジズムが強い職業についている女性(テレビ番組のアナウンサー、キャビンアテンダント、企業の受付など)などが特にあてはまりやすい。日本をはじめ、アジア地域で見られる傾向だ。

シニア

シニアの年齢に突入すると、様々なライフイベントが一気にやってくる。夫や自分自身の退職、夫や親との死別、自分自身の病気、親の介護など環境の変化に加え、それによる人間関係の変化も起きる(夫に先立たれ一人暮らしになる、あるいは子ども家族のところへ引っ越して同居するなど)。健康不安や経済不安も重なり、生きる目的を失ったり、人生そのものに対する意欲が低下する女性もいる。

ハラスメント被害にあった時

モラハラ、パワハラ、セクハラの被害は女性に多い。加害者は、恋人、昔の恋人、夫、別れた夫、義親、兄弟、親族など身近な場合もあれば、職場の上司や取引先、ママ友、近所の人など外部の場合もある。ハラスメント被害がきっかけとなり自己肯定感が低下するケースは多い。

仕事

仕事で自己肯定感を持てない女性は多い。好きな仕事に就けていない、仕事にやりがいを見出せない、職場で平等な評価を得られず男女差別を感じた時などに自己肯定感が下がりやすい。趣味や家庭、副業など、本業の仕事以外に生きがいを持っている女性は仕事による自己肯定感の喪失はないが、そうでない場合は特に低下しやすい。

マイノリティー

がんサバイバー、持病を抱えている人、不調がある人、障害を抱えている人、LGBTQに代表される性的マイノリティ、ダブルケアラーなど、いわゆる社会的少数者は、マジョリティではないために受ける差別や不当な扱いをされることがあり、それにより自己肯定感が低下する。

 

自己肯定感とダイバーシティの関係

世界的潮流として「ダイバーシティ」の概念が広がり、国内でもダイバーシティを意識した取り組みが官民で始まっている。だが企業の人たちと話していると、「商品開発やCMなどのプロモーションでは、ダイバーシティをどう表現すればいいのか?」という質問がよく投げられ、具体的な実装にあたりまだ試行錯誤の段階にいる企業が多い印象だ。

ウーマンズでは日々、国内外の企業のダイバーシティ事例や女性たちの反応をリサーチしているが、「ダイバーシティな世の中が実現すれば、あらゆる女性の自己肯定感が高まる」ということを常々感じる。資本主義経済とルッキズムが世界を動かしてきた今の世の中では、自己肯定感が高い女性とは極端な言い方も含めれば、富裕層、容姿が優れている、高学歴、成功者、夢を叶えた人、思い描いた通りの人生を送っている人など限定的であった。

だが、個々それぞれがダイバーシティを包摂することができれば、いろんな個性を持った女性も、あらゆる状況にいる女性も、今よりも確実に自己肯定感は高くなるのではないかと切に思う。このように考えると、やはりダイバーシティと自己肯定感はセットで考える必要があり、そこに「ダイバーシティを表現したマーケティング施策」のヒントが隠れているのではないだろうか。本稿後半では自己肯定感が下がりやすいクラスターやタイミングを紹介したが、こういった、普段のマーケティングでは注視されてこなかったクラスターに着目すると、ダイバーシティを表現したマーケティング施策を発想しやすくなる。ダイバーシティの表現はセンシティブな領域でもあるので、マーケティングに落とし込むのは容易ではないが、まずは既述の女性たちの自己肯定感が下がる要因を理解するところから始めると良いかもしれない。本稿で取り上げたトピック以外に、2024年度の女性ヘルスケア市場の最新動向や女性の価値観変化などは、レポート「女性ヘルスケア白書 市場動向予測2024 〜健康トレンド・業界動向・女性ニーズ〜」に掲載。

 

 

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本メディアを運営するウーマンズは「女性ヘルスケア市場専門のシンクタンク」として、女性ヘルスケア事業の成長・変革を推進するマーケット情報を収集・分析・整理し、最新知見を企業様にご提供しています。女性ヘルスケア市場に特化してマーケティング支援を行ってきた「豊富な実績」「15年にわたり継続的に行っている調査分析により蓄積した知見やノウハウ」「業界ネットワーク」を活かし、女性ヘルスケア事業を行う産学官の「どうすれば製品・サービスを広く社会に流通させられるか?」の課題解決に取り組んでいます。事業内容は「コンサルティング事業/ビジネスメディア事業/MICE事業/BtoB広告事業」。最新レポートや新着セミナーのご案内、制度変更などヘルスケア業界の重要ニュース、企業様から頂戴する「女性ヘルスケアビジネスあるある相談」への回答など、ニュースレターで配信中。ぜひご登録ください!

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